148 / 200
148
しおりを挟む
邑の人達に一旦戻って陛下にお伝えする事を説明する。
「私一度、王城に帰って貴方達の存在を陛下にお伝えするわね。そして貴方達が安心して暮らせる様に陛下にお願いするから」
今まで怯えて暮らしていた人達は恐怖の対象だった陛下の名前を出すと一様に不安げな顔をして私を見つめた。
ここは努めて笑顔で皆んなに接する。
「大丈夫よ。今のグリムヒルトのベネディクト王は決して無下に人の命を奪う様な人じゃないし、純血を迫害する様な人じゃないわ。もしそんな人なら私なんて今頃酷い扱いを受けてる筈だもの。でも、とっても優しくして頂いてるわ。だから安心して?」
私の言葉にほんの少しだけ邑の皆んなの顔が緩む。
私がここを離れている間、きっと不安だろう。しばらくはこの邑に通ってあげた方が安心してもらえそうだ。
また案件を抱えてしまって、せっかく最近良くなった陛下のご機嫌が斜めになってしまうかしら?
一生懸命説明してわかって貰わないと。
私とヘリュ様はまたオレリアに案内されて洞窟に戻って元来た道を引き返す。
洞窟を出ると明るい日差しが目に飛び込んで来る。
私はついて来てくれたオレリアを振り返って笑いかける。
「オレリア、ここまでで大丈夫。オレリアはしばらくは邑に隠れていた方がいいわ。色んな人に姿をたくさん見られてしまってるから」
『そうする。アナティアリアスみつけたからもうでていかない。ちがうひとたち、こわい』
「違う人達?」
『たましいのいろ、ちがう。もりともかわともそらともだいちともちがうひとたち。おいかけてくるからこわい』
そうか。幻獣には純血と異民の人達がそんな風に違う様に見えるのね。きっと姿を見られて追い回されて怖い思いをした事もあったのだろう。
「そんな怖い思いをしてもライラを助けたかったのね……。力になれなくてごめんなさい」
『ライラ、ことわりといってた。しんじゅうのもとへかえったといってた。だからさびしいしかなしいけど、へいき』
私はライラの頭を優しく撫でる。
「……貴方達幻獣も安心して暮らしていける様にちゃんと陛下にお願いするからね?」
オレリアは目を閉じて私に大人しく撫でられている。
そうしてしばらく撫でていると、木陰からガサリと音がして、男達、15人程で私達を取り囲む。
ヘリュ様がカトラスを両刀抜いて私の前に立ちはだかった。
「おい、小娘! お前狼を手懐けたのか!」
私もいつでも魔法を使える様に身構えながら男に答える。
「別に手懐けた訳じゃないわ。この仔は珍しい毛色の狼じゃないわ。幻獣なの。だから念話が出来るだけよ」
「お前の言う事なら聞く訳だな! お前も狼と一緒に来い!」
男達は抜刀する。ヘリュ様も戦闘体制に入る。
出来れば戦闘なんかせずに終わらせたい。諦めてくれる様に言葉を重ねてみる。
「昨日の夜、ヘリュ様に負けたのにまだ諦めないの?
それにこの仔の皮は剥ぐ事は出来ないわ! 死んでしまったら塵に還ってしまうんだから! 無意味な事はやめて他の獲物を狙って!」
男の一人が私に卑下た笑みを向けて言い放つ。
「お前がいれば言う事聞くなら、見世物にするだけだ。お前も可愛がってやるからな」
夕べのヘリュ様との闘いで完敗したにも関わらず、何故こんなに自信たっぷりなんだろうか?
ヘリュ様もそれに気がついたみたいでこっそりと私に耳打ちする。
「恐らく罠がある。この手合いの考えそうな事だ。相手の誘導に乗らぬ様に」
私は男達を見据えながらコクリと頷いて、オレリアに小声で言う。
「オレリア? 貴方は姿を隠して?そして男達が引き上げるまで邑には向かわないでね。跡をつけられたら厄介だから」
『わかった。いんとんつかう』
「いんとん?」
『すがたけせる』
「そうなの?便利ね! じゃあ姿を消していてね」
オレリアは頷くと姿を消す。
「狼が消えた⁈」
「そっちの小娘を捕まえて出て来るように言わせりゃいい!」
男達の目標は私になった。
ヘリュ様が顔をこちらに向けてコソリと私に言う。
「私の背に隠れていて欲しい」
「闘いの邪魔になりませんか?」
「背後に居てくれる方が護り易い」
「わかりました」
ヘリュ様の背中に庇われるのは安心だ。でも守られてるだけでは申し訳ないので、背後は私が護る位の気持ちで身構える。
男達が一斉にヘリュ様に刃を振り上げた。
ある男が横一線に斬り込んで来たのをカトラスで弾き飛ばす。手首に峰を撃ち込まれて剣を取り落とす。
更に続けて男の一人が縦一線で斬り込む。それをカトラスで滑らせる様にいなして剣先で男の手から器用に剣を取り上げる。そしてそれを遠くに飛ばしてしまう。
「お前達では相手にならない。諦めろ」
ヘリュ様は本気にすらなっていない。グレーゲル達と闘った時の方がまだ本気だった様に見える。
「その小娘を渡せ!」
「断る。これ以上やるなら、私も本気でいかせて貰うが?」
ヘリュ様はそう宣言すると今まで逆刃で持っていたカトラスを持ち替える。
男達はたじろぐ。ヘリュ様の手加減があったから彼らは今生きている。それは充分にわかっているだろう。
「わ、わかった! 降参だ!」
男の一人がそう声を上げると次々に他の男達も剣を納める。
そしてゾロゾロと引き上げていく。
諦めてくれた様で良かった。
ふぅと一つ溜息を吐いて、ふと空を見上げると陽はもう随分高い位置にあった。
「私一度、王城に帰って貴方達の存在を陛下にお伝えするわね。そして貴方達が安心して暮らせる様に陛下にお願いするから」
今まで怯えて暮らしていた人達は恐怖の対象だった陛下の名前を出すと一様に不安げな顔をして私を見つめた。
ここは努めて笑顔で皆んなに接する。
「大丈夫よ。今のグリムヒルトのベネディクト王は決して無下に人の命を奪う様な人じゃないし、純血を迫害する様な人じゃないわ。もしそんな人なら私なんて今頃酷い扱いを受けてる筈だもの。でも、とっても優しくして頂いてるわ。だから安心して?」
私の言葉にほんの少しだけ邑の皆んなの顔が緩む。
私がここを離れている間、きっと不安だろう。しばらくはこの邑に通ってあげた方が安心してもらえそうだ。
また案件を抱えてしまって、せっかく最近良くなった陛下のご機嫌が斜めになってしまうかしら?
