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第6幕 家族のために
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真幌が眠った横で美翔はPHS型の電子端末を出しメールを打った。昼間に小空と連絡先を交換したのだ。昼間のバイアスの件について話がしたかった。
『小空、まだおきとう?
親父に怒られんかった?
今日は引き返してもたけど、密売者退治は諦めてへんやろ?』
返事はすぐに帰ってきた。
『起きてるよ。諦めてなんかないよ
パパには危険な真似するなって怒られちゃったけど、この件はほっとけないの』
メールのやり取りは続いた。
『なんでや?』
『うちのパパは若い時、スイートポイズンみたいな危険物を回収したり製造組織を壊滅させたりするエージェント、捜査官をしてたの。今は財閥継ぐのを私とお兄ちゃんを育てるために引退したけど。本当はパパもバイアスを倒して密売を止めたいけど、前からの持病が悪化してうまく銃を持って戦えなくなったの』
『あの親父からお前は銃習ったんやね』
『うん。だから私がアイツを倒すって思ったのよ
ちょっとでもパパの力になりたいの』
美翔は文面をじっと見つめる。
『そないか。あてと同じやね』
『何が?』
『あても拳法の師匠と一緒に戦うために中央区来たんや。真幌も
今も危険なとこにおるんちゃうか思うと、ほんまはすぐにでも師匠のとこ行きたいねん
師匠はあてと真幌の親代わりでもあるからな』
『そっか……師匠はあんたの家族なのね』
『せや、真幌もな。バイアスんとこへの突撃、やっぱりあても行くわ。真幌も連れてく
お礼は水餃子な!』
『ありがとね。成功したら鏑木町で一番のを食べさせてあげる』
『うん! 式部に怒られても絶対行くわ! じゃあもう寝るわ』
そう送ると美翔は端末を切って眠りについた。
※
「やからタイシ、式部の説得付き合ってぇな」
翌日の朝のホテルの一室、美翔は太志郎に通話で交渉する。
『美翔さん達がそうしたいのは、わかったけどこういう事件はシティナイツの仕事だよ。あんた達は引いてくれ』
太志郎は立場上拒否する。
「ええー!? あて等と小空が行かな意味ないねんて!」
「ボク達、小空ちゃんの力になりたいんです」
美翔が通話する横で真幌も話す。真幌も朝、美翔と小空のメールを見て触発され同行を選んだのだ。
「小空は親父の力なりたいんや。あて等もマスターの力になりたいねん。……ただ困ってる家族を助けたいねん」
『……』
美翔が生半可な覚悟で中央区に来たわけではないのを太志郎は薄々気付いていた。
「あても真幌も負けへん。やからシティナイツには迷惑かけん」
家族を助けたい。その思いに太志郎にも覚えがある。
『……わかった。式部さんは俺が説得しておく。責任は俺が持つ』
「! ええの! 謝謝!!」
『その代わり負けたらダメだからね』
「うん!」
「はい!」
美翔は通話を切った。
※
美翔と真幌は、小空からメールで送られた近道で鏑木町の端にある、バイアスのビルから少し離れた場所についた。
「小空!」
「あ、美翔と真幌くん!」
三人は合流し、物陰に隠れてバイアスのビルを覗く。
「あとでタイシも来るって言ってくれたわ」
「やった! 心強い!」
「小空ちゃん、バイアスを倒すって言ったけど、まさか殺さないよね?」
「もちろん殺しはしないわよ。捕まえてシティナイツに引き渡すの」
「せやな、じゃないとマスターのこと聞かれへんもん」
三人は少し会議する。
※
「今週の売上は五十万か、まあいいほうだな」
