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 その夜、陛下はいつもよりもより一層、ギュッと私を抱いて眠った。
 いつもよりずっと口数少なかったけれど、何故かいつもよりもずっと近しく感じる。
 私も同じ痛みを背負う覚悟をした事が、陛下にとって少しでも救いになるなら、私も玉座の血に加担したって怖くない。
 自らの手で人を死の淵に追いやるこの気持ちはどう表現すればいいだろう……。
 恐怖にも似た、この気持ち。まとわりつく不吉に自分が絡め取られそうになる。忌み事全部が自分の身に纏う感じ。
 もし、陛下がこういうものを一人背負っているのなら、それはどれだけ苦しいだろう……。
 私は陛下の背中をそっと撫ぜる。
 それに反応して更に陛下が私をギュッと抱きしめる。
「……アナバス様」
「……なんだ」
「……名を呼んでみたくなっただけです……」
「……そうか」

 そうやって、私達はその夜、狭いベッドで二人眠った。

 次の日の朝、目が覚めると陛下はまだ眠っていて、起こさない様にそっと髪を撫ぜた。
 微睡んでいるこの時陛下を見つめるのはとても幸福な時間だ。
 でもそろそろ起きなきゃ。
 多分陛下の仕事は朝早いものじゃないから、私だけ起きればいい。
 そっとベッドを抜け出す。
 陛下に背を向けて、お仕着せに着替える。
 髪を整えて、後ろの高い位置で縛る。
 後は井戸で顔を洗って、お仕事開始だ。
 陛下の耳元のそっと囁く。
「行ってきます」
 そうするとグッと抱き寄せられた。
「アナバス様……起きてらしたのですか⁉︎」
「今目が覚めた。行くのか?」
 ベッドに突っ伏す様な形で抱かれてる私はオタオタしてしまう。
「は、はい。もうすぐ始業ですから」
「そうか」
 と言って、私の頬にキスをした。
「あ、あ、あの、アナバス様⁉︎ 今の……」
「もうじき夫婦になるのだ。これぐらいは慣れてもらわんとな。さぁ、遅れるぞ。行ってこい」
「は、はい! 行ってきます!」

 無駄に元気に返事して、私は部屋を出て、井戸に向かう。しっかり顔を洗って紅潮した頬を冷やす。
 そして多分まだ紅潮してる頬を叩いて顔の緩みに喝を入れる。
 一番乗りで侍女の控室に着いて、先輩方が来るのを待つ。
 先輩達の名はアンナさん、イエンニさん、ラウラさん。
 アンナさんは仕事を指示してくれた、昨日の女性。この人が侍女長みたいなものだ。
 イエンニさんは痩せ型で二藍の髪色が印象的な30過ぎの女性で、テキパキとしたしっかり者。
 ラウラは普通体型だけど少し背の低い、木蘭色の髪色のおっとりした性格の25位の女性だった。
 ラウラが扉を開けて入ってくる。
「あらおはよう。早いのね!」
「おはようございます、ラウラさん」
「ねぇ、聞きたい事があるんだけど…」
「なんですか?」
「あんないい男どうやって捕まえたのよ~!」
「え⁇」
「いいわよね~! 凄く男前で、しかも用心棒が出来るくらい腕も立つんでしょ? ちょっととっつきにくそうだけど、申し分ないじゃない!」
「え~っと……それは……」
 扉がまた開いた。イエンニさんだ。
「イエンニさん。おはようございます」
「おはよう! 何⁇    楽しそうな話してるわね! 私も混ぜて!」
「いや、ティアの旦那さんの事話してたのよ」
「本当いい男よね~! ね、どうやって知り合ったのよ⁉︎」
「えっと……」
「ほらほら!お喋りしてないで早速仕事だよ!」
 アンナさんが入って来て、手を叩いて退散させる。内心助かったと思って、アンナさんの指示に従って、洗濯を始める。イエンニさんは買い出し、ラウラさんは掃除を指示された。
 今日もこうして一日中働いて、クタクタになった。
 そして終業の時、明日の予定を聞く。
 アンナさんから指示が飛ぶ。
「明日は夜に晩餐をなさる様だから、忙しくなるよ? 夜遅くになるからそのつもりでいなさいね」
「「「はい」」」
 皆で返事する。
 そして私は陛下の待つ、自室に向かった。
 自室に入ると陛下は剣の手入れをしていた。
「戻ったか」
「ただいま帰りました。お待たせしてすみません」
「働いていたのだから仕方ないだろう」
 私はその言葉に微笑む。
 ふと、明日に思い巡らせた。
「……いよいよ、明日ですね」
「そう気負う事はない」
「はい。今日は疲れてしまいましたので、早々に寝ようと思います」

 そして、夜は更けて次の日を告げる朝日が登った。
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