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第30幕 恒星との任務①

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 美翔が太志郎の任務に同行しているのと同時刻。真幌はヒビノ宮殿の前にいた。少し待っていると出入口の自動ドアが開き、中から立花恒星が出てきた。
「お前か……」
「副長さん、……お久しぶりです」
真幌は少し緊張気味に恒星を見る。恒星は静かに真幌を見る。その目線に真幌は戸惑う。
「確かお前は、真幌だったな」
「はい」
恒星は真幌の名前を覚えていた。
「今日は副長さんの仕事をお手伝いに来ました! よろしくお願いします!」
「ああ。そうかしこまらなくていい」
緊張する真幌を恒星は宥める。
「今日は何をするのですか?」
「俺の一族、『エンペライズ』の首領の護衛だ」
「エンペライズ? あの民族のですか?」
エンペライズとは、アジア各地の少数民族達が集結し、ひとつの部族となった戦闘民族。民族という名目だが実質は連合組織のようなものだ。
「今の一族の長は俺だが、組織として統治しているのは首領だ」
恒星は真幌を連れて歩き出す。

 ※

 やや速く歩く恒星の斜め後ろを真幌は歩く。彼の横顔を見ながら。
賑やかな声が響く出店の並ぶ市場を二人だけは口を開かずに歩く。
「……」
「……」
恒星もちらりと真幌を見る。
(この人の眼、なんか怖いかも……でも、なんか見ちゃうなぁ)
真幌は恒星の瞳が気になる。緑の鋭いそれは、恐ろしさと美麗さがある。
「ここだ」
「は、はぁ」
市場を抜けると、静かな住宅街に出る。二人の目の前には大きく、白いレンガで出来た屋敷がある。
恒星は屋敷の門扉にあるチャイムを押す。
――ピーンポーン
「首領、俺です。開けてください」
『はい。立花様お待ちしていました』
古い門扉が自動で開く。それと同時に同じように屋敷と扉が開く。そこから出てきたのは、
「恒星、久しぶりです」
「お待たせしました」
長く黒い髪をお団子にし、赤と茶色の女性用の漢服を着た四十代ほどの女性。それもとても麗しい。
真幌は少し見惚れる。女性は出てきて真幌と恒星のいる門扉の外に出る。
「貴方が、桃童の子ですね」
女性は真幌を見る。
「ええ? はい、あなたは?」
「私はアリサ」
女性はアリサと名乗る。
「この方が俺たちエンペライズの首領、アリサ様だ」
恒星はアリサを真幌に紹介する。
「は、はじめまして」
真幌は彼女に挨拶する。アリサは真幌の容姿や桃色の髪を見る。
「……」
「?」
「……首領行きましょう。お前も来い」
恒星はアリサと真幌を連れて歩き出す。

 ※

 アリサは真幌に歩幅を合わせて歩くが恒星は二人の前を歩く。
「副長さん、なんでそんなに速く歩くんですか? 普通えらい人の後ろを歩くでしょ?」
「前にいたほうがもしもの時に盾になりやすい。基本だ」
恒星は真幌に問われ背を向けたまま答える。
「えっと……」
真幌は隣を歩くアリサを見る。
「アリサでいいですよ。真幌くん」
「アリサさん。ボク達はどこに行くんですか?」
「『お墓参り』です」
「え?」
アリサは少し悲しい顔を真幌に見せる。
「お前にも関係があることだぞ」
恒星は少し振り返る。三人は人気のない道を歩いていく。
そうしていると、広い公園が見えてきた。そこには多くの木々、赤やピンク、紫色の花々が見える。そして巨大な、川や滝のような噴水も見える。
「わぁ……綺麗」
「『ラビリンスモーメント』。中央区で一番広い公園です」
「こんな場所があったんですね!」
花々と噴水に真幌は見入る。中央区に都会的な印象のあったゆえに意外性を感じている。
「あの、こんなところにお墓なんてあるのですか?」
「ええ。私達エンペライズが守れなかった人達の墓です」
「?」
真幌はアリサの発言の意味がよくわからない。
「ここだ」
『ラビリンスモーメント』の奥を進んでいくと、先程見た大きな噴水とは別の噴水があった。しかし水は出ておらず噴水としては機能していなかった。
「これは……? まさか……」
真幌はその噴水にはいくつもの小さく文字が刻まれているのを見つける。
「慰霊碑だ。昔殺されて血や、臓器、髪の毛を奪われた桃童トウホン達のな」
「……!」
真幌は恒星の言葉に驚き、黙る。
「あえて慰霊碑だとわかりにくくするために噴水に見立てたものにしてあるんだ。アリサ様は二ヶ月に一度ここに弔いに来ている」
恒星は淡々と語る。真幌は刻まれた文字をじっとひとつずつ見ている。
「あ!」
そして見覚えのある名前を見つけた。
はじめおぼろって……!! お父さん、お母さん!?」
始と朧。それは真幌の父と母の名前だった。
「やはり貴方は、始と朧の息子だったのですね……」
アリサは真幌を見る。真幌は、涙を流した。
「……お前はやっぱり、朧の……」
恒星は真幌の母、朧の名前に覚えがあった。
「やっぱり……お父さんとお母さんは、もういないんだ……」
真幌は長年確認出来ていなかった両親の死を、実感させられるのだった。


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