古いビルの中、スーツを着た男、バイアスが売上を計算していた。そうしていると、
「うわあああ!!」
聞きなれない部下のうめき声が聞こえた。
「なんだ? 侵入者入ってきたにしては大げさだな」
バイアスはなんだなんだと動いた。
バイアスの足元にいる『それ』は、その足音で起きた。
※
「購入希望者ですか? 合言葉を言ってください」
美翔と真幌と小空がビルの中に入ると、受付には黒スーツの男がいた。
「客やないよ。ここの責任者出しいや」
美翔が前に出る。
「はぁ、購入しないのでしたら出て行ってもらいます」
黒スーツの男が美翔に殴りかかる。もちろん美翔は避ける。
「まあまあパワーあるな、じゃあちょっと本気出すか」
美翔は右手のブレスレットを外して、光らせ槍に変形させる。
「真幌も本気出しとき!」
「うん!」
真幌も右手にしているブレスレットを外し光らせ、二本のトンファーに変形させる。
「!?」
ブレスレットが姿を変える光景に小空は驚く。
「それって……」
「今は戦いや、小空も銃出しとき」
「え、ええ」
美翔に言われ小空も二丁拳銃を出す。
「セァ!!」
美翔は男達の攻撃を避けて顔面を蹴る。
「ぐはああ!」
蹴られた男は倒れる。それと同時にスーツの男達が何が起きたとぞろそろと集まってくる。
「おー、叩いたらめっちゃ出てくるやん」
「兄ちゃん言ってる場合じゃないよ」
思わずクスリと笑う美翔に真幌はツッコミを入れる。
美翔は槍から刃の部分を外し、棒にするとそれを振るう。
「セイアァァァッ!!」
真幌も両手にトンファーを装備し応戦する。美翔ほどではないが男達にダメージを与えている。
「えい!」
大人数の大人を相手にするのは初めてだったが、真幌はなんとか戦う。
「こ、このガキ!」
離れた場所にいた男二人は銃を出す。その瞬間、
バン!! ババン!!
男達の銃に実弾が当たり、滑り落ちる。撃ち落としたのは小空だった。
「頭は狙わないであげたわ」
三人は持てる力と戦い方で男達にダメージを与える。男達は横に倒れ気絶していく。
「よっし! 真幌大丈夫か?」
「うん!」
「ちょっと私の心配は?」
「お前元気そうやん」
「兄ちゃんったら」
出てきた男達が全員倒れているのを見て、美翔と真幌と小空はほっとし他愛ない話をしてみる。
そこに、親玉は現れた。
「なんだなんだ? 騒がしい」
バイアスだ。
「あ! お前か!? 密売連中の親玉は!?」
「だったらなんだ?」
バイアスはゆっくりと近づいてくる。バイアスは倒れている男達を見る。
「……もう帰ったほうがいいよ、痛い目に遭いたくないならね、じゃないと」
そう言いかけた途端、美翔のほうがバイアスに近づき、頭を棒で殴りかかった。
ゴチンっ!!
「来るんやったらはよこいやい!」
「ぐはあ!」
バイアスは衝撃で前のめりで倒れた。
「兄ちゃん……」
「あんた今すごい音しなかった?」
真幌と小空は少し複雑になる。
「さあはよコイツをシティナイツに引き渡そうや」
美翔がバイアスを連れて行こうとすると、獣の声が聞こえた。
「グルルル、キェエ」
「え?」
バイアスが出てきた方向から、大きな虎が威嚇しながら出てきた。
「ええ!? 虎!? なんでや!?」
「嘘……」
「なんでこんなとこで虎飼ってるのよ!」
小空は銃を向け虎に撃つ。弾は前足に当たるが虎は動きを止めない。
「ええ!? 利いてない!」
虎は止まらないまま、美翔に向って飛びついてくる。
「ガアアア!!」
「ああ!」
やばい食われる。とっさに美翔は棒でガードし逃れようとした。しかし意外な形で助かった。
ドコン!!
