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後編
本田の気持ち
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「悪いけど……俺ちょっと出てくるわ」
『あ、じゃあアタシも連れてってよ』
全員からの大ブーイングだった。俺はそのブーイングをなんとか躱して、戦略的撤退を敢行する。
ロビーへ行ってみると、スウェット上下にパーカー姿の花宮がいた。ラフな感じの花宮も、また可愛い。
「城之内君」
「おう花宮。ナイスタイミングだった。助かったよ」
『琴ちゃん、やっほー』
「? そうだったの? あ、りんちゃんも。ねえ、アイスでも食べようよ」
『うん、そうしよう!』
俺たちはロビーの奥にあった自動販売機のアイスを買って、その横のベンチに腰掛けた。りんが俺に憑依したあと、俺たちはアイスを食べ始めた。俺は部屋に女子二人が来て、俺と花宮との追求が始まりそうだったことを話した。
「えーそうだったんだ。なんか私と似てるね」
「花宮もか?」
「うん。私たちは3人部屋なんだけど、男子二人が部屋に来るって言われて……なんとなく逃げてきちゃった」
「そうか……花宮の場合、部屋の中で『公開告白』とかあったかもしれないしな」
「ないない。もうみんな私と城之内君が付き合ってるってこと、知ってるみたい」
「そうなのか?」
『まあそうだろうね。でも琴ちゃんの場合、それでも告白してくる男どもがいると思うよ。だからナオ、ちゃんと気をつけないとダメだよ』
人気者の彼女を持つと、こういう心配もしなきゃいけないのか……俺は少し複雑な心境になった。
「大丈夫だよ。でも……ちゃんと私のこと、つかまえてて欲しいかな……」
花宮は恥ずかしそうにそう言うと、ベンチの上に置いた俺の手のひらに、自分の小指と薬指だけを重ねてきた。周りには時折うちの生徒が往来してる。見られると恥ずかしいんだろう。
『もう琴ちゃん! そうじゃなくって、そういうときはもっとガバッと』
りんが花宮に憑依しようとするのを、俺は「気」を飛ばして邪魔をする。
『きゃっ! もう、なにすんのよ?』
「こんなところで勝手に憑依するな。周りの視線を考えろよ」
『もう、周りの視線なんて……あ、でも同じクラスの子とかに見られるのはちょっとアレか……じゃあ明日は誰もいないところでチューしてね!』
「なんでりんが言うんだよ」「もう、りんちゃん……」
俺たち3人はしばらくの間、ベンチに座りながら話し込んでいた。
花宮と話し終えたあと、俺とりんは部屋に戻った。部屋からは女子二人の姿は消えていた。
「あの二人、帰ったのか?」
「ああ。オレがナオと琴葉のことは、知ってる範囲でしゃべっといたぞ」
「まったく……」
「でも山瀬さんも福井さんも、興味津津だったよね。僕も面白い話を聞かせてもらったよ」
なぜか本田までが楽しそうだ。まあ人の噂話なんて言うのは、そうやって広まっていくんだろうな。
俺たちは残されたスナック菓子をつまみながら、男3人でもう少し話し込んだ。そして……修学旅行の夜ともなれば、こんな話題になる。
「久山って、彼女はいないって言ってたよね?」
「ああ、いないな」
「まあ雄介の場合、特定の彼女はいないってだけだろ?」
「ノーコメントで」
「そうなんだね」本田は笑っている。
「そういう本田はどうなんだ?」
「僕? もちろん彼女なんていないよ」
俺の質問にそう答える本田は、体型はヒョロっとしているが知性的な顔立ちだし、決してウケが悪いわけじゃないだろう。
「でも気になる女子くらいは、いるだろ?」
「……それこそノーコメントで」
雄介の追求を本田はヒラリと交わした、かと思ったが……
