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 宰相様に軍船の差配を任せて、乗船する。
 私が正妃になった事で、私の紋章が決められた。陛下の提案でヒメユズリの花と鷹があしらわれた紋章になった。
 私が乗船しているのでこの船にはその紋章の旗が風に揺れてはためいている。
「王妃。大型になる軍船は沖合で待機させます。先ずは巡回を装った船で取り囲んだ後に、大型船で更に取り囲むのが宜しいかと」
 宰相様が私に作戦の説明をしてくれる。
「よしなに。でも、相手は商船ですから、決して向こうから攻撃が無い以上、こちらも手荒な真似はしないで下さいね?何よりも証拠の押収を最優先に。お願いしますね?」
「御意」
 ロロテア港に向かう軍の船団はかなり大きな規模で、20隻はあるだろう。
「……たった1隻の商船にここまで必要でしょうか?」
 私は宰相様にお尋ねする。宰相様はにっこりと笑って仰った。
「必要です。我らの主を舐めてかかってこれだけの規模の密輸をやって来たんですから。ハッキリとその事を自覚させてやらねばなりません」
「……決して、手荒な事だけは許しません。いいですか?」
「もちろんです。相手が攻勢に出ない限りは威嚇するのみですよ」
「ロロテア港には恐らく陛下もいらっしゃいます。充分注意して下さい」
 宰相様は苦笑いをする。
「そう。陛下がいらっしゃるという事は、恐らく何か仕掛けて来ます。それが一番厄介なんですよね」
 私は武装船の話を思い出す。陛下の提案で組織される予定だった。
 私がそんな事を思い巡らせていると、宰相様の部下から声がかかった。
「ハーヴィスト閣下。ヴェルウェルト商会の商船と思われる船影が見えたとの報告です」
「よし、軍船団はそのまま沖合で待機。巡視船は山陰に隠れて待機」

 かなり沖で待機してる私達には船影を確認は出来なかったけれど、商船はロロテアの港の山陰に着いた様だった。
「巡視船は商船を取り囲め。全艦、ロロテアに向かえ」
 宰相様が伝令を伝えると沖合で停泊していた船団は一斉にロロテアに向かって舵を切る。
 私達が着いた頃には漁船に偽装していた武装船と巡視船が交戦していた。
 互いに距離を測りながら弓を放っている。
 巡視船は弓矢を防ぐ大きな置き盾が装備されているので大きな損害は出ていない様だ。
 武装船も簡易の板の様なもので置き盾代わりにしている。でも強度を考えたらそんなには保たないだろう。
 漁船の機動力を活かして縦横無尽に動き回りながら巡視船を翻弄している。
 私は船の動きをじっと見た。矢面に立って先陣を切る武装船が一隻ある。
「待って! 白旗を上げて下さい!」
 宰相様がキョトンとして私に訊ねる。
「白旗ですか?」
「あれ、あの武装船に陛下が乗っています。お迎えに上がりましょう」
「陛下が? しかし……」
「いつだって陛下はご自身を囮になさる。今回は殿をお務めになられてるのでしょう」
 そう、船の動きはさりげなく他の船を逃そうとしている。
 宰相様は少し間を置いて、その後優しく微笑んだ。
「御意。全巡視船に告ぐ。白旗を上げて、目標の武装船に向かえ! 陛下がご乗船されている! 軍用船は商船を囲んだまま待機!」
 白旗の上げられた巡視船とこの宰相様と私の乗っている軍船で武装船にゆっくりと近づく。
 武装船は構えていた弓を下ろす。近づいていくと、船首に陛下のお姿を見つけた。
「陛下!」
 私は思わず船の縁にしがみつき、お声をかける。
 その声に気がついて下さった様子で、こちらを向いて軽く手を上げて下さった。
 武装船と軍船に簡易の桟橋が架けられる。陛下は桟橋を軽い足取りで渡って来られた。
「お帰りなさいませ、陛下」
 私は頭を下げて陛下をお迎えする。
 それに倣って軍船、巡視船の水兵達が陛下に向かって一斉に敬礼する。
「ああ、戻った。しかしえらく簡単に儂だとバレたな。何故わかった?」
「……危ない事をなさっているからです。お約束して下さったのに……」
 私は頭を上げて少し拗ねた顔をする。陛下は私の頭を撫でて笑った。
「大して危険でもなかったぞ? そう怒るな。お前に怒られるのは敵わん」
 宰相様が陛下に仰った。
「我らを揶揄って弄ぶのはおやめ下さい。万一陛下にお怪我でもあったらどうするんですか」
 陛下はニヤリと笑って宰相様に答えた。
「なに、ちょっとした演習代わりにと思ってな。この所お前も内政ばかりで海に出ておらんだろう?」
「まぁ、確かに久しぶりに海に出られて沸き立ちましたけど」
 私は呆れてお二人に言った。
「宰相様までそんな事を。付き合わされる水兵さん達の身にもなって下さいね?」
 お二人は私の方を見て笑う。私もそれを見て笑ってしまう。
 ひとしきり笑い合った後、陛下が改めて仕切り直す。
「商船の荷を改めよ。乗組員は全員拘束しろ」
 宰相様以下全ての陛下の兵が頭を下げて返答する。
「御意」

 そして迅速に商船の荷は検められて、証拠になり得る品々は無事に見つかった。
 その中身は調度品や葡萄酒ワイン、高価な陶器類に禁止されてる催淫剤まであった。
「今現在外洋に出ているヴェルウェルトの船も全て確認出来ています。帰り次第抑えられる様手筈も整っております」
「連絡を取られる前に頭を叩くか。この押収品を証拠として、ヴェルウェルト商会に監査を入れる。早急に手配せよ」
 宰相様がそれに応えて言った。
「鳥を飛ばして法相に知らせをやりました。届き次第ヴェルウェルト商会本部に監査が入ります」

 ヴェルウェルト商会本部に監査が入って、裏帳簿とロイヤルブルーのブレスレッドとオリヤンの御守りが見つかった。
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