人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 姫が玉座の間から退出すると、諸侯達も官吏達もざわざわと騒ついている。

 こんなに朝議が紛糾したのは久しぶりだ。

「……マグダラス王女の仰った、太公様の御意向は先ず置いておきましょう」
 宰相が話し始めた。
「時に法相。太公様の御遺言があるとか」

 法相がそれを受ける。
「はい。ひと月ほど前に書記官をお呼びになり、立ち合いの元、書かれたとの事です」

「ならば、そちらを参照にする方が良いでしょう。陛下、太公様の御遺言をこの場で開示してよろしいでしょうか?」
 宰相が確認する。

「…………良かろう」

「では、法相。」
 宰相の合図で法相の元に遺言状が届けられる。

 法相が遺言状を手に取り、封をナイフで切り取り、読み上げる。

「一つ、余の葬儀はマグダラス王国王女レイティア・エレオノーラ・アールテン主宰で行う事。一つ、その褒賞として余の財産を全て同上記人に移譲する事。一つ、その功績を讃え、同上記人をベネディクト・エルネスティ・グランクヴィストの正妃とする事」

 その後、委細が長々と読み上げられる。

 あの爺は余程レイティア姫を気に入ったと見える。
 その遺言状は姫を正妃に推す為の布石だった様だ。
 妾にする事など絶対に許さぬと強い口調で書かれている。
 恐らく姫がこの葬儀に反対する事も見込んでいたのだろう。
 姫に敢えて儀式の詳細を語っていないのもわざとだ。
 その上でこの遺言状は効果が大きい。

 まさか朝議に乗り込んで、自身を身代わりにするとまでは思っておらんだろうが。
 だがそのおかげでこの遺言状は最大の形で効力を示した。
 少なくとも儂に対しては。

 姫をあんな爺の追従にさせる筈もない。
 兵士達に輪姦させる気など毛頭ない。

 長々とした遺言の委細の読み上げが終わる。

「……太公様の御意向はわかりました」
 宰相が口火を切る。
 玉座の間は静まりかえっている。
「太公様が委細で仰る通り、地の民達の不満を抑えるにはマグダラスの王女を正妃としてお迎えするというのはグリムヒルトにとって大変有意義かと思われます。」

 諸侯の一人が声を上げた。
「地の民などにへつらう必要などないでしょう」
 複数から同意の声が上がる。

「しかし反乱を起こされ、税の徴収もままならない領地も多々おありですから。それともただただ民の管理がお上手でないという事でしょうか?」
 宰相の言葉に幾人かが黙り込む。

「しかし王女自身が追従を望まれていらっしゃる」
 苦し紛れの言が響く。

「追従は太公様が望まれている事ではない。
 それこそ他国の姫の言など入れる必要はないでしょう?」
 宰相がにこやかに言った。

「さて陛下。御裁可を」
 そして儂に促す。

「太公の遺言は全て聞き入れる。不満を持つ者はおるか?」

「恐れながら!」
 パーテロという儀宰が声を上げる。
 儀宰とは一切の祭典式典を取り仕切る。
「他国の姫が儀式の主宰をされるのは如何なものかと!」
「大体、地の民の姫を正妃になど!」
 他の官吏からも声が上がった。

「レイティア王女は、と言った。」
 さて、三文芝居の始まりだ。

「国としての名を出されたからには、王女の意向はマグダラスの意向。それを捨て置き、自国の王女を生贄に差し出されたとあればマグダラス王とて黙ってはいないだろう」

「マグダラスの不興を買えば、モトキスとの同盟を進めるかもしれませんね」
 宰相が口添える。

 事実としてはマグダラスにはその意向は無いだろう。
 姫を見ていればわかる。

「モトキスだけではない。細くとも、マグダラスはシビディア、オルシロンとの国交がある。その三国の介入を許す口実を与えるやも知れぬが。

 ……そうなった場合、うぬらその責、背負えるか?」

 皆が黙り込む。
 皆の顔を一回り眺めた。
 もう何も言うつもりはない様だ。

「太公の遺言は全て聞き入れる。良いな」


 王座の間に御意と響いた。
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