仕合せ屋捕物控

綿涙粉緒

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第弐章 疾風

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「しかし、よくわかるもんだなぁ」

 蕎麦の実をぽりぽりとつまみながら、北川は店主にそう話しかけた。

 店の空気の強張りに先程手放しでほめた蕎麦の実の味も、もうよくわからなくなっている。ふと視線をやると、美代は相変わらず背中をこちらに向けて座っている、あれから振り返りもせずに。

「へぇ、一応食い物屋ですんで」

 店主は遠慮がちに言った。

 こちらも、微妙に目を合わせない。

「ううむ、酒がまずくなるといけねぇから、飲み終わってから話そうとは思っていたのだが」

 北川は面目なさそうに自らの月代をなぜ、再度美代の方を見た。

 美代は、いっそ頑《かたく》なといった風情でじっと銚子の頭を見つめている。
 
「このままでは、お美代に見限られてしまいそうだからの」

 そう言って美代の背中に話しかけては見たものの、美代は相変わらず微動だにしない。まるで凍ってしまっているようにだ。

 いや、心なしか少し震えているようにさえ、北川には見受けられた。
 
 もちろんその反応は、そんじょそこいらの娘っこであれば当たり前のものかも知れないのだが、美代の場合、このこわばり様が北川には不思議に思えて仕方ない。普段の美代から考えれば、明らかに、不自然だ。

