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第24幕 職人の技術

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 「タイ兄どこ行くんだよ」
「医務室」
黒影の横を通り過ぎる太志郎。
「あの人あんなに強かったなら、鉄子ちゃん出せばよかったじゃん!?」
「オペレーターはすぐ車出さないんだよ」
太志郎は傷を押さえながら速足で歩く。
「そういやグレゴーンさんは?」
「なんか誰かに電話してた。すごい興奮しながら」
太志郎はグレゴーンの姿を探すが見つからない。そのまま医務室に向っていく。
「……これ俺どうしたらいいんだろ」
黒影は遠くにいる海山、真幌、小空、キョウヤを見つめる。小さく見える彼らに何故か圧を感じる。その中にいる小空に大声で呼ばれた。
「黒影さーん!」
「え? なんでアイツに呼ばれるの!?」
小空に釣られたのは真幌だった。
「クロさーん! 小空ちゃんが呼んでまーす!」
「なんでお前そっち側なんだよ!」
黒影は重い足を上げて小空と真幌の近くに向かった。
「なんだよ。小空、急に呼んで」
黒影は二人の近くに来ると、小空を見る。
「遠くにいないでこっちにいなさいよ。あんたタイシさんが戦ってても遠くにいたじゃない」
「えー」
ちょっとしたことで呼ばれて黒影は不貞腐れる。
「お前も、シティナイツのヤツか?」
「は、はい。そうッスけど」
海山に呼ばれ黒影は少しビクリとなる。
「有名どころの三騎士ぐらいしか骨があるヤツはいないと思ったが他の連中も出来るみたいだな」
海山は先ほどの太志郎に関心していた。
「思いっきりボコった人のコメントじゃないって」
黒影は海山に呆れるのだった。
「お前は戦わねえのかよ?」
「いや俺はちょっと……」
黒影は海山から目をそらす。
「海山、少し休んだほうがいいですよ。貴方にも傷があります」
そう言ったのはキョウヤだった。
「そう言えば黒影さんはどんな戦いするの?」
小空は黒影を見る。見るからに太志郎のような武闘派には見えない。
「あ、俺武具職人だから戦いメインじゃないから」
黒影は戦闘に積極的ではないと態度で見せる。
「見せてやれよ黒影」
「わ! グレゴーンさん!?」
黒影の背後にいたのはグレゴーンだった。
「お前もシティナイツに選ばれた精鋭だろ?」
「……そうっすよね」
グレゴーンにもじっと見られ、黒影は小空のほうを見る。
「おい小空、俺と戦え」
「え? 私?」
「お前さっきどんな戦いするの? って言っただろ。教えてやるから」
「そ、そう」
黒影に言われるまま、小空は位置につく。黒影も彼女からやや離れた場所に立つ。
「小空ちゃんがんばってー」
「うんー!」
真幌の応援に小空は手を振る。
「真幌もああいうとこ子供っぽいな」
「いいじゃないの可愛いから」
黒影も真幌を見る。
「……面倒だけどやるよ。ささっとな」
黒影は懐からある物を出した。明らかにそれは、電動ドライバーだった。
「?」
小空は何あれ? と思いつつ自分も太ももに装備した銃に手を伸ばす。黄色いドローンが二人の勝負の開始を宣言する。
『レディ、ファイト!』
小空は両手に拳銃を持ち、黒影に向けて撃つ。
「行くよー! 組子ちゃん!」
黒影は電動ドライバーを「組子」と呼んだ。彼は銃弾を素早く避ける。小空は近づきながら撃つが黒影は電動ドライバーの先で弾を全て弾き、地面に落とす。
「!」
「いきなり激しいなお前!」
黒影は電動ドライバー、組子の先を小空に向ける。
「組子ちゃん、あの銃かなり武器かわいこちゃんだぞ!」
今度は黒影は小空に近付く。小空は避けれなかった。
黒影は組子の先を小空の右手の銃に向ける。
『解体乱舞!』
黒影は、組子で瞬く間に小空の右手の銃を分解した。
――ガッシャン!!
「!?」
バラバラのパーツになった銃が小空の足元に転がる。
「こっちもだよ!」
続けて左手の銃もバラバラにする。
――ガッシャァン!
「ええ!?」
小空は状況をようやく理解し、驚く。銃が二つとも分解され使い物にならなくなったのだ。それを理解した途端、顔の前に組子の先を向けられる。
「次はお前だよ」
黒影の目を小空は見る。その眼は自分を分解対象の機械を見るかのような、冷静な、悪く言えば冷酷な眼だった。
「……参った」
その眼に怯み、小空は負けを認めた。腕で抵抗しようと思ったが黒影の眼を見て負けを認めた。
『勝者、黒影!』
ドローンも黒影の勝利を確認した。
「ふー、仕事終わったぁ。職人に興味ない作業させないでくださいよ。組子ちゃんお疲れ」
黒影は組子を懐に仕舞う。
「……仕事ってあんた」
黒影の割り切った態度に小空は緊張が切れてムッとする。
「私の銃両方共ちゃんと直しなさいよ! 私これしか武器ないもん!」
「あーはいはい」
黒影はシアコンの足元に散らばった銃のパーツを風かのような速さで元の二つの銃に組み立てた。
「ん」
「あーよかったぁ! そもそもあんたのせいだからお礼は言わないけど!」
「お前なぁ」
「あれ、なんか軽くなったような?」
小空は二つの銃を持つ。今まで感じていた重みが少しなくなったような気がした。
「ちょっと気になったからアップデートしといた。そのうち礼してくれよ?」
「そ、そう? 一応お礼言っとくわ」
小空は銃を太ももに装備し直す。
「あれがシティナイツの武具職人ですか」
「ああ」
キョウヤの横にグレゴーンが来た。
「『武具の奇人』と呼ばれ刃物や銃の修繕、セキュリティシステムの開発と名の知れた技術者だと聞いています。職人気質ゆえの子供っぽいという噂も」
キョウヤは噂で知った黒影について語る。
「結構有能だぞ。アイツの技術のおかげでヒビノ宮殿のセキュリティは鉄の要塞だ。赤レンガだが」
「ちょっとマッドサイエンティストにも見えますが、信頼はあるみたいですね」
小空はそのまま真幌の元に行く。
「小空ちゃん大丈夫?」
「うん、まあ。アイツやばかったわ。とりあえず美翔とこ行こ」
二人はそのまま、美翔のいる医務室に向って行く。
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