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後編
「抱きしめてあげて」
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りんのお父さんは駅まで車で送ろうと申し出てくれたが、俺たちはやんわりと断った。なんとなく3人で、バス停まで歩いたほうがいいような気がしたからだ。
「いいお父さんじゃないか」
『そうだね……いろいろ心配かけちゃったかな……』
「突然の交通事故だったからね。りんちゃんのお父さんも、ショックだったんじゃないかな」
『うん……それとナオ、ありがと。ちゃんとアタシの気持ち、伝えてくれて』
「まあ、あれぐらいはな」
残された家族に生前の故人のことを伝えるのは、この道に携わるものとして当然のことだ。
俺たちはバスから電車に乗り換えて帰路につく。りんはなんだか元気がなかった。そりゃあ当然だろう。最近は日が暮れるのも早いので、今日はこれで解散にしようかと思っていたのだが……
「ねえ城之内君。私も城之内君の部屋にこれからお邪魔してもいいかな?」
「ん? ああ、もちろん」
断る理由もない。りんを元気づけるために、花宮が来てくれるのであれば俺も助かる