 こりゃ、はやいとこ話してしまわんとなぁ。

 北川は心中で一人ごちた。

「単刀直入に申そう、実は今の今まで、押し込みのあらためをやっておったのだよ」

 すると今度は、店主の方が目に見えて狼狽した。

 あまりの事に、丼をひとつ転がすほどに。

「おいおい、どうしたよ。今日はお前らおかしいぞ」

「い、いえ、あたくしはそういった恐ろしい話が苦手なんでございますよ」

 そういって平静を取り戻そうとする店主を、北川はゆっくりと眺め、そして「ふぅん」と一声発すると、話を続けた。

 ま、そんな話、得意な奴なんぞ、ろくな奴ではないがな。

 それにしても、なぁ……。

「うむ、まぁ、それならばよい。じつはの、まだ町の人間は知らない事であろうが、つい数刻前、向島のさる御店に押し込みがあっての…」

 北川はそういうと、眉間の皺をより深くしてため息と共に言葉を続けた。

「……むごい事に、ほとんど皆殺しの様子であったのよ」

 北川の話に、店主はごくりと生唾を飲んだ。

 顔面蒼白である。よほどこの手の話が苦手なのであろう。

「それで、先ほどまでその骸《むくろ》の中を歩き回っておったというわけだ」

 言いながら北川は、着物のにおいをかいだ。

 店主や美代の言う人間の血の匂いは、ついぞわからなかった。仕事がらそれをかぐことが人よりも多いせいか、鼻が慣れてしまっているのかもしれない。

 まったく、因果な仕事だ。

「血は付かぬように気をつけてはいたのだが、まさかにおいに感づかれてしまうとはな……。思わなかったぞ」 

 北川は、少しおどけた口調でそう言った。 

 しかし、店の雰囲気はいっこうによくならない。

 すると、今まで背中を向けてピクリともしなかった美代が、振り返る事もなく、そのままの姿勢で北川に話しかけてきた。

 冷たく刺さる氷柱つららのような、澄み切った声で。

「ねぇ、だれがやったの?」

「ん?」

 あまりにも唐突で、そしてあまりにも鋭く奇妙な声色だったので、北川は聞き漏らして聞き返した。

「だから、だれがやったの?」

 問い返されて、再度発せられた美代の声は、冷たいままで震えていた。

 その隣で、なにも言わずに店主もうつむいている。

 こりゃいったいどうしたことなんだ。二人ともいったいどうしちまったんだ。

 北川は、二人の態度をいぶかしく思いながらも、なるべくそれと気づかれないように平静を保って答えた。

「ま、まぁ、明日になれば、朱引きの内にくまなく広まるだろうから、今ここで言ってしまってもかまやぁしないんだけどな」

 あんまりこの店でしたくはない話なんだがねえ。

 軽く前置きをして、北川は続けた。

「いやな話になるぞ、いいのかい二人とも」

 北川の問いに、店主はゆっくりと頷いた。

「はやく」

 美代は短くそう言った。

「そうかい、じゃあ話そう。その向島の御店の中は、手代や番頭はおろか、飯炊きから子守、ガキや赤ん坊に至るまで、一刀のもとにばっさりでな」

 冷たい夜気が店を包む。

 窯から立ち上る湯気さえ、凍り付いてしまっているように思えた。

「そんな中、店の主は……」

 店主の震えが、何かの予感に、酷くなっていく。美代も、同じ予感を抱いてか、その背中から凍えるような冷気を発し始めた。

 空気が張りつめる。

 北川はそんな店の雰囲気に辟易としたのかゆっくりと目を伏せる。そして、その張り詰めた空気をやぶる様に、ゆっくりと、それでいて鋭く続けた。

「店の主は……素っ首掻き落とされて、神棚に供えてあっての」

 そう言ったとたん、辺りの空気の温度がさらに酷く下がった気がした。

 そして、ふと目を上げた北川の目の前に、美代が、白い肌をさらに白くして立ち尽くしていた。

 感情も、熱もなくした、人形のような顔で。

 白く美しい。悲しげな顔で。

「じゃ……それは……もしかして……」

 北川は驚く事もなく、少し怒ったような顔で美代をしっかりと見据え、そのまっすぐな瞳から逃れることなく答えた。

 そうしないと、美代が倒れてしまうように思えたからだ。

「ああ、まちがいない」

 北川は、一呼吸おいて、その名を口にした。

「ありゃ疾風はやての仕業だ。疾風の総次郎にちがいない」 

 北川がそう言いはなったその刹那、どこからとのなく一条の風が、夜気を含んだ冷たい空気を屋台の内に吹き込んできた。

 小さな屋台の骨組みが、ガタガタと震えるような音を立てる。

「あの大悪党に、あの外道の仕業にちがいねぇよ」

 そういって北川は、両の腕をせわしなくさすった。

 吹き込んできた冷気のせいばかりでは、なかった。



 
「まちがい……ねぇんですかい?」

 いつもなら、暖かく優しい雰囲気に包まれているこの仕合せ屋も、すっかり冷え切ってしまっていた。

 北川のそらんじた悪党の名が、この店の雰囲気を凍り付かせてしまったからだ。

 その名は疾風の総次郎。

 江戸を恐怖の底におとしいれている名うての凶賊きょうぞく

 たしかに無理もない事ではあるのだが。それにしても店主の怖がりようは、少し奇異に感じられる。証拠に、北川に、恐る恐るそう尋ねた声も、聞いた事のない別人のもののように、震え、かすれていた。

「ああ、まちがいねぇ。自信はある」

 北川小さな疑念をぬぐうようにそう言って、猪口の酒をすすった。

 薄ら温い、まずい酒の味だった。

「まずは手口だ、店の主の生首を神棚に供えるなんてあの畜生にも劣る手口。そして何より…斬り口がな……」

 店主は、不審な顔で聞いた。

「斬り口……でございますか?」

 北川は、遠くを見つめて答える。

「ああ、こう見えても俺はやっとうをかじっておってな。それでいてこんな仕事だ、殺しやらなにやらで、人よりはたくさんの斬り口を見てきたつもりだ」

 自ら頷きながら、北川は続ける。

「その中でも、あの疾風の斬り口と来たら、そりゃ別格でな。それが悪党の残したものでなければ、見惚れてしまうような斬り口なのよ」

 北川は、心底惚れ込んでいるのか、恍惚の表情でそう語った。しかし、直後に思い直し、きゅっと表情を硬くした。

「いや、いけねぇな、悪党の斬り口なんぞほめるもんじゃねぇ。まぁとりあえず、仲間のあらためでも疾風の仕業にちがいないということでな。わしもそう思う」

 そう話す北川の隣に、いつの間にか美代が座っている。

 滅多な事では心の表情を見せない美代も、さすがに恐怖で北川という善なる物の側にいたかったのであろうか。小さな身体が小刻みに震えている。しかし、表情に力がみなぎっていた。

「それにな、おやじ、今回ばかりは生き証人がおってな」

 すると、今度は、北川の言葉にその美代が鋭く反応した。

「生き残りが……いたの?」

「ああ、そうだ」

 北川は、じっくりと美代の目を見据える。

 互いに、何かを探っているようでもあった。

「生き残りの名は、お豊。店に来たばかりの女中で、まだ年の頃は二十前の若い女でな。旦那の身の回りの世話……といや聞こえは良いが、まぁ平たく言えば、妾のような事をしておった女だ」

