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後編
月日は流れ……
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『うん、アタシも会いたかったよ。元気だった? こうしてみると、二人で仲良くやってるみたいだね』
「うん、私たちはね。大学も一緒に通ってるよ」
『そっかー。大学はどう? 楽しい?』
「うん。難しい授業も多いけど、毎日楽しいよ」
俺と花宮は、りんに近況報告をした。大学のこと、最近流行りのこと、アパートで夕食に何を作っているか等々、話題に事欠かなかった。
りんもあちらの世界で、楽しくやっているようだった。母親と一緒に過ごしていて、たまに和幸さんにも会ったりするらしい。
りんの霊力は地縛霊の時よりずっと弱い。憑依はもちろんできないし、俺の霊壁の中に入っても移動ができない。でもこうしてお墓の前で話せるだけでも、俺たちは十分だった。
俺たちはりんがいた時の思い出話でも盛り上がった。特に修学旅行やあの卒業旅行で行ったテーマパークが、俺たちの3人の心の中に深く刻まれている。いくら話しても、時間が全然たりない。
でも俺たちは帰らないといけない。最終バスの時間が迫っていた。
「りんちゃん、また明日も会えるよね?」
『うん、大丈夫だよ。16日には帰らないといけないんだけどね』
「わかった。ちょうどお盆の期間だけってことだね。じゃあ毎日来るから」
花宮は心から嬉しそうにそう言った。俺たちは挨拶もそこそこに、急いで片付けて霊園を後にした。
俺と花宮は翌14日も、そして15日、16日も同じ時間帯に墓地へお参りに行った。そして2時間ぐらい、りんと一緒に思い出話を語って帰ってくる。最終日の16日には茄子で作った精霊牛をお供えして、りんを現世から浄土へ見送った。りんは『また来年会おうねー』と手を振って帰っていった。
それからりんは、毎年8月の13日から16日の4日間だけ、時間も日没後の2時間程度だけだが、俺たちの前に姿を現してくれるようになった。そして俺と花宮はこの時期にりんに会いに行くことが、毎年の恒例行事になっていった。
◆◆◆
栄花大学に在学中も、俺と花宮はずっと恋人同士だった。いつの間にか俺たちは、お互いのことを「琴葉」「ナオ君」と呼ぶ仲になっていた。
二人の仲はお互いの家族の間でも公認となっていて、琴葉はたびたび俺のアパートにも泊まるような仲になっていた。大学4年生になった頃、俺たちは将来結婚することを約束した。
俺たちは大学を卒業すると就職せず、それぞれの実家の寺に戻ってお互いの寺の仕事を手伝うことにした。琴葉の実家の完永寺は経営状態があまり芳しくなかったので、琴葉が大学で学んだマーケティング知識を生かしてなんとかテコ入れを図ろうとした。しかし……なかなか上手くはいかなかった。
俺は兄貴にアドバイスを聞きながら、ときどき完永寺へ出向いて改善策を提示したりしていた。俺は完永寺へ行くことが多くなり、その度に琴葉の自宅にお邪魔して泊まらせてもらっていた。
俺はもうその時点で、ほとんど花宮家の家族のような存在になっていた。琴葉は一人っ子なので、琴葉のご両親は俺がお邪魔すると本当の息子のように可愛がってくれた。
そして……りんが成仏してから、つまり俺と琴葉が高校を卒業してから、10年の歳月が過ぎていた。
その年の4月、俺と琴葉は結婚した。花宮琴葉は「城之内琴葉」に名前が変わった。名前が変わったのは琴葉の方だったが……俺は琴葉の自宅に住むことになった。いわゆるマスオさん状態だ。
俺たちの結婚が決まると、琴葉のご両親からは「できれば花宮家に婿に来て欲しい」と強く言われていた。
幸い俺は次男だし、俺の実家の寺は兄貴が継ぐことになる。ただ……俺は霊能者としてまだまだ修行が必要な身であるし、将来的に俺の兄貴に万が一のことがあるとも限らない。
一方で琴葉のご両親からは、琴葉と俺の二人でなんとか今の完永寺を立て直して欲しい。そして先々は二人で完永寺を継いで欲しいという要望があったのだ。
なので俺たちは折衷案として、当面は琴葉の自宅にご両親と一緒に住んで、完永寺の再建に注力する。ただし名前は琴葉の方に「城之内琴葉」になってもらって、俺は自分の実家の寺に修行のため必要な時期に通う、というスタイルを取った。
その案で琴葉のご両親は、とても喜んでくれた。可愛い一人娘が離れずにいてくれるというのは、ご両親にとっては嬉しいことなんだと思う。
ちなみにこれは余談だが、俺の兄貴は5年前に環奈先生と結婚した。環奈先生は俺の実家の寺へ嫁入りしてくれた。オヤジはとても喜んでいた。
実は俺の兄貴も、学生時代の頃から環奈先生のことは気になっていたらしい。ただ環奈先生が自分にはない霊能力を持っていたので、その嫉妬や反骨心から素直になれなかったという面があったらしい。まったくあの兄貴にしては、実に子供っぽい側面があったものだ。
環奈先生は今、積極的に水巌寺の業務のお手伝いをしてくれている。落ち着いたらまた宿坊を始めたいと言っているらしい。兄貴と二人でこれからも水巌寺を盛り立ててくれることだろう。
雄介は国立二ツ橋大学を卒業後、実家の久山不動産で働いている。肩書は常務取締役で、父親の元で帝王学を勉強中ということのようだ。
