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いつもの様に重臣を執務室に集め、
儂は長椅子に腰を下ろす。
「で?ホンカサロ家からはモノは出たのか?」
法相は書類を手に儂に報告する。
「はい。以前からの取引記録を全て洗いましたら、他にも密貿易でご禁制の品を捌いていた様です。アガターシェはワインの積み荷が上げ底になっておりました」
「そうか。で、処分はどうする?」
儂は頬杖をつく。
宰相が答える。
「お家取り潰しとホンカサロ当主の斬首しかないでしょうね」
「そうであろうな。第三妾妃はどうなる?」
法相は軽く息を吐く。
「どうやっても極刑しかありません。他の妾妃様方にアガターシェを盛られた事実はあまりに重い」
「……そうか」
宰相が続く。
「此度の件でホンカサロ家の支配領マイヤール領が空きます。これをどうするかも頭が痛い」
マイヤールは海の無い領だ。
そして方々の領に睨みを効かせねばならず、更に流通の要所となる土地だ。
こういう時、海軍中心の軍備配置をしてるグリムヒルトの弱さを痛感する。
陸戦に強い軍人がなかなか育たないのだ。
「これは軍師、お前の怠慢でもあるぞ」
軍師は頭を下げる。
「申し訳ございません。耳の痛い事です。
恐れながら、推挙して宜しいでしょうか?」
「誰かいるか」
「マルック・ヨルマ・イロラという、現在小隊を任せている少尉です。この者が陸戦に強く内政にも明るい。正直に申しましたら、まだ育てている最中でして、しかもこの者を推せば、反発は大きいでしょう。庶民の出の上、母親は地の民の者だとか」
宰相が口を挟む。
「せめて実績が有れば推せますけどね。その条件だと厳しいでしょう」
儂は頬杖を更に深くつく。
「儂の勅命でよかろう。許す。しかしそれだけでは辛かろう。法相、お前が後ろ盾になってやれ。ヴィルッキラは姫の後ろ盾についている故これ以上前に出るのは不味い。カーサライネンならば今抱え込んでるものもない上、地の利の利害が一致する」
「じゃあ後ろ盾には俺が着きますんで助力はウルリッカに任せていいですか?俺はそういう便宜は苦手なんですよね」
「そうか。そろそろアレが戻るな。良き様にすれば良い」
宰相が深く溜息をつく。
「そうか……あいつ戻って来るのか……」
「お前は俺のハニー、苦手だよね」
法相が朗らかに言う。
「お前はよくあいつと良い仲になれるな、心底尊敬するわ」
「似たもの同士なんだよね。一緒にいて気が楽なんだ」
「惚気なんざ聞く気はないよ。
それではこの件はその様に。本人には閣下から?」
軍師が目を伏せ腕を組み首肯する。
「ああ、私が請け負おう」
宰相がいつもの軽い口調に戻る。
「しかし姫様、よくアガターシェに気づかれましたよね。これはほんとお手柄でしたよ」
法相がそれを受ける。
「確かに。ちょっと念頭に入ってなかったですね」
「恐らく姫にとっては記憶に新しかったのだろう。
太公はどうやら無意味に昔話を聞かせていた訳ではなさそうだ。」
儂は足を組み直す。
「と仰いますと?」
軍師が訊ねる。
「国の要所で起きた事件や変革の際に起きた大きな乱の顛末を事細かに話しておる様だな。
当事者にしか知り得ない事も含めて全て喋っておる。あの爺は自分の知り得る全てを姫に授けた」
「凄いですよね、太公様の姫へのご執心」
法相が感心した様に言う。
「確かに可愛がりようは尋常ではないな」
儂はこれに答える。
「しかしこれで妾妃様は4人廃妃となりますね」
思いもよらず、皆が中毒症状を起こし、妃の体を成せぬ者からただ不調であるだけの者まであるが、正直な所それを理由に廃妃する事が出来た。
上手い理由が降って沸いてきた、と言うのが儂の本音だ。
「……妾妃達には出来るだけの事はしてやれ」
宰相に向き、命じる。
「御意」
儂はため息をつき、皆に仕事に戻るよう命じた。
