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後編
危なかったよ。
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『ナオ、今すぐあそこまで霊壁を広げて! できるでしょ!?』
『りん』
俺と一緒に一部始終を見ていたりんが、念話でそう叫んだ。
『ライフジャケットか何かが、岩に引っかかってると思う。あの子、そのままじっとしてればいいんだけど、あんなに暴れたら本当に溺れちゃう! アタシ、ちょっと様子を見てくるから!』
『りん……わかった、やってみよう! りんは泳げたよな?』
『任せて! 前にも言ったでしょ? 体育は5以外は取ったことないって』
りんが俺の体から離脱すると同時に、俺は腹の下に「気」を集める。山瀬の位置まで25m前後……以前の俺だったら霊壁は届かなかった。でも今ならできる。修行の成果をみせてやる!
『ナオ、水の中の様子を見てみたいの。なんとか霊壁の大きさを、何秒か維持して欲しい。できる?』
「……わかった。やってみる」
俺は体に貯めた気を一気に放出して、霊壁を広げる。今だっ!
りんはスーッと、もがいている山瀬の前に到達すると、そのまま水の中へ潜った。5秒ぐらいしてから再び水中へ出てくると、そのまま山瀬の体に憑依した。俺はその間、なんとか霊壁の大きさを維持することができた。
りんが山瀬に憑依してからは、山瀬はもがいて暴れるのをやめた。表情も落ち着いているように見える。
一方でガイドさんは岸にボートを横付けして、川岸から歩いて山瀬を救助に向かおうと考えているようだった。しかし川岸には草木がうっそうと茂っていて、人が歩く道を確保できるかさえも疑わしい。時間がかかりそうだ。
俺たちは大声で、山瀬に声をかけて励まし続けている。山瀬はおとなしくなったが、逆に動きが止まっているようにも見える。りんが苦戦しているんだろうか。
ところが……しばらくすると、りんが予想外の行動にでる。なんと着ていたライフジャケットを脱ぎ始めたのだ。
「ライフジャケットは脱がないで下さい! 危ないです! 絶対に脱がないで下さい!」
焦ったガイドさんが、大声で叫び始めた。そりゃそうだろう。川の流れの中でライフジャケットを脱ぐなんて自殺行為だ。だが……きっとりんには何か考えがあるんだろう。
「やっぱり僕、ちょっと見てきます!」
「ダメです!」
「本田、やめとけ!」
ガイドさんも俺も、飛び込もうとする本田を止めた。りんの方に目をやると、ライフジャケットを完全に脱いでしまっていた。そしてジャケットを右手に持つと、上を向いて息を吸い込んだように見えた。そして次の瞬間……りんは水の中へ沈んでいってしまった。
「山瀬さん!!」
「山瀬!」
「奏音!」
ボートの上から次々と絶叫が放たれた。特に本田の取り乱し方が尋常じゃない。ところが……山瀬の体はそのあとすぐに浮かんできて、しかもこちらに流れてきている。りんはライフジャケットをそのまま胸に抱えた体勢で、ボートの方へ近づいてきた。
「り……いや、山瀬!」
「山瀬さん!!」
俺と本田とガイドさんの3人が、同時にりんへ手を差し出した。りんは一瞬躊躇した仕草を見せたあと……サッと本田の手を取った。
「山瀬さん! 頑張って!」
本田は両手で山瀬の手を引っ張り、俺とガイドさんもサポートしてなんとか山瀬の体をボートの上に引き上げた。よかった、なんとか助けることができたぞ……。
『危なかったよ。岩の間に足が挟まれて抜けなかったんだ。足を抜くのに一回下に潜らないといけなかったんだけど、ライフジャケットの浮力が邪魔してさ。それで脱いだんだ。なんとか脱出できて、よかったよ』
山瀬の体を回収した瞬間に離脱したりんが、そう解説してくれた。
山瀬は引き上げられた本田に半分抱きかかえられていた。そして左右からガイドさんと福井が心配そうに見ている。回収された山瀬は最初りんに離脱されて視線もうつろだったが、次第に意識が戻ってきていた。
「……あれ、本田……君? ウチ、どうして……あ、そうか。ボートから落ちて、岩から足が抜けなくて……」
「山瀬さん!」
「奏音!」
本田も福井も安心した様子だったが……本田のほうが、いきなり泣き出してしまった。
「よかった……本当によかった……山瀬さん、泳げないって言ってたから……そのまま溺れたらどうしようって……僕、なにもできなくて……」
本田は涙をポロポロと流し、嗚咽の中から絞り出すような声でそう言葉にした。
「本田君?……えーっと……なんか……心配かけちゃったかな? それと……ありがとね」
山瀬はちょっと困った表情で、泣きじゃくる本田のことを見上げていた。ボートの上にいた他のメンバーは、その様子を温かい目で見守っていた。
修学旅行のメインイベントは、俺たちのボートで起こったそんな事件とともに幕を閉じた。全員着替えてバスに乗り込み、今夜の宿泊先へ向かう。
山瀬は念のため、別の車で病院へ運ばれた。意識は全く問題なかったが、足の痛みがひどかったらしい。何もなければいいのだが……。
今夜の宿泊先は、スキー場近くのリゾートホテルだ。部屋割りは昨日と同じ。俺たちはレストランで食事を済ませ、早々に風呂へ向かった。
『りん』
俺と一緒に一部始終を見ていたりんが、念話でそう叫んだ。
『ライフジャケットか何かが、岩に引っかかってると思う。あの子、そのままじっとしてればいいんだけど、あんなに暴れたら本当に溺れちゃう! アタシ、ちょっと様子を見てくるから!』
『りん……わかった、やってみよう! りんは泳げたよな?』
『任せて! 前にも言ったでしょ? 体育は5以外は取ったことないって』
りんが俺の体から離脱すると同時に、俺は腹の下に「気」を集める。山瀬の位置まで25m前後……以前の俺だったら霊壁は届かなかった。でも今ならできる。修行の成果をみせてやる!
