人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 衛士に連行された儂は衛士の詰所に留め置かれる。
 そこで取り調べを受けた。
「で、お前がやったのか?」
 衛士はテーブルに肘を突き、睨め付けて儂を見ている。
「俺ではない。俺の剣を改めればいい。人を切ったなら血脂が着いているだろう」
 衛士は馬鹿にする様に鼻先で笑う。
「そんなもの拭えば済むだろう」
「形跡が見つけられないほどグリムヒルトの軍は無能なのか?」
 儂は口角だけを吊り上げて笑った。
 衛士はその言葉に激昂した様子で前のめりになり儂に詰め寄る。
「なんだと⁈」
「まぁまぁ」
 もう一人控えていた男が後ろから声をかける。
「時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり尋問すればいいだろ? な?」
「だが、軍を馬鹿にする様な発言は……」
「いいじゃないか、これから改めさせれば。済まんな、兄さん。こいつは責務に実直な男でな。軍に忠義が厚いんだ」
 話のわかりそうな男だ。
「そうか」
「嫌疑がかかってる以上は捨て置くわけにいかんからな。調査が済むまで悪いが留まってくれ」
 儂はその男に問う。
「お前は俺を疑っていない様だな」
「……まぁな。人を斬り殺した後ってのはもっと荒んだ目をしてて良さそうなもんだしな。あとは返り血を浴びずに済む血の量じゃない。あんたは一切血糊が着いてないからなぁ~~。
 だが、あの女がああ言ってる以上、調べる事はしなきゃなんねえ」
 至極真っ当な行動だろう。儂はその男に訊ねる。
「名は?」
「イーヴァル・ヨーナス・バーリリンド」
「覚えておこう」
 バーリリンドは笑う。
「ありがとよ。調べが終わるまで不便かけるが牢に入っててくれ」
「ああ」
 牢に連行される。その道すがら、バーリリンドは明るく軽口を叩く。
「牢と言ってもこの詰め所の牢は結構快適な方なんだぞ?まぁ骨休めだと思ってゆっくりして行ってくれ」
「ああ。この所忙しかったのでな、そうさせてもらおう」
 他の衛士から声がかかる。
「待て。その男は王城の牢に連れて来いとの事だ」
 バーリリンドは訝しげにおうむ返す。
「……王城の?」
「ああ、上からの命令だ」
 上から、と言う事はあいつらの差し金で間違い無いだろう。
「……そういう訳らしい。済まんな」
「構わん」
 結局踵を返す形で詰所を出て、馬車で連行される。
 馬車に揺られて儂はこの状況に可笑しくなり、つい口角を上げる。
 自分の城に繋がれて帰る事になるとはなかなかに愉快だ。
「……あんた、王城の牢に繋がれるってのに笑ってんのか?」
 バーリリンドが可笑げに儂に訊ねる。
「ああ、久々に愉快な気分だ」
「あんた変わった男だなぁ。……しかしあんたと一緒にいた女は薄情だな」
 儂はバーリリンドを見る。
 バーリリンドの蒼い瞳は何処か同情を孕んでいた。
「あんたが連行されるや、さっさとどっかに走って行っただろ? 見捨てたんかね?」
「いや。あれは俺の頼んだ仕事をこなしただけだ」
 儂がこうして″上からの命令″とやらで連行されている時点でレイティアが儂の言付けをあいつらの誰かに伝えたのは明白だ。
 何故釈放ではないのか、その辺りは腑に落ちないが、恐らく城で何かが起こったのだろう。
 捕まっている以上従う以外に選択肢は無い。
 儂は馬車の幌の隙間から外を眺める。
 堀を渡り、跳ね橋に差し掛かった。王城に入った様だ。
 幕壁沿いに馬車は進み、下中庭を抜けて主城門を潜る。
 いつもなら盾壁を抜け宮殿に向かうが、今日は地下牢のある主塔へ向かう。

 牢に着くと儂は先ず取り調べ室に連行される。
 儂を見張る衛兵達はそわそわと何やら耳打ちし、驚きと戸惑いをその表情に乗せていた。
 部屋に法相が入る。
「お前達は下がっていい」
 そう命じられると、敬礼をして衛兵達は速やかに退室した。
「アナバス様、ご無事で何よりです」
 法相はいつもの貼り付けた様な笑顔で儂に言った。
「ああ。で、これはどういう事だ?」
 儂は脚を組んで法相に訊ねる。
「はい、実はブレスレットと引き換えにマルコ・パウル・ヴァリアンという男を解放しろと文が投げ込まれました」
「……なるほど。儂にその男を探れと言うのだな?」
「はい、そういう事です。閣下がアナバス様であれば、喜んで引き受けて下さるだろうと」
「そのマルコ・パウル・ヴァリアンという男の委細は?」
「それがアレクが調べさせたのですが、何も出てこないのです。この名も偽名である可能性が高い」
「それで探らせようという事になった訳だな」
 法相は声を潜ませる。
「それでですね、表立って釈放という訳にも行きませんので、マルコと共に牢破りをして下さい」
 儂は思わず声を上げて笑う。
「なるほど。それは愉快だ。よかろう、引き受けた」
「楽しんで頂けそうでよかったです。では明晩西側の警備は手薄にしておきます」
 儂は椅子の背もたれに身を預け、腕を組む。
「それはそうとレイティアは無事か?」
「はい、とても気丈にお伝え下さいました」
「そうか。城でじっとしているように伝えろ」
「……じっと、ですか?」
 疑問を含んだ表情で儂を見る法相に儂は笑って答える。
「アレは行動力のある女だからな。今頃ソワソワしておる所だろう」
「わかりました」

 さて、明晩が楽しみだ。
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