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 夜になり、燎火りょうかが焚かれる。
 輿が飾られて、その周りで仮面を付けた者達が踊る。
 賑やかに笑い合う声と流れるマンドリンの音色を聞きながら、
 その光景を姫と2人眺めていた。

「こんなに賑やかなお祭りを見たのは初めてです!」
 ずっと興奮しっぱなしの姫は疲れた様子も見せず、愉しげに笑う。

「マグダラスにも祭りはあったのだろう?」

「はい! ありましたけど、収穫祭が一番大きなお祭りでした。後は祭典に近いので、厳かでしたね」

「では年に一度か?」

「そうです。収穫祭の時くらいしか贅沢出来ないから楽しみだったんですよ。私がお祭り好きなのはそのせいもあるのかもしれませんね」
 灯に赤く照らされた顔が更に笑う。

「あ! あまり国の内情を言ってはいけないのでした。……でも、アナバス様にならいいですよね」

「ああ。マグダラスの収穫祭はどんなものなんだ?」

 姫は懐かしむ色を滲ませながら話し出す。
「もっと地味なお祭りでしたよ。案山子を飾り立てて、収穫に感謝します。街の女の人達が作るカボチャやさつまいものおやつを子供達が凄く楽しみにしているんです。大人達はその年に出来たワインをたくさん飲みます。夜まで続いて、1日で終わりですよ」

「そうか……。姫は街によく降りたのか?」
 街に詳しそうなのでもしやと思い訊ねる。

「はい! 私は王位継承権は放棄して街で暮らすつもりだったので、子供の頃から街に出入りしてました」
「……放棄するつもりだったとは?」
 姫は困り顔で答えた。
「マグダラス王家は貧乏なので、王族をたくさん養ってる余裕は無いのです。弟が王位継承したら平民になって街で暮らそうと思っていたんです」

 姫の覚悟を思う。

 姫は昔からきっと民と共にあるのだ。
 自身が王族であることの自覚を持ち、自身の果たすべき責務を知っている。

 グリムヒルトは、大変な宝をマグダラスから奪ってしまった。
 恐らくこの宝を失う時、大きな苦痛を与えた事だろう。

 そしてこの国でどの様な扱いを受けようとも、この王女はきっとマグダラスには帰らない。
 国を想い、民を想えば、火種になりかねない自分をマグダラスに置く事はよしとしないだろう。

 レイティア・エレオノーラ・アルテーンはそういう人間だ。

 姫に向き合う。
 仮面越しにもキョトンとした様子がわかる。
 儂は、姫の両肩を掴み、額にキスを落とす。

 この娘の健気さと強さは何処から来るのだろうか?
 そこが愛おしくて堪らない。

 燎火の灯りが姫の顔を赤く照らしているので顔色はわからない。
 しかし見開かれて潤んだ瞳で儂を見つめている。
「あ……あの……ア、アナバス様⁉︎」

 慌てる姫の髪を撫でる。
「さて、そろそろ帰らねばな」

「……は……はい……」
 姫は俯く。
 きっと照れているのだろう。

「行くぞ」
 そう告げて、姫の手を引き歩み出す。
「……アナバス様?」
「なんだ?」
 儂は振り返らずに答える。
「……今日は連れてきてくれて、ありがとうございます。
 とてもとても楽しかったです……」

「ああ。俺もだ」

 振り返らず、歩みを止めずに答える。
 何故か今は姫の顔を見る事が照れ臭くなった。

 燎火から離れると、浮かんだ月が2人を照らしていた。
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