人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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「ちょっと待って!私ホントにただの見物人よ⁈」
 華奢で華美な建物に入れられるとたくさんの着飾った女の人達がいて、麝香の燻された香りがふわりと鼻につく。
 艶やかな女の人達は騒ぎ立てる私を遠巻きに見ている。
「レイティア様⁈」
 女の人達の中から声がかかる。私は声の方を振り向いた。
 私は声をかけてきた薄い茶色の髪の女性をまじまじと見る。
「⁈…アリス姉さん⁈」
「やっぱり!こんな所で何をなさっておられるのですか⁈」
「…その…夫と一緒にお祭りを見に来たの。でも全然取りあってもらえなくて」

香車おかみさん。この子はさる高貴なご身分の方と夫婦になってる子です。私が保証します。だから迂闊に店に出したりしたら、店の存続に関わりますよ?」
 香車おかみは訝しむ様子でアリス姉さんに言う。
「こんな普通の地の民の娘が高貴な人の妾でもなく、夫婦だって?本当かい?とにかく部屋に閉じ込めといで」
 私は男の人に腕を引っ張られて一室に閉じ込められた。
 部屋にはしんと静寂が落ちる。
 もし万が一にも店に出されたりしたら……もう一生陛下の妻は名乗れない…。
 王妃である以上、いいえ、妾妃であっても、陛下以外の人と交わったりしたら、もう私は陛下のお傍にはいられない。そんなの絶対に嫌だ。
 そんな事を思い巡らせていると、格子のかかった窓がコツンと小さく叩かれる。
 私は窓をカラリと開けた。
 そこにはテームさんがいた。
「ティア様、アナバス様をお探ししてお連れします。そう時はかかりません。それまでなんとしても堪えて下さい」
「わかりました。よろしくお願いします」
 窓を閉めて最後まで抵抗する手段を考える。
 もう目一杯暴れるしかないような気がする…。
 コツコツと扉からノックが鳴る。
「誰?」と恐る恐る声をかけると、「私です、アリスです」と返事があった。
 私はその声に安堵してどうぞと答えた。
「レイティア様…お久しぶりですね!」
「今ティアと名乗ってるの。ホントに久しぶりね…アリス姉さん…」
 アリス姉さんは私より2つ年上でマグダラスの出身だ。マグダラスではよく一緒に洗濯や子守りをやった。
 でも、姉さんが15の歳にグリムヒルトの女衒に売られていった。
 アリス姉さんはマグダラスの王都でも薄い綺麗な茶色の髪と陛下とはまた少し違う色味の翠の瞳が印象的でとても綺麗だと評判だった。
 本当なら誰よりも幸せを掴んでいていい位の優しい人だ。
「ティア様もグリムヒルトに…とお聞きしておりましたが…お幸せそうですね」
 アリス姉さんは化粧こそしていても、昔と変わらない優しい笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとう」
 私は複雑な笑顔で答える。
 アリス姉さんは昔と全然変わらないけど、きっと辛い事をたくさん乗り越えてここにいる筈だ。
 どう言えばいいのかわからない…。
「…ティア様はホントに変わらないですね…。そうそう。デボラとエリーもこの界隈の娼館にいますよ」
 アリス姉さんは微笑んで私に言った。
「そうだったのね!二人共元気なの?」
「はい。変わりなく元気で過ごしておりますよ」
 デボラ姉さんもエリー姉さんもアリス姉さんよりも一つ歳上の器量良しだ。
 マグダラスでは同じ様に城下に降りてはお世話になっていた。
「そう…元気だったなら本当によかった…」
「皆、ティア様に逢いたがっておりましたよ。グリムヒルトの王様はとても厳しいお方だとお噂がありましたから、心配しておりましたが…やはりティア様の良さに気がついて下さったのですね」
 こうして、自分も大変な苦労をしてる時に私の事を案じてくれるのは、昔から変わらない。私もこうでありたいと、この人達から学んだ事だ。
 マグダラスにいた頃も、貧しい中私よりずっと辛い目に遭っていても、『姫様が心を痛める必要はないんですよ』と言ってくれた。
 私は仮にも王女だ。衣食住は保証されてる。でも皆んなは時期によっては食に事欠く日もあったはずだ。
 それでも私を妬んだりせず、私に見せまいと笑ってくれた人達だ。
 マグダラスの民達はいつだって王家をそうして支えてくれていた。
「私の事、変わらないと言ってくれたけど、アリス姉さんも変わらないわ…。ありがとう、心配してくれて。今日もこうして庇ってくれて。後で酷い目にあったりしない?」
 私は心配になって聞く。
「大丈夫ですよ。ただ身元を保証しただけですもの」
 やっぱり優しく笑ってくれる。
「ティア様はお綺麗になられましたね。旦那様にとても愛されているのがわかります」
「アリス姉さんこそとても艶やかになっていて、一瞬誰だかわからなかったわ」

 扉のノックが鳴る。

 アリス姉さんが私を後ろに庇ってくれた。
 ガチャっと不躾にドアが開く。
 香車おかみが仏頂面で立っていて、言い放つ。

「出な。あんたの旦那だと言う男が来たよ」
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