大きな殴られる音がした。
虎を殴ったのは、そこにいるはずのない男、太志郎だった。
「!? タイシ!?」
「……」
黒いドライビンググローブをはめた手で勢いよく殴ったのだ。
「……美翔さん、下がっていろ」
虎が倒れたのを見た太志郎は、右に向いた長い前髪をかきあげ、目付きを変えた。
丸みある眼は鋭くなる。オールバックヘアに鋭い目付き。普段は見せない戦う時の太志郎のサインだ。
「来てみろよ。轢き飛ばしてやるから」
「グルルルァァ!!」
虎は標的を太志郎に変えて向って行く。太志郎は怯まず、鋭いパンチを喰らわす。
虎はパンチに負けじと向って行くが太志郎の攻撃は終わらない。
その激しい戦闘を、美翔達はじっと見ていた。美翔は言われた通り離れていた。
「な、なんや……?」
昨日の夜と朝の通話まで優しく接してくれていた太志郎とは思えないほど彼の攻撃は激しく荒々しかった。
『強制停止!!』
虎の顔面に太志郎は強いパンチを喰らわせた。そのパンチで、虎は半死半生になり文字通り動きを停止させた。
「……フー」
太志郎は虎の気絶を確認すると、オールバックの前髪を崩しグローブを外した。
「! ああ!! やっちまった!! また俺やってしまった!」
「え?」
途端太志郎は後悔のように叫ぶ。
「あああーー、俺タイマンでああなる癖やっぱ治ってねえ……」
ぼそぼそとも話す。
「タイシ何言ってるんや? まずなんでここおるん?」
美翔は近づく。太志郎は美翔が知る丸みある目付きになっていた。
「あ、美翔さん、悪いけどさっきのは見なかったことにしてくれ」
「できひんわ! あんなえらい戦い方!」
太志郎の戦いの凄まじさは、美翔と真幌と小空の印象に残ってしまったようだ。
※
太志郎は警察を呼び、バイアスと部下の男達を全員引き渡した。
何台ものパトカーが走る中、美翔達四人は現場から離れる。
「なんでここに来たん?」
「やっぱ美翔さん達ほっとけないって思ってきたんだよ。式部さんも俺が現場行って俺が全部片づけたことにするならいいって言ってくれたし」
太志郎は美翔達になぜバイアスのビルに来たのかを話す。
「でもタイシさんがあんなに強いなんて……」
「びっくりしまくりよ」
真幌と小空はまだ驚いたままだった。まるで別人のように見えたのだ。
「もしかして怖がらせちゃった?」
太志郎は狼狽える。
「いえむしろ助かりました」
「むしろ一人で二人分美味しいです!」
真幌も小空も怖がってはいなかった。小空はきゃいきゃいとときめいている。
「確かにちょっとびっくりしたけど、あても嫌やなかったで」
「そ、そう?」
美翔の一言に太志郎は照れる。
「小空!!」
「あ、パパ」
騒ぎを知った留吉が美翔達の元に歩いてきた。彼は走りたかったが走れなかった。持病は足に合るのだ。
「小空んとこのおっちゃん!」
「小空ちゃんのお父さん……」
美翔と真幌は留吉を見る。彼の過去や持病の件を知ったので何とも言いようがない感覚がした。
「小空ちゃんと胡蝶参謀のお父さん……」
上司の父を太志郎は見る。
「お前、無茶したのか?! 怪我してないか!?」
留吉は小空を心配する。
「大丈夫よ、コイツらが強くて助かりまくったし」
小空は美翔と真幌にウインクする。
「まあな! あて等つええもん!」
「なんとかなりました」
美翔と真幌は笑いかけてみる。
「マジでやったのか……お前ら拳法使えると小空から聞いたが、師匠は誰だ?」
「あて等の師匠はクオーツや! めっちゃ強いねん!」
「「えええ!?」」
美翔がクオーツの名を口にした途端、留吉と小空は大きく驚いた。
「あんた達の師匠、クオーツだったの?」
「せやで。あて等マスター・クオーツ探しに来たんやで」
「マスター・クオーツのこと何か知ってるんですか?」
