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私は陛下の指示通り、とにかく王城に戻って宰相様にこの事を伝える事にした。
急いで抜け道まで走る。
抜け路を通って王妃の間に戻る。
何度か行き来していたし、陛下にこの路を覚えるコツを教わっていたので覚えられたみたいだ。
着替える時間が勿体無いので、そのままの格好で宰相様を探す。
宰相様の執務室に行くけれど、離席されていて、宰相様の部下のマンダールさんに陛下の執務室にいると聞く。
陛下の執務室に急ぐと、軍師様と法相様も一緒におられた。
「お話中に失礼します。私ですけど入ってもよろしいですか?火急の要件があります」
「もちろん、お入り下さい」
宰相様から声がかかったので入室する。
「王妃、今日はお出かけ……だった様ですね。その装いもお似合いですよ」
宰相様が柔かに誉めて下さる。
「この様な格好で失礼しますね。火急の用です。陛下が衛士に連れて行かれました」
法相の眉が少し動くのがわかった。
なので法相様の方を見る。
「殺人の容疑をかけられています。
宰相様のお使いで二人で『工房巌』を訪ねました。
私達が到着した時には親方と弟子の方が斬り殺されていました。でも、そこに工房の客人が現れて騒ぎになってしまって……」
法相様が一つ私に頷いた。
「わかりました。至急対応します」
そう言うと、法相様が足速に陛下の執務室から出て行く。
そして宰相様が私の方を向いて話し始める。
「実は今、我々も火急の用で話し合っておりました」
「なんでしょう?」
「この様な物が王城の敷地内に投げ込まれました」
宰相様は一枚の皺だらけの紙を差し出した。
私はそれを受け取りそこに書かれた文字を読む。
とても癖のある汚い字で、多分わざとこんな風に書いたのだろうと一目でわかる。
「……『ブレスレットは預かった』……。『返して欲しければマルコ・パウル・ヴァリアンを釈放しろ』……?
宰相様? このマルコ・パウル・ヴァリアンという者の詳細は分かりますか?」
私はその手紙を読み上げて宰相様にお尋ねする。
「先日密輸の容疑で捕まった男です。
海軍が海で怪しい小船を発見して、改めましたら、積んだ荷物の中にプトレドの白磁、ビアニアの調度品、葡萄酒などが入っていました。全て徴税を逃れている品かと。これがどの船から回収したものなのか、頑として言いません」
「そうですか……。どの様にされるおつもりですか?」
「先程まで我らで話していたのはまず、ブレスレットの所在の確認を待とうと。陛下のお帰りをお待ちしておりました」
私は腕を組んで考える。
「ブレスレットは盗まれていました。その者達の手元にあると考えていいと思います」
「なるほど……しかし、マルコ・パウル・ヴァリアンを釈放するのは相手をつけ上がらせるだけでしょう」
宰相様が私を見てそう言うと軍師様がそれを受けて答えた。
「しかし相手の情報が無いので泳がせて得たい。だが、相手の要求を呑んだと思われるのは避けたい。ならば良い方法があります」
私は軍師様の方をじっと見て訊ねる。
「どんな方法ですか?」
軍師様は腕を組んで瞳を閉じた。
「今ちょうど、我らの手の者が牢にいます」
「……?」
私はキョトンとして軍師様を見つめた。
「ここは一つ陛下に働いて頂きましょう」
私は目を見開く。隣の宰相様は苦笑いして軍師様に訊ねた。
「……つまり陛下にマルコと一緒に脱獄して頂くって事ですか?」
軍師様は薄く笑って頷いた。
「陛下にも良い肩慣らしになるでしょう」
私は声を上げて笑ってしまう。
「あははははっ! 思い切りの良い策ですね。きっと陛下も喜んで引き受けられるんでしょうね」
軍師様は更に広角を少しだけ吊り上げた。
「いえいえ。これは如何にも陛下が思いつきそうな策だと思っただけですよ」
「そうなのですか?」
「戦でよく陛下が取られる策なのです。陛下は本陣を平気で囮に使われる」
なんとなく、陛下と軍師様の戦友としての信頼を見た様な気がした。
「なるほど。陛下らしいですね。それと陛下からもう一つ。アイラを見張れとの仰せです」
「アイラ?」
「件の御物の破損の侍女です」
宰相様が私に訊ねた。
「その件は暇を出して落着したのでは?」
「それが、今日出会したのですが、彼女命を狙われていました。
陛下は何か裏があると思われたのではないでしょうか?」
「なるほど。暗部に探らせましょう」
「よろしくお願いします」
「それでは俺は手配してきます」
宰相様は軽く頭を下げるとやはり足速に執務室を出た。
部屋には軍師様と私、二人きりになる。
「……軍師様? 今の時点で軍師様が予測しておられる事は?」
私はチラリと軍師様を見上げて訊ねる。
「正確かはわかりませんが、恐らくは商会絡みの密輸に関するイザコザでしょう」
「何故商会絡みだと?」
「マルコの船が積んでいた荷は明らかに密輸絡み。
品々を見れば相当手広い事が分かります。とても個人での量や質ではないですからね。
かなり大きな商会で、マルコから証言が出る事を恐れてる。
しかもマルコを殺すより手元に戻したいと思うのなら、マルコには手放せない利用価値があるか、情があるかのどちらか、もしくはその両方という事でしょう」
「なるほど……流石は軍師様です」
軍師様は私を見て笑う。
「お褒めに預かり光栄です」
