35 / 200
35
しおりを挟む
姫を侍らせ挨拶を受ける。
皆一様に姫には距離感を計りかねる挨拶をしていた。
儂はこれまで女を伴い会場に入った事などない。
これが初めてだ。
そもそもを言えば、こうした席に登場した事自体が珍しい。
これで相当姫の重要性は示せているだろう。
退屈な挨拶を受けている間も姫は柔かに儂の横に立つ。
「陛下ご機嫌麗しゅうございます。この度は陛下とマグダラス王女殿下のご婚約、言祝ぎ申し上げます」
この女はレニタ・ヴィルヘルミーナ・ホンカサロ。儂の第3妾妃だ。
長い紺青の髪を揺らし、優雅に挨拶する。
「次期御正妃様もご機嫌麗しゅうございます」
ひたと紫の瞳が姫を捉える。
「ご機嫌麗しゅうございます。ホンカサロ様」
姫は柔かに応える。
「私の事はどうぞレニタとお呼び下さいませ」
この女は昔から底が知れない。
何かを求める訳でも何でもなく、後宮を乱す訳でもない。
家柄で言えばヴィルッキラ家などの大幹部などには見劣りするが、昔から仕えた名家の一つだ。
妾の二派はそういう名家から妾妃として輿入れした者と、元は庶民の出の者とで分かれる。
この女はその名家の派閥の中でも特に目立つ動きはしていない。
ただ所属してるだけに見えた。
「レニタ様。私の事もどうぞレイティアとお呼び下さい」
「そんな。次期御正妃様に畏れ多い事です」
頭を下げてレニタは言う。
「構いません。どうぞお呼び下さい」
姫が柔かに言う。
「わかりましたわ。レイティア様」
微笑んで応える。
「所でレイティア様はずっと陛下の横に侍られておいでですが、折角のお披露目ですのに踊られないのですか?」
なるほど。引きずり出したいか。
「其方の言う通りだな」
横から口を挟む。
「挨拶にも飽いた。丁度、曲が始まる。レイティア王女よ。儂と踊らぬか?」
一瞬、瞬いた後、柔らかく笑った姫は答える。
「はい。喜んで」
玉座から立ち上がり、姫の手を取る。
レニタの呆然とした気配を感じるが2人で通り過ぎる。
壇上から降りて、ホールの中心へ姫と共に歩む。
皆の注目を一心に受ける。
どよめきが一瞬起こり、息を呑み、その後は沈黙が降る。
一礼し姫と組み合う。
曲が始まるとステップを踏む。
密やかに姫に話しかける。
「儂はこういったものは苦手だ。姫は上手いものだな。ダンスは得意か?」
いつもの笑顔で儂に答える。
「お勉強よりは捗ったんです。なんせ動いていていいでしょう? 体を動かしている方が向いているようで」
それに思わず笑んでしまう。
「そうか。実に姫らしい返答だ」
周囲が儂の行動に呆然としているようだ。
儂が笑んでいる所を見たのは初めてだという者も多いだろう。
そもそも、ダンスなど王太子であった時代に数度踊った位で王になってからは初めてだ。
これで儂の姫への寵愛を確信した事だろう。
下手な扱いをされる事もないだろうが、危険も孕む。
その筆頭が妾妃達の後ろ盾の面々だろう。
この件は儂の怠惰が招いたモノだ。
儂が刈り取る。
次第に曲が終わる。
礼を取り、舞踊の終了を告げる。
そして次の曲が始まる前に姫の肩に手を置き、壇上に促す。
そして元の玉座に戻り座る。
姫も元の様に儂の横に立つ。
ここに連れて来てしまえば姫をダンスに誘う者もいないだろう。
この国で儂の寵愛を一身に受け、儂の横に侍る女を誘える者は諸侯、官吏にはいない。
この夜、
グリムヒルト国王、ベネディクト・エルネスティ・グランクヴィストと
マグダラス王国第一王女、レイティア・エレオノーラ・アルテーンの婚約が高らかに宣下された。
皆一様に姫には距離感を計りかねる挨拶をしていた。
儂はこれまで女を伴い会場に入った事などない。
これが初めてだ。
そもそもを言えば、こうした席に登場した事自体が珍しい。
これで相当姫の重要性は示せているだろう。
退屈な挨拶を受けている間も姫は柔かに儂の横に立つ。
「陛下ご機嫌麗しゅうございます。この度は陛下とマグダラス王女殿下のご婚約、言祝ぎ申し上げます」
この女はレニタ・ヴィルヘルミーナ・ホンカサロ。儂の第3妾妃だ。
長い紺青の髪を揺らし、優雅に挨拶する。
「次期御正妃様もご機嫌麗しゅうございます」
