106 / 200
106
しおりを挟む
衛士に連行された儂は衛士の詰所に留め置かれる。
そこで取り調べを受けた。
「で、お前がやったのか?」
衛士はテーブルに肘を突き、睨め付けて儂を見ている。
「俺ではない。俺の剣を改めればいい。人を切ったなら血脂が着いているだろう」
衛士は馬鹿にする様に鼻先で笑う。
「そんなもの拭えば済むだろう」
「形跡が見つけられないほどグリムヒルトの軍は無能なのか?」
儂は口角だけを吊り上げて笑った。
衛士はその言葉に激昂した様子で前のめりになり儂に詰め寄る。
「なんだと⁈」
「まぁまぁ」
もう一人控えていた男が後ろから声をかける。
「時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり尋問すればいいだろ? な?」
「だが、軍を馬鹿にする様な発言は……」
「いいじゃないか、これから改めさせれば。済まんな、兄さん。こいつは責務に実直な男でな。軍に忠義が厚いんだ」
話のわかりそうな男だ。
「そうか」
「嫌疑がかかってる以上は捨て置くわけにいかんからな。調査が済むまで悪いが留まってくれ」
儂はその男に問う。
「お前は俺を疑っていない様だな」
「……まぁな。人を斬り殺した後ってのはもっと荒んだ目をしてて良さそうなもんだしな。あとは返り血を浴びずに済む血の量じゃない。あんたは一切血糊が着いてないからなぁ~~。
だが、あの女がああ言ってる以上、調べる事はしなきゃなんねえ」
至極真っ当な行動だろう。儂はその男に訊ねる。
「名は?」
「イーヴァル・ヨーナス・バーリリンド」
「覚えておこう」
バーリリンドは笑う。
「ありがとよ。調べが終わるまで不便かけるが牢に入っててくれ」
「ああ」
牢に連行される。その道すがら、バーリリンドは明るく軽口を叩く。
「牢と言ってもこの詰め所の牢は結構快適な方なんだぞ?まぁ骨休めだと思ってゆっくりして行ってくれ」
「ああ。この所忙しかったのでな、そうさせてもらおう」
他の衛士から声がかかる。
「待て。その男は王城の牢に連れて来いとの事だ」
バーリリンドは訝しげにおうむ返す。
「……王城の?」
「ああ、上からの命令だ」
上から、と言う事はあいつらの差し金で間違い無いだろう。
「……そういう訳らしい。済まんな」
「構わん」
結局踵を返す形で詰所を出て、馬車で連行される。
馬車に揺られて儂はこの状況に可笑しくなり、つい口角を上げる。
自分の城に繋がれて帰る事になるとはなかなかに愉快だ。
「……あんた、王城の牢に繋がれるってのに笑ってんのか?」
バーリリンドが可笑げに儂に訊ねる。
「ああ、久々に愉快な気分だ」
「あんた変わった男だなぁ。……しかしあんたと一緒にいた女は薄情だな」
儂はバーリリンドを見る。
バーリリンドの蒼い瞳は何処か同情を孕んでいた。
「あんたが連行されるや、さっさとどっかに走って行っただろ? 見捨てたんかね?」
「いや。あれは俺の頼んだ仕事をこなしただけだ」
儂がこうして″上からの命令″とやらで連行されている時点でレイティアが儂の言付けをあいつらの誰かに伝えたのは明白だ。
何故釈放ではないのか、その辺りは腑に落ちないが、恐らく城で何かが起こったのだろう。
捕まっている以上従う以外に選択肢は無い。
儂は馬車の幌の隙間から外を眺める。
堀を渡り、跳ね橋に差し掛かった。王城に入った様だ。
幕壁沿いに馬車は進み、下中庭を抜けて主城門を潜る。
いつもなら盾壁を抜け宮殿に向かうが、今日は地下牢のある主塔へ向かう。
牢に着くと儂は先ず取り調べ室に連行される。
儂を見張る衛兵達はそわそわと何やら耳打ちし、驚きと戸惑いをその表情に乗せていた。
部屋に法相が入る。
