人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

文字の大きさ
上 下
75 / 200

75、5年前

しおりを挟む
 爽快に晴れた日の午前中に国内の見聞をして回ると行って出た軍師が帰った。

 女を伴って帰ったと報告を受けた。

 軍部が整ったと思ったら、
 宰相、法相、外相を軍部から抜擢して1ヶ月で急に思い立った様に旅立った。
 半年ぶりに帰ってきたと思ったら女連れとは笑わせてくれる。

「陛下、ただいま戻りました」
「で? 見聞の結果得たモノが女か。お前なかなか面白い男ではないか」
「[セイレーン]を見つけました。今は五代目だそうです」

「ほう。それで?」
「お引き合わせ致したく」
「ふむ……。許す。連れてこい」
「御意」
 軍師は一旦出て行く。
 次に長身の女を連れて部屋に入る。

 女はその目立つ上背はもちろん、目の冴えるワインレッドの髪色から覗かせた黄色い獣の様な眼の色が印象的だった。
 静かに佇んでいても、その姿勢や歩き方、雰囲気が連戦の剣士であることを物語っている。

「ふむ。うぬが今代の[炎のセイレーン]か。名は?」
「へリュ」
「歳は幾つだ?」
「21」
「剣技はエサイアスから習ったか?」
「師匠を知っているのか?」
「王太子であった時に少しな。さて、うぬは儂に仕える気があるか?」
 この獣の様な眼が儂に媚び諂う事などないだろう。
 さて、どうしてやろうか。
「私はお前には仕えない。宮仕えをする気は一切無い」
「ほう。ただ[炎のセイレーン]の二つ名を諸外国に盗られる訳にはいかんのでな。うぬはこの国から出る事は罷りならん」
「お前達国の都合に振り回される謂れはない」
「ならばセイレーン殿。儂と勝負をせんか?」
「勝負だと?」
「うぬが勝ったら自由だ。何処へなりとも行くが良い。儂が勝ったらその身を生涯使わせて貰うぞ。これは王命だ」
「……ふざけた男だ……」
 獣の黄色い瞳が剣呑に揺れる。
「細工はせぬ。今すぐ打ち合おう」

 久しぶりに血湧き肉躍る。
 退屈な玉座もたまにはこういう事がある。

 騎士団の演習場に行く。
 騎士団の演習を止め、儂とセイレーン殿は向き合う。
「三本勝負といくか?」
 儂はセイレーン殿に問う。
「……いいだろう」

 カトラスを二本、鞘から引き抜き、こちらを睨み付けるセイレーン殿の覇気と言ったらどうだ。まるで闘気が見える様だ。

 儂も愛刀を抜刀する。
「軍師、合図を」

 騎士達が固唾を飲んで見守る。

「はじめ」

 軍師が高らかに試合始めを宣じる。
 尋常でない脚力でセイレーン殿が儂に向かってくる。
 右手から高らかに振り上げられたカトラスを躱すと左手のカトラスから突きが繰り出される。
 それを剣でいなす。
 女とは思えぬ力強い太刀筋。三刀目の横に払われる筋に儂は間合いを取るため後ろに下がる。
 遠慮する事なくセイレーン殿は間合いを詰め、縦一線に一挙に右、左と振りかぶる。
 儂は横に避け、その左右のニ刀を躱した…つもりだったが、素早く背面を取られた。
 背面から首筋にカトラスの切っ先が突きつけられる。
「……面白い。さすがはセイレーン。強いな」
 儂はその強さを惜しみなく讃える。
「…………」
 セイレーン殿は黙ったまま儂を睨みつけた。

 また互いに間合いを取る。
「二本目、はじめ」

 次は儂が先手をとった。
 二本のカトラスからの斬撃に対抗するには手数しかないだろう。
 まずは一刀目、セイレーン殿に向かい横一線に入れる。
 それは難なく躱される。袈裟懸けに二刀目を打ち込み、返す刀で下段から上段に切り込む。
 セイレーン殿は柔軟に上半身だけが後ろに仰反る。相当腹筋を鍛え上げているのだろう。
 すんなりと元の体勢に戻る。
 儂は次に縦一線に切り込む。
 セイレーン殿は器用に後ろに飛ぶ。
 流石は足場の悪い船での戦闘を想定した剣技だ。
 なんとも柔軟に器用に一刀一刀を躱す。
 面白くなって次々に斬撃を打ち込んでいく。
 速さで翻弄し、セイレーン殿は防戦一方になる。
 次々に打ち込み、刹那。
 打ち込みを止める。

 こうして期をずらすと人は一瞬迷いを持つものだ。
 それはどれだけ熟練した剣士でも判断材料を得るのにほんの瞬きすら終わらぬ刻、隙が生まれる。

 セイレーン殿とて、例外ではなかった。
 その『刻』の隙に喉元に剣を突きつける。

「二本目は儂だな」
「…………」
 セイレーン殿はやはり獣の様な瞳を光らせて儂を睨む。
 周囲から歓声が上がる。
「炎のセイレーンから一本取ってしまわれたぞ」
「流石は陛下」

「三本目、はじめ」

 セイレーン殿も儂も一歩踏み出す。
 先程の手は二度と使えないだろう。
 とにかく打ち合う、縦一線、横一線、突きを打ち込み、鍔迫り合いに突入する。
 気を散じた方が負ける。

 睨み合い、気合がぶつかり合う。
 不意にセイレーン殿は後ろに下がり鍔迫り合いが終わりを告げる。

 再び打ち合いが始まる。
 右、左、下段、上段、中段、打ち合っていて、


 不意に飽いた。


 セイレーン殿の左の一刀をいなして、
 ぽろりと剣を手から離した。

 セイレーン殿の右の突きの一刀が儂を貫けば…

 と思ったが、鼻先で止まる。
 儂の殺気が消えたのがわかったか、瞬時に反応した様だ。
 カシャンと儂の剣が落ちた音がした。
「儂の負けだ。うぬの好きにせよ。何処へなりと行け」
「……貴様……」
 やはりセイレーン殿は儂を睨みつける事をやめない。

 騎士達から大きな歓声が上がった。
「凄い試合だった!」
「陛下もセイレーンもとてつもない強さだ!」

 賛辞の言葉で演習場は溢れている。
 儂はそれにげんなりしてさっさとその場から立ち去る。
 控えていた騎士団長に去り際に一声かけた。

「騎士団長、演習の邪魔をしたな。続きを」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

処理中です...