人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 その後も何度も交わった私達はベッドの上で快楽の余韻に浸っていた。
 私は陛下の胸に抱かれて、頭を優しく撫でてもらっている。
 陛下は事が済んでもこうしていつも優しくしてくれて、私も安心して瞳を閉じてその胸に抱かれている。

 心地良い時間……。
 このままずっとこうしていられたらいいのにな……と思う。

 陛下が私の髪を撫でながら、そっと囁く様に言った。
「レイティア。お前の誕生日は忙しすぎて何もしてやれなんだ。お前の望む物をやろう。望みを言え」
 陛下の唐突の言葉に私は面食らった。
「え? 私……」「何でもいい」
 私は少し考える。
「でしたら、城下に降りて一緒にお出かけして下さいませんか?」
「そんな事でいいのか?」
 私は笑って答える。
「そんな事じゃありませんよ? アナバス様のお時間を私の為に使って下さるのですから、とっても貴重な事です」
 陛下は王だ。その身は民の為にある。その時間も本当なら民の為に使う時間だろう。だけど私の為にその時間を割いて下さるなら、これは勿体ない位のご褒美だ。
「では、出かけるか。行きたいところはあるのか?」
「……最近出来た、『真ち屋』というお店の雑貨が可愛いと侍女達が言っていたので私も行ってみたいです」
「そうか。何処にあるか聞いておけ。儂は明日急ぎのものを全て片付ける」
「わかりました。私も明日はお茶会がありますので、明日以降ですね。楽しみです」
 私は嬉しさでニヤニヤしてしまう。
 そんな私を見て、陛下は私の瞼に口付ける。
 そして頬に、唇にキスをして、次は耳輪を喰んだ。
 耳輪を喰まれてぞくりとして肩をすくめる。
「あ……ん……アナバス様……?そろそろ夕餉の時間ですから……もう許して下さい……」
 私は陛下の胸に両手を添えて押し留める。
 陛下はその言葉を受けて窓の外を眺めて言った。
「ふむ……もうそんな時間か……」
「はい……流石にそろそろ起きなければいけません」
 陛下は私の頬を手の甲で撫でた。
「今宵はここに運ばせる」
 陛下はそう言うと私に覆い被さって、両手の指を絡めて繋いだ。そして甘い蕩けそうなキスをした。

 やっぱり今夜も陛下は全然手加減して下さらない様だ……。

 ◇◇◇

 次の日、陛下はご政務を、私はお茶会をなんとかこなして宰相様に城下に降りる許可を頂けた。
 デートですねと揶揄われて赤くなっていたら笑われてしまった。
 宰相様はたまにこうして揶揄うけど、その後必ずお幸せで何よりですと笑って下さる。

 更にその次の日、私達は城下へ降りる準備をする。
 平民の服に着替えさせてもらって、髪を高い位置でまとめてもらう。
 陛下も同じ様に平民の服を着て、三つ編みではなくてシンプルにまとめてあるだけだ。
 帯刀をして、鞘に私の贈った御守りをつけてくれている。

 なんだかそれがとても嬉しくて朝からニヤニヤしてしまう。
 それを見つかってしまって、頭を撫でられる。
「お前は些細な事で喜ぶのだな」と、笑われてしまった。

 王の間から、いつもの抜け路を歩く。
 足場が悪いので陛下はいつもこの抜け路を歩く時は手を引いてくれる。
「レイティア。今日は儂も寄りたい所がある。良いか?」
「もちろんです。何処ですか?」
「件のブレスレットの宝石彫刻師の工房だ。宰相についでに様子を見て来いと頼まれた」
「そうですか。やはり貴重な物ですから進捗が気になるのでしょうね」
「まぁな」
 しばらく歩くと抜け穴を抜けて街外れに出る。
 プストの時と同じ場所だ。
 幾つか抜ける場所があるらしいけど、私はここしか知らない。
 この路はもう少しで覚えられそうだ。

「アナバス様? 先に工房に行きますか?」
「いや、後回しでいい」
「そうですか。でも私も物見遊山が目的なので後でも構いませんよ?」
「どうでもよい事は後回しだ」
 陛下は私を宥める様に私の頭を撫ぜる。
 どう考えても私の物見遊山の方がどうでもいい気がするけど、ここは陛下に甘えよう。

 私達は『真ち屋』に向かって歩き出す。
 陛下はこんな時も手を繋いで歩いてくれる。
『真ち屋』は『睦屋』と同じく六番街のヤード通りより大きなレヤード通りにある。
 海に面したレヤード通りには防風林のフクギが立ち並んでいる。
 この辺りは特に区画整理されてるエリアなのでとても綺麗な街並みだ。