「お前達は下がっていい」
そう命じられると、敬礼をして衛兵達は速やかに退室した。
「アナバス様、ご無事で何よりです」
法相はいつもの貼り付けた様な笑顔で儂に言った。
「ああ。で、これはどういう事だ?」
儂は脚を組んで法相に訊ねる。
「はい、実はブレスレットと引き換えにマルコ・パウル・ヴァリアンという男を解放しろと文が投げ込まれました」
「……なるほど。儂にその男を探れと言うのだな?」
「はい、そういう事です。閣下がアナバス様であれば、喜んで引き受けて下さるだろうと」
「そのマルコ・パウル・ヴァリアンという男の委細は?」
「それがアレクが調べさせたのですが、何も出てこないのです。この名も偽名である可能性が高い」
「それで探らせようという事になった訳だな」
法相は声を潜ませる。
「それでですね、表立って釈放という訳にも行きませんので、マルコと共に牢破りをして下さい」
儂は思わず声を上げて笑う。
「なるほど。それは愉快だ。よかろう、引き受けた」
「楽しんで頂けそうでよかったです。では明晩西側の警備は手薄にしておきます」
儂は椅子の背もたれに身を預け、腕を組む。
「それはそうとレイティアは無事か?」
「はい、とても気丈にお伝え下さいました」
「そうか。城でじっとしているように伝えろ」
「……じっと、ですか?」
疑問を含んだ表情で儂を見る法相に儂は笑って答える。
「アレは行動力のある女だからな。今頃ソワソワしておる所だろう」
「わかりました」
さて、明晩が楽しみだ。
そこで取り調べを受けた。
「で、お前がやったのか?」
衛士はテーブルに肘を突き、睨め付けて儂を見ている。
「俺ではない。俺の剣を改めればいい。人を切ったなら血脂が着いているだろう」
衛士は馬鹿にする様に鼻先で笑う。
「そんなもの拭えば済むだろう」
「形跡が見つけられないほどグリムヒルトの軍は無能なのか?」
儂は口角だけを吊り上げて笑った。
衛士はその言葉に激昂した様子で前のめりになり儂に詰め寄る。
「なんだと⁈」
「まぁまぁ」
もう一人控えていた男が後ろから声をかける。
「時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり尋問すればいいだろ? な?」
「だが、軍を馬鹿にする様な発言は……」
「いいじゃないか、これから改めさせれば。済まんな、兄さん。こいつは責務に実直な男でな。軍に忠義が厚いんだ」
話のわかりそうな男だ。
「そうか」
「嫌疑がかかってる以上は捨て置くわけにいかんからな。調査が済むまで悪いが留まってくれ」
儂はその男に問う。
「お前は俺を疑っていない様だな」
「……まぁな。人を斬り殺した後ってのはもっと荒んだ目をしてて良さそうなもんだしな。あとは返り血を浴びずに済む血の量じゃない。あんたは一切血糊が着いてないからなぁ~~。
だが、あの女がああ言ってる以上、調べる事はしなきゃなんねえ」
至極真っ当な行動だろう。儂はその男に訊ねる。
「名は?」
「イーヴァル・ヨーナス・バーリリンド」
「覚えておこう」
バーリリンドは笑う。
「ありがとよ。調べが終わるまで不便かけるが牢に入っててくれ」
「ああ」
牢に連行される。その道すがら、バーリリンドは明るく軽口を叩く。
「牢と言ってもこの詰め所の牢は結構快適な方なんだぞ?まぁ骨休めだと思ってゆっくりして行ってくれ」
「ああ。この所忙しかったのでな、そうさせてもらおう」
他の衛士から声がかかる。
「待て。その男は王城の牢に連れて来いとの事だ」
バーリリンドは訝しげにおうむ返す。
「……王城の?」
「ああ、上からの命令だ」
上から、と言う事はあいつらの差し金で間違い無いだろう。
「……そういう訳らしい。済まんな」
「構わん」