「山瀬……か?」
「……」
雄介のさらなる追求に、本田はわかりやすく沈黙した。
「おい雄介、そのカマかけはちょっと卑怯だろ?」
「ははっ、悪い悪い。でも本田、わかりやす過ぎてな。ちょっとからかってみたかったんだよ」
「まったく……久山、趣味悪いよなぁ」
本田はどうやら降参の様相だ。今日だって思い出してみると、確かに本田はやけに山瀬に対してからかったり、ちょっかいをかけたりしてたっけ。小学生かよ。
「オレはタイプじゃないけど、山瀬は面白いヤツだよな。賑やかだし小動物系でかわいい感じだし。本田はああいう子がタイプなんだ」
「まあ……僕も普通に話すだけだけど、彼女すごく元気があるだろ? 話していても楽しいし、可愛いし……いいかなぁって」
本田の表情が少し緩む。
「だから同じ班になれて、実はすごくびっくりしてるんだよ。ラッキーだなって」
「そうなんだな。じゃあこれを機会にもっと仲良くならなきゃだな」
俺がそう言うと、本田は少しはにかんだ。
「でもさ……実は彼女、城之内のことが気になってたみたいなんだよ。以前、僕はたまたまその話を耳にしてさ」
「そうなのか?」
「まあナオは、隠れファンがいるにはいたからな」
それこそ、そうなのか? 俺は雄介の言葉に戸惑いを覚える。
「でも城之内が花宮さんと付き合うようになったから……山瀬さんも踏ん切りがついたみたいだよ」
「おっ、だったら本田チャンスじゃねーか。オレ達に協力できることはないか?」
「やめてよ。僕はとりあえず、このままでいいんだよ。久山や城之内みたいに、イケメンでもモテ男でもないからさ。さすがにこのまま自爆っていうのはキツいからね。だからこの修学旅行でもっと仲が深まるだけでも、僕は嬉しいんだ」
見た目通り、真面目で誠実な本田だった。雄介も少しは見習って欲しい。まあ確かに外野がいろいろ動くと、おかしな事になってしまうことだってある。ここは黙って見守ったほうが良さそうだな……俺はそんなことを思った。
『あ、じゃあアタシも連れてってよ』
全員からの大ブーイングだった。俺はそのブーイングをなんとか躱して、戦略的撤退を敢行する。
ロビーへ行ってみると、スウェット上下にパーカー姿の花宮がいた。ラフな感じの花宮も、また可愛い。
「城之内君」
「おう花宮。ナイスタイミングだった。助かったよ」
『琴ちゃん、やっほー』
「? そうだったの? あ、りんちゃんも。ねえ、アイスでも食べようよ」
『うん、そうしよう!』
俺たちはロビーの奥にあった自動販売機のアイスを買って、その横のベンチに腰掛けた。りんが俺に憑依したあと、俺たちはアイスを食べ始めた。俺は部屋に女子二人が来て、俺と花宮との追求が始まりそうだったことを話した。
「えーそうだったんだ。なんか私と似てるね」
「花宮もか?」
「うん。私たちは3人部屋なんだけど、男子二人が部屋に来るって言われて……なんとなく逃げてきちゃった」
「そうか……花宮の場合、部屋の中で『公開告白』とかあったかもしれないしな」
「ないない。もうみんな私と城之内君が付き合ってるってこと、知ってるみたい」
「そうなのか?」
『まあそうだろうね。でも琴ちゃんの場合、それでも告白してくる男どもがいると思うよ。だからナオ、ちゃんと気をつけないとダメだよ』
人気者の彼女を持つと、こういう心配もしなきゃいけないのか……俺は少し複雑な心境になった。
「大丈夫だよ。でも……ちゃんと私のこと、つかまえてて欲しいかな……」
花宮は恥ずかしそうにそう言うと、ベンチの上に置いた俺の手のひらに、自分の小指と薬指だけを重ねてきた。周りには時折うちの生徒が往来してる。見られると恥ずかしいんだろう。
『もう琴ちゃん! そうじゃなくって、そういうときはもっとガバッと』
