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96、閑話 -序章3-
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王城へ向かう道すがら、レイティア姫はロジェという茶色い髪色の柔和な雰囲気の従騎士の青年と話をする。
「レイティア姫様。さっきの方はグリムヒルトの軍人なのではないのですか?」
彼、ロジェ・クレール・ケーリオはマグダラス王家の元である巫女に従う騎士の家系で、今現在でも彼の父は王家の騎士を務める。
彼自身も6歳から王家の小姓となり、主に王子と王女の傍に控え、雑用をこなしながら騎士としての訓練を受け、今は従騎士として仕え、それも充分に務められていると判断され、数ヶ月後には正式な騎士としての儀式が待っている。
6歳の頃から歳の近い事もあり、彼は2つ歳下のレイティア姫の傍付きの様に付き従い、4つ歳下のレイティア姫の弟、テオフィル・アリスティド・アールテンと共に3人、兄弟の様に育った
「本人は軍人ではないと仰っていたわよ。帯同者だって。軍服を着てないからお声をかけて街を案内したの」
「陛下に関わっては駄目だと念を押されたのでしょう?」
「軍人さんではない、一般の方なんだからいいじゃない」
ロジェは苦笑いをしてレイティア姫を見た。
「姫様……あの方は多分熟練の剣士ですよ? ただの帯同者という訳ではないと思います」
「そうなの?」
「立ち居振る舞いや、帯刀した剣の扱いの慣れ方なんかを見ればわかります。相当な修練を積んでおられる方だと思いますよ?」
「……そうなの。あの方がね、剣を持つなら短剣がいいって教えてくれたの。
騎士なら護身用に短剣術を身につけてるって聞いたわ。ロジェ、教えてくれる?」
「姫様? 何の為に俺達騎士がいると思ってるんですか。剣など持たなくても俺がちゃんと姫様を守りますから」
「もうっ! いつもそんな事言って教えてくれないんだから! 私は平民になるんだから、ずっと騎士の皆んなに守ってもらえる訳じゃないのにっ」
「陛下がお許しになる筈ないですよ」
「私が継承権を持ったまま誰かと結婚すれば、その家に代々継承権が残ってしまうじゃない。そしたら継承者には報奨金が毎年支払われる事になるでしょ? そんなの勿体無いわ。継承者はテオフィルと叔父様もいるし問題ないもの。……せめて女子が婚姻すれば継承権を失う様に法で決めてしまえばいいのにね」
「姫様はそんなに王族であるのがお嫌なのですか?」
「王族なのが嫌なんて思った事ないわよ。…皆んなが姫様姫様って呼んでくれて、優しくしてくれるのは、国を託されてるからなのよね。
でもね、私は王族としてあまり役に立てないのよ。他国の支援を求めて嫁いだって物理的に無理なんだもの、意味がないわ。
仮に検討したとしてもシビディアには同じ歳の王子がいるけど、もう婚約者がいるし、オルシロンは建前上は世襲じゃないし。
諸侯に嫁ぐにしたって、たった三つしか領もないし、釣り合う年頃の男子もいないし、国の為に優良な嫁ぎ先がないのよ。
官吏の誰かと一緒になったって私自身が国の為に働ける訳じゃない。
……出来る事が平民になる事位なのよ。継承権を放棄して報奨金辞退して平民になって納税した方がまだマシなのよね」
レイティア姫はロジェに笑いかける。
「平民になって一応皆んなの代表として王族に声を届ける役割位は果たせると思うの」
ロジェの碧い瞳がジッとレイティア姫を捉える。
「……騎士の妻になるのはどうですか?」
「騎士の? 考えた事もないけど、どうして?」
レイティア姫は騎士の妻になるメリットについて頭を巡らせる。
国益になる様なメリットがあるのだろうか?