結局踵を返す形で詰所を出て、馬車で連行される。
馬車に揺られて儂はこの状況に可笑しくなり、つい口角を上げる。
自分の城に繋がれて帰る事になるとはなかなかに愉快だ。
「……あんた、王城の牢に繋がれるってのに笑ってんのか?」
バーリリンドが可笑げに儂に訊ねる。
「ああ、久々に愉快な気分だ」
「あんた変わった男だなぁ。……しかしあんたと一緒にいた女は薄情だな」
儂はバーリリンドを見る。
バーリリンドの蒼い瞳は何処か同情を孕んでいた。
「あんたが連行されるや、さっさとどっかに走って行っただろ? 見捨てたんかね?」
「いや。あれは俺の頼んだ仕事をこなしただけだ」
儂がこうして″上からの命令″とやらで連行されている時点でレイティアが儂の言付けをあいつらの誰かに伝えたのは明白だ。
何故釈放ではないのか、その辺りは腑に落ちないが、恐らく城で何かが起こったのだろう。
捕まっている以上従う以外に選択肢は無い。
儂は馬車の幌の隙間から外を眺める。
堀を渡り、跳ね橋に差し掛かった。王城に入った様だ。
幕壁沿いに馬車は進み、下中庭を抜けて主城門を潜る。
いつもなら盾壁を抜け宮殿に向かうが、今日は地下牢のある主塔へ向かう。
牢に着くと儂は先ず取り調べ室に連行される。
儂を見張る衛兵達はそわそわと何やら耳打ちし、驚きと戸惑いをその表情に乗せていた。
部屋に法相が入る。
「お前達は下がっていい」
そう命じられると、敬礼をして衛兵達は速やかに退室した。
「アナバス様、ご無事で何よりです」
法相はいつもの貼り付けた様な笑顔で儂に言った。
「ああ。で、これはどういう事だ?」
儂は脚を組んで法相に訊ねる。
「はい、実はブレスレットと引き換えにマルコ・パウル・ヴァリアンという男を解放しろと文が投げ込まれました」
「……なるほど。儂にその男を探れと言うのだな?」
「はい、そういう事です。閣下がアナバス様であれば、喜んで引き受けて下さるだろうと」
「そのマルコ・パウル・ヴァリアンという男の委細は?」
「それがアレクが調べさせたのですが、何も出てこないのです。この名も偽名である可能性が高い」
「それで探らせようという事になった訳だな」
法相は声を潜ませる。
「それでですね、表立って釈放という訳にも行きませんので、マルコと共に牢破りをして下さい」
儂は思わず声を上げて笑う。
「なるほど。それは愉快だ。よかろう、引き受けた」
「楽しんで頂けそうでよかったです。では明晩西側の警備は手薄にしておきます」
儂は椅子の背もたれに身を預け、腕を組む。
「それはそうとレイティアは無事か?」
「はい、とても気丈にお伝え下さいました」
「そうか。城でじっとしているように伝えろ」
「……じっと、ですか?」
疑問を含んだ表情で儂を見る法相に儂は笑って答える。
「アレは行動力のある女だからな。今頃ソワソワしておる所だろう」
「わかりました」
さて、明晩が楽しみだ。
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

拉致られて家事をしてたら、カタギじゃなくなってた?!
satomi
恋愛
肩がぶつかって詰め寄られた杏。謝ったのに、逆ギレをされ殴りかかられたので、正当防衛だよね?と自己確認をし、逆に抑え込んだら、何故か黒塗り高級車で連れて行かれた。……先は西谷組。それからは組員たちからは姐さんと呼ばれるようになった。西谷組のトップは二代目・光輝。杏は西谷組で今後光輝のSP等をすることになった。
が杏は家事が得意だった。組員にも大好評。光輝もいつしか心をよせるように……
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる