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アラギス林道はマイヤール領に向かう要所となる。
アラギス林道を抜けて更に山道に入り、峠を越えて関所があって、マイヤール領に入る。
特に手形とか書付が必要な訳じゃないけど、物流の要所となるので荷の改めなどがあったりする。
海産物なんかの足の早いものは特別に検閲を免れる。他のルートも無いわけではないけど、森が深過ぎて安全とは言い難いから、このアラギス林道が主要になってる。
アラギス林道の集落は基本的に酒場ばかりが集まっていて、他にはちょっとした万屋さんがあるくらいでこじんまりした集落だ。
というのも、アラギス林道は朝王都を馬車で出れば、昼過ぎには辿り着く。
なのでここでいない訳ではないけど宿泊する人は少ない。
ここで宿泊するよりも、林道を抜け、峠の関所を抜けた付近にある大きな集落の方で宿を取る事が多く、賑わっているらしい。
私達は昼を過ぎてから王都を出たので着いたのは夜だった。
宿屋は宿屋というよりも酒場にある空き部屋を貸してくれる様な形式だ。
私達は宿屋併設の酒場に入って先ずは食事を摂った。
そこで酒場の主人に話を聞く事にする。
「ねぇ、この辺りに化け物が出るって聞いたんだけど、何か知ってる?」
「ああ、嬢ちゃん達も捕まえようってのか?」
「え! 捕まえようとしてる人達がいるの⁈」
それは大変だ。多分幻獣は捕まらないけど、捕まえようとした人達が怪我をする可能性もある。
「ああ。腕に覚えのある奴らが徒党組んで張り切ってるぞ。なんでも変わった毛並みの狼らしいからな。毛を剥いで売る気だろうよ」
ああ、本当に早くなんとかしなきゃ。
仮に幻獣を仕留められたとしても皮を剥ぐ前に塵になってしまうのに。
その毛並みを採る事が出来るのは、羊の型をしたものだけだ。
そんな無駄死にをさせる訳にいかない。そうなったら人間の方も無事とは言えない被害が出てる筈だ。
「どの位の人数で徒党組んでるの?」
「そうだな、5、6人のパーティが3つってとこかな」
その中に純血の人は多分いないだろう。
いたとしたらもっと問題だけど。
でも純血の人だったら、これが不可能で無意味な事を知ってると思う。
なのでいる可能性は限りなく低い。
「それらに関しては私が抑えられる。お気になさるな」
へリュ様が私に耳打ちして断言してくれる。
本当にへリュ様は頼りになる。一緒にいて陛下の次に安心感のある人だ。
「何時頃になったら出るの?」
「そうだな…結構夜遅く、夜半になってから出る事が多いな。南の森の木陰から遠吠えして場所を知らせてくる。顔を覗かせてそのまま去っていくぞ」
「…そうなんだ…」
幻獣にも色々と格がある。
格の高い幻獣は念話が出来るらしい。私は念話が出来る種類の幻獣に遭った事はないけど、そういう種類がいる事はマグダラスの文献でたくさん見た事がある。
もし、今出て来ている幻獣も念話が出来るものなら、もしかしたら何か訴えたい事があるのかもしれない。
早く見つけてあげなきゃ。
「ありがとう。私達も南の森に行ってみるわ」
「女二人でか。そっちの姐さんは腕が立ちそうだが、嬢ちゃんは大丈夫なのか?」
「大丈夫よ! ありがとう!」
私は主人ににっこり笑ってお礼を言う。
手早く食事を摂って、夜半に備えて少し休む事にした。
◇◇◇
「起きられよ、……ティア様」
宿の部屋で少しだけ休むつもりだったのに、本格的に寝てしまった様だ。
「……へリュ様……起こして下さってありがとうございます……」
私は覚醒したばかりのぼんやりした頭でお礼を言う。
「……近頃、夜もよく眠ってはおられぬのだろう?」
「え?何故ですか?」
知らぬ間に私の頬は紅潮していく。
「……あの男が加減を知らぬといつも侍女達が心配している」
「……ああ……その……それは……」
「婚姻以降、毎晩毎晩貴女に無理をさせて碌に睡眠も取れていないと」
「大丈夫ですよ? つい最近月のものがありましたので、その時は労って頂きましたし」
「……ない時は無理をしているのか?」
「いえ、決してそういう訳ではなくて……」
「夫婦の事だ。野暮を言うつもりはないが、……ただ、ご自愛されよ」
「……ご心配をおかけしてすみません。ありがとうございます」
私は顔が赤いだろう。自分達の営みが周りに筒抜けな状態も結構恥ずかしい。
……多分これは陛下にお願いしても聞き入れて貰えないと思うので、どうしようか……。
頼めば頼むほど、逆に激化する可能性の方が高い……。
意地悪な顔をしてきっと言う筈だ。
『ならば拒んで見せよ』って。
……出来ない事を知っていて、わざと試す様な事をする。
陛下のそういう所は本当に困ってしまう。
私にも実はどうしようもない事なので、諦めて受け入れるしかないなぁと思っていた所だ。
私は赤面しながら出かける準備を整える。
へリュ様はもう準備万端だ。