りんが花宮に憑依しようとするのを、俺は「気」を飛ばして邪魔をする。
『きゃっ! もう、なにすんのよ?』
「こんなところで勝手に憑依するな。周りの視線を考えろよ」
『もう、周りの視線なんて……あ、でも同じクラスの子とかに見られるのはちょっとアレか……じゃあ明日は誰もいないところでチューしてね!』
「なんでりんが言うんだよ」「もう、りんちゃん……」
俺たち3人はしばらくの間、ベンチに座りながら話し込んでいた。
花宮と話し終えたあと、俺とりんは部屋に戻った。部屋からは女子二人の姿は消えていた。
「あの二人、帰ったのか?」
「ああ。オレがナオと琴葉のことは、知ってる範囲でしゃべっといたぞ」
「まったく……」
「でも山瀬さんも福井さんも、興味津津だったよね。僕も面白い話を聞かせてもらったよ」
なぜか本田までが楽しそうだ。まあ人の噂話なんて言うのは、そうやって広まっていくんだろうな。
俺たちは残されたスナック菓子をつまみながら、男3人でもう少し話し込んだ。そして……修学旅行の夜ともなれば、こんな話題になる。
「久山って、彼女はいないって言ってたよね?」
「ああ、いないな」
「まあ雄介の場合、特定の彼女はいないってだけだろ?」
「ノーコメントで」
「そうなんだね」本田は笑っている。
「そういう本田はどうなんだ?」
「僕? もちろん彼女なんていないよ」
俺の質問にそう答える本田は、体型はヒョロっとしているが知性的な顔立ちだし、決してウケが悪いわけじゃないだろう。
「でも気になる女子くらいは、いるだろ?」
「……それこそノーコメントで」
雄介の追求を本田はヒラリと交わした、かと思ったが……
「山瀬……か?」
「……」
雄介のさらなる追求に、本田はわかりやすく沈黙した。
「おい雄介、そのカマかけはちょっと卑怯だろ?」
「ははっ、悪い悪い。でも本田、わかりやす過ぎてな。ちょっとからかってみたかったんだよ」
「まったく……久山、趣味悪いよなぁ」
本田はどうやら降参の様相だ。今日だって思い出してみると、確かに本田はやけに山瀬に対してからかったり、ちょっかいをかけたりしてたっけ。小学生かよ。
「オレはタイプじゃないけど、山瀬は面白いヤツだよな。賑やかだし小動物系でかわいい感じだし。本田はああいう子がタイプなんだ」
「まあ……僕も普通に話すだけだけど、彼女すごく元気があるだろ? 話していても楽しいし、可愛いし……いいかなぁって」
本田の表情が少し緩む。
「だから同じ班になれて、実はすごくびっくりしてるんだよ。ラッキーだなって」
「そうなんだな。じゃあこれを機会にもっと仲良くならなきゃだな」
俺がそう言うと、本田は少しはにかんだ。
「でもさ……実は彼女、城之内のことが気になってたみたいなんだよ。以前、僕はたまたまその話を耳にしてさ」
「そうなのか?」
「まあナオは、隠れファンがいるにはいたからな」
それこそ、そうなのか? 俺は雄介の言葉に戸惑いを覚える。
「でも城之内が花宮さんと付き合うようになったから……山瀬さんも踏ん切りがついたみたいだよ」
「おっ、だったら本田チャンスじゃねーか。オレ達に協力できることはないか?」
「やめてよ。僕はとりあえず、このままでいいんだよ。久山や城之内みたいに、イケメンでもモテ男でもないからさ。さすがにこのまま自爆っていうのはキツいからね。だからこの修学旅行でもっと仲が深まるだけでも、僕は嬉しいんだ」
見た目通り、真面目で誠実な本田だった。雄介も少しは見習って欲しい。まあ確かに外野がいろいろ動くと、おかしな事になってしまうことだってある。ここは黙って見守ったほうが良さそうだな……俺はそんなことを思った。
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