美翔と真幌は親子の反応の理由がわからなかった。
「そりゃあ有名人だ。かつての柊市をテロ組織から守ったり、凶器や危険物の密輸を阻止したりと、昔の柊市は全域戦争レベルで治安が悪かったが彼の活躍でかなり治安よくなったのだ。彼は警官として拳法家としての功績から『桃源郷の守り人』と呼ばれている」
留吉は捜査官時代にクオーツの活躍を見たり知ったりしていたので、よく知っている。
「警察の捜査官だったのは知ってたけど……」
「めっさごつい人やったんやね」
初めて聞かされたクオーツの功績に二人は唖然とする。
「あんたらそりゃ大人相手にあんなに戦えるわけね」
二人の強さに小空は納得する。
「銃持ってた奴は小空がなんとかしてくれてたから、あて等も助かったで」
「うん、ありがとう小空ちゃん」
美翔と真幌は小空に礼を言う。
「小空……」
「パパが銃を教えてくれたから、私も今日戦えたのよ! 私も胡蝶お兄ちゃんもパパの子だがら簡単には負けないわ」
小空はにこりと留吉に笑う。
「そうか……」
その笑顔に、留吉は何も言えなくなった。
「……ボク達も、マスターの前であんな風に笑える日が来たらいいね」
「せやな!」
その光景を美翔と真幌は見つめるのであった。
「ああせや! 小空、お礼の中華奢ってえな! あて水餃子がええ! タイシも行こ!」
「美翔さん食い気も強いな……」
太志郎は美翔にぐいと上着の袖を引っ張られるのであった。
※
柊には王子がいる。いや正確には王子のような存在がいる。
その王子が柊に何をもたらすかは、まだ誰も知らない。
『小空、まだおきとう?
親父に怒られんかった?
今日は引き返してもたけど、密売者退治は諦めてへんやろ?』
返事はすぐに帰ってきた。
『起きてるよ。諦めてなんかないよ
パパには危険な真似するなって怒られちゃったけど、この件はほっとけないの』
メールのやり取りは続いた。
『なんでや?』
『うちのパパは若い時、スイートポイズンみたいな危険物を回収したり製造組織を壊滅させたりするエージェント、捜査官をしてたの。今は財閥継ぐのを私とお兄ちゃんを育てるために引退したけど。本当はパパもバイアスを倒して密売を止めたいけど、前からの持病が悪化してうまく銃を持って戦えなくなったの』
『あの親父からお前は銃習ったんやね』
『うん。だから私がアイツを倒すって思ったのよ
ちょっとでもパパの力になりたいの』
美翔は文面をじっと見つめる。
『そないか。あてと同じやね』
『何が?』
『あても拳法の師匠と一緒に戦うために中央区来たんや。真幌も
今も危険なとこにおるんちゃうか思うと、ほんまはすぐにでも師匠のとこ行きたいねん
師匠はあてと真幌の親代わりでもあるからな』
『そっか……師匠はあんたの家族なのね』
『せや、真幌もな。バイアスんとこへの突撃、やっぱりあても行くわ。真幌も連れてく
お礼は水餃子な!』
『ありがとね。成功したら鏑木町で一番のを食べさせてあげる』
『うん! 式部に怒られても絶対行くわ! じゃあもう寝るわ』
そう送ると美翔は端末を切って眠りについた。
※
「やからタイシ、式部の説得付き合ってぇな」
翌日の朝のホテルの一室、美翔は太志郎に通話で交渉する。
『美翔さん達がそうしたいのは、わかったけどこういう事件はシティナイツの仕事だよ。あんた達は引いてくれ』
太志郎は立場上拒否する。
「ええー!? あて等と小空が行かな意味ないねんて!」
「ボク達、小空ちゃんの力になりたいんです」
美翔が通話する横で真幌も話す。真幌も朝、美翔と小空のメールを見て触発され同行を選んだのだ。
「小空は親父の力なりたいんや。あて等もマスターの力になりたいねん。……ただ困ってる家族を助けたいねん」
『……』
