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後編

お弁当

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 学校から帰る時は、俺は相変わらず花宮と一緒に帰る場合が多い。もちろん隣にはりんもいる。たまに雄介も一緒になるが、「邪魔したくないしな」と言って雄介自身が遠慮することも多くなった。

「城之内君。あのね……」

 学校からの帰り道。今日も花宮とりんと3人並んで歩いていると、花宮が言いよどむ。

「うん、どうした?」

「えっと……私、城之内君と付き合ってるって、周りに話しちゃってもいいかな?」

「えっ?」

『なにが『えっ?』なのよ。いいに決まってんでしょ? なんで隠す必要があるのよ』

 俺が花宮と付き合ってることは、雄介を除いては俺自身特に周りには話していない。ていうか雄介を除くと、それほど親しい友だちもいないというのが本当のところなのだが。

「ていうのはね……実は今日、昼休みに呼び出されちゃって」

「……職員室にか?」『んな訳ないでしょ!』

 俺のボケにりんがツッコんでくれた。もちろんこの流れでの呼び出しは……男子生徒からの告白だろう。

「花宮は、その……いいのか? 俺と付き合ってるっていうのが広まっても」

「私は逆にそうしたいんだけど……いいかな?」

「そうか。じゃあ問題ないよ」

 花宮の話を聞くと、3年生になってからこれで3回めの告白らしい。

『多分さ、2年生の時っていっつも3人でつるんでたじゃない? だからなかなかそういうスキがなかったんじゃないかな。ていうことは、これから琴ちゃんに告白してくる男どもが増えてくると思うよ』

 やっぱり「栄花の巫女様」の人気は健在だった。俺は花宮がそんな学園のアイドル的存在だったことを、ちょっと忘れていたようだ。

『それにさ、琴ちゃん最近綺麗になったもん。もうなんかさ、恋する乙女みたいな?』

「そんなこと……」

 確かに俺の目から見ても……花宮は綺麗になったと思う。以前は美少女というイメージだったが、最近は一緒にいる機会も多くなってその潤んだ瞳で上目遣いで見られると……俺はゾクッとすることも多かったりする。

 とりあえず花宮に告白する男連中が多くなるというのは俺も困る。だからお互いに隠すことはやめようということにした。




 俺は3年生になってから、花宮と学校で話す時間が少なくなった。そりゃ別クラスになったんだから仕方ないことではあるのだが。

 ただ花宮も同じことを感じていたらしい。

「城之内君、お昼にお弁当一緒に食べようよ」

 そう言ってきたのは花宮だった。「付き合っていることを隠すのはやめたわけだし、別にお弁当ぐらい一緒に食べてもいいよね?」 そう言われては、Noと言える理由がない。あとは弁当を食べる場所の問題だが……

「ここ、穴場でしょ? 特にお昼時間は誰も来ないと思うし」

 昼休みに弁当を持って教室を出て、花宮に連れて行かれたところは屋上へ出ていくドアの前だった。そのドアには大きく「使用禁止」と書かれて施錠されている。なるほど、ここなら人はめったに来ないだろうな。

「多分ここなら部活してる生徒が雨の日のトレーニングに来るぐらいで、昼休みはほとんど人は来ないと思う」

「確かに……よくこんな場所見つけたな」
『こんな場所、あったんだね。二人っきりになるには、いいところじゃない』

「まあ別にコソコソ食べることもないんだけどね。でも……やっぱり堂々と食べるのも勇気がいるでしょ?」

「まったくその通りだ」

 学園のアイドル様と一緒にランチをしているところを大勢の生徒に見られたら……俺は多分、弁当の味が分からない。

 俺たちはドアの前の階段に、二人揃って座った。弁当箱を開けていただきますをする。俺の弁当は、自分で作った昨日の残り物だ。花宮も最近は時間があれば弁当をつくることがあるそうで、きょうはその自作のお弁当らしい。

 お互いのおかずを見せ合いながら、俺たちは弁当を食べていく。りんは憑依することなく、俺の隣りにいて見ていた。

 俺たち3人はいろいろな話をした。新しいクラスになったわけだから、話題も尽きない。二人ともあっという間に弁当を食べ終えて、俺も花宮もお茶を飲んでいた。

「最近ね、クラスの女の子の友達と話すことが多くなったんだ」

「そうか。よかったんじゃないのか?」

「うん。それでね、やっぱり何人かに『C組の城之内君と付き合ってるの?』って訊かれたの」

「そうなのか?」

「そう。それでね、隠さずにそうだよって言ったら『やっぱりそうなんだ。ちょっとショックかも』って言われちゃって」

「? 何がショックなんだ?」

「もう……その子はね『私、城之内君、ちょっといいなぁって思ってたんだ』って」

「……マジで?」

「マジだよ。どうやら城之内君、ひそかに学校の女の子の間でちょっと人気があったみたい。その子以外にも『城之内君、いいよね』っていう女の子が何人かいたらしいし」

「ホントかよ? 全然気がつかなかったぞ」

『まあナオは琴ちゃんばっかり見てたからね』

「え?……そ、そうなの?」

 花宮はちょっと照れくさそうに、俺の顔を見上げてくる。俺のすぐ横に、花宮の綺麗な顔がある。二人の肘が触れ合うくらいの近距離だ。
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