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後編

8月31日

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 6月に入ると同時に、蒸し暑い日が続いた。次第に雨の日も多くなってきた。

 修学旅行以来、俺はクラスで雄介だけじゃなく、本田や山瀬、福井ともよく話すようになった。俺たちは時々学校帰りにマクドに寄って話し込んだりするような仲になり、たまに花宮もそれに参加することもあったりする。

 本田と山瀬は、仲の良い友達という位置づけになった。雄介が「告らねえの?」とけしかけると、本田は「今はいいよ。自信ないし、受験もあるしね」とのことらしい。

 6月の中間試験は、俺達にとって大事な試験となる。栄花大学への推薦を希望する生徒は、この試験が内申点の対象となる最後の試験だからだ。特に俺と花宮は気合を入れないといけない。

 俺たちはまた勉強会を企画した。しかし雄介が「今度は本田たちとも一緒にやろうぜ」と言ったので、修学旅行で同じ班だった5人+花宮の合計6人で勉強会をすることになった。

 授業が終わってから花宮にはうちのクラスに来てもらって、勉強会を開催した。今回は本田も加わったので、教えてもらえる人が2人になった。これで雄介の負担も減るのかなと思っていた。ところが……思わぬ伏兵がいた。山瀬の学力レベルが、かなりヤバイ水準だった。

 山瀬は2年のときも、何度か赤点を食らったことがあるらしい。特に英語が壊滅的で、基本的な英単語が頭に入っていなかったりする。

 山瀬は2年生のとき英作文の試験で「類は友を呼ぶ」という問題に「Rui call Tomo.」と書いたそうだ。「calls だったら、部分点をもらえたかもしれないね」と本田は山瀬を慰めていたが、そういう問題でもない。

 結局本田は「山瀬専用の講師」となり、雄介は一人で俺と花宮の面倒を見ることになった。

 福井はその見た目通り、成績もかなり優秀のようだ。「一応わたしも、受験する予定なの。だから今年は頑張らなきゃね」と、笑顔でそう言った。そう言えば最近、福井は銀縁メガネをコンタクトに変えた。もともと美人の顔立ちだったので、突然あらわれた「美人のゆるふわお姉さん」の登場はクラスでも話題となった。

 勉強会を開催すること数回、俺たちは中間テストに臨んだ。テスト期間中、りんはアパートでお留守番だったが、勉強の邪魔にならないように静かにしてくれていた。今回は手応えもかなりいい。

 勉強会の成果が出たのか、テストの結果は俺としてはかなり良かった。花宮も同じで、二人とも学年順位がグンと上昇した。なんとかこれで栄花大学への推薦は大丈夫だろう。あとは希望学部が通るかどうかだ。




 7月の半ばを過ぎても、りんは成仏する気配を一向に見せない。俺たちはそのことすら、記憶の外にあるような錯覚に陥っている。りんの霊力も全く落ちてゆく気配を見せない。もちろん俺も花宮も、りんにはまだ側にいてほしいと願っている。

 それから……花宮は両親に、俺と交際していることを話したらしい。

「もう『そうだろうな』ぐらいに思ってたみたい。お父さんは『城之内君だったら、心配ない』って、なんだかちょっと喜んでるみたいだったよ」

 花宮はそう言って笑った。とりあえず反対はされていないみたいだ。期待を裏切らないように頑張らないと。

 一応俺もオヤジには、花宮と付き合ってることは報告してある。「そうか。まあ大事にすることじゃな」と言われただけだったが。

 夏休みに入ると、俺は実家に戻って例のごとく修行を続けた。8月に入ると、花宮と環奈先生も修行へやってきた。二人とも霊が見えて困ることは今のところないようだった。

 美久は俺と花宮が付き合っていることを既に知っていた。オヤジがそれとなく話したらしい。花宮が俺の実家に来たときには「いいもん! 浄土真宗本願寺派の神前結婚で、重婚を可能にしてもらうようにお父さんに頼むんだから!」と、美久は花宮の前で拗ねる有様だった。

 俺の夏休みの修行は、去年よりもタフになった。オヤジと一緒に山に籠もって、悪霊化した小動物の強制成仏を試みたりした。なんとかできたが、時間がかかりすぎる。まだまだ修行が必要だ。

 学校の宿題は去年より随分少なくなった。おそらく一般入試の生徒たちのことも考えてのことだと思う。なんとか花宮の誕生日前には、宿題を終えられそうだ。

 そして8月の終わりに、俺は実家からアパートへ戻ることにした。8月31日、花宮の誕生日をりんと一緒に祝うためだ。


              ◆◆◆


「でも本当にりんちゃん、来なかったんだね」

「ああ。あいつなりに、気を使ったんだろうな」

 今日8月31日は花宮の誕生日。俺と花宮は映画館の中で、話題の青春アニメが始まるのを待っていた。

 花宮の誕生日をどうやって祝おうかと、事前にりんに相談したところ……

「昼間はナオと2人でデートしておいでよ。それからここへ来て、3人でお祝いしよ? それでさ、前の日にハヤシライスでも作っておけばいいじゃん」

 かくして俺は前日にりんの指導のもと、ハヤシライスを作っておいた。そして今日31日、俺は花宮と二人でデートの最中だ。
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