人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
上 下
139 / 200

139 -昵懇-

しおりを挟む
 グリムヒルト王城の外殿。王の執務室の近くで二人は出会った。

「おかえりハニー」
「あら、エンリッキ、ただいま」
 腕を広げてウルリッカが飛び込んで来るのを懲りずに待つ、エンリッキ。
 今まで飛び込んでくれた事など無いのに毎回お決まりの様に待ち構える。
 代わりに軽く額を中指で弾かれる。
「相変わらずウルリッカはつれないな~」
 それでも何処か幸せそうなエンリッキ。
「あんたは所構わずいちゃいちゃしたがるわね。一応私もあんたも上官って立場があるんだからね。それにお母上の耳に入ったら、あんたの家、また羅刹の家みたいになるんでしょ?」
 母親の事を出された途端、エンリッキの顔はいつもの貼り付けた笑顔に戻る。
「俺は次男だし関係ないよ。」
「そうは言ってもほら、宰相んトコみたいな例もあるし、望まれてる事があるなら、それ優先で構わないわよ?」
「俺はウルリッカしか要らないから。家もどうでもいい」
 ウルリッカは呆れた様に、でも何処か可笑しげに溜息をつきながら、答える。
「…もう、しょうがないわね」
 カーサライネンの家はグリムヒルトが海賊だった時代から長く王家に仕える家系だ。その事に病的なほど誇りを持っている家で盲信的な王家への忠義を捧げている。
 そんな中でエンリッキはアナバスをあるじに掲げているが、それはあくまでもアナバス個人に対してであって、王家の者だからではない。
 カーサライネンの過剰な王家崇拝に嫌気が差しているし、それと同じだとは思われたくない。
 家がエンリッキやその兄弟に求めている事はいずれかのヴィスト家から嫁をもらう事。
 故にウルリッカとの結婚は認められていない。
 恐らくベネディクト王の勅命を出して貰えば結婚出来るが、ウルリッカはそれを良しとしない。
 そんなどうでもいい事に陛下の勅命を使わせるのは偲びないという。
 ただでさえベネディクト王は勅命の多い王だ。
 特に文官からの不満は強く、重臣達はその監視に余念が無い。

「そんな事より、今回の船旅はどうだった?」
「上々よ。こっちの条件は全部飲ませた。ホント誰かに褒めてもらいたい位よ」
「じゃあ、俺が褒めてあげるよ。」
「いいわ。王妃に褒めてもらうの」
「…ウルリッカ、その御守り貰ってから、ホント王妃ラブになったね」
 ウルリッカの腰帯にぶら下がる王妃から直々に賜った御守りを指差す。
「失礼ね。それ以前から大好きよ!」
 力一杯否定される。実際、ウルリッカはそれ以前から王妃には忠誠を誓っている。
「俺も王妃は好きだけど、そんなに最優先されるとちょっと悲しいよ」
 エンリッキとしては主の妻でその主にとって重要な女性である事は間違いないし、付き従う対象である事も間違いない。
 しかし自分の恋人までもがその存在にメロメロになっている事が少し複雑な心境だ。
「仕方ないじゃない。王妃可愛いんだもの。王妃になってからはえも言われぬ色気まで出てきて、無敵よ、今や。そんな可愛らしい王妃に褒めて貰えるなんて幸福よ~」
 エンリッキはそんな恋人を見つめて、それでもなんだかんだ、幸せな気持ちになれる。
 細々した問題はあれど、結局恋人は自分に気を許してくれているし、満足だ。
「そういや、こないだアレクと呑みに行ったんだって?俺も誘ってくれればよかったのに」
「たまにはあいつともサシで呑んでみたかったのよ。私は好きだけど、向こうはやっぱり私の事は苦手みたいね」
「まぁ、苦手だろうね。どちらかと言うと真っ直ぐな奴だから」
「でも、あいつが宰相で正解だったわね~。そう思ったわ。でも3人で呑みに行けたらいいけど、閣下に怒られちゃうんじゃない?一気に抜けちゃったら」
「そこは閣下に留守任せて皆んなで怒られるまでが様式美でしょ」
「あんたのそういうトコホント面白い。好きよ」
 エンリッキはウルリッカの言葉に気分が上がる。今日も上がって来る気の重い書類仕事達を片付ける勢いがつきそうだ。
「ウルリッカ?家出るから、やっぱり結婚しよう?」
「いい歳こいて家出とか言ってんじゃないわよ」
 カラカラ笑いながらウルリッカが冗談めかす。
「陛下にとってあんたの家名は使い道がある。そうである以上家を出るべきじゃないわ。私達の在り方はその次の話よ。前にも言ったでしょ?」
「…うん。そうだね。わかったよ。…今夜は?」
 ウルリッカはエンリッキを見つめて答える。
「空いてるわよ」
「じゃあ、いつものとこで」
「了解」

 遠くから声がかかる。
「おい、お前ら!丁度いいとこに揃ってるな。陛下のお召しだぞ」
 宰相であるアレクシスが二人に手を振る。
「さて、今日の陛下はご機嫌かしら?」
「ご機嫌が麗しくない時は王妃にお縋りするしかないからね~」
「そうすると王妃が可哀想なのよね~…陛下ったらホント王妃に夢中だから。手加減ってもんを知らないのかしらね、私達のご主人様は」
 そう会話しながらアレクシスの元まで歩む。
「宰相、今日はなんかあったっけ?」
「いや、王妃がセイレーン殿を連れて市井に降りられた」
 エンリッキは遠い目をする。
「…それは…陛下のご様子が目に浮かぶ様だね」
「いや、それが今回はそういう事じゃないんだ」
 ウルリッカとエンリッキは顔を見合わせる。
「どういう事?」
「幻獣が出たらしい」
 ウルリッカとエンリッキは同時に言う。
「「幻獣⁈」」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...