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第21幕 隕石と炎

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 「もうそろそろ体育館空いてきたかしら?」
小空が美翔と真幌を連れて体育館の中を扉の外からのぞき込む。
「あてもうちょい腕相撲したかったな」
「兄ちゃん何しにきたの?」
美翔と真幌ものぞく。体育館は二組の対戦が行われているだけで、ややガラガラである。
「さっき腕相撲したり見てたりした人達も他の体育館に行ったみたいよ」
「あ、あそこにおるんは」
美翔は見覚えのある人に気付く。それは小空が対戦した人物、キョウヤだった。
「キョウヤさんだ」
小空もキョウヤを覚えていた。赤毛のガタイのある男と話しているように見える。
「あれ? 冬乃くんは?」
真幌は一緒にいたはずの冬乃がいないことに気付く。
「アイツは別の体育館行ったわ。同じ乱気道の人がおるからって」
美翔が真幌に説明する。
「ナガレもおらんけどどないしたん?」
美翔は先ほどまでいたナガレがいないことにも気づく。
「あら、ナガレくんも別の体育館よ。なんかあんたの腕相撲にびっくりしたからっぽい」
「なんやそれ」
ナガレがそばにいない理由を小空から知っても美翔は納得しなかった。
「美翔さん達、入らないのか?」
「また混んじまうぜ。ここ平日でも人多いから」
のぞき込む三人に後から来た太志郎と黒影が話しかける。
「えっと、なんかつい……」
「あのアホ隊長おるんちゃうかと思って」
狼狽え気味の小空に美翔が付け加える。美翔はミツテルを警戒していた。
「隊長、やっぱ警戒されてるよな。まあ俺達も庇う気にはなれないが」
「相手イジッてるわけじゃないけど声色とか態度とかなんか腹立つタイプだもんな」
太志郎と黒影も正直ミツテルに腹立つ時が多かった。本人に悪気はないがゆえに外的に改善させるのは厳しいのでなんとも言えない。
「でも今日は隊長来ない日だから大丈夫だよ。あの人は仕事で滅多にここには来ないから」
太志郎は率先するように体育館に入る。
「そ、そっか」
美翔も入り、真幌と小空もつられて入る。黒影も小空の後ろに回り入る。
「とりあえずキョウヤんとこ行こうや。隣の赤毛のおっさんも気になるし」
「俺達はここで見とくな」
美翔と真幌と小空はキョウヤに向って歩き、太志郎と黒影は体育館入り口近くで立ち止まる。
「なーなー」
「え?」
美翔はキョウヤに声をかけてみる。
「你好! あてのこと覚えとう?」
「君は……あ! 小空さんと一緒にいた子ですか?」
「せやで」
キョウヤは小空の近くにいた美翔を思い出す。キョウヤのそばにいた赤毛の男も美翔を見る。
「あー? お前がキョウヤを倒した女の仲間か?」
背も肩幅もあるタンクトップにジャージを着たその男はじっと美翔を見つめる。美翔は怯まず笑いかける。
「せやで! そいつはそこおるで!」
美翔は親指で小空を指差す。
「キョウヤさん、こないだはどうも」
小空もキョウヤに挨拶する。赤毛の男は一瞬小空に見惚れた。
「おお! すんごい綺麗な嬢ちゃんじゃねえか! 背ぇちっこいけどナイスバディで」
「貴方そういうことしか言えないんですか!」
男の下品とも見える発言にキョウヤは呆れる。
「大丈夫ですよキョウヤさん。当たり前のこと言われただけなので」
小空はキョウヤと赤毛の男に笑いかける。綺麗もナイスバディも彼女は自覚しているのだから。
「コイツこういう返事するからあんま褒めんほうがええで」
「あんたもあんま余計なこと言わないで」
小空の態度を美翔は指摘する。
「キョウヤもしかしてこの嬢ちゃんに見惚れて負けたんじゃねえのー?」
「変なこと言わないでください。私は水連様一筋ですので」
赤毛の男は今度はキョウヤの顔を見る。
「小空さんの銃の弾切れに油断してたら銃本体で思いっきり殴られたんですよ。細かいルールを用意しなかった私も落ち度はありますが」
「キョウヤもキョウヤだけど嬢ちゃんすんげえな」
赤毛の男は小空の勝利理由に驚く。
「てかおっさんはなんなん? キョウヤの知り合い?」
美翔は赤毛の男の素性を問う。
「あー、そうだった。俺ぁ、須磨海山すまかいざん。キョウヤとはトリオを組んでる。おっさんじゃねえぞ」
赤毛の男は、須磨海山と名乗った。海山の言った『トリオ』という単語に美翔は引っかかる。