『ナオ、水の中の様子を見てみたいの。なんとか霊壁の大きさを、何秒か維持して欲しい。できる?』
「……わかった。やってみる」
俺は体に貯めた気を一気に放出して、霊壁を広げる。今だっ!
りんはスーッと、もがいている山瀬の前に到達すると、そのまま水の中へ潜った。5秒ぐらいしてから再び水中へ出てくると、そのまま山瀬の体に憑依した。俺はその間、なんとか霊壁の大きさを維持することができた。
りんが山瀬に憑依してからは、山瀬はもがいて暴れるのをやめた。表情も落ち着いているように見える。
一方でガイドさんは岸にボートを横付けして、川岸から歩いて山瀬を救助に向かおうと考えているようだった。しかし川岸には草木がうっそうと茂っていて、人が歩く道を確保できるかさえも疑わしい。時間がかかりそうだ。
俺たちは大声で、山瀬に声をかけて励まし続けている。山瀬はおとなしくなったが、逆に動きが止まっているようにも見える。りんが苦戦しているんだろうか。
ところが……しばらくすると、りんが予想外の行動にでる。なんと着ていたライフジャケットを脱ぎ始めたのだ。
「ライフジャケットは脱がないで下さい! 危ないです! 絶対に脱がないで下さい!」
焦ったガイドさんが、大声で叫び始めた。そりゃそうだろう。川の流れの中でライフジャケットを脱ぐなんて自殺行為だ。だが……きっとりんには何か考えがあるんだろう。
「やっぱり僕、ちょっと見てきます!」
「ダメです!」
「本田、やめとけ!」
ガイドさんも俺も、飛び込もうとする本田を止めた。りんの方に目をやると、ライフジャケットを完全に脱いでしまっていた。そしてジャケットを右手に持つと、上を向いて息を吸い込んだように見えた。そして次の瞬間……りんは水の中へ沈んでいってしまった。
「山瀬さん!!」
「山瀬!」
「奏音!」
ボートの上から次々と絶叫が放たれた。特に本田の取り乱し方が尋常じゃない。ところが……山瀬の体はそのあとすぐに浮かんできて、しかもこちらに流れてきている。りんはライフジャケットをそのまま胸に抱えた体勢で、ボートの方へ近づいてきた。
「り……いや、山瀬!」
「山瀬さん!!」
俺と本田とガイドさんの3人が、同時にりんへ手を差し出した。りんは一瞬躊躇した仕草を見せたあと……サッと本田の手を取った。
「山瀬さん! 頑張って!」
本田は両手で山瀬の手を引っ張り、俺とガイドさんもサポートしてなんとか山瀬の体をボートの上に引き上げた。よかった、なんとか助けることができたぞ……。
『危なかったよ。岩の間に足が挟まれて抜けなかったんだ。足を抜くのに一回下に潜らないといけなかったんだけど、ライフジャケットの浮力が邪魔してさ。それで脱いだんだ。なんとか脱出できて、よかったよ』
山瀬の体を回収した瞬間に離脱したりんが、そう解説してくれた。
山瀬は引き上げられた本田に半分抱きかかえられていた。そして左右からガイドさんと福井が心配そうに見ている。回収された山瀬は最初りんに離脱されて視線もうつろだったが、次第に意識が戻ってきていた。
「……あれ、本田……君? ウチ、どうして……あ、そうか。ボートから落ちて、岩から足が抜けなくて……」
「山瀬さん!」
「奏音!」
本田も福井も安心した様子だったが……本田のほうが、いきなり泣き出してしまった。
「よかった……本当によかった……山瀬さん、泳げないって言ってたから……そのまま溺れたらどうしようって……僕、なにもできなくて……」
本田は涙をポロポロと流し、嗚咽の中から絞り出すような声でそう言葉にした。
「本田君?……えーっと……なんか……心配かけちゃったかな? それと……ありがとね」
山瀬はちょっと困った表情で、泣きじゃくる本田のことを見上げていた。ボートの上にいた他のメンバーは、その様子を温かい目で見守っていた。
修学旅行のメインイベントは、俺たちのボートで起こったそんな事件とともに幕を閉じた。全員着替えてバスに乗り込み、今夜の宿泊先へ向かう。
山瀬は念のため、別の車で病院へ運ばれた。意識は全く問題なかったが、足の痛みがひどかったらしい。何もなければいいのだが……。
今夜の宿泊先は、スキー場近くのリゾートホテルだ。部屋割りは昨日と同じ。俺たちはレストランで食事を済ませ、早々に風呂へ向かった。
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