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後編

二人までにしてね。

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「まあ……ていうか、多くの男どもがそうだったと思うぞ」

「もう……そういうこと聞いてるんじゃないのに」

 花宮はちょっと拗ねた声でそう呟く。すると……花宮は恥ずかしそうに、そっと俺の腕をとって自分の頭を俺の肩に乗せてきた。

「でも……二人までにしてね。3人目はダメだからね」

「花宮……」

 花宮が俺にこんな風に甘えてくるのは初めてだった。俺が隠れて人気があったことに嫉妬したのかもしれないな。全くの杞憂なのに。

「俺がそんな器用なこと、できるわけないだろ?」

「えー、でも二人までならできてるよね?」

 花宮はちょっと意地悪な声でそう答える。もう、めちゃめちゃ可愛い。俺はそっと花宮の肩に手を回して、優しく抱き寄せた。

『ちょっと、アタシを置いてかないでよ! 琴ちゃん、もうちょっと押さなきゃ。ちょっと体、入らせてね』

「え? ちょっと、りんちゃん」

 りんは花宮の背後に回ると、いつものようにスーッと花宮の体に入り込んだ。そして俺の顔を見上げると……

「ねぇ、城之内君。キスして」

 二重の綺麗な目元はトロンとして……なんていうか色っぽい。俺はその形の良い唇に目を奪われる。

「花宮は恥ずかしがりだから、そんな風には言わねーぞ」

「なっ、もう……いいでしょ? チューして、ナオ」

 校舎の屋上へ続くドアの前。人気のない所でりんは俺の首に手を回してきた。仕方ないので俺は軽いキスをかわすと、りんは俺に抱きついた。

「ナオ、大好き……琴ちゃんも照れてないで、これぐらいやらないとダメだよ」

「まったく……」

 俺たちは階段で座ったまま、少しの間抱き合っていた。きっと花宮は顔を真っ赤にして、恥ずかしがっているんだろうな……俺はそんな事を思った。
 
              ◆◆◆

 栄花学園高校は3年生の5月に大きなイベントがある。修学旅行だ。

 普通の学校だと修学旅行は高校2年のときが大半だが、うちの学校はこの時期にある。多分生徒の8割がエスカレーター進学なので、受験の影響が薄いと考えているのかもしれない。

 今年の修学旅行の行き先は、北海道だ。2泊3日の予定で、アイヌ文化の施設やエコロジーをテーマとした施設をめぐる。途中ラフティング体験なんていうのもある。

 当然りんは高校の修学旅行には参加したことがない。『北海道行ったことないんだ。楽しみー』と俺がりんを一緒に連れて行こうかどうしようかと考えるスキもなく、りんは一緒に行くのが当然と考えているようだった。まあ仕方ないだろう。

 修学旅行に先立って、クラス内で班編成が必要となる。残念ながら他クラスの生徒とは同じ班にはなれないので、花宮と一緒に行動はできない。ただもちろん自由時間はあるので、その時間は花宮と一緒に行動するつもりだ。

 班編成は基本的に生徒が自由に決められる。そして可能な限り男女混合、1班の人数は最低4人・最高6人というのがルールだ。

 俺はまず雄介に声をかけたあと、雄介は比較的仲のいい本田晴哉ほんだせいやに声をかけた。本田は定期試験で常にトップ10入りの秀才で、雄介と一緒にいることが多い。もちろん俺も何度か話したことがある。ひょろっとした細身の体型で、理知的なマスクを備えたいいヤツだ。

「城之内、よろしくね」「ああ、こちらこそな」

 俺と本田はそんな声をかけながら、雄介と3人で女子をどうするかと思案していた。すると二人の女子が俺たちのところへやってきて……

「ねえ、久山くんたちのグループに入れてくれない?」
「ウチらとで、ちょうど5人になるよね?」

 そう雄介に声をかけてきたのは……福井と山瀬という女子二人だ。

「ああ、オレはいいけど……」

「本田くんも城之内君も、いいかな?」

 福井は俺と本田の顔色を伺う。

「俺はいいよ」
「もちろん僕も。大歓迎だよ」

「よかったぁ……断られたら、どうしようかと思っちゃった」

 福井沙織ふくいさおりはそう言って、ほっとした表情を見せる。福井は身長も高くスラッとしていてスタイルもいい。ゆるふわの髪型に銀縁のメガネと、少しだけお姉さんっぽい感じがする女子だ。

「ヤッター! なんかこの5人なら、絶対楽しそうだよね!」

 そう言う元気いっぱいの女子は山瀬奏音やませかのん。小柄でショートカット、いつも明るく活発な印象の女子だ。

 この二人は「お姉さん系」の福井、「可愛い妹系」の山瀬というイメージで、クラスでも人気の存在らしい。「らしい」というのは、少し前に雄介からそう教えてもらったからだ。因みに俺は花宮とりんで手一杯なので、特に気にする暇もなかった。

『あらー、綺麗系と可愛い系が揃ったわね。ナオ、よかったじゃない』

 りんは呑気にそんなことを言っているが……とりあえず本田も女子二人もいいヤツそうなメンバーなので、俺としてはよかったと思っている。




 授業も終わり、俺は帰り支度を始めた。今日は正門の前で花宮と待ち合わせだ。帰りに一緒にどこかへ寄ろうと約束している。多分マクドだろうな……。

 俺は靴に履き替え、校舎を出て正門へ向かっている途中……

「あ、城之内君」

 声をかけてきたのは、妹系女子の山瀬だった。隣には福井もいる。
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