ひたと紫の瞳が姫を捉える。
「ご機嫌麗しゅうございます。ホンカサロ様」
姫は柔かに応える。
「私の事はどうぞレニタとお呼び下さいませ」
この女は昔から底が知れない。
何かを求める訳でも何でもなく、後宮を乱す訳でもない。
家柄で言えばヴィルッキラ家などの大幹部などには見劣りするが、昔から仕えた名家の一つだ。
妾の二派はそういう名家から妾妃として輿入れした者と、元は庶民の出の者とで分かれる。
この女はその名家の派閥の中でも特に目立つ動きはしていない。
ただ所属してるだけに見えた。
「レニタ様。私の事もどうぞレイティアとお呼び下さい」
「そんな。次期御正妃様に畏れ多い事です」
頭を下げてレニタは言う。
「構いません。どうぞお呼び下さい」
姫が柔かに言う。
「わかりましたわ。レイティア様」
微笑んで応える。
「所でレイティア様はずっと陛下の横に侍られておいでですが、折角のお披露目ですのに踊られないのですか?」
なるほど。引きずり出したいか。
「其方の言う通りだな」
横から口を挟む。
「挨拶にも飽いた。丁度、曲が始まる。レイティア王女よ。儂と踊らぬか?」
一瞬、瞬いた後、柔らかく笑った姫は答える。
「はい。喜んで」
玉座から立ち上がり、姫の手を取る。
レニタの呆然とした気配を感じるが2人で通り過ぎる。
壇上から降りて、ホールの中心へ姫と共に歩む。
皆の注目を一心に受ける。
どよめきが一瞬起こり、息を呑み、その後は沈黙が降る。
一礼し姫と組み合う。
曲が始まるとステップを踏む。
密やかに姫に話しかける。
「儂はこういったものは苦手だ。姫は上手いものだな。ダンスは得意か?」
いつもの笑顔で儂に答える。
「お勉強よりは捗ったんです。なんせ動いていていいでしょう? 体を動かしている方が向いているようで」
それに思わず笑んでしまう。
「そうか。実に姫らしい返答だ」
周囲が儂の行動に呆然としているようだ。
儂が笑んでいる所を見たのは初めてだという者も多いだろう。
そもそも、ダンスなど王太子であった時代に数度踊った位で王になってからは初めてだ。
これで儂の姫への寵愛を確信した事だろう。
下手な扱いをされる事もないだろうが、危険も孕む。
その筆頭が妾妃達の後ろ盾の面々だろう。
この件は儂の怠惰が招いたモノだ。
儂が刈り取る。
次第に曲が終わる。
礼を取り、舞踊の終了を告げる。
そして次の曲が始まる前に姫の肩に手を置き、壇上に促す。
そして元の玉座に戻り座る。
姫も元の様に儂の横に立つ。
ここに連れて来てしまえば姫をダンスに誘う者もいないだろう。
この国で儂の寵愛を一身に受け、儂の横に侍る女を誘える者は諸侯、官吏にはいない。
この夜、
グリムヒルト国王、ベネディクト・エルネスティ・グランクヴィストと
マグダラス王国第一王女、レイティア・エレオノーラ・アルテーンの婚約が高らかに宣下された。
10
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
仮面舞踏会を騒がせる謎の令嬢の正体は、伯爵家に勤める地味でさえない家庭教師です
深見アキ
恋愛
仮面舞踏会の難攻不落の華と言われているレディ・バイオレット。
その謎めいた令嬢の正体は、中流階級の娘・リコリスで、普段は伯爵家で家庭教師として働いている。
生徒であるお嬢様二人の兄・オーランドは、何故かリコリスに冷たくあたっているのだが、そんな彼が本気で恋をした相手は――レディ・バイオレット!?
リコリスはオーランドを騙したまま逃げ切れるのか?
オーランドはバイオレットの正体に気付くのか?
……という、じれったい二人の恋愛ものです。
(以前投稿した『レディ・バイオレットの華麗なる二重生活』を改題・改稿したものになります。序盤の展開同じですが中盤~ラストにかけて展開を変えています)
※小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。
※表紙はフリー素材お借りしてます。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる