人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 その日の晩、夕食を一緒に食べ終えて、2人で長椅子に座っている時に城下に降りる許可をお願いしてみる事にした。

「陛下?お願いがあるのですが……」

 陛下の顔が紅茶のカップから私の方へ移る。
「なんだ?」

「……一度、城下に降りてみたいんです。この国に来てから一度も城から出た事が無いですし、実は半月後にプストというものがあるらしくて、私、それを見てみたくて……」

 恐る恐る聞いてみる。
 これは完全にわがままだと思うので、ちょっと申し訳ない。

「そうか。では儂とお忍びで行くか」

「え⁉︎ 陛下もご一緒にですか⁉︎」

 陛下は紅茶のカップをテーブルの上のソーサーに置いた。
「あぁ。姫は城下での勝手がわからんだろう?
 儂も3年程前に行ったきりだが、勝手はわかる」
「……はい。正直に言って誰かについて来て貰おうかと思っていましたけど……、陛下は大切な御身ですから、みだりに城下に降りたりするのは……」

「市井を視察するのも王の務めであろう? それに何より」

 陛下が私の髪を一房手に取った。
「儂が姫と2人きりで出かけたい」
 陛下は柔らかく笑って、瞳を伏せて私の髪にキスをした。

 私はそれを見て何も言えなくなる。
 恥ずかしさで顔は火照ってる。

「あの……、えっと……はい。嬉しいです……」
 しどろもどろになって、自分でも何を言ってるのかわからない。

「そうか。なら決まりだな。定期船なら順調に航海していると報告が上がっていた。半月後にはやって来るだろう」

 自分のお願いから始まった事とは言え、陛下と城下を歩くなんて不思議だ。
 色々と想像すると、ちょっとだけ照れくさくなる。

「……あの。お聞き届け下さってありがとうございます。私のわがままなのに……」

「容易い事だ。姫が儂に願う事はいつも民に慈悲をかけろだの政務をしろだの追従をやめろだの、面白くもないものばかりだったからな」
 陛下はちょっと意地悪な顔でそう言う。

「そうですね……。言われてみれば、お諌めする事ばかりでしたね」
 陛下へのお願いは確かにいつも諌める事ばかりだった。
 それじゃ陛下も私のお願いはしんどくなるだろうと思う。
 ……お願いは控える様にした方がいいのかな?

「しかし今回のお願いは良い」
 頭をヨシヨシされる。
「この様なお願いなら幾らでも叶えてやれる」
 ヨシヨシした陛下の指先は私の横髪をなぞり、そのまま私の頬に優しく触れた。
「楽しみだ」

 私は多分今耳まで真っ赤だ。
 自分でも火照っているのがわかる。
 陛下はどうしてこんなに美しくて、しかもなんだよくわからない色気があるんだろう。
 毎日一回は顔を赤くしてる気がする。

「……っわっわたしも、たのしみです!」
 俯きたいけど陛下の指先がそれを阻む。
 じっと目が合ってる事が更に恥ずかしくて
 せめてもの抵抗で目をギュッと閉じる。

「……姫は儂と目を合わせてはくれぬのか?」
 ちろりと瞼を開け、陛下を見る。
「あ、あの、違うんです……、は、恥ずかしくなってしまっただけなんです」

「何が恥ずかしいのだ?」
 意地悪な顔が薄く笑う。

「……陛下はとってもイジワルです……。」
 私は堪らず両手で顔を覆った。

「姫は本当に可愛いな」
 くつくつと笑ってまた私の頭を撫でた。

 陛下は凄くお優しいけど、このイジワルな所はちょっと困ってしまうなぁと思いながら、頬に昇った熱が冷めるのを待った。
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