美翔が生半可な覚悟で中央区に来たわけではないのを太志郎は薄々気付いていた。
「あても真幌も負けへん。やからシティナイツには迷惑かけん」
家族を助けたい。その思いに太志郎にも覚えがある。
『……わかった。式部さんは俺が説得しておく。責任は俺が持つ』
「! ええの! 謝謝!!」
『その代わり負けたらダメだからね』
「うん!」
「はい!」
美翔は通話を切った。
※
美翔と真幌は、小空からメールで送られた近道で鏑木町の端にある、バイアスのビルから少し離れた場所についた。
「小空!」
「あ、美翔と真幌くん!」
三人は合流し、物陰に隠れてバイアスのビルを覗く。
「あとでタイシも来るって言ってくれたわ」
「やった! 心強い!」
「小空ちゃん、バイアスを倒すって言ったけど、まさか殺さないよね?」
「もちろん殺しはしないわよ。捕まえてシティナイツに引き渡すの」
「せやな、じゃないとマスターのこと聞かれへんもん」
三人は少し会議する。
※
「今週の売上は五十万か、まあいいほうだな」
古いビルの中、スーツを着た男、バイアスが売上を計算していた。そうしていると、
「うわあああ!!」
聞きなれない部下のうめき声が聞こえた。
「なんだ? 侵入者入ってきたにしては大げさだな」
バイアスはなんだなんだと動いた。
バイアスの足元にいる『それ』は、その足音で起きた。
※
「購入希望者ですか? 合言葉を言ってください」
美翔と真幌と小空がビルの中に入ると、受付には黒スーツの男がいた。
「客やないよ。ここの責任者出しいや」
美翔が前に出る。
「はぁ、購入しないのでしたら出て行ってもらいます」
黒スーツの男が美翔に殴りかかる。もちろん美翔は避ける。
「まあまあパワーあるな、じゃあちょっと本気出すか」
美翔は右手のブレスレットを外して、光らせ槍に変形させる。
「真幌も本気出しとき!」
「うん!」
真幌も右手にしているブレスレットを外し光らせ、二本のトンファーに変形させる。
「!?」
ブレスレットが姿を変える光景に小空は驚く。
「それって……」
「今は戦いや、小空も銃出しとき」
「え、ええ」
美翔に言われ小空も二丁拳銃を出す。
「セァ!!」
美翔は男達の攻撃を避けて顔面を蹴る。
「ぐはああ!」
蹴られた男は倒れる。それと同時にスーツの男達が何が起きたとぞろそろと集まってくる。
「おー、叩いたらめっちゃ出てくるやん」
「兄ちゃん言ってる場合じゃないよ」
思わずクスリと笑う美翔に真幌はツッコミを入れる。
美翔は槍から刃の部分を外し、棒にするとそれを振るう。
「セイアァァァッ!!」
真幌も両手にトンファーを装備し応戦する。美翔ほどではないが男達にダメージを与えている。
「えい!」
大人数の大人を相手にするのは初めてだったが、真幌はなんとか戦う。
「こ、このガキ!」
離れた場所にいた男二人は銃を出す。その瞬間、
バン!! ババン!!
男達の銃に実弾が当たり、滑り落ちる。撃ち落としたのは小空だった。
「頭は狙わないであげたわ」
三人は持てる力と戦い方で男達にダメージを与える。男達は横に倒れ気絶していく。
「よっし! 真幌大丈夫か?」
「うん!」
「ちょっと私の心配は?」
「お前元気そうやん」
「兄ちゃんったら」
出てきた男達が全員倒れているのを見て、美翔と真幌と小空はほっとし他愛ない話をしてみる。
そこに、親玉は現れた。
「なんだなんだ? 騒がしい」
バイアスだ。
「あ! お前か!? 密売連中の親玉は!?」
「だったらなんだ?」
バイアスはゆっくりと近づいてくる。バイアスは倒れている男達を見る。
「……もう帰ったほうがいいよ、痛い目に遭いたくないならね、じゃないと」
そう言いかけた途端、美翔のほうがバイアスに近づき、頭を棒で殴りかかった。
ゴチンっ!!
