77 / 94
後編
8月31日
しおりを挟む
6月に入ると同時に、蒸し暑い日が続いた。次第に雨の日も多くなってきた。
修学旅行以来、俺はクラスで雄介だけじゃなく、本田や山瀬、福井ともよく話すようになった。俺たちは時々学校帰りにマクドに寄って話し込んだりするような仲になり、たまに花宮もそれに参加することもあったりする。
本田と山瀬は、仲の良い友達という位置づけになった。雄介が「告らねえの?」とけしかけると、本田は「今はいいよ。自信ないし、受験もあるしね」とのことらしい。
6月の中間試験は、俺達にとって大事な試験となる。栄花大学への推薦を希望する生徒は、この試験が内申点の対象となる最後の試験だからだ。特に俺と花宮は気合を入れないといけない。
俺たちはまた勉強会を企画した。しかし雄介が「今度は本田たちとも一緒にやろうぜ」と言ったので、修学旅行で同じ班だった5人+花宮の合計6人で勉強会をすることになった。
授業が終わってから花宮にはうちのクラスに来てもらって、勉強会を開催した。今回は本田も加わったので、教えてもらえる人が2人になった。これで雄介の負担も減るのかなと思っていた。ところが……思わぬ伏兵がいた。山瀬の学力レベルが、かなりヤバイ水準だった。
山瀬は2年のときも、何度か赤点を食らったことがあるらしい。特に英語が壊滅的で、基本的な英単語が頭に入っていなかったりする。
山瀬は2年生のとき英作文の試験で「類は友を呼ぶ」という問題に「Rui call Tomo.」と書いたそうだ。「calls だったら、部分点をもらえたかもしれないね」と本田は山瀬を慰めていたが、そういう問題でもない。
結局本田は「山瀬専用の講師」となり、雄介は一人で俺と花宮の面倒を見ることになった。
福井はその見た目通り、成績もかなり優秀のようだ。「一応わたしも、受験する予定なの。だから今年は頑張らなきゃね」と、笑顔でそう言った。そう言えば最近、福井は銀縁メガネをコンタクトに変えた。もともと美人の顔立ちだったので、突然あらわれた「美人のゆるふわお姉さん」の登場はクラスでも話題となった。
勉強会を開催すること数回、俺たちは中間テストに臨んだ。テスト期間中、りんはアパートでお留守番だったが、勉強の邪魔にならないように静かにしてくれていた。今回は手応えもかなりいい。
勉強会の成果が出たのか、テストの結果は俺としてはかなり良かった。花宮も同じで、二人とも学年順位がグンと上昇した。なんとかこれで栄花大学への推薦は大丈夫だろう。あとは希望学部が通るかどうかだ。
7月の半ばを過ぎても、りんは成仏する気配を一向に見せない。俺たちはそのことすら、記憶の外にあるような錯覚に陥っている。りんの霊力も全く落ちてゆく気配を見せない。もちろん俺も花宮も、りんにはまだ側にいてほしいと願っている。
それから……花宮は両親に、俺と交際していることを話したらしい。
「もう『そうだろうな』ぐらいに思ってたみたい。お父さんは『城之内君だったら、心配ない』って、なんだかちょっと喜んでるみたいだったよ」
花宮はそう言って笑った。とりあえず反対はされていないみたいだ。期待を裏切らないように頑張らないと。
一応俺もオヤジには、花宮と付き合ってることは報告してある。「そうか。まあ大事にすることじゃな」と言われただけだったが。
夏休みに入ると、俺は実家に戻って例のごとく修行を続けた。8月に入ると、花宮と環奈先生も修行へやってきた。二人とも霊が見えて困ることは今のところないようだった。
美久は俺と花宮が付き合っていることを既に知っていた。オヤジがそれとなく話したらしい。花宮が俺の実家に来たときには「いいもん! 浄土真宗本願寺派の神前結婚で、重婚を可能にしてもらうようにお父さんに頼むんだから!」と、美久は花宮の前で拗ねる有様だった。
俺の夏休みの修行は、去年よりもタフになった。オヤジと一緒に山に籠もって、悪霊化した小動物の強制成仏を試みたりした。なんとかできたが、時間がかかりすぎる。まだまだ修行が必要だ。
学校の宿題は去年より随分少なくなった。おそらく一般入試の生徒たちのことも考えてのことだと思う。なんとか花宮の誕生日前には、宿題を終えられそうだ。
そして8月の終わりに、俺は実家からアパートへ戻ることにした。8月31日、花宮の誕生日をりんと一緒に祝うためだ。
◆◆◆
「でも本当にりんちゃん、来なかったんだね」
「ああ。あいつなりに、気を使ったんだろうな」
今日8月31日は花宮の誕生日。俺と花宮は映画館の中で、話題の青春アニメが始まるのを待っていた。