長く唸って考えてみるがレイティア姫には見つけられなかった。
「……言ってみただけですよ」
ロジェは複雑な笑みを浮かべてそう言った。
「なんだ。真剣に考えちゃったじゃない」
レイティア姫はロジェに屈託なく笑う。
「ねえ? お父様は何の用なの?」
「軍船の近くにいるだろうから呼び戻して来いと。それとグリムヒルトの軍師と今宵お会いするらしいですよ」
「それに同席していいのかしら?」
「どうなのでしょう? お呼びしたという事は同席せよという事なのかもしれませんね」
「他国の軍師に会えるなんて楽しみだわ! でも私、ギーおじさんのお店のお手伝いに行きたいんだけどなぁ……。夕方には帰るって伝えておいて!」
レイティア姫は向かう方角を街の方に切り替える。
「姫様⁈」
「行ってくるわ!」
レイティア姫は振り返りながら手を振り、颯爽と駆けて行く。
それをロジェは呆れつつ、しかしいつもの様に優しく見つめて微笑んだ。
「レイティア姫様。さっきの方はグリムヒルトの軍人なのではないのですか?」
彼、ロジェ・クレール・ケーリオはマグダラス王家の元である巫女に従う騎士の家系で、今現在でも彼の父は王家の騎士を務める。
彼自身も6歳から王家の小姓となり、主に王子と王女の傍に控え、雑用をこなしながら騎士としての訓練を受け、今は従騎士として仕え、それも充分に務められていると判断され、数ヶ月後には正式な騎士としての儀式が待っている。
6歳の頃から歳の近い事もあり、彼は2つ歳下のレイティア姫の傍付きの様に付き従い、4つ歳下のレイティア姫の弟、テオフィル・アリスティド・アールテンと共に3人、兄弟の様に育った
「本人は軍人ではないと仰っていたわよ。帯同者だって。軍服を着てないからお声をかけて街を案内したの」
「陛下に関わっては駄目だと念を押されたのでしょう?」
「軍人さんではない、一般の方なんだからいいじゃない」
ロジェは苦笑いをしてレイティア姫を見た。
「姫様……あの方は多分熟練の剣士ですよ? ただの帯同者という訳ではないと思います」
「そうなの?」
「立ち居振る舞いや、帯刀した剣の扱いの慣れ方なんかを見ればわかります。相当な修練を積んでおられる方だと思いますよ?」
「……そうなの。あの方がね、剣を持つなら短剣がいいって教えてくれたの。
騎士なら護身用に短剣術を身につけてるって聞いたわ。ロジェ、教えてくれる?」
「姫様? 何の為に俺達騎士がいると思ってるんですか。剣など持たなくても俺がちゃんと姫様を守りますから」
「もうっ! いつもそんな事言って教えてくれないんだから! 私は平民になるんだから、ずっと騎士の皆んなに守ってもらえる訳じゃないのにっ」
「陛下がお許しになる筈ないですよ」
「私が継承権を持ったまま誰かと結婚すれば、その家に代々継承権が残ってしまうじゃない。そしたら継承者には報奨金が毎年支払われる事になるでしょ? そんなの勿体無いわ。継承者はテオフィルと叔父様もいるし問題ないもの。……せめて女子が婚姻すれば継承権を失う様に法で決めてしまえばいいのにね」
「姫様はそんなに王族であるのがお嫌なのですか?」
「王族なのが嫌なんて思った事ないわよ。…皆んなが姫様姫様って呼んでくれて、優しくしてくれるのは、国を託されてるからなのよね。
でもね、私は王族としてあまり役に立てないのよ。他国の支援を求めて嫁いだって物理的に無理なんだもの、意味がないわ。
仮に検討したとしてもシビディアには同じ歳の王子がいるけど、もう婚約者がいるし、オルシロンは建前上は世襲じゃないし。
諸侯に嫁ぐにしたって、たった三つしか領もないし、釣り合う年頃の男子もいないし、国の為に優良な嫁ぎ先がないのよ。
官吏の誰かと一緒になったって私自身が国の為に働ける訳じゃない。
……出来る事が平民になる事位なのよ。継承権を放棄して報奨金辞退して平民になって納税した方がまだマシなのよね」
レイティア姫はロジェに笑いかける。
「平民になって一応皆んなの代表として王族に声を届ける役割位は果たせると思うの」
ロジェの碧い瞳がジッとレイティア姫を捉える。
「……騎士の妻になるのはどうですか?」
「騎士の? 考えた事もないけど、どうして?」
レイティア姫は騎士の妻になるメリットについて頭を巡らせる。
国益になる様なメリットがあるのだろうか?
長く唸って考えてみるがレイティア姫には見つけられなかった。
「……言ってみただけですよ」
ロジェは複雑な笑みを浮かべてそう言った。
「なんだ。真剣に考えちゃったじゃない」
レイティア姫はロジェに屈託なく笑う。
「ねえ? お父様は何の用なの?」
「軍船の近くにいるだろうから呼び戻して来いと。それとグリムヒルトの軍師と今宵お会いするらしいですよ」
「それに同席していいのかしら?」
「どうなのでしょう? お呼びしたという事は同席せよという事なのかもしれませんね」
「他国の軍師に会えるなんて楽しみだわ! でも私、ギーおじさんのお店のお手伝いに行きたいんだけどなぁ……。夕方には帰るって伝えておいて!」
レイティア姫は向かう方角を街の方に切り替える。
「姫様⁈」
「行ってくるわ!」
レイティア姫は振り返りながら手を振り、颯爽と駆けて行く。
それをロジェは呆れつつ、しかしいつもの様に優しく見つめて微笑んだ。
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