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12、襲撃者

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結局魔王は、そのまま一緒にクリームシチューを食べて帰った。

ヴァルミカルドには人間界の料理を食べさせてくれる店が多数ある。
天界の料理店も溢れていて、本格的な宮中料理から、ご家庭の味まで色々な店があって鎬を削っている。

そんな飽食に溢れている魔界なので別に人間界でご飯をご馳走になって帰る事もない。
まして魔王だ。命じれば幾らでも食べられるだろう。

そんな事を心の中で毒づきながらリルと風呂に入る。
湯船に二人で浸かっているとリルが問う。
「しゅうちゃん?ゆうちゃんあっちゃダメなの?」
「ああ。あのメスガキがどうにかなるまでな」
「メスガキ?」
「…あ~…お前の事嫌ってるガキだ」
「…あのこ…」
明らかにリルはしょぼくれた。
「そんな顔すんなって。笑ってろ」
リルの両頬を優しくつねってやる。
リルはシュバルツににへらと笑った。

子供同士で話し合ってどうにかなる様な雰囲気ではなかったが、
さすがに警察なんかに調べられるのはマズいだろう。
きっとクロエの事だ。クロエとリルの分は偽装身分証位用意してるだろう。
ただ、一緒にシュバルツの分も調べると言われたら非常に宜しくない。
シュバルツがここにいる事はイレギュラーな事だ。
当然だがシュバルツの分の身分証があるとは思えない。
シュバルツが襲撃しここに居着く事まで予測出来ていた筈ないからだ。
警察など呼ばれたら面倒臭い事この上ない。

「色々あるんだ。それが終わるまで辛抱してくれ」
「うん、わかったぁ」
リルはこういう時、大体聞き分けがいい。
わがままを言った事がない。
頭をぐりぐりと撫でてやるとリルは嬉しそうに笑った。

「あのね?きょうきたおにいさんは、またくるの?」
「あぁ…来るかもな。リルはあいつ好きか?」
「ん~…わかんない」
感応するリルが「わからない」のなら、魔王はリルを好きでも嫌いでもないのだろう。

やはり為政者だ。その心境を簡単には読み取らせない。

この日はリルを抱いて、一緒に眠る。
シュバルツにとって、もう既にこの時間は得難いほど幸福な時間になっていた。
スヤスヤと眠るリルはなんとも愛おしい。

それを邪魔する襲撃音。
ズドーンとエネルギー体をぶつけて来た馬鹿がいるらしい。
クロエの結界はかすり傷一つついていない様だ。
シュバルツはノロノロと服を着る。
眠るリルの横にクロエの贈ったウサギのぬいぐるみを置いた。
ウサギのぬいぐるみには僅かに魔力が帯びている。
きっとリルを守る何かがあるのだろう。

ベランダから外に出て、悪魔の姿になり、マンションの屋上へ飛ぶ。
「何か用か?」
ツノ無しの悪魔を複数従えたツノ有りの悪魔がシュバルツに問う。
「クロエを出せ」
ツノ有りの悪魔がシュバルツに言い放つ。
悪魔達はシュバルツを取り囲んだ。
「どんだけ恨み買ってるんだ、あいつは…」
シュバルツは頭を掻く。
「残念だが、あいつは留守だ」
「じゃあクロエの入れ上げてる女を出せ」
「そりゃ無理だ。あれは俺のご主人様でもあるからな」
「なんだそりゃ⁈弱っちい女だと聞いてるぞ⁈」
「ま、そりゃそうなるわな。とにかく渡せない。クロエのいる時に出直せよ」
「はいそうですかって訳に行くと思うか?庇い立てするならお前も殺す」
悪魔達はシュバルツにエネルギー体を放つ。
それを簡単な防御魔法陣で軽くいなす。

その隙にツノ有りの悪魔が数十の攻撃魔法陣を展開してシュバルツに放った。
シュバルツの防御魔法陣は丁度相殺される格好となった。
「…お前、なんでクロエに生かされたんだ?」
シュバルツはポツリと呟く様に訊ねる。
「奴隷どもを盾にして逃げたんだよ」
「…そうだろうなぁ~…」
クロエの割には間抜けな見逃しをしたもんだ…と、心の中で独りごちる。

シュバルツはツノ有りの悪魔に50の攻撃魔法陣を展開した。
「お前ならこの程度で充分だろう」

ツノ有りの悪魔は青ざめて十数個程度の防御魔法陣を展開している。

防御魔法陣はあっという間に焼き切れて消滅してしまう。
ツノ有りの悪魔は命乞いをする。
「た…たのむっ!助けてくれ!お前に従うから!」
「…お前は見逃してやってもリルを狙う。そういう野郎だ」
今クロエに復讐しようとしてる時点で、この悪魔は決して反省しないだろう。
万一こいつがリルを捕まえて、リルを殺しても悪びれもせず言うのだろう。
「弱い奴を殺して何が悪い」と。

こいつにしてみれば、不文律に従ったまでだ。
それが魔界のルールだ。

シュバルツは攻撃魔法陣に魔力をグッと込めた。
そして、命乞いをするツノ有りの悪魔を塵も遺さず消滅させた。
周りを取り囲んでいるツノ無しの悪魔達はたじろぎ、どうする事も出来ず戸惑っている。
「おい、お前ら、自力で魔界に帰れんのか?」
皆一様に首を縦に振った。
「だったら人間界で悪させずにさっさと帰れ」
更に首を縦に振り、彼らは散り散りに去っていった。

シュバルツは腰に手を当てて深く溜息をついた。
たったあれだけの戦力でクロエをどうにか出来ると思ってる方がどうかしてる。
クロエの強さは桁違いだ。
きっと魔界の歴史の中でも何本かの指に入るとかそういうレベルだ。
そんな伝説級の化け物を支配してしまうリルは本当に、
『最弱の支配者』に相応しいのかもしれない…

そうぼんやりと考えながら、ベランダから自分の部屋に戻った。
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