花宮の誕生日をどうやって祝おうかと、事前にりんに相談したところ……
「昼間はナオと2人でデートしておいでよ。それからここへ来て、3人でお祝いしよ? それでさ、前の日にハヤシライスでも作っておけばいいじゃん」
かくして俺は前日にりんの指導のもと、ハヤシライスを作っておいた。そして今日31日、俺は花宮と二人でデートの最中だ。
修学旅行以来、俺はクラスで雄介だけじゃなく、本田や山瀬、福井ともよく話すようになった。俺たちは時々学校帰りにマクドに寄って話し込んだりするような仲になり、たまに花宮もそれに参加することもあったりする。
本田と山瀬は、仲の良い友達という位置づけになった。雄介が「告らねえの?」とけしかけると、本田は「今はいいよ。自信ないし、受験もあるしね」とのことらしい。
6月の中間試験は、俺達にとって大事な試験となる。栄花大学への推薦を希望する生徒は、この試験が内申点の対象となる最後の試験だからだ。特に俺と花宮は気合を入れないといけない。
俺たちはまた勉強会を企画した。しかし雄介が「今度は本田たちとも一緒にやろうぜ」と言ったので、修学旅行で同じ班だった5人+花宮の合計6人で勉強会をすることになった。
授業が終わってから花宮にはうちのクラスに来てもらって、勉強会を開催した。今回は本田も加わったので、教えてもらえる人が2人になった。これで雄介の負担も減るのかなと思っていた。ところが……思わぬ伏兵がいた。山瀬の学力レベルが、かなりヤバイ水準だった。
山瀬は2年のときも、何度か赤点を食らったことがあるらしい。特に英語が壊滅的で、基本的な英単語が頭に入っていなかったりする。
山瀬は2年生のとき英作文の試験で「類は友を呼ぶ」という問題に「Rui call Tomo.」と書いたそうだ。「calls だったら、部分点をもらえたかもしれないね」と本田は山瀬を慰めていたが、そういう問題でもない。
結局本田は「山瀬専用の講師」となり、雄介は一人で俺と花宮の面倒を見ることになった。
福井はその見た目通り、成績もかなり優秀のようだ。「一応わたしも、受験する予定なの。だから今年は頑張らなきゃね」と、笑顔でそう言った。そう言えば最近、福井は銀縁メガネをコンタクトに変えた。もともと美人の顔立ちだったので、突然あらわれた「美人のゆるふわお姉さん」の登場はクラスでも話題となった。
勉強会を開催すること数回、俺たちは中間テストに臨んだ。テスト期間中、りんはアパートでお留守番だったが、勉強の邪魔にならないように静かにしてくれていた。今回は手応えもかなりいい。
勉強会の成果が出たのか、テストの結果は俺としてはかなり良かった。花宮も同じで、二人とも学年順位がグンと上昇した。なんとかこれで栄花大学への推薦は大丈夫だろう。あとは希望学部が通るかどうかだ。
7月の半ばを過ぎても、りんは成仏する気配を一向に見せない。俺たちはそのことすら、記憶の外にあるような錯覚に陥っている。りんの霊力も全く落ちてゆく気配を見せない。もちろん俺も花宮も、りんにはまだ側にいてほしいと願っている。
それから……花宮は両親に、俺と交際していることを話したらしい。
「もう『そうだろうな』ぐらいに思ってたみたい。お父さんは『城之内君だったら、心配ない』って、なんだかちょっと喜んでるみたいだったよ」
花宮はそう言って笑った。とりあえず反対はされていないみたいだ。期待を裏切らないように頑張らないと。
一応俺もオヤジには、花宮と付き合ってることは報告してある。「そうか。まあ大事にすることじゃな」と言われただけだったが。
夏休みに入ると、俺は実家に戻って例のごとく修行を続けた。8月に入ると、花宮と環奈先生も修行へやってきた。二人とも霊が見えて困ることは今のところないようだった。
美久は俺と花宮が付き合っていることを既に知っていた。オヤジがそれとなく話したらしい。花宮が俺の実家に来たときには「いいもん! 浄土真宗本願寺派の神前結婚で、重婚を可能にしてもらうようにお父さんに頼むんだから!」と、美久は花宮の前で拗ねる有様だった。
俺の夏休みの修行は、去年よりもタフになった。オヤジと一緒に山に籠もって、悪霊化した小動物の強制成仏を試みたりした。なんとかできたが、時間がかかりすぎる。まだまだ修行が必要だ。
学校の宿題は去年より随分少なくなった。おそらく一般入試の生徒たちのことも考えてのことだと思う。なんとか花宮の誕生日前には、宿題を終えられそうだ。
そして8月の終わりに、俺は実家からアパートへ戻ることにした。8月31日、花宮の誕生日をりんと一緒に祝うためだ。