陛下が働かれるなら、私も私の出来る事をしなくちゃ。
急いで抜け道まで走る。
抜け路を通って王妃の間に戻る。
何度か行き来していたし、陛下にこの路を覚えるコツを教わっていたので覚えられたみたいだ。
着替える時間が勿体無いので、そのままの格好で宰相様を探す。
宰相様の執務室に行くけれど、離席されていて、宰相様の部下のマンダールさんに陛下の執務室にいると聞く。
陛下の執務室に急ぐと、軍師様と法相様も一緒におられた。
「お話中に失礼します。私ですけど入ってもよろしいですか?火急の要件があります」
「もちろん、お入り下さい」
宰相様から声がかかったので入室する。
「王妃、今日はお出かけ……だった様ですね。その装いもお似合いですよ」
宰相様が柔かに誉めて下さる。
「この様な格好で失礼しますね。火急の用です。陛下が衛士に連れて行かれました」
法相の眉が少し動くのがわかった。
なので法相様の方を見る。
「殺人の容疑をかけられています。
宰相様のお使いで二人で『工房巌』を訪ねました。
私達が到着した時には親方と弟子の方が斬り殺されていました。でも、そこに工房の客人が現れて騒ぎになってしまって……」
法相様が一つ私に頷いた。
「わかりました。至急対応します」
そう言うと、法相様が足速に陛下の執務室から出て行く。
そして宰相様が私の方を向いて話し始める。
「実は今、我々も火急の用で話し合っておりました」
「なんでしょう?」
「この様な物が王城の敷地内に投げ込まれました」
宰相様は一枚の皺だらけの紙を差し出した。
私はそれを受け取りそこに書かれた文字を読む。
とても癖のある汚い字で、多分わざとこんな風に書いたのだろうと一目でわかる。
「……『ブレスレットは預かった』……。『返して欲しければマルコ・パウル・ヴァリアンを釈放しろ』……?
宰相様? このマルコ・パウル・ヴァリアンという者の詳細は分かりますか?」
私はその手紙を読み上げて宰相様にお尋ねする。
「先日密輸の容疑で捕まった男です。
海軍が海で怪しい小船を発見して、改めましたら、積んだ荷物の中にプトレドの白磁、ビアニアの調度品、葡萄酒などが入っていました。全て徴税を逃れている品かと。これがどの船から回収したものなのか、頑として言いません」
「そうですか……。どの様にされるおつもりですか?」
「先程まで我らで話していたのはまず、ブレスレットの所在の確認を待とうと。陛下のお帰りをお待ちしておりました」
私は腕を組んで考える。
「ブレスレットは盗まれていました。その者達の手元にあると考えていいと思います」
「なるほど……しかし、マルコ・パウル・ヴァリアンを釈放するのは相手をつけ上がらせるだけでしょう」
宰相様が私を見てそう言うと軍師様がそれを受けて答えた。
「しかし相手の情報が無いので泳がせて得たい。だが、相手の要求を呑んだと思われるのは避けたい。ならば良い方法があります」
私は軍師様の方をじっと見て訊ねる。
「どんな方法ですか?」
軍師様は腕を組んで瞳を閉じた。
「今ちょうど、我らの手の者が牢にいます」
「……?」
私はキョトンとして軍師様を見つめた。
「ここは一つ陛下に働いて頂きましょう」
私は目を見開く。隣の宰相様は苦笑いして軍師様に訊ねた。
「……つまり陛下にマルコと一緒に脱獄して頂くって事ですか?」
軍師様は薄く笑って頷いた。
「陛下にも良い肩慣らしになるでしょう」
私は声を上げて笑ってしまう。
「あははははっ! 思い切りの良い策ですね。きっと陛下も喜んで引き受けられるんでしょうね」
軍師様は更に広角を少しだけ吊り上げた。
「いえいえ。これは如何にも陛下が思いつきそうな策だと思っただけですよ」
「そうなのですか?」
「戦でよく陛下が取られる策なのです。陛下は本陣を平気で囮に使われる」
なんとなく、陛下と軍師様の戦友としての信頼を見た様な気がした。
「なるほど。陛下らしいですね。それと陛下からもう一つ。アイラを見張れとの仰せです」
「アイラ?」
「件の御物の破損の侍女です」
宰相様が私に訊ねた。
「その件は暇を出して落着したのでは?」
「それが、今日出会したのですが、彼女命を狙われていました。
陛下は何か裏があると思われたのではないでしょうか?」
「なるほど。暗部に探らせましょう」
「よろしくお願いします」
「それでは俺は手配してきます」
宰相様は軽く頭を下げるとやはり足速に執務室を出た。
部屋には軍師様と私、二人きりになる。
「……軍師様? 今の時点で軍師様が予測しておられる事は?」
私はチラリと軍師様を見上げて訊ねる。
「正確かはわかりませんが、恐らくは商会絡みの密輸に関するイザコザでしょう」
「何故商会絡みだと?」
「マルコの船が積んでいた荷は明らかに密輸絡み。
品々を見れば相当手広い事が分かります。とても個人での量や質ではないですからね。
かなり大きな商会で、マルコから証言が出る事を恐れてる。
しかもマルコを殺すより手元に戻したいと思うのなら、マルコには手放せない利用価値があるか、情があるかのどちらか、もしくはその両方という事でしょう」
「なるほど……流石は軍師様です」
軍師様は私を見て笑う。
「お褒めに預かり光栄です」
陛下が働かれるなら、私も私の出来る事をしなくちゃ。
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