「? トリオ? 三人って意味か?」
「おうよ。俺とキョウヤ、あとレイって奴がいる」
海山は美翔と小空、そして真幌を見る。
「てめえらもそうじゃねえのか?」
「え? あて等?」
美翔は真幌と小空を見る。
「真幌はあての弟弟子やから一緒におるけど、小空はなんか流れで一緒におるだけでなぁ……」
「なんかって何よ!?」
小空は美翔の反応に納得しなかった。
「確かに小空ちゃんだけ、あんまり関係ないかも」
「真幌くんまで!?」
真幌も美翔と同意見だった。
「ははっ、まあそういうもんかもな。俺達三人も結構なりゆきだったしよ」
「私達もあまり共通点はないですからね」
三人の様子を見て海山とキョウヤは笑う。
「でもま、一応仲間や思ってるで? ここにおる目的も境遇も似たようなもんやし」
「そう思ってるならそれを先に言いなさいよ」
「あー悪い」
「兄ちゃん、色々言う事の順序が変なことになってるよ」
美翔と小空を真幌は宥める。
「一番年下みたいな子に宥められてますよ……」
「俺とレイ坊が喧嘩したらお前もあんなだぜ」
海山とキョウヤはそっちのけにされている気分になる。
海山は美翔を再び見つめる。
「……坊主、名前は?」
「? あては美翔!」
美翔はここで初めて名乗る。
「さっき食堂の前通ったら腕相撲で騒ぐ声してたけどその中にお前いなかった?」
「おったで! あて連戦連勝したったわ」
「ほー」
腕相撲とは言え複数の大人と応戦出来ると海山は見る。
「じゃあ今度は俺と勝負しねえか? 腕相撲じゃなく本気の対戦で」
「ええで! やったるわ」
「俺は武器無しにしてやるけどお前は武器使っていいぜ」
「えらい自信あるやん」
「俺は基本武器使わねえから」
海山と美翔は対戦状況を決める。キョウヤと真幌と小空は、二人から離れる。
「おーい審判! コイツと戦うからジャッチ頼む!」
「え? 審判おらんやん?」
中央武道場で選手らの対戦を見る審判は、黄色の腕章を右腕にしており選手らはそれを見て審判を呼ぶ。しかし今はその腕章をした人物はいない。
「確かに人間の審判は忙しくていねえけど、上を見ろ」
海山は美翔に体育館の天井を見るように促せる。従ってみると、黄色いドローンが数個飛んでいる。ドローンのひとつが海山と美翔の目の前にブンと飛んでくる。
「なんや飛んできたで?」
「武道場スタッフが忙しい時はドローンが審判してくれっぞ」
「はぁ、なるほど」
海山の説明に美翔は納得する。
「ついでに撮影もし、その映像がネットで配信されます」
キョウヤが更に説明する。
「テレビとかサイトで見れる映像はこれが撮ってたんか」
美翔は更に納得する。海山と美翔は一定の距離を取る。
『レディー、ファィト!!』
ドローンから音声が流れ、戦闘が開始する。
「俺はちびっこでも容赦しねえぞ。来な」
「あんまちびっこ言うなや!」
美翔はブレスレットを外し、槍の姿に変える。槍の刃先を取り外し、棒状にする。
「せやぁ!」
棒を振りかざし、美翔は海山に向って走る。棒の先は海山に近付く。だが海山は棒の先を掴み動きを止めた。
そして、それを美翔ごと持ち上げて投げた。
「おわあ!?」
ドシン!
高く投げられ美翔は地面に叩き付けられる。
「兄ちゃん!」
真幌はそれを見て叫ぶ。
「あいたぁ、よっと……」
美翔はそれに負けずに立ち上がる。
ゴっ!!
海山はそんな美翔の前に素早く来て、腹を殴った。
『ファイアアタック!』
火のような熱さと痛みが美翔を襲う。
「がはぁ!」
美翔は衝撃で唾液を大量に吐いた。なんとか倒れはしなかった。
「おー、まだ立てるみたいだな」
「……丈夫なんは取り柄やから、な」
美翔は海山の頭を狙って棒で殴る。しかし海山は今度は素早く避けた。
(海山、やはり速度もパワーもありますね……本気で投げられて殴られても立てるあの子も大概ですが……)
キョウヤは戦う二人を見比べる。
避けたり受け止めたりを繰り返しつつ、殴っていく海山と棒で殴ろうと振り続けながらも殴られそれでも立ち上がる美翔。
「さすがにあかんな……これ……」
美翔は海山のパンチを逃れながら、棒から外し仕舞っていた槍の刃先を棒に取り付けて槍の形に戻す。
カチン!
「お、ようやく本気か?」
海山は軽口を続ける。
「怪我しても怒らんといてや!!」
重い刃先を海山に向け、走り込む。
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