上 下
75 / 94
後編

結果オーライ

しおりを挟む
「山瀬、大丈夫だよな?」

「ああ、見た限り元気だったしな。今日の夜にはホテルに戻ってくるだろ」

 風呂から戻った俺たち3人は、今日のラフティングの事を話していた。見るからに肩を落とし、元気が無いのは……本田だった。

「本田、元気出せよ」

「いや……さすがに無理だよ……僕、なんであんなに取り乱したんだろ……恥ずかしいよ」

 雄介の励ましに、本田はポツリポツリと答える。確かに気持ちはわからないでもない。あの場面、結局は本田の「公開告白」のようになってしまったからだ。

「もう……山瀬さんに恥ずかしくて、顔を合わせられないよ」

「気にするなって。山瀬のことだから、きっとまたケラケラ笑って戻ってくるだろ?」

 雄介もなんとか元気づけようとしているが、本田の表情は暗い。

「でも俺は気持ちは分かるぞ。そりゃあ気になる女子が目の前で溺れそうだったら、普通でいられるわけがない」

「……確かに。僕もあの時は、生きた心地がしなかったよ」

 俺もそう声をかけたが……いずれにしても本田が回復するには、少し時間がかかるかもしれない。

『んー、ちょっと選択を誤ったかなぁ。あの時本田ちゃんに引き上げてもらったら、山瀬さんが気がついたときに『吊り橋効果』でキュン! ていうのを狙ったんだけどねぇ。でもあの場面だとキュンってなるか、ドン引きされるかのどっちかだったかも……』

 あの時りんは、俺と本田とガイドさんの3本の差し出された手を一瞬見てから、スッと本田の手をつかんだ。りんなりの知略だったことは俺もわかっていたが……今のところは裏目に出てしまっている。もちろんりんには責任はないのだが。

 すると誰かのスマホのバイブ音が聞こえた。雄介のスマホだ。

「……お、福井からだ。あ、山瀬が病院から戻ってきて部屋にいるらしいぞ」

 雄介が福井からのLimeを見てそう言った。

「それで……っと。山瀬は足の骨には異常がなかったみたいだ。ただ歩くと痛いらしいから……よかったら部屋に来ない? っていうお誘いだ」

 女子から部屋へのお誘いだった。まあ俺は今日も遠慮しようと思うが……

「い、いいよ……僕、さすがに顔を合わせづらいからさ。久山と城之内とで行ってきたら?」

 まだまだ本田は弱気だった。難しいことを考えずにシレッと行けばいいのに……俺がそう思っていると、また雄介のスマホが震える。

「……また福井からだ……あ、そう。なるほど」

 雄介が画面を見ながら、ニヤリとした。

「雄介、何だって?」

「ん? ああ、『絶対に本田くんは連れてきてね。奏音がお礼を言いたいからって』だってさ」

「えっ……」

 本田が驚いている。

「本田、ここまで言われて行かない手はないぞ。オレと一緒に行こうぜ」

「行ってこいよ、本田。俺は今日もちょっと遠慮しとくけど」

「そ、そうなんだ……うん、それじゃあ行こうかな」

 本田の表情がわかりやすく明るくなった。雄介と本田の二人は鏡の前で身だしなみをチェックしてから、楽しげに部屋から出ていった。





「うわー、綺麗!」

『すっごーい! こんなの見たことないよ』

「満天の星空とは、このことだな」

 俺は花宮にLimeでメッセージを送り、ホテルの外へ連れ出した。このホテルの外から見上げる星空がとても綺麗だという情報を、俺たちはネットで調べて知っていたからだ。

 この時期の北海道はまだ夜はかなり冷え込む。俺と花宮はちょっと厚着をして、ホテルの敷地内にある散策路を歩いた。りんは厚着をする必要がないので、この時ばかりは羨ましく思った。

