学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太

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後編

アタシ、最高に幸せだよ。

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「次は何乗る?」

 花宮に憑依したりんがチュロスを食べながら、そう訊いてきた。

「……少しゆっくりしないか? コースター系が続いたろ?」

「うん……琴ちゃんも、ちょっと休憩したいって」

 花宮だって疲れるだろう。ただでさえ俺たちは、朝早い時間から来ているわけだからな。

「でもさ……もう、すっごく楽しい。こんなに楽しいところがあったんだね。こう言ったら怒られるかもだけど、秋に行った遊園地の100倍楽しいよ」

「まあここと比べたら、地方の遊園地はかわいそうだ」

 さっきからりんは、楽しい楽しいを連発している。もちろん俺も花宮も楽しんでいる。本当に来てよかった。

 俺たちは休息しがてら、お土産屋を覗いてみることにした。閉園近くなるとお土産屋が混雑して大変なことになるという、花宮とりんからの事前情報だった。

 俺たちはお土産屋の中を散策する。キャラクターグッズから食べ物までたくさんの種類がある。幸いまだそれほど混雑もしていなかった。

「城之内君。これ、買わない?」

 花宮がそういって見つけてきたのは、キャラクターのペア・キーチェーンだ。

 ハートマークの下で、二人のキャラクターが向かい合ってキスをしている。そしてそれぞれのキャラクターをカップルの男女が一つづつ所有するタイプのキーチェーンで、まさにカップル御用達の商品だ。

「ちょっとベタだけど……いいぞ、買おう。りんのも買おうか?」

『アタシはいいや。琴ちゃんのヤツをシェアするよ』

「うん、そうだね。私とりんちゃんで共有ってことにしよう」

 俺はとりあえずそのペア・キーチェーンを購入した。支払いを済ませて外に出ると、それぞれのキーチェーンをお互いのカバンにつけた。花宮は買ってきたキャラクターのカチューシャをつけていて、可愛さが倍増していた。

 花宮もりんも夜のパレードを楽しみにしていたので、ちょっと早めに場所取りをする。俺はホットドッグと飲み物を買ってきて、3人で座って食べていた。

 日が沈みかけそうなタイミングで、お待ちかねのパレードが始まった。電子的な音楽が流れ、綺羅びやかな電飾を施したパレードカーがやってくる。そしてパレードカーの上ではそれぞれのキャラクターが軽快な動きとともに、観客全員に全力で手を振ってくれている。

 俺たちは早めに場所を確保していたので、パレードを至近距離で楽しむことができた。それぞれのキャラクターが通過するたび、花宮もりんも声上げながら手を振っている。そしてパレードカーの上から、キャラクターたちも手を振り返してくれていた。

 パレードカーの周りのダンザーたちに合わせて、りんも花宮も小躍りしている。まわりの観客もほぼ全員同じノリだ。とくに小さな子どもたちが一生懸命ダンスをしている姿が、とても可愛い。

 そして最後のパレードカーが俺たちの前を通過していった。花宮もりんも最後まで手を振り続けていた。

「パレード、綺麗だったね」

『うん、イルミネーションも綺麗だったし、ダンサーたちもカッコ良かったよね』

 女性陣は二人とも、パレードの余韻に浸っていた。確かにあれだけ豪華なパレードだったら、リピーターが多いのも頷ける。

 俺たちはアプリで待ち時間の少ないアトラクションを調べて、それらをいくつか楽しんだ。主に小さい子供向けのアトラクションだったが、女性陣はそれでも満足だったようだ。




『あーもうすぐ閉園時間じゃん! 早いなぁ……もっと遊びたいのに』

 時刻は夜の8時を過ぎていた。閉園時間は9時。りんの恨めしそうな念話が聞こえた。

「確かに早いよな。あっという間だった」

「でも旅行はもう1日あるじゃない。明日はりんちゃんの誕生日のお祝いをしないとね」

 そう。明日3月25日は、りんの誕生日だ。その意味もあってこの日程を選んだのだ。明日はこのテーマパークには来ないが、東京に出て買い物をして美味しいものを食べて帰ろうというプランだ。もちろんりんの誕生日のお祝いを兼ねてということになる。

『あ、そっか。嬉しいなー。でもいつかまた、もう1度ここに来ようよ。今度は夏がいいんじゃない? あの水がバシャーンってかかる乗り物とか、楽しそうだもん』

「あー夏は楽しいかも」

「そうだな。でも夏は待ち時間が暑くて大変だぞ」

『アタシは平気だもん。暑くないし』

「もーりんちゃん、いいなぁ。今だって結構寒いんだよ」

 3月下旬の夜だから、結構寒いのは確かだ。厚着をしているが、頬とか耳とかは結構冷たい。

 俺たちがそんな話をしていると、突然ドンッと低くて大きな音が聞こえた。音の方へ目をやると、ちょうどお城の向こうの夜空に大きな光の大輪が花を咲かせていた。

「あ、花火だ!」

『すごーい! 綺麗!』

 俺たち3人は夜空に浮かぶ光のパレードに目を奪われる。すると花宮は俺の腕を取ると、りんに向かって言った。

「りんちゃん。私の中に入りなよ」

『え? いいの? じゃあ……遠慮なく』

 りんはそう言うと、花宮の体の中にスッと入り込んだ。花宮に憑依したりんは俺の背中に両手を回し、体に抱きついたまま花火を見上げる。

「本当に綺麗……夢みたい」

「ああ、綺麗だな」

 俺はりんの背中に手を回して抱き寄せる。空に浮かぶ色とりどりの花火が、彼女の横顔を照らす。りんは目に薄っすらと涙を浮かべていた。

 そして花火は最後に盛大なフィナーレを迎え、光の余韻を残して終わった。空には花火の後の煙が舞っている。周りの観客の拍手も聞こえた。

 りんは俺に抱きついたままだった。そして……肩を小さく震わせていた。

「りん?」

「ナオ……アタシ、こんなに幸せでいいのかな」

 りんは涙声でそう呟いた。

「ナオ、ありがとう。あのときアタシに出会ってくれて。あのときアタシを助けてくれて、本当にありがとう」

「りん……」

 俺は言葉に詰まった。りんは俺と出会ったばっかりに、その命を失った。でもりんは……俺と出会ったことに、ありがとうと言ってくれた。こんな俺に、ありがとう、って……。

「りん。こちらこそ、ありがとうだ」

「アタシ、最高に幸せだよ。好きな人に出会って、一緒に生活できて。親友もできて、一緒に旅行もできて……それにこうして好きな人に抱きしめられて、一緒に花火を見れたんだよ。もうアタシ、本当にいつ死んでもいい」

 嗚咽をこらえながら、りんは言葉を絞り出した。もう死んでるだろ、なんて無粋なジョークは必要なかった。俺はそれからしばらくの間、りんを抱きしめていた。りんの嗚咽がおさまるまで、閉園の案内のアナウンスが流れるまで、俺たちはずっと抱き合って立ち尽くしていた。
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