君に打つ楔

ツヅミツヅ

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43、根回す

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 二人は繁華街にあるショッピングモールのランジェリーショップに入った。
 今まで美優が着けていた下着はサイズが合っていないと指摘されて、測り直し、改めて新しい下着を買い揃える事になった。
 美優はせいぜい3セット位あれば充分だと思っていたが、穂澄は10セットは無いとダメだと強く押し切られて購入してしまう。
 その他細々したものを買い揃えて穂澄の車で美優のマンションへと向かい、壱弥と落ち合った。
 バイクに跨った壱弥は車から降りた美優に軽く手を上げた。
「おかえり、美優。良いものあった?」
「うん、穂澄のお陰で良いもの買えたよ。ありがとう」
 壱弥は優しく美優の髪を撫でて微笑んだ。
「じゃ、壱弥、後は任せたわよ。今から警察行くんでしょ? 帰ったら連絡して? 荷物持っていくから」
「ああ、お願いするよ」
「穂澄、ホントにありがとう」
「私もついでにたくさん買い物出来たし、ありがとうね、美優。じゃ、後で」
 壱弥はバイクを降りてマンションの駐輪場に停めた。
「さ、とりあえず封筒サルベージしとこうか」
「うん」
 美優の部屋のある4階にエレベーターで上がって、部屋に入る。
「どれ?」
「資源ごみはベランダに出してあるの」
「わかった」
 壱弥はベランダを開け、チラシのまとめてある紙袋を持って部屋に戻った。
「茶封筒はこれとこれと……」
「結構あるね」
 それらを開封してみると、写真の入っているものと、手紙のみが入っているものと半々で全部で10通近くあった。
 写真は美優が自転車に乗っている所だったり、高校の正門から出て来ている所だったり、色々な所で撮られているようだった。
 それを見て、美優は血の気が引く思いがする。
「……学校まで付いてきてたんだね、この人……」
「うん。多分そうだろうとは思ったよ。あ、これは俺が学校に迎えに行った時の写真だね」
「……卒業式の写真もある……」
「ずっと見張ってると考えた方がいいかも。何なら今も見てると思っておく方がいいだろうね」
「……うん」
「とりあえず、俺の家に帰ろうか」
「あ、ちょっとだけ待って? 作り置きしてある食べ物だけ何とかしとかないと」
「持って帰ればいいよ。美優のご飯食べたい」
「うん。じゃあ、今日はこれ食べる?」
「うん」
 美優は冷蔵庫の中の作り置きしてタッパーに入れてあった食材を取り出してポリ袋に入れて、保温バックに入れた。
「お待たせ、壱弥。行こう?」
 壱弥と共に部屋を出てエントランスに降り、郵便受けを見るとおびただしい数の茶封筒が入っていた。
 美優はその光景にぞっと背筋が凍るのを感じてしまう。
「……これは写真撮っておこうか」
 壱弥は装着していたレッグバックから、インスタントカメラを取り出した。
 そして写真を撮り始め、それを終えるとバイク用の手袋をはめて郵便受けを開けた。
 郵便受けにぱんぱんに入った茶封筒を全部取り出してジップロックに詰めた。
「もしかしたら犯人の指紋とか付いてるかもしれないから、一応ね」
「……この人……、私が壱弥の所に行ったから怒ってるのかな?」
「怒ってるとしたら尚更ここにいなくて正解だった。俺との事が無くても遅かれ早かれこうなったと思うよ? さ、早くここから離れよう」
「うん」
 二人はバイクに跨って走り出した。
 壱弥の腰に手を回して壱弥に寄り添う様にしがみついていると、安堵感で恐怖心も薄れていった。
 やはりバイクは早くて警察にもあっという間に辿り着く。

 警察では師岡という女性刑事が担当で、美優に色々と質問をし、その質問に美優は丁寧に答え、茶封筒などの証拠を提示した。
「わかりました。これは確かにストーカー行為に該当しますね。ご実家かどこかに避難された方がいいと思います。そういう所あります?」
「それなら俺の家に昨夜から避難していますので大丈夫です」
「貴方彼氏さん?」
「はい」
「彼氏さんの連絡先も聞かせてもらっていい?」
「はい。構いません」
「では付近の見回りを強化しますんで何かあったら最寄りの警察や交番に相談して下さいね」