 5分ほど歩いたところに、ちょっとした展望台がある。そこから見上げる星空が、まさに絶景だった。俺の実家の星空もそこそこ綺麗だが、それとは比較にならない。

「でもさっきのラフティングの話だけど……りんちゃん、お手柄だったね」

『でしょ? あの子すっごく暴れてたからね。本当に溺れてたかもしれないし』

「まあ結果オーライではあるよな」

 俺たちはホテルからここまで歩いてくる間に、昼間の山瀬の話をしていた。

「でも、その本田君だっけ? すっごく心配だっただろうね」

「ああ。取り乱し方が尋常じゃなかったわ」

『そうだったね。本当に飛び込んで助けようとしてたもん』

「でも今は、その女の子の部屋へ遊びに行ってるんだよね? なんか、うまくいくといいなぁ」

「そうだな。とりあえずドン引きっていうことはなさそうだぞ」

「そっちの意味でも、りんちゃんのお手柄なのかもね」

「りんはあの時、一瞬どの手を取ろうか迷ってたもんな」

『そうそう。でもやっぱりあそこは本田ちゃんの手を取らなきゃでしょ?』

「まあそれも結果、どうなるかだな」

 でも本田も言ってたっけ。山瀬との仲が深まるだけでも嬉しいって。とりあえず友達としての仲は深まるだろうな。

『やっぱり旅行って楽しいよね。いろいろハプニングは起こるけどさ。ねえ……いつか3人でまた旅行に行こうよ』

「……俺はいいけど、花宮は難しいんじゃないか? 3人でってことは、2人でってことだし」

「んー、その時は誰か友達に、アリバイ作りに協力してもらおっかな。最近女の子の友達も増えたしね。私も旅行に行きたいし」

 3人で旅行か……そんなの絶対楽しいに決まっている。でもそれはいつになるんだろう。その時まで……りんは俺たちと一緒にいるのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

女子に虐められる僕

大衆娯楽
主人公が女子校生にいじめられて堕ちていく話です。恥辱、強制女装、女性からのいじめなど好きな方どうぞ

異世界に転生したと思ったら、男女比がバグった地球っぽい!?

ぱふ
恋愛
 ある仕事終わりの帰り道、主人公前田世一は連勤の疲れが祟って車に轢かれてしまった。朦朧とする意識の中、家族や今世での未練に悔見ながら気を失ってしまった。そして、目が覚めると知らない天井でいつもと違う場所でにいて、さらに調べると男女比がバグっていた!?これで前世の未練や夢を叶えることができる!そう思って様々なことに挑戦していこうと思った矢先、ある少女と出会った。ぱっとみは可憐な少女だったが中身はドMでやばいやつだった!?そんな、やばめな少女から逃げようと別の子に話しかけたら次はドSなやばい少女がいて、愛が重い少女に監禁されかけて、ドロドロに甘やかしてくれるお姉さんに溶かされて、この世界の洗礼を受けていく。「助けて〜!この世界やばい人しかいないんだけど!」そんな悲痛な叫びが鳴り止まない過激なラブコメが始まる。*カクヨム様ハーメルン様にも掲載しています*

おしっこ我慢が趣味の彼女と、女子の尿意が見えるようになった僕。

赤髪命
青春
~ある日目が覚めると、なぜか周りの女子に黄色い尻尾のようなものが見えるようになっていた~ 高校一年生の小林雄太は、ある日突然女子の尿意が見えるようになった。 (特にその尿意に干渉できるわけでもないし、そんなに意味を感じないな……) そう考えていた雄太だったが、クラスのアイドル的存在の鈴木彩音が実はおしっこを我慢することが趣味だと知り……?

【R18】快楽の虜になった資産家

相楽 快
現代文学
まとまった資産を得た中年が、快楽を追い求め、週変わりで魅力的な女性のサービスを受ける。 夕方は街に繰り出し、市井に潜む快楽のプロの技巧を味わいにいく日常系官能小説である。 コメントで、こんなシチュエーションが読みたい、とか、こういう作品(映像、小説、漫画等)を参考にして欲しい、とご教示頂けると、大変助かります。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...