「来るんやったらはよこいやい!」
「ぐはあ!」
バイアスは衝撃で前のめりで倒れた。
「兄ちゃん……」
「あんた今すごい音しなかった?」
真幌と小空は少し複雑になる。
「さあはよコイツをシティナイツに引き渡そうや」
美翔がバイアスを連れて行こうとすると、獣の声が聞こえた。
「グルルル、キェエ」
「え?」
バイアスが出てきた方向から、大きな虎が威嚇しながら出てきた。
「ええ!? 虎!? なんでや!?」
「嘘……」
「なんでこんなとこで虎飼ってるのよ!」
小空は銃を向け虎に撃つ。弾は前足に当たるが虎は動きを止めない。
「ええ!? 利いてない!」
虎は止まらないまま、美翔に向って飛びついてくる。
「ガアアア!!」
「ああ!」
やばい食われる。とっさに美翔は棒でガードし逃れようとした。しかし意外な形で助かった。
ドコン!!
大きな殴られる音がした。
虎を殴ったのは、そこにいるはずのない男、太志郎だった。
「!? タイシ!?」
「……」
黒いドライビンググローブをはめた手で勢いよく殴ったのだ。
「……美翔さん、下がっていろ」
虎が倒れたのを見た太志郎は、右に向いた長い前髪をかきあげ、目付きを変えた。
丸みある眼は鋭くなる。オールバックヘアに鋭い目付き。普段は見せない戦う時の太志郎のサインだ。
「来てみろよ。轢き飛ばしてやるから」
「グルルルァァ!!」
虎は標的を太志郎に変えて向って行く。太志郎は怯まず、鋭いパンチを喰らわす。
虎はパンチに負けじと向って行くが太志郎の攻撃は終わらない。
その激しい戦闘を、美翔達はじっと見ていた。美翔は言われた通り離れていた。
「な、なんや……?」
昨日の夜と朝の通話まで優しく接してくれていた太志郎とは思えないほど彼の攻撃は激しく荒々しかった。
『強制停止!!』
虎の顔面に太志郎は強いパンチを喰らわせた。そのパンチで、虎は半死半生になり文字通り動きを停止させた。
「……フー」
太志郎は虎の気絶を確認すると、オールバックの前髪を崩しグローブを外した。
「! ああ!! やっちまった!! また俺やってしまった!」
「え?」
途端太志郎は後悔のように叫ぶ。
「あああーー、俺タイマンでああなる癖やっぱ治ってねえ……」
ぼそぼそとも話す。
「タイシ何言ってるんや? まずなんでここおるん?」
美翔は近づく。太志郎は美翔が知る丸みある目付きになっていた。
「あ、美翔さん、悪いけどさっきのは見なかったことにしてくれ」
「できひんわ! あんなえらい戦い方!」
太志郎の戦いの凄まじさは、美翔と真幌と小空の印象に残ってしまったようだ。
※
太志郎は警察を呼び、バイアスと部下の男達を全員引き渡した。
何台ものパトカーが走る中、美翔達四人は現場から離れる。
「なんでここに来たん?」
「やっぱ美翔さん達ほっとけないって思ってきたんだよ。式部さんも俺が現場行って俺が全部片づけたことにするならいいって言ってくれたし」
太志郎は美翔達になぜバイアスのビルに来たのかを話す。
「でもタイシさんがあんなに強いなんて……」
「びっくりしまくりよ」
真幌と小空はまだ驚いたままだった。まるで別人のように見えたのだ。
「もしかして怖がらせちゃった?」
太志郎は狼狽える。
「いえむしろ助かりました」
「むしろ一人で二人分美味しいです!」
真幌も小空も怖がってはいなかった。小空はきゃいきゃいとときめいている。
「確かにちょっとびっくりしたけど、あても嫌やなかったで」
「そ、そう?」
美翔の一言に太志郎は照れる。
「小空!!」
「あ、パパ」