 北川は言いながら、しきりにあごの辺りをさすっている。

 美代の身体が、ピクリと動いた。

「ちょうど押し込みがあったその時も、お豊は主の布団に一緒におっての、それで、主をしとめにやってきた疾風と出くわしたってわけよ」 

 そこまで聞いて、美代は北川の袖を引いた。

 そうでもしなければ言葉も発せられないほどに、美代は狼狽しているように見える。

「じゃ、じゃあ、何でそのお豊さんは生きてるの?」

 美代は必死だ、声がうわずっている。

「なんで疾風を見て、その女は生きてるのよ」

 お豊という女が生きている事が、不満であるとでも言いたげに、美代は語気を強めてそう言った。

 ただの好奇ではない。

 何か、とても大切な何かを探り出そうとでもしているように北川には見えた。

「やめぇねか美代」

 その時、低い、地の底から聞こえてくるようなドスのきいた声で、店主が美代をたしなめた。

 いつもの店主からは、想像も及ばない声色。

 何か、大切なものを守ろうとしているような、必死の声。

「よい、きにするな」

 あまりに奇異な二人の様子につられてか、北川の声も、どことなし緊張しているような強張りを持っていた。

 つい先ほどまでの、穏やかな空気は、この三人の間にもはや存在してはいない。

「その女、お豊はの。目の前で主を殺されたそのあとに、じかに疾風に言われたそうだよ」

 北川は、眉間に深く皺を寄せ、さらに声を低くしていった。

「俺の顔だ、俺の顔をよく見ろ。そして忘れるな。俺が疾風の総次郎だ…とな」

 そこまで言うと、北川の袖をつかんでいたお美代の手から力がすぅっと抜け、今の今まで、険しく堅く凝っていた表情が、ゆるゆると一瞬にして溶けた。

「俺……?」

 美代は、何やら呟いている。

「疾風が……そう言ったの?」

 美代は、放心したかのような表情で、北川に尋ねた。

「ほんとに、本当に疾風自身がそう言ったの?」

「ああ」

 北川はそう短く答え、憎々しげに続けた。

「ひでぇ事をする野郎だ。主を殺して、その死体をなぶるだけに飽きたらず、その妾に生涯生き地獄を見せようってんっだからな」

 北川は、その中に疾風が潜んで笑っているかのように、恐ろしい表情で猪口ちょこの中の酒を睨みつけると、一気に飲み干した。

 思い掛けず、口調が、町人のようにかわっている。

 その心内に、怒りと憎しみがみなぎっているのか、猪口を持つ手が小刻みに震えていた。

「と、まぁそういうわけよ」

 そんな北川の隣で、美代は、頭を傾げて何かを考えている。 

 途中から、話すらろくに聞いていなかったようだ。

 短い沈黙が、仕合せ屋に訪れる。

 そして、ゆっくり、美代が口を開いた。

「ねぇ、おじちゃん?その人今も御番所に?」

「いや、今あそこは、亡骸の検めやら清めやらで手一杯でな、生きてる人間は、悪いが家に帰ってもらったよ」

 その言葉を聞いて、美代は弾かれるように立ち上がり、北川の肩を乱暴に揺すった。

「駄目、駄目だよおじちゃん」

 突然の美代の剣幕に、北川は慌てて声も出ない。

「そんなことしたら……」
 
 美代は叫んだ。

「その女の人、殺されちゃうよ!」

 これには北川も、面食らって聞き返す。

「おいおい、殺されるってぇおだやかじゃないぞ。そりゃいったい、誰にだ」

 美代は、焦りとあきれの混ざった表情で、北川に詰め寄る。

「そんなの、疾風にきまってるじゃない!」
 
 なに……疾風に?

「待てお美代、お前は自分が言っている事がわかっておるのか?」

 北川は続ける。

「疾風は、あの女をわざわざ生かしたのだ。だからこそ危険はなかろうと思い家に戻したというのに、その女が、それも、疾風に殺されるだと?」

 北川は、半ばあきれてそう言った、が、美代の真剣なまなざしと、この少女の中に潜む、たぐまれなる勘の働きを思うと、足の先から忍び寄るような不安を覚えていた。

 そんな馬鹿な事……ねぇよな。

「だってね、おじちゃん、それは……」

 美代はさらに焦燥感を漂わせ、それでも丁寧に、今回の出来事についての考えを述べた。

 美代の口からつるつるとあふれ出す、様々な事共。

 まるで講釈師かなにかのように、流れるように語られる言葉たちが、北川の耳を抜け、一つの事実を形取る。

 その内容に、北川は愕然とした。

「な、なんてこった、お美代、本当にそれで間違いはないのだな?」

 北川は、急に真顔になり、美代の肩をつかんでいった。もし、美代の言う事が本当であるなら、北川は大変な間違いをしでかした事になるからだ。

「うん、だから、だから早くその人の、お豊さんの所に行って」

 美代は叫んだ。そして小さく付け加える。

「たぶん、たぶんもう……」 

 その言葉をすべて聞くより早く、北川は弾かれるように立ち上がって「すまねぇ、お代はまたあとでな!」とだけ叫ぶと、鉄砲玉のように飛び出していった。

「美代、間違いはねぇのかい……」

 飛び出していった北川の座っていた辺りを眺めながら、ゆっくりと店主が言った。

「うん」

 美代は、そう一声だけ答えて、また七輪の前に座った。

「そうか、そうなのか」

 店主もそう一言つぶやいて、また、釜の中の湯を見つめた。

「良いのか、悪いのか……だな」

 釜の湯をぐるぐるとかき混ぜながら、つぶやいた店主の声は、美代には聞こえていなかったようだ。

 聞こえていなくて、よかったような気がしていた。
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