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act.1 夏海と冬樹
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地球のアジア圏の大陸は数日前から惑星ゲルダの軍隊によって制圧されている。
地球の大地と労働力である人間を狙ったゲルダ人は大型の宇宙船が地球に着陸してすぐにアジアの大半を占領し、国の政府を降伏させた。
そんな情報を自宅のテレビで青年は見ていた。やや古いマンションの一室で彼は食パンを食べていた。
「ゲルダ人強いなぁ。ほんとに地球征服しちゃうのかな?」
「兄ちゃんすげえ呑気だな」
兄ちゃんと呼ばれた青年の名は夏海。呼んだのは彼の弟、冬樹だ。
「だって今の地球、どこも貧しくて他の星に仕事に行く人も多いだろ? だから征服されたほうが豊かになって生活も楽になるんじゃないかなーって」
「ゲルダ人の真似したって俺達が幸せになるわけじゃないっての。ほら、今日は俺も兄ちゃんも検査の日だから支度して」
呑気な兄としっかりした弟。それが夏海と冬樹だった。
「うん。二人とも同じ日に検査に行くのって久々だね」
夏海は冬樹に優しく笑いかけるのだった。
※
「……申し上げにくいのですが、やはり病原体が胃にも移転しています」
病院の診察室で冬樹は検査を終え、医師から結果を聞かされる。その席には夏海もいた。
冬樹は二年前から肝臓に難病を発症し、入退院を繰り返している。治療法がまだ明確になっておらず手探りな処置をしてきたが、胃にも病魔は広がっていた。
「もう治ったと思ったのに……」
夏海は座っている冬樹を見る。
「兄ちゃんごめんね……」
「冬樹が謝ることじゃないよ! 病気がちょっと珍しかっただけで治らないって決まったわけじゃないんだよ?」
夏海は冬樹をなだめる。
「冬樹くん、先に出て待っててください」
「はい」
冬樹は立ち上がり、診察室を出る。医師は夏海を見る。
「……冬樹くんの病状は表には出にくいですが確実に蝕んでいます。胃だけではなく、脳への進行していき……徐々に歩くのも困難になっていきます」
「やっぱりここじゃない病院でないとダメですか?」
「はい。すぐにでも治療を受けないと危険な状態です」
冬樹のいない場で夏海は冬樹の実際の状況を知るのだった。
「俺も診察ありますんで、じゃあ」
夏海も診察室を出る。自分自身も検査のいる身体だからだ。
※
「夏海最近どう?」
「うーん、やっぱり冬樹はここより大きな病院に入院したほうがいいって」
「冬樹じゃなくてあんたよ」
別の診察室で夏海は座り、女医と向かい合う。女医の名は千秋。夏海と冬樹の従姉でもある。
「千秋にもらったホルモンの安定剤、ちゃんと飲んでるよ」
「うん、えらいえらい。……あんた性自認は、男で間違いないよね?」
「うん。体はこんなだけど一応男だよ」
夏海が千秋の元に診察に来る理由は、夏海が普通の男性ではなく男性であり女性でもある存在『両性具有』であるからだ。
夏海は生まれつき、男性器と肛門の間の位置に子宮に続く割れたような穴がある。
「父さんも母さんも俺がなんであれ大切だって言ってくれたのがもう懐かしいな」
夏海と冬樹の両親は早くに亡くなっている。両性具有という特殊な肉体である自分を愛してくれた二人がもういないことに夏海は時々寂しくなるのだった。
「とにかく俺より今はまず冬樹が心配だよ。大きい病院に移したいけど、お金ないんだよな……」
夏海はため息をつく。
「宇宙人のところで仕事見つかったら何とかなると思って求人調べてるけどどれも全然足りないんだよ」
「私もなんとかしてあげたいけど、私も生活が厳しいからね」
千秋の勤務している病院もいわゆるカツカツであり、彼女の給料も少ない。
二人してため息をついていると、夏海の電話が鳴る。
―—リーン! リーン!
