庶民なオタクの俺が石油王の嫁さんになった件

PART1 何がどうした

 1.石油王に出会いました


[side名波]

　『お金がない。石油王と結婚したい』
これはフォロワーさん(ほとんど女性)達がよくツイートする単語。オタクとしての出費や生活費で所持金を削りまくっていることを意味している。このツイートに俺も共感する。石油王じゃなくてもいい、誰かに無条件にお金をもらいたい。
俺の場合、生活とオタ活以外にも出費がある。実家の両親や高校生の弟への仕送りだ。弟には希望している大学に入学して勉強に集中してもらいたい。
俺、高木名波は貧乏でオタクで弟命という残念要素しかない男だ。貯金してもアニメグッズや映画館行ったりしてすり減らすわで足りない。弟に仕送りはいらないと言われてもやめない。
「それでは失礼しました」
依頼先の家を出て会社に戻るために歩く。仕事は家事代行。いつも色んな家を回って家事をしに行く。
ああ、もっとセレブな家がお得意様にならないだろうか。仕事にマンネリさを感じていると妙な邪念が出てくる。
仕事と出費に終われてただただいそがしい毎日。何かが変わらないだろうか…と。
そんな時だった。
「…あ」
高層ビルの入り口近くで信号待ちをしているところにまだ新品であろうベンツが止まる。そのベンツから一人の男が降りる。白いスーツで髪も色も黒い外国人、しかもよく見なくてもわかるくらいの美男だ。ドラマのワンシーンのような光景を俺は目撃してしまった。そして、俺とその美男は目が合った。
美男は迷いなく俺の元に歩いてくる。なんだろう、俺なんか気に食わないことしたか？
会話可能の距離になると、美男は俺の手を両手で握る。そしてこう言った。
「今先程一目惚れしました。結婚してください」
ものすごい流暢な日本語でいきなり真剣な眼でプロポーズをされた。
「あ、あの…貴方は？」
「失礼しました。わたくし、先日ハリス石油の代表に就任しました。オーガスト・ハリスと申します」ハリス石油って、海外のニュースでたまに見る石油王の会社じゃん！！　 リアルセレブ！？　セレブのこと考えたらリアルセレブが現れたの！？　し、しかもプロポーズ…？？
俺セレブと結婚するの？　それってつまり、もうお金に困ることはないの？
「もう一度言います。結婚してください」
金に目が眩んだ俺は拒否など出来なかった。
「もちろんお受けします」
これが石油王と俺、オーガストさんとの出会いとプロポーズであった…