私の準備が済むと二人で酒場を出た。
アラギス林道を抜けて更に山道に入り、峠を越えて関所があって、マイヤール領に入る。
特に手形とか書付が必要な訳じゃないけど、物流の要所となるので荷の改めなどがあったりする。
海産物なんかの足の早いものは特別に検閲を免れる。他のルートも無いわけではないけど、森が深過ぎて安全とは言い難いから、このアラギス林道が主要になってる。
アラギス林道の集落は基本的に酒場ばかりが集まっていて、他にはちょっとした万屋さんがあるくらいでこじんまりした集落だ。
というのも、アラギス林道は朝王都を馬車で出れば、昼過ぎには辿り着く。
なのでここでいない訳ではないけど宿泊する人は少ない。
ここで宿泊するよりも、林道を抜け、峠の関所を抜けた付近にある大きな集落の方で宿を取る事が多く、賑わっているらしい。
私達は昼を過ぎてから王都を出たので着いたのは夜だった。
宿屋は宿屋というよりも酒場にある空き部屋を貸してくれる様な形式だ。
私達は宿屋併設の酒場に入って先ずは食事を摂った。
そこで酒場の主人に話を聞く事にする。
「ねぇ、この辺りに化け物が出るって聞いたんだけど、何か知ってる?」
「ああ、嬢ちゃん達も捕まえようってのか?」
「え! 捕まえようとしてる人達がいるの⁈」
それは大変だ。多分幻獣は捕まらないけど、捕まえようとした人達が怪我をする可能性もある。
「ああ。腕に覚えのある奴らが徒党組んで張り切ってるぞ。なんでも変わった毛並みの狼らしいからな。毛を剥いで売る気だろうよ」
ああ、本当に早くなんとかしなきゃ。
仮に幻獣を仕留められたとしても皮を剥ぐ前に塵になってしまうのに。
その毛並みを採る事が出来るのは、羊の型をしたものだけだ。
そんな無駄死にをさせる訳にいかない。そうなったら人間の方も無事とは言えない被害が出てる筈だ。
「どの位の人数で徒党組んでるの?」
「そうだな、5、6人のパーティが3つってとこかな」
その中に純血の人は多分いないだろう。
いたとしたらもっと問題だけど。
でも純血の人だったら、これが不可能で無意味な事を知ってると思う。
なのでいる可能性は限りなく低い。
「それらに関しては私が抑えられる。お気になさるな」
へリュ様が私に耳打ちして断言してくれる。
本当にへリュ様は頼りになる。一緒にいて陛下の次に安心感のある人だ。
「何時頃になったら出るの?」
「そうだな…結構夜遅く、夜半になってから出る事が多いな。南の森の木陰から遠吠えして場所を知らせてくる。顔を覗かせてそのまま去っていくぞ」
「…そうなんだ…」
幻獣にも色々と格がある。
格の高い幻獣は念話が出来るらしい。私は念話が出来る種類の幻獣に遭った事はないけど、そういう種類がいる事はマグダラスの文献でたくさん見た事がある。
もし、今出て来ている幻獣も念話が出来るものなら、もしかしたら何か訴えたい事があるのかもしれない。
早く見つけてあげなきゃ。
「ありがとう。私達も南の森に行ってみるわ」
「女二人でか。そっちの姐さんは腕が立ちそうだが、嬢ちゃんは大丈夫なのか?」
「大丈夫よ! ありがとう!」
私は主人ににっこり笑ってお礼を言う。
手早く食事を摂って、夜半に備えて少し休む事にした。
◇◇◇
「起きられよ、……ティア様」
宿の部屋で少しだけ休むつもりだったのに、本格的に寝てしまった様だ。
「……へリュ様……起こして下さってありがとうございます……」
私は覚醒したばかりのぼんやりした頭でお礼を言う。
「……近頃、夜もよく眠ってはおられぬのだろう?」
「え?何故ですか?」
知らぬ間に私の頬は紅潮していく。
「……あの男が加減を知らぬといつも侍女達が心配している」
「……ああ……その……それは……」
「婚姻以降、毎晩毎晩貴女に無理をさせて碌に睡眠も取れていないと」
「大丈夫ですよ? つい最近月のものがありましたので、その時は労って頂きましたし」
「……ない時は無理をしているのか?」
「いえ、決してそういう訳ではなくて……」
「夫婦の事だ。野暮を言うつもりはないが、……ただ、ご自愛されよ」
「……ご心配をおかけしてすみません。ありがとうございます」
私は顔が赤いだろう。自分達の営みが周りに筒抜けな状態も結構恥ずかしい。
……多分これは陛下にお願いしても聞き入れて貰えないと思うので、どうしようか……。
頼めば頼むほど、逆に激化する可能性の方が高い……。
意地悪な顔をしてきっと言う筈だ。
『ならば拒んで見せよ』って。
……出来ない事を知っていて、わざと試す様な事をする。
陛下のそういう所は本当に困ってしまう。
私にも実はどうしようもない事なので、諦めて受け入れるしかないなぁと思っていた所だ。
私は赤面しながら出かける準備を整える。
へリュ様はもう準備万端だ。
私の準備が済むと二人で酒場を出た。
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