「あそこの様だな」
 陛下が一軒の建物を指差す。
 その建物は新築らしくとても綺麗な二階建てだった。
「一階はカフェになっているんですね!」

 先ずは2階の雑貨を見る。
 品揃えは基本的に女性の装飾品だ。
 髪留めやブローチ、ピアスやイヤリング、ネックレスやブレスレッド。
 男性物も一部、時計のチェーンやカフスだったりがあるけど、やっぱり品揃えは専門店に劣るかな?という感じだった。
 でも、少しお値段の張るものから、お手頃な価格のものまで色々揃えている。
 凄くセンスのいいお店だ。多分このお店は長く続くお店になるだろう。
「欲しいものはあるか?」
「いえ、物見遊山のつもりでしたから、欲しいものは……」
「俺はお前の誕生日に何も用意していないのだ。故に好きなものを選べ」
「……では……アナバス様? こうしてお出かけする時につけられるネックレスを一つ、選んで頂けませんか?」
「俺が選ぶのか……どんな物になっても知らんぞ?」
「アナバス様に選んで頂きたいんです」
 私は陛下に笑いかけた。

 二人でネックレスの並ぶ一画に行く。
 真剣なお顔でネックレスを選んでくれている陛下がなんとなく可愛らしくて、微笑ましい。
 実はこうして平民の格好をする時、首元が寂しいと侍女達に言われていたのでちょうどよかった。
 陛下に頂いた物なら私も嬉しくつけられる。
 いい事づくめだ。

「……二つほど良いと思うものがある」
「どれとどれですか?」
 陛下の手に取っているのは、
 一つはチェーンで出来た小さな紫水晶アメジストのついたネックレス。
 もう一つは革紐で出来た、少し大きめの瑠璃ラピスラズリのネックレス。
「俺は石の意味などわからんからお前に似合いそうな物を選んだ」
「どちらもとっても素敵ですね。……私はこちらがいいです」

 私が選んだのは紫水晶アメジストのついたネックレス。
 小ぶりであまり自己主張がないのがいいなと思ったのと、
 ……陛下は知らないけれど、石の意味も密かに嬉しい。
「ならば、ティアにこれを贈ろう」
「……とても嬉しいです、アナバス様」
 陛下が真剣に選んでくれた事が本当に嬉しい。

 お店の人を呼んで、陛下が買ってくれる。
 陛下は外箱に中身は入れずに直接受け取った。
「つけてやろう」
「……はい」
 陛下は私の前に立って両腕を私の首に回す。耳元に陛下の顔があって、抱かれてる様な感じがしてしまって、私はドキドキが止まらない。
「じっとしていろ」
 陛下は耳元で囁く。私はやっぱり赤くなってしまった。
 留め具がかけられて陛下のお顔がやっと離れる。

 陛下は私が真っ赤になっているのに気がついて、指先で頬に触れる。
「毎夜抱いてもまだ俺に慣れないか?」
「……慣れないと言うのでは、ないのです……」
「では、なんだ?」
「……毎回、好きだと、実感してしまうんです……」
 陛下はじっと私を見つめる。
「その様に可愛い事を言うな。今すぐ抱きたくなる」
 私はその言葉に堪らず、俯いてしまう。

 陛下は指先で私の胸元の紫水晶アメジストにそっと触れる。そして囁いた。
「よく似合っている」
「……ありがとうございます……。本当に嬉しいです、アナバス様」
 私は陛下を上目遣いに見て、微笑んだ。
 陛下は私の頭を撫でて、微笑む。
「遅くなって済まなかったな」
 私はフルフルと首を横に振る。
 贈りたいと思って下さっていただけで、こんなにも幸せだ。

 陛下はすっと私の手を握る。
「さて、下のカフェでお茶でもするか」
 まだ、朝に近い時間だったので、今回は本当にお茶だけにした。
 そうして二人で周辺のお店を色々と散策した。

 お昼過ぎになって街の散策中、少し大きな通りから外れた路地に女の子が入っていき、それを帯刀した男三人が追いかけていくのを見た。
「……アナバス様? ちょっといいですか?」
「なんだ?」
「……もしかしたら女の子が追われているかも」
 私は女の子の入った路地に向かう。

 案の定、人気のない路地裏で女の子が抜刀した男達に襲われてる。
 女の子が叫ぶ。
「助けてっ!」
 陛下はスッと抜刀し、男達に刃を向けた。
「女一人に男三人がよってたかって、とはなかなか物騒だな」
 男達は陛下に斬りかかる。
「邪魔するな!」
「俺はどうでも良いが、妻がどうでもよくないらしいのでな、そういうわけにもいかん」
 私は女の子を背に庇って、いつでも魔法を使える様に身構える。

 陛下は男達の斬り込みを難なく躱す。
 一人の男の縦の斬り込みを剣でサラリと受け流す。
 男達は陛下に同時に斬りかかるけれど、一方を躱し、二方を剣で弾く。

 男達は陛下の強さがわかったのか、引いて去っていってしまった。

 陛下はそれを見送りながら納刀する。

 私は女の子を見て声をかける。
「大丈夫?」
「はっ……はいっ! ありがとうございます……」
「あの男達明らかにあなたを狙ってたけど、心当たりはあるの?」
「…………いえ」
「……そう。物騒だから送っていきましょうか?」
「いえ、そこまでは。申し訳ないです。それにウチも近いですし」
「そう? 本当に大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。剣士の方も。ありがとうございました」
 女の子は礼を言うと去っていった。
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