雄介はまだ独身で、あいかわらずふらふらと遊んでいるようにも見える。時々高校の同級生の福井と飲みに行っているようだが、実際どういう関係なのかは俺にもわからない。
「うん、私たちはね。大学も一緒に通ってるよ」
『そっかー。大学はどう? 楽しい?』
「うん。難しい授業も多いけど、毎日楽しいよ」
俺と花宮は、りんに近況報告をした。大学のこと、最近流行りのこと、アパートで夕食に何を作っているか等々、話題に事欠かなかった。
りんもあちらの世界で、楽しくやっているようだった。母親と一緒に過ごしていて、たまに和幸さんにも会ったりするらしい。
りんの霊力は地縛霊の時よりずっと弱い。憑依はもちろんできないし、俺の霊壁の中に入っても移動ができない。でもこうしてお墓の前で話せるだけでも、俺たちは十分だった。
俺たちはりんがいた時の思い出話でも盛り上がった。特に修学旅行やあの卒業旅行で行ったテーマパークが、俺たちの3人の心の中に深く刻まれている。いくら話しても、時間が全然たりない。
でも俺たちは帰らないといけない。最終バスの時間が迫っていた。
「りんちゃん、また明日も会えるよね?」
『うん、大丈夫だよ。16日には帰らないといけないんだけどね』
「わかった。ちょうどお盆の期間だけってことだね。じゃあ毎日来るから」
花宮は心から嬉しそうにそう言った。俺たちは挨拶もそこそこに、急いで片付けて霊園を後にした。
俺と花宮は翌14日も、そして15日、16日も同じ時間帯に墓地へお参りに行った。そして2時間ぐらい、りんと一緒に思い出話を語って帰ってくる。最終日の16日には茄子で作った精霊牛をお供えして、りんを現世から浄土へ見送った。りんは『また来年会おうねー』と手を振って帰っていった。
それからりんは、毎年8月の13日から16日の4日間だけ、時間も日没後の2時間程度だけだが、俺たちの前に姿を現してくれるようになった。そして俺と花宮はこの時期にりんに会いに行くことが、毎年の恒例行事になっていった。
◆◆◆
栄花大学に在学中も、俺と花宮はずっと恋人同士だった。いつの間にか俺たちは、お互いのことを「琴葉」「ナオ君」と呼ぶ仲になっていた。
二人の仲はお互いの家族の間でも公認となっていて、琴葉はたびたび俺のアパートにも泊まるような仲になっていた。大学4年生になった頃、俺たちは将来結婚することを約束した。
俺たちは大学を卒業すると就職せず、それぞれの実家の寺に戻ってお互いの寺の仕事を手伝うことにした。琴葉の実家の完永寺は経営状態があまり芳しくなかったので、琴葉が大学で学んだマーケティング知識を生かしてなんとかテコ入れを図ろうとした。しかし……なかなか上手くはいかなかった。
俺は兄貴にアドバイスを聞きながら、ときどき完永寺へ出向いて改善策を提示したりしていた。俺は完永寺へ行くことが多くなり、その度に琴葉の自宅にお邪魔して泊まらせてもらっていた。
俺はもうその時点で、ほとんど花宮家の家族のような存在になっていた。琴葉は一人っ子なので、琴葉のご両親は俺がお邪魔すると本当の息子のように可愛がってくれた。
そして……りんが成仏してから、つまり俺と琴葉が高校を卒業してから、10年の歳月が過ぎていた。
その年の4月、俺と琴葉は結婚した。花宮琴葉は「城之内琴葉」に名前が変わった。名前が変わったのは琴葉の方だったが……俺は琴葉の自宅に住むことになった。いわゆるマスオさん状態だ。
俺たちの結婚が決まると、琴葉のご両親からは「できれば花宮家に婿に来て欲しい」と強く言われていた。
幸い俺は次男だし、俺の実家の寺は兄貴が継ぐことになる。ただ……俺は霊能者としてまだまだ修行が必要な身であるし、将来的に俺の兄貴に万が一のことがあるとも限らない。
一方で琴葉のご両親からは、琴葉と俺の二人でなんとか今の完永寺を立て直して欲しい。そして先々は二人で完永寺を継いで欲しいという要望があったのだ。
なので俺たちは折衷案として、当面は琴葉の自宅にご両親と一緒に住んで、完永寺の再建に注力する。ただし名前は琴葉の方に「城之内琴葉」になってもらって、俺は自分の実家の寺に修行のため必要な時期に通う、というスタイルを取った。
その案で琴葉のご両親は、とても喜んでくれた。可愛い一人娘が離れずにいてくれるというのは、ご両親にとっては嬉しいことなんだと思う。
ちなみにこれは余談だが、俺の兄貴は5年前に環奈先生と結婚した。環奈先生は俺の実家の寺へ嫁入りしてくれた。オヤジはとても喜んでいた。
実は俺の兄貴も、学生時代の頃から環奈先生のことは気になっていたらしい。ただ環奈先生が自分にはない霊能力を持っていたので、その嫉妬や反骨心から素直になれなかったという面があったらしい。まったくあの兄貴にしては、実に子供っぽい側面があったものだ。
環奈先生は今、積極的に水巌寺の業務のお手伝いをしてくれている。落ち着いたらまた宿坊を始めたいと言っているらしい。兄貴と二人でこれからも水巌寺を盛り立ててくれることだろう。
雄介は国立二ツ橋大学を卒業後、実家の久山不動産で働いている。肩書は常務取締役で、父親の元で帝王学を勉強中ということのようだ。
雄介はまだ独身で、あいかわらずふらふらと遊んでいるようにも見える。時々高校の同級生の福井と飲みに行っているようだが、実際どういう関係なのかは俺にもわからない。
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