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 軍師が出ていき、しばらくして、再び侍女の声掛けがある。
「陛下、マグダラス王国第一王女レイティア・エレオノーラ・アールテン殿下がお見えでございます」

「通せ」

 ガチャリとドアが開く。

 そこに立っていたのは、絶世の美女だった。

 まるでその者の周りだけ光り輝く様な錯覚に見舞われた。

 大きな猫目、緊張した面持ち、高くも低くもない鼻、大きくも小さくもない唇。
 茶色い瞳に茶色い髪

 ……よくよく見るとまだ幼い娘で、顔も体も色も何もかも『普通』だった。

 普通のどこにでもいる少女。と言ったところだ。

「おっ……お初にお目にかかります。私はマグダラス王国が第一王女、レイティア・エレオノーラ・アールテンにございます。」

 カーテシーをし、儂の言葉を待つ少女からは全身から緊張が伝わってきた。

「堅苦しい挨拶は要らぬ」

「え、あ、はい……」
 手持ち無沙汰といった感じでカーテシーをやめ、こちらをじっと見つめてきた。

「あっ……!あのっ!」
「なんだ?」
「グリムヒルト国王陛下に申し上げたい事があります!」
 意を決した様にレイティア姫は叫ぶ。
「なんだ?申してみよ」
 何か条件を突きつけられるのかと思い、それがなんであるか楽しみでもあった。

「……ここに来る際に乗った船で流された人を助けました……。
 もうその方は息も絶え絶えで…死の間際に、『絶対に許さない』と……怨嗟の言葉を遺して逝きました……。
 私は死の間際に怨嗟の言葉を遺していく人を初めて見ました…。
 お願いです、グリムヒルト国王陛下。どうか国民にご慈悲を与えて下さい!」

 面食らった。初めて逢ったその席でいきなり儂を諌めるその度胸。
 それともこの娘は儂の評判を知らないのだろうか?

「レイティア姫。儂が何者か知っておろう?」
 出来るだけ冷酷に、どす黒く。

「はい。知っています。[仮面王]と呼ばれていると」
 レイティア姫は真っ直ぐにこちらを見つめる。

「ああ、冷酷無比に表情一つ変えず残酷な命を下す王だと付いた二つ名だ。お前の進言が届くと思うか?」
 こう言えばどう答えるか、面白くなってきた。少しでも怯んだら首を落としても良い。

「届くか届かないかは、グリムヒルト国王陛下の胸三寸です。でも私はこれを言わなきゃいけなかった。」

「ほう? 言わずに儂に擦り寄る方がその首が繋がるであろう」

「私は今からこのグリムヒルト王国で暮らします。ここはもう私の国です。そして国王の妾妃になるのなら、私は陛下の臣下です。
 お諌めできない臣下なんて邪魔になるだけでしょ?」

 真っ直ぐに目を合わせて毅然と言われ、この姫は怯む事などないと分かる。
 そもそも廃嫡されたも同然の身。
 この国に来た時点で既に覚悟を決めているのだと、理解する。

「首を落とされても良いか?」
「陛下の良心がお許しになるなら、甘んじてお受けします」

 清々しい程に真っ直ぐな瞳、態度。
 この様な奴が昔いた事を思い出し、儂は可笑しくなった。

「……ふっ……お前は面白いなレイティア姫」
「えぇ?何故ですか?」
 笑う儂を見てレイティア姫は戸惑っている様だ。
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