人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
上 下
105 / 200

105

しおりを挟む
 私は陛下の指示通り、とにかく王城に戻って宰相様にこの事を伝える事にした。
 急いで抜け道まで走る。
 抜け路を通って王妃の間に戻る。
 何度か行き来していたし、陛下にこの路を覚えるコツを教わっていたので覚えられたみたいだ。

 着替える時間が勿体無いので、そのままの格好で宰相様を探す。
 宰相様の執務室に行くけれど、離席されていて、宰相様の部下のマンダールさんに陛下の執務室にいると聞く。
 陛下の執務室に急ぐと、軍師様と法相様も一緒におられた。
「お話中に失礼します。私ですけど入ってもよろしいですか?火急の要件があります」
「もちろん、お入り下さい」
 宰相様から声がかかったので入室する。
「王妃、今日はお出かけ……だった様ですね。その装いもお似合いですよ」
 宰相様が柔かに誉めて下さる。
「この様な格好で失礼しますね。火急の用です。陛下が衛士に連れて行かれました」
 法相の眉が少し動くのがわかった。
 なので法相様の方を見る。
「殺人の容疑をかけられています。
 宰相様のお使いで二人で『工房巌』を訪ねました。
 私達が到着した時には親方と弟子の方が斬り殺されていました。でも、そこに工房の客人が現れて騒ぎになってしまって……」
 法相様が一つ私に頷いた。
「わかりました。至急対応します」
 そう言うと、法相様が足速に陛下の執務室から出て行く。
 そして宰相様が私の方を向いて話し始める。
「実は今、我々も火急の用で話し合っておりました」
「なんでしょう?」
「この様な物が王城の敷地内に投げ込まれました」
 宰相様は一枚の皺だらけの紙を差し出した。
 私はそれを受け取りそこに書かれた文字を読む。
 とても癖のある汚い字で、多分わざとこんな風に書いたのだろうと一目でわかる。
「……『ブレスレットは預かった』……。『返して欲しければマルコ・パウル・ヴァリアンを釈放しろ』……?
 宰相様? このマルコ・パウル・ヴァリアンという者の詳細は分かりますか?」
 私はその手紙を読み上げて宰相様にお尋ねする。
「先日密輸の容疑で捕まった男です。
 海軍が海で怪しい小船を発見して、改めましたら、積んだ荷物の中にプトレドの白磁、ビアニアの調度品、葡萄酒ワインなどが入っていました。全て徴税を逃れている品かと。これがどの船から回収したものなのか、頑として言いません」
「そうですか……。どの様にされるおつもりですか?」
「先程まで我らで話していたのはまず、ブレスレットの所在の確認を待とうと。陛下のお帰りをお待ちしておりました」
 私は腕を組んで考える。
「ブレスレットは盗まれていました。その者達の手元にあると考えていいと思います」
「なるほど……しかし、マルコ・パウル・ヴァリアンを釈放するのは相手をつけ上がらせるだけでしょう」
 宰相様が私を見てそう言うと軍師様がそれを受けて答えた。
「しかし相手の情報が無いので泳がせて得たい。だが、相手の要求を呑んだと思われるのは避けたい。ならば良い方法があります」
 私は軍師様の方をじっと見て訊ねる。
「どんな方法ですか?」
 軍師様は腕を組んで瞳を閉じた。
「今ちょうど、我らの手の者が牢にいます」
「……?」
 私はキョトンとして軍師様を見つめた。
「ここは一つ陛下に働いて頂きましょう」
 私は目を見開く。隣の宰相様は苦笑いして軍師様に訊ねた。
「……つまり陛下にマルコと一緒に脱獄して頂くって事ですか?」
 軍師様は薄く笑って頷いた。
「陛下にも良い肩慣らしになるでしょう」
 私は声を上げて笑ってしまう。
「あははははっ! 思い切りの良い策ですね。きっと陛下も喜んで引き受けられるんでしょうね」
 軍師様は更に広角を少しだけ吊り上げた。
「いえいえ。これは如何にも陛下が思いつきそうな策だと思っただけですよ」
「そうなのですか?」
「戦でよく陛下が取られる策なのです。陛下は本陣を平気で囮に使われる」
 なんとなく、陛下と軍師様の戦友としての信頼を見た様な気がした。
「なるほど。陛下らしいですね。それと陛下からもう一つ。アイラを見張れとの仰せです」
「アイラ?」
くだんの御物の破損の侍女です」
 宰相様が私に訊ねた。
「その件は暇を出して落着したのでは?」
「それが、今日出会したのですが、彼女命を狙われていました。
 陛下は何か裏があると思われたのではないでしょうか?」
「なるほど。暗部に探らせましょう」
「よろしくお願いします」
「それでは俺は手配してきます」
 宰相様は軽く頭を下げるとやはり足速に執務室を出た。
 部屋には軍師様と私、二人きりになる。
「……軍師様? 今の時点で軍師様が予測しておられる事は?」
 私はチラリと軍師様を見上げて訊ねる。
「正確かはわかりませんが、恐らくは商会絡みの密輸に関するイザコザでしょう」
「何故商会絡みだと?」
「マルコの船が積んでいた荷は明らかに密輸絡み。
 品々を見れば相当手広い事が分かります。とても個人での量や質ではないですからね。
 かなり大きな商会で、マルコから証言が出る事を恐れてる。
 しかもマルコを殺すより手元に戻したいと思うのなら、マルコには手放せない利用価値があるか、情があるかのどちらか、もしくはその両方という事でしょう」
「なるほど……流石は軍師様です」
 軍師様は私を見て笑う。
「お褒めに預かり光栄です」

 陛下が働かれるなら、私も私の出来る事をしなくちゃ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...