一生懸命説明してわかって貰わないと。
私とヘリュ様はまたオレリアに案内されて洞窟に戻って元来た道を引き返す。
洞窟を出ると明るい日差しが目に飛び込んで来る。
私はついて来てくれたオレリアを振り返って笑いかける。
「オレリア、ここまでで大丈夫。オレリアはしばらくは邑に隠れていた方がいいわ。色んな人に姿をたくさん見られてしまってるから」
『そうする。アナティアリアスみつけたからもうでていかない。ちがうひとたち、こわい』
「違う人達?」
『たましいのいろ、ちがう。もりともかわともそらともだいちともちがうひとたち。おいかけてくるからこわい』
そうか。幻獣には純血と異民の人達がそんな風に違う様に見えるのね。きっと姿を見られて追い回されて怖い思いをした事もあったのだろう。
「そんな怖い思いをしてもライラを助けたかったのね……。力になれなくてごめんなさい」
『ライラ、ことわりといってた。しんじゅうのもとへかえったといってた。だからさびしいしかなしいけど、へいき』
私はライラの頭を優しく撫でる。
「……貴方達幻獣も安心して暮らしていける様にちゃんと陛下にお願いするからね?」
オレリアは目を閉じて私に大人しく撫でられている。
そうしてしばらく撫でていると、木陰からガサリと音がして、男達、15人程で私達を取り囲む。
ヘリュ様がカトラスを両刀抜いて私の前に立ちはだかった。
「おい、小娘! お前狼を手懐けたのか!」
私もいつでも魔法を使える様に身構えながら男に答える。
「別に手懐けた訳じゃないわ。この仔は珍しい毛色の狼じゃないわ。幻獣なの。だから念話が出来るだけよ」
「お前の言う事なら聞く訳だな! お前も狼と一緒に来い!」
男達は抜刀する。ヘリュ様も戦闘体制に入る。
出来れば戦闘なんかせずに終わらせたい。諦めてくれる様に言葉を重ねてみる。
「昨日の夜、ヘリュ様に負けたのにまだ諦めないの?
それにこの仔の皮は剥ぐ事は出来ないわ! 死んでしまったら塵に還ってしまうんだから! 無意味な事はやめて他の獲物を狙って!」
男の一人が私に卑下た笑みを向けて言い放つ。
「お前がいれば言う事聞くなら、見世物にするだけだ。お前も可愛がってやるからな」
夕べのヘリュ様との闘いで完敗したにも関わらず、何故こんなに自信たっぷりなんだろうか?
ヘリュ様もそれに気がついたみたいでこっそりと私に耳打ちする。
「恐らく罠がある。この手合いの考えそうな事だ。相手の誘導に乗らぬ様に」
私は男達を見据えながらコクリと頷いて、オレリアに小声で言う。
「オレリア? 貴方は姿を隠して?そして男達が引き上げるまで邑には向かわないでね。跡をつけられたら厄介だから」
『わかった。いんとんつかう』
「いんとん?」
『すがたけせる』
「そうなの?便利ね! じゃあ姿を消していてね」
オレリアは頷くと姿を消す。
「狼が消えた⁈」
「そっちの小娘を捕まえて出て来るように言わせりゃいい!」
男達の目標は私になった。
ヘリュ様が顔をこちらに向けてコソリと私に言う。
「私の背に隠れていて欲しい」
「闘いの邪魔になりませんか?」
「背後に居てくれる方が護り易い」
「わかりました」
ヘリュ様の背中に庇われるのは安心だ。でも守られてるだけでは申し訳ないので、背後は私が護る位の気持ちで身構える。
男達が一斉にヘリュ様に刃を振り上げた。
ある男が横一線に斬り込んで来たのをカトラスで弾き飛ばす。手首に峰を撃ち込まれて剣を取り落とす。
更に続けて男の一人が縦一線で斬り込む。それをカトラスで滑らせる様にいなして剣先で男の手から器用に剣を取り上げる。そしてそれを遠くに飛ばしてしまう。
「お前達では相手にならない。諦めろ」
ヘリュ様は本気にすらなっていない。グレーゲル達と闘った時の方がまだ本気だった様に見える。
「その小娘を渡せ!」
「断る。これ以上やるなら、私も本気でいかせて貰うが?」
ヘリュ様はそう宣言すると今まで逆刃で持っていたカトラスを持ち替える。
男達はたじろぐ。ヘリュ様の手加減があったから彼らは今生きている。それは充分にわかっているだろう。
「わ、わかった! 降参だ!」
男の一人がそう声を上げると次々に他の男達も剣を納める。
そしてゾロゾロと引き上げていく。
諦めてくれた様で良かった。
ふぅと一つ溜息を吐いて、ふと空を見上げると陽はもう随分高い位置にあった。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる