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二人の子 番外編

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 ここはヴァルミカルド。
 魔界の王都にして魔物達の楽園である。
 近頃は人間界の技術を盗み、その様相は人間界と変わらない程だ。
 常に薄暗い空で覆われるこの街は魔力で造られた灯りがその摩天楼を満たしている。

 そんな街並みの中を手を繋いでリルは子供達と歩いていた。

 リルの息子達はそれぞれの父親が名付けた。
 クロエの息子はランベルト。
 シュバルツの息子はランドルフ。
 二人はリルを挟んで仲良く過ごしている。
 二人は強い魔力持ちだと魔王にバレてしまったので、魔王教育を施される事になった。
 父親は魔王に興味は無いが、子供達は特に文句も言わずに魔王教育を受けている。
 今の所二人の実力差は拮抗してるが、若干ランベルトの方が優勢だ。
 父親に似て、手先の器用な事、要領の良いところなどが優勢の理由だろう。

「リル、俺今日もお勉強頑張ったよ!えらい?」
 ランベルトはリルの懐に飛び込んで腰に縋り付く。
 リルはそんなランベルトの頭を優しく撫でてランベルトを労った。
「らんちゃんえらいね~。いいこいいこ」
 べったりと甘えるランベルトに対して、ランドルフはリルの服の裾をギュッと握る。
 眉間に皺を寄せて俯いている。これがランドルフの褒めて欲しい時の態度だった。
 リルは屈んでランドルフに視線を合わせ、抱き寄せる。
「らーちゃんもがんばったね!いいこいいこ」

 二人はリルが大好きだった。
 生まれた時からずっと惜しみない愛を注がれている事を実感していた。
 生まれた時からずっと、二人は二人でリルを守ろうと誓い合っていた。
 その時には父親という庇護者がいるとは思っていなかったから。

 魔王教育を受けているのもリルに褒められたい一心だった。
 父親がいる以上リルを守るのは自分達の役目では無い事を悟った。
 何せ二人の父親は大悪魔。彼らより強い悪魔はそうそういるはずも無く、しかも二人の父親はリルにベタ惚れで離れる気が一切ない。

 自分達は別の形でリルの関心を引くしかないと考えて魔王教育を受けている。

 二人は魔王になる気はない。
 教育を受けても魔王になる事を強要はしないと言われたから受けているだけだった。

「リル!今日は晩御飯なんだろうね!」
「きょうはね、くうちゃんがカレーつくってくれるんだって」
「俺カレー好き!」
「俺も好き!」
 魔王城から徒歩で数分の道のり。
 三人で手を繋ぎながらヴァルミカルドの街並みを歩く。

 最近では土地の区画整備が行われて、整えられた街並みの景観は素晴らしいものがある。
 それもこれも観光事業に力を入れているからで魔界ブランドの商品を高級な店構えで売っていたりする。

 リルもすっかり観光事業のマスコットとしてアイドル化していた。
 観光事業のポスターを境に色々と仕事が舞い込み、その唄声の美しさが話題を呼んで今やヴァルミカルドには知らない者はいない位の人気を博している。

「リルさんですか?」

 三人で手を繋いで歩く後ろ姿に声がかかる。
 リルは振り返って、返事する。
「リルです。…あなただぁれ?」
 立っているのは細身の背の高い細面の男。
「いや、私、フィリップと言いまして、興行なんかを請け負ってる者なんですけどね?聞けばリルさんは事務所にも所属してないとお聞きしまして…私共でお手伝い出来ればと思いまして…」
 リルはキョトンとした顔でフィリップを見る。
「リル、よくわかんないの」
「でしたら全て私共にお任せ下さいませんか?良かったら今からお話ししましょう!私共の事務所で」
 リルの肩をフィリップが掴もうとする。

 触れかかった瞬間、ビリリと電撃を喰らった様な痛みが手のひらに走った。
「⁈」

「お前、リルに触るな」
「次触ろうとしたら殺す」

 二人は魔力を解放する。
 周囲は二人の魔力で異様なプレッシャーがかかっている。

 リルの前に立ちはだかって威嚇する子供達。
 フィリップはたじろぎながらも子供達に弁明する。
「いや、坊ちゃん方?おじさんはね、ただリルさんとちょっと大切なお話をしようとしてただけなんですよ?」
「リルはわかんないって言ってんだろ」
「話す事なんかないんだよ、さっさと消えろ」
 フィリップは突然怒鳴り声をあげる。
「うっせえんだよ!クソガキ共が!さっさとその女渡せよ!クソうぜえな!」

 そう怒鳴りつけると召喚魔法を発動する。

「我が名に置いて命ずる。契約約定により出でよ!ベヒモス!」

 二人はベヒモスを見上げる。

「こんな往来でこんなデカブツ出したら迷惑だろ」
「大人の癖にそんな事もわかんないかね、バカなの?」

 ランベルトがベヒモスの周りに結界を張る。
 ランドルフが数百の火炎攻撃魔法陣を展開してベヒモスを焼き尽くした。
 結界の中であっさりと燃え尽きるベヒモス。

 それを見て驚愕するフィリップ。

 ベヒモスがこんな簡単にあっさりとやられるなど、あり得なかった。

「お前ら何やってんだ?」
 後方から声がかかり、三人は振り返った。

「しゅうちゃん!」
「魔力が解放されたから来てみりゃなんだこれ。丸焦げじゃないか」
「知らないよ。このおじさんが召喚したんだよ」
「俺達が召喚したんじゃないよ」
 二人は同時にフィリップを指差す。
 未だ衝撃から立ち直れないフィリップはシュバルツを見た。
「で?あんたは何の用事だ?うちのガキ共に舐めた口聞いてくれてたみたいけど?」

 シュバルツは腰に手を当ててフィリップに歩み寄る。

「あ、いや、あのですね、リルさんにお話しがあったんですけど、ね、も、もう大丈夫です」
「あっそ。だったら二度と近づくなよ?」
「わ、わかりましたぁ!」
 フィリップは脱兎の如く逃げ出す。

「ああいうのは粗方片付けたと思ってたけど、まだいたか」
 シュバルツは頭を掻いてベヒモスを見た。
 そして時空魔法を展開する。
「ランベルト、もうちょい結界維持してろ」
「わかった」
 時空魔法でベヒモスは砂の如く細かな粒子になってサラサラと消えていった。
「これでいいだろ。さっさと帰んぞ。クロエが飯作って待ってる」
「クロエのカレー美味いんだよね!」
「なんか手が込んでて美味いよね!リルは好き?」
「すきだよ~。くうちゃんのカレーおいしいね」
 二人はリルと手を繋ぎ歩き出す。
 その後ろをシュバルツは見守る様に付いて歩く。

 三人の笑い声が街並みに溶けて行った。
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