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後編

ご褒美

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 食事を終えて、それぞれの部屋に戻っていく。入浴も済ませて部屋に戻ると、りんが退屈そうにしていた。

『ねえねえ。琴ちゃんの修行って、大丈夫なの?』

「ああ。まあ2-3日で大分よくなるはずだ。環奈先生のときがそうだったからな」

 そんな話をしていると、俺のスマホが震えた。花宮からのメッセージだ。

 花宮:これからお部屋に行ってもいい?

 もちろんOKと返信をすると、程なくして花宮がやってきた。霊壁の中にいたので、式神を預かって部屋の隅に置いておく。

「あ、りんちゃん」

『やっほー、琴ちゃん。修行はどう?』

「うん、まだ霊壁の中にいるからわかんないけど、2-3日もすればコントロールができるようになるからって」

『そっか、じゃあ頑張らないとね。それと……ねえ琴ちゃん、ちょっと体貸してね?』

「えっ?」

 りんはそう言うと、花宮の返事も聞かないうちにスルッと花宮の中に入り込む。そして俺に向き直ると……

「ナオ」

「お前……だから勝手に憑依するなって」

「いいから、琴ちゃんをハグしてあげて」

「えっ?」

「琴ちゃん修行頑張ったんだよ。だからご褒美。ねっ」

 そう言うとりんは俺にすり寄って、頭を俺の胸につけて背中に手を回す。

「はい、ご褒美ご褒美」

「まったく……どっちのご褒美なんだよ」

 俺は仕方がないので、りんが憑依した花宮の背中に手を回す。花宮も風呂上がりで、ゆったりとしたスウェットの上下を着ていた。うちの風呂のシャンプーを使っているはずなのに、花宮からは何か違うもっといい香りがした。俺は花宮のやわらかい体躯を抱きしめながら、背中を擦ってやる。

「……花宮、頑張ったな」

 一応俺はりんに言われた通り、花宮の労をねぎらってやる。

「もう琴ちゃん、照れちゃって……あーでも、ナオの感触久しぶりだよ。もっとハグしたいっ」

「りんはこの部屋でテレビ見てただけだろ?」

「テレビ見てるだけでも疲れるんだよ。ねー、チューして?」

「なんでだよ」

 こういう時りんの方が積極的で困ってしまう。恥ずかしがり屋の花宮が頬を赤らめているのが目に浮かぶ。

 そのときコンコンとノックの音がした。

「ナオ兄ぃ、入るね」

 その瞬間、俺は花宮から離れてりんも離脱する。そして美久がガラガラっと引き戸を開けた。そして花宮は……下を向いてモジモジしながら、顔が真っ赤に染まってしまっている。

「え? ちょっと、もう! 二人っきりで何してたの?」

 美久が追求してくる。

「ちょっと! そんなにくっついたら、ダメなんだからね!」

 そう言って美久はズカズカと俺の部屋に入ってくると、俺と花宮の間に割り込んで座った。

「美久、戸を閉めろよ。正確に言えば二人きりじゃないぞ。りんもいる」

「へっ? あ、そうか。えっと……その辺にいるの?」

 美久は花宮のとなり辺りの空間を指さした。

「ああ、そこにいる」

「ちょっとりんちゃん! この二人がいい雰囲気にならないように、ちゃんと見張っててよ!」

『あー、美久ちゃんゴメン。それはちょっと約束できないかな』

「お邪魔するよー……おっ、修羅場のニオイがするねぇ」

 その時、環奈先生が俺の部屋の開けっ放しの入口から顔を出した。そのまま中へ入っきて引き戸をガラガラと閉める。

『環奈ちゃん、せいかーい。今ね、アタシと琴ちゃんがナオとチューしようとしてたんだよ。そしたら美久ちゃんが入ってきてね』

「はぁ!? どういう状況?」

「え? 環奈さん、どうしたんですか?」

 またりんが余計な事を言うから美久が反応した。なんとか話題を変えないと。

「環奈先生、なにか用があったんじゃないですか?」

「え? あ、うん……花宮さん、霊が見えるようになったんでしょ? 私も数年前に同じ状況だったから……何かアドバイスというか、力になれないかなって思ってね」

「は、はい。三宅先生のときのお話、聞きたいです」

 花宮もなんとか話を逸らそうとしている。

「そうだよね。じゃあ、あんまり参考にならないかもしれないけど」

 それから環奈先生は自分の話をし始めた。霊が見え始めたときのことや、その時兄貴に助けてもらったことを「もうその時のマサ君、カッコよかったのよ~」とか言いながら説明をしてくれた。

 環奈先生はしばらく話をしていたのだが、霊が見えない美久は退屈になったのか「じゃあ美久、部屋に戻るね」と言って帰ってしまった。

「ちょっとナオ君。花宮さんと……その……付き合ってるの?」

 美久が部屋から出ていくと、開口一番環奈先生が訊いてきた。

『そうだよ! 因みにアタシもナオの彼女っていうことになってるんだ』

「はぁ? もうなんなの、そのただれた男女関係は。最近の高校生は進み過ぎてるわね」

 俺は環奈先生に、今までの経緯をかいつまんで説明した。

「なるほど。つまり……公認の二股ってことね」

「えっと……そうなるんですかね?」

「それで……りんちゃんは花宮さんに憑依ができて、その……いろんなことが一緒にできちゃうってこと?」

『うん、そうだよ』

「それって……とんでもなく刺激的ね。なんか想像しただけでも、ゾクゾクしてきたわ」

「他人事だと思って……勘弁してくださいよ。それより当面は、このことを美久には内緒にしといてもらえますか?」

「その方がいいわね。バレたら面白そうだけど……でも美久ちゃん、本当に闇堕ちしそうだわ」

 確かにバレたら美久は闇堕ちしそうだな……あまり考えたくない。

「兄貴の部屋には行ったんですか?」俺は環奈先生に話を振る。

「ううん。部屋には行ってないけど、さっきまで食堂で一緒にお茶を飲んでたよ。やっぱりさ、あんまりガツガツせず焦らずに行こうと思ってね。あなたのお兄さんは……とても誠実な人だわ。穏やかで優しくて……なんだか惚れ直しちゃった」

「その方がいいと思いますよ」

 環奈先生はうっとりとした表情を浮かべている。今日の環奈先生は白のセーターに黒のデニムという普通の格好だ。たしかにスタイルの良さはその服装の上からでも分かるが、露出度は全然高くない。

「じゃあ私もお風呂に入ってくるね。3人とも、あんまりエッチなことしちゃダメよ」

「しませんよ」
『え? しないの?』
「もう、りんちゃん……」

 環奈先生はふふっと笑って、部屋から出ていった。
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