騒ぎを知った留吉が美翔達の元に歩いてきた。彼は走りたかったが走れなかった。持病は足に合るのだ。
「小空んとこのおっちゃん!」
「小空ちゃんのお父さん……」
美翔と真幌は留吉を見る。彼の過去や持病の件を知ったので何とも言いようがない感覚がした。
「小空ちゃんと胡蝶参謀のお父さん……」
上司の父を太志郎は見る。
「お前、無茶したのか?! 怪我してないか!?」
留吉は小空を心配する。
「大丈夫よ、コイツらが強くて助かりまくったし」
小空は美翔と真幌にウインクする。
「まあな! あて等つええもん!」
「なんとかなりました」
美翔と真幌は笑いかけてみる。
「マジでやったのか……お前ら拳法使えると小空から聞いたが、師匠は誰だ?」
「あて等の師匠はクオーツや! めっちゃ強いねん!」
「「えええ!?」」
美翔がクオーツの名を口にした途端、留吉と小空は大きく驚いた。
「あんた達の師匠、クオーツだったの?」
「せやで。あて等マスター・クオーツ探しに来たんやで」
「マスター・クオーツのこと何か知ってるんですか?」
美翔と真幌は親子の反応の理由がわからなかった。
「そりゃあ有名人だ。かつての柊市をテロ組織から守ったり、凶器や危険物の密輸を阻止したりと、昔の柊市は全域戦争レベルで治安が悪かったが彼の活躍でかなり治安よくなったのだ。彼は警官として拳法家としての功績から『桃源郷の守り人』と呼ばれている」
留吉は捜査官時代にクオーツの活躍を見たり知ったりしていたので、よく知っている。
「警察の捜査官だったのは知ってたけど……」
「めっさごつい人やったんやね」
初めて聞かされたクオーツの功績に二人は唖然とする。
「あんたらそりゃ大人相手にあんなに戦えるわけね」
二人の強さに小空は納得する。
「銃持ってた奴は小空がなんとかしてくれてたから、あて等も助かったで」
「うん、ありがとう小空ちゃん」
美翔と真幌は小空に礼を言う。
「小空……」
「パパが銃を教えてくれたから、私も今日戦えたのよ! 私も胡蝶お兄ちゃんもパパの子だがら簡単には負けないわ」
小空はにこりと留吉に笑う。
「そうか……」
その笑顔に、留吉は何も言えなくなった。
「……ボク達も、マスターの前であんな風に笑える日が来たらいいね」
「せやな!」
その光景を美翔と真幌は見つめるのであった。
「ああせや! 小空、お礼の中華奢ってえな! あて水餃子がええ! タイシも行こ!」
「美翔さん食い気も強いな……」
太志郎は美翔にぐいと上着の袖を引っ張られるのであった。
※
柊には王子がいる。いや正確には王子のような存在がいる。
その王子が柊に何をもたらすかは、まだ誰も知らない。
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宮廷の通訳士である英明(インミン)は、文字を扱う仕事をしていることから「暗号の解読」を頼まれることもある。ある日、後宮入りした若い妃に充てられてた手紙が謎の文字で書かれていたことから、これは恋文ではないかと噂になった。真相は単純で、兄が妹に充てただけの悪意のない内容だったが、これをきっかけに静月(ジンユェ)という若い妃のことを知る。通訳士と、後宮の妃。立場は違えど、後宮に生きる華として、二人は陰謀の渦に巻き込まれることになって――
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
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