儂は長椅子に腰を下ろす。
「で?ホンカサロ家からはモノは出たのか?」
法相は書類を手に儂に報告する。
「はい。以前からの取引記録を全て洗いましたら、他にも密貿易でご禁制の品を捌いていた様です。アガターシェはワインの積み荷が上げ底になっておりました」
「そうか。で、処分はどうする?」
儂は頬杖をつく。
宰相が答える。
「お家取り潰しとホンカサロ当主の斬首しかないでしょうね」
「そうであろうな。第三妾妃はどうなる?」
法相は軽く息を吐く。
「どうやっても極刑しかありません。他の妾妃様方にアガターシェを盛られた事実はあまりに重い」
「……そうか」
宰相が続く。
「此度の件でホンカサロ家の支配領マイヤール領が空きます。これをどうするかも頭が痛い」
マイヤールは海の無い領だ。
そして方々の領に睨みを効かせねばならず、更に流通の要所となる土地だ。
こういう時、海軍中心の軍備配置をしてるグリムヒルトの弱さを痛感する。
陸戦に強い軍人がなかなか育たないのだ。
「これは軍師、お前の怠慢でもあるぞ」
軍師は頭を下げる。
「申し訳ございません。耳の痛い事です。
恐れながら、推挙して宜しいでしょうか?」
「誰かいるか」
「マルック・ヨルマ・イロラという、現在小隊を任せている少尉です。この者が陸戦に強く内政にも明るい。正直に申しましたら、まだ育てている最中でして、しかもこの者を推せば、反発は大きいでしょう。庶民の出の上、母親は地の民の者だとか」
宰相が口を挟む。
「せめて実績が有れば推せますけどね。その条件だと厳しいでしょう」
儂は頬杖を更に深くつく。
「儂の勅命でよかろう。許す。しかしそれだけでは辛かろう。法相、お前が後ろ盾になってやれ。ヴィルッキラは姫の後ろ盾についている故これ以上前に出るのは不味い。カーサライネンならば今抱え込んでるものもない上、地の利の利害が一致する」
「じゃあ後ろ盾には俺が着きますんで助力はウルリッカに任せていいですか?俺はそういう便宜は苦手なんですよね」
「そうか。そろそろアレが戻るな。良き様にすれば良い」
宰相が深く溜息をつく。
「そうか……あいつ戻って来るのか……」
「お前は俺のハニー、苦手だよね」
法相が朗らかに言う。
「お前はよくあいつと良い仲になれるな、心底尊敬するわ」
「似たもの同士なんだよね。一緒にいて気が楽なんだ」
「惚気なんざ聞く気はないよ。
それではこの件はその様に。本人には閣下から?」
軍師が目を伏せ腕を組み首肯する。
「ああ、私が請け負おう」
宰相がいつもの軽い口調に戻る。
「しかし姫様、よくアガターシェに気づかれましたよね。これはほんとお手柄でしたよ」
法相がそれを受ける。
「確かに。ちょっと念頭に入ってなかったですね」
「恐らく姫にとっては記憶に新しかったのだろう。
太公はどうやら無意味に昔話を聞かせていた訳ではなさそうだ。」
儂は足を組み直す。
「と仰いますと?」
軍師が訊ねる。
「国の要所で起きた事件や変革の際に起きた大きな乱の顛末を事細かに話しておる様だな。
当事者にしか知り得ない事も含めて全て喋っておる。あの爺は自分の知り得る全てを姫に授けた」
「凄いですよね、太公様の姫へのご執心」
法相が感心した様に言う。
「確かに可愛がりようは尋常ではないな」
儂はこれに答える。
「しかしこれで妾妃様は4人廃妃となりますね」
思いもよらず、皆が中毒症状を起こし、妃の体を成せぬ者からただ不調であるだけの者まであるが、正直な所それを理由に廃妃する事が出来た。
上手い理由が降って沸いてきた、と言うのが儂の本音だ。
「……妾妃達には出来るだけの事はしてやれ」
宰相に向き、命じる。
「御意」
儂はため息をつき、皆に仕事に戻るよう命じた。
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