「あんた病院では携帯の音消して!」
「ああごめん! ちょっと出ないと」
夏海は電話に出る。
「はいもしもし」
『夏海くんかい? 宇宙人からの仕事が見つかったぞ!』
電話の相手は住んでいる街の役所の役員だ。
「え? マジで? どんな仕事!? 俺なんでもやる! 冬樹が助かるならなんでもやる!」
夏海は勢いよく役員に食いつく。
「ああ、お前の身体ならではの仕事、かもしれないな」
役員は少し言いづらそうになる。
「どういうこと?」
役員はゆっくりと言った。
「ゲルダ人の王子との、政略結婚だ」
「はい?」
夏海は何を言っているかわからず固まるのだった。
地球の大地と労働力である人間を狙ったゲルダ人は大型の宇宙船が地球に着陸してすぐにアジアの大半を占領し、国の政府を降伏させた。
そんな情報を自宅のテレビで青年は見ていた。やや古いマンションの一室で彼は食パンを食べていた。
「ゲルダ人強いなぁ。ほんとに地球征服しちゃうのかな?」
「兄ちゃんすげえ呑気だな」
兄ちゃんと呼ばれた青年の名は夏海。呼んだのは彼の弟、冬樹だ。
「だって今の地球、どこも貧しくて他の星に仕事に行く人も多いだろ? だから征服されたほうが豊かになって生活も楽になるんじゃないかなーって」
「ゲルダ人の真似したって俺達が幸せになるわけじゃないっての。ほら、今日は俺も兄ちゃんも検査の日だから支度して」
呑気な兄としっかりした弟。それが夏海と冬樹だった。
「うん。二人とも同じ日に検査に行くのって久々だね」
夏海は冬樹に優しく笑いかけるのだった。
※
「……申し上げにくいのですが、やはり病原体が胃にも移転しています」
病院の診察室で冬樹は検査を終え、医師から結果を聞かされる。その席には夏海もいた。
冬樹は二年前から肝臓に難病を発症し、入退院を繰り返している。治療法がまだ明確になっておらず手探りな処置をしてきたが、胃にも病魔は広がっていた。
「もう治ったと思ったのに……」
夏海は座っている冬樹を見る。
「兄ちゃんごめんね……」
「冬樹が謝ることじゃないよ! 病気がちょっと珍しかっただけで治らないって決まったわけじゃないんだよ?」
夏海は冬樹をなだめる。
「冬樹くん、先に出て待っててください」
「はい」
冬樹は立ち上がり、診察室を出る。医師は夏海を見る。
「……冬樹くんの病状は表には出にくいですが確実に蝕んでいます。胃だけではなく、脳への進行していき……徐々に歩くのも困難になっていきます」
「やっぱりここじゃない病院でないとダメですか?」
「はい。すぐにでも治療を受けないと危険な状態です」
冬樹のいない場で夏海は冬樹の実際の状況を知るのだった。
「俺も診察ありますんで、じゃあ」
夏海も診察室を出る。自分自身も検査のいる身体だからだ。
※
「夏海最近どう?」
「うーん、やっぱり冬樹はここより大きな病院に入院したほうがいいって」
「冬樹じゃなくてあんたよ」
別の診察室で夏海は座り、女医と向かい合う。女医の名は千秋。夏海と冬樹の従姉でもある。
「千秋にもらったホルモンの安定剤、ちゃんと飲んでるよ」
「うん、えらいえらい。……あんた性自認は、男で間違いないよね?」
「うん。体はこんなだけど一応男だよ」
夏海が千秋の元に診察に来る理由は、夏海が普通の男性ではなく男性であり女性でもある存在『両性具有』であるからだ。
夏海は生まれつき、男性器と肛門の間の位置に子宮に続く割れたような穴がある。
「父さんも母さんも俺がなんであれ大切だって言ってくれたのがもう懐かしいな」
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「とにかく俺より今はまず冬樹が心配だよ。大きい病院に移したいけど、お金ないんだよな……」
夏海はため息をつく。
「宇宙人のところで仕事見つかったら何とかなると思って求人調べてるけどどれも全然足りないんだよ」
「私もなんとかしてあげたいけど、私も生活が厳しいからね」
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二人してため息をついていると、夏海の電話が鳴る。
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「ああごめん! ちょっと出ないと」
夏海は電話に出る。
「はいもしもし」
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