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 陛下と別れて、西側の勝手口から洗濯場に連れて行かれた。
「おい、新しい侍女だ。色々教えてやってくれ」
「ティアと言います。よろしくお願いします」
 すると洗濯物を干していたお仕着せを着たふくよかな侍女が振り返る。
「そう。じゃあ先ずはお仕着せに着替えてもらわなきゃね」
 歳の頃は45ほどだろうか?ふくよかな身体を揺らして、私の方に近づいて来た。
「何が出来る?」
「手際は今ひとつだけど、一通り何でも」
「はははっ! 正直な子だね! わかったよ、こっちおいで」
 勝手口から館に入って奥に進むと侍女達の控室があった。
「ここが控室。あたしとあんたの他にあと二人侍女がいるよ」
「今はいないんですか?」
「今は買い出しと掃除してもらってる。しかしなんだっていきなり侍女なんか追加したのかね。今まで何度言っても入れてくれなかったんだけどね」
「私、その……、えっと、用心棒の……夫……のついでに一緒に雇って頂いただけなの」
 夫という言葉に照れてしまう。
「なんだい、照れちゃって。あんた新婚さんかい?」
「その……実はまだなんですけど、もうすぐ……」
 私は多分今凄く顔が赤いだろう。
 頬に熱を感じる。
「へえ。そりゃめでたいね。じゃあここでしっかり稼いで旦那と祝いでもしなきゃね。ほら。これなら着れるだろ?」
「はい」
 私はお仕着せに着替える。
 肌の露出が無くなって、むわりと暑くなる。
「さて、じゃあ洗濯でもやってもらおうかね」
「はい」
 勝手口から洗濯場に戻る。
 腕捲りをして、洗いかけの洗濯物を手に取って洗濯板でゴシゴシ洗い始める。
 ここの洗濯は衣服が少ないので楽だ。
 主には館長の食事のナフキンやテーブルクロス、使用人のシーツが主で、衣服は個人で洗うのでたまにしか出ないらしい。
 主だった役職の人達は街に家がありそこに帰ってるそうだ。
 私、洗濯って好きなのよね、ゴシゴシ洗ってると無心になれる。
 そう思ってご機嫌で洗濯を進める。
 大物が多かったから絞りが大変だったけど、絞った後は軽く風魔法をかけておいた。スッキリ爽やかな気分になれた。
 洗濯の済んだ物を干していると、いつの間にか昼の準備をしなくてはいけない時間になっていた。
 料理人が一人いるので、指示に従って手伝う。
 私は火おこしを任されたけど、コッソリ火の魔法を使って火をつけた。
 館長の配膳は先輩方がするとの事で、私はお先にお昼に賄いを頂いた。料理長のご飯はとても美味しくて、陛下にも食べさせてあげたいなぁ思っていたら、丁度陛下がやって来た。
 一緒に賄いを食べさせてもらう。
「俺は退屈でかなわん。そっちはどうだ?」
 陛下は心底ウンザリという顔で言う。
 私はそれに可笑しくなって笑ってしまう。
「私は忙しいです。下働きなんでやる事がたくさんあります」
 陛下が声を静めて言う。
「二日後に宝石商がくる。もし例の件を表に出すならその時だな」
「はい」
「物は確認済みだ。後は押さえるだけだ」
「……やはり証拠が出たんですね……」
 王家の、しかも個人の持ち物を横領した場合、極刑は免れないだろう。
 その証拠が出てしまった以上、関係した人達はその憂き目に遭ってしまう。
 私の期間の事件であれば、私は今現在、正妃ではないから、この場所は一時的に王家のものじゃない。その期間だけの話なら、ただの横領で流刑位でなんとか済むだろう。
 でも、5年前からなら、どうしてもお目こぼしを……という訳にはいかない。
 これを見逃す事は王家の威信を揺るがすのと同義だから。
 そう思うと溜息しか出ない。
「……お前は、何にでも慈悲をかけるな」
「そうでしょうか?もし本当に慈悲深いなら、これを見逃して、こっそり処断するのだと思います。でも私はこれを公にして正そうとしています。慈悲深い行いではないと思うのです」
「それも爺を想っての事だろう?」
「……御料地をお任せになるという事はお義父様とうさまはよほど、彼の方々を信頼されていたのでしょう?その信頼を裏切って私服を肥やしたのであれば、それはどうしても許せないんです。……どちらかと言うと私怨かもしれません……。」
 私はにこりと笑った。
「アナバス様が、粛清に対して今も悩んでらっしゃる気持ちが一片ではありますがわかった気がします」

 陛下はポツリと
「そうか……」とだけ言って、後は静かに食事をされた。
 だから私も黙って食事をした。
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