 相談は思っていたよりもずっとあっさりと終わった。
 警察など初めてやって来た美優は殊の外緊張していた様で署から出てホッと溜息を吐いた。
「疲れちゃった?」
「ううん、なんかホッとしちゃった。もっと色々大変なのかと思ってたから」
「今日は相談だけだもんね。実害が無きゃ警察は動いてくれないからね。でもこうやって相談しておくと後々有利に働くから。被害がある度に相談しなきゃいけないのは面倒だけど」
「大丈夫。こんな感じなら私一人でも来られるよ?」
「いや、ちゃんと付いて行くよ? 今は絶対一人で外になんか出せない。あの郵便受け見たでしょ?」
「……うん……」
「バイトの送迎もするし、どっか行くなら付いて行く。今取り掛かってる仕事も無いから自由効くし」
「……ありがとう、ごめんね、壱弥」
「気にしないで。俺には美優より大事なモノなんてないんだから。さて、思ったよりも時間かからなかったから、バイク用品店行こうか。これから毎日乗るから今日中に欲しいな」
「うん」
 二人は警察署の駐輪場に降りてバイクに乗り込むと、バイク用品店へと向かった。
 フルフェイスヘルメットは頭周りを計測しサイズの合ったものから選び、更に革ジャケットと手袋を選ぶ。
 それらを購入したら早速店で着させてもらって、それらを身に付けて壱弥の家へと帰った。
 壱弥のマンションのエントランスで郵便受けを見てみると一通、不在通知が入ってあり、壱弥はそれを確認すると宅配ボックスの前で暗証番号を入れ、荷物を取り出した。
「うん、来ててよかった」
「荷物?」
「うん、急ぎだったんだ」
 マンションのエスカレーターに乗り込み、壱弥の部屋のある7階に行く。
 壱弥はスマホを操作しながら美優に伝えた。
「穂澄向かってるってさ。なんか帆高と航生も来るって」
「そっか、皆に心配かけちゃったかな? 申し訳ないなぁ……」
「そんなに気にする事ないよ。俺達の誰が大変な目に遭っててもきっと同じ様に集まるから」
「皆優しいもんね。私は知り合ったばかりなのに親身になってくれて、ホントに嬉しい」
「まあ、いい奴らではあるよ? そうじゃなきゃ美優に紹介しないから」
 エレベーターは7階に止まり、壱弥の部屋まで行き、開錠して部屋に入ると、壱弥は美優を優しく抱き寄せた。
「美優……、愛してるよ」
「……壱弥……私も、愛してる」
 美優もまた壱弥を抱き返した。
「美優は全然弱音吐かないから心配になるよ」
「そんな事ないよ。挫けそうなのをいっぱい壱弥が支えてくれてるんだよ。ありがとう、壱弥」
「……美優……」
 壱弥の顔がどんどん迫ってくる。美優は恥ずかしかったけれど、そっと目を閉じて受け入れる。
 壱弥の唇が優しく美優の唇に触れる。
 そのままじっと長く優しいキスが続いた。
 されるがままになっていると、壱弥の舌がねっとりと美優の口腔内に侵入してくる。
「…………っ、……ん」
 背後のシューズクロークの扉に美優の背中は押しつけられ、どんどん壱弥の舌は激しく美優の口腔内を侵し始めた。
 息切れしそうなほど長いキスが続いて美優は壱弥の胸を軽く叩いてもう限界である事を伝える。
「…………んっ、……ふっ……」
 互いの唇が離れて二人は見つめ合う。
 壱弥の熱い視線が照れ臭くて美優は俯いた。
 そんな美優の耳輪を唇で優しく喰み、舌を這わせ、耳朶を軽く吸う。
「あ…………っ! ダメ、いちや……っ、皆んな来るんでしょ? ダメ…………」
 それでも壱弥は止めずにどんどん美優の首筋に舌を這わせていった。
 「…………いちや…………、あ……っ、んん……っ、待って? ダメだってば…………、やめて?」
 壱弥は美優の鎖骨に近い首筋の付け根の服でギリギリ見えるか見えないかの場所に吸い付く。
「あ……っ、ヤダ……、いちや……なにしてるの……?」
 いつもと違う痛くないくらいの強さで吸い付く壱弥に美優は戸惑う。
 唇を離した壱弥は美優の頬にまたキスをして、頬に瞼にそして唇に軽いキスをした。
「美優の事狙ってる奴がいるって思うだけで嫉妬でどうにかなりそうだから、俺のだってマークつけといた」
「マークって……。あ……あの」
 美優の頬がみるみる紅潮していく。
 それを壱弥は微笑んで見つめまた抱きしめた。
「美優はホントに可愛い。大好きだよ、俺の美優。さ、入ろっか?」
「……うん」
 二人は革のライダージャケットを脱いでシューズクロークに仕舞う。
 部屋に入って落ち着く暇も無く壱弥は届いた荷物を取り出した。
 その中身を確認しソファに座る美優を振り返る。
「美優? コレ持ってて?」
 壱弥の手にあったのは丸い白色のファーのキーホルダーだった。
「キーホルダー?」
「ううん。防犯ブザーだよ。チェーンから引っ張ってみて?」
「うん」
 チェーンを引っ張ってみるとファーは外れてけたたましい音が鳴り響いた。
「わっ! おっきな音!」
 美優は慌ててしまうが壱弥が落ち着いてチェーンから出た芯をファーの穴に入れた。
「うん、これだけ大きい音なら大丈夫だね。基本的にいつも一緒にいるようにするけど万が一離れてる時に何かあったらコレ鳴らすんだよ?」
「うん、わかったよ。小さい時に持ってたな、ブザー。懐かしい」
「最近はこんな感じでキーホルダーに見えるようなのがあるんだよね。若い女性も結構持ってる人多いみたいだよ。あんまり防犯ブザーってわかるようなビジュアルじゃない方がいいかなって思ったんだけど、これでよかった?」
「うん、すごく可愛い。早速鞄の持ち手に付けるね」
 美優はいそいそと唯一持ち出せた鞄の持ち手にブザーのチェーンを取り付けた。
「うん、コレでちょっと安心だね」
 壱弥ににっこりと笑ってブザーの取り付けられた鞄を持ち上げて示した。
「……はぁ、あいつら来なきゃいいのに……」
「え?! なに? どうして?!」
「……美優が可愛過ぎてこのまま押し倒したい……」
 その言葉に美優の顔は真っ赤になってしまう。
「ええ……? なんで……? 私……」
 両手で真っ赤になった頬を包んで隠しながら美優は顔を背ける。
「美優……、ホント可愛いよ……。大好きだよ」
 美優の座るソファの前に跪いて美優の手首を優しく掴む。
「美優……? 隠さないで、照れてる顔見せてよ」
 壱弥が美優の顔からほぐす様に両手を離した瞬間、チャイムが鳴った。
「残念、もう一回ぐらいキスしたかったな」
 美優の耳元でそう囁いた壱弥は立ち上がって玄関フォンのある場所に歩んで行った。
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