◆◆◆
「でも本当にりんちゃん、来なかったんだね」
「ああ。あいつなりに、気を使ったんだろうな」
今日8月31日は花宮の誕生日。俺と花宮は映画館の中で、話題の青春アニメが始まるのを待っていた。
花宮の誕生日をどうやって祝おうかと、事前にりんに相談したところ……
「昼間はナオと2人でデートしておいでよ。それからここへ来て、3人でお祝いしよ? それでさ、前の日にハヤシライスでも作っておけばいいじゃん」
かくして俺は前日にりんの指導のもと、ハヤシライスを作っておいた。そして今日31日、俺は花宮と二人でデートの最中だ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
居候高校生、主夫になる。〜娘3人は最強番長でした〜
蓮田ユーマ
青春
父親が起こした会社での致命的なミスにより、責任と借金を負い、もう育てていくことが出来ないと告白された。
宮下楓太は父親の友人の八月朔日真奈美の家に居候することに。
八月朔日家には地元でも有名らしい3人の美人姉妹がいた……だが、有名な理由は想像とはまったく違うものだった。
愛花、アキラ、叶。
3人は、それぞれが通う学校で番長として君臨している、ヤンキー娘たちだった。
※小説家になろうに投稿していて、アルファポリス様でも投稿することにしました。
小説家になろうにてジャンル別日間6位、週間9位を頂きました。
お茶会でお茶しましょ!
田上総介
青春
高校一年生の北条麦(ほうじょうむぎ)は幼い頃から思入れのある喫茶店『喫茶ニシキノ』でのアルバイトを頼み込む。
何とか許可してもらうも得た役割は恰も客のように振る舞い、繁盛しているかのように見せる「お客様役」だった。
納得のいかない麦は喫茶店への熱い思いを伝えると、店長らはクラッカーを取り出し「合格」を告げる。
ここまでが採用審査の流れだったのだ。
しかし、帰り道同じ高校の生徒にアルバイトをしていることがバレてしまう。
そして、アルバイト禁止の高校で数日後に停学処分を下されるが、その理由はストーカー行為で…
(二話までのあらすじ)
昔飲んだ珈琲が忘れられない 麦
祖母の残した店を引き継ぐ高校生店長 モモ
実はアルバイト歴たったの三日! ポンコツ先輩 緑
シャイなお手伝いJC 穂乃果
自身を最かわと称するボクっ娘 紅花
店長の座と崩壊を狙う 檸檬
喫茶店に異常な執着を持つ みるく
天然キャラになりたいチェーン店店長 茶茶
「ツンデレだからモテてしまう」と考えるツンデレラ 龍子
弱みを握られたイマドキギャル 日向
妹(みくる)に嫌われたい変態冷酷美人 いちご
そんな高校生達が起こすほのぼの喫茶店日常です。
ギャルゲーをしていたら、本物のギャルに絡まれた話
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
赤木斗真は、どこにでもいる平凡な男子高校生。クラスに馴染めず、授業をサボっては図書室でひっそりとギャルゲーを楽しむ日々を送っていた。そんな彼の前に現れたのは、金髪ギャルの星野紗奈。同じく授業をサボって図書室にやってきた彼女は、斗真がギャルゲーをしている現場を目撃し、それをネタに執拗に絡んでくる。
「なにそれウケる! 赤木くんって、女の子攻略とかしてるんだ~?」
彼女の挑発に翻弄されながらも、胸を押し当ててきたり、手を握ってきたり、妙に距離が近い彼女に斗真はドギマギが止まらない。一方で、最初はただ面白がっていた紗奈も、斗真の純粋な性格や優しさに触れ、少しずつ自分の中に芽生える感情に戸惑い始める。
果たして、図書室での奇妙なサボり仲間関係は、どんな結末を迎えるのか?お互いの「素顔」を知った先に待っているのは、恋の始まり——それとも、ただのいたずら?
青春と笑いが交錯する、不器用で純粋な二人。
プレッシャァー 〜農高校球児の成り上がり〜
三日月コウヤ
青春
父親の異常な教育によって一人野球同然でマウンドに登り続けた主人公赤坂輝明(あかさかてるあき)。
父の他界後母親と暮らすようになり一年。母親の母校である農業高校で個性の強いチームメイトと生活を共にしながらありきたりでありながらかけがえのないモノを取り戻しながら一緒に苦難を乗り越えて甲子園目指す。そんなお話です
*進行速度遅めですがご了承ください
*この作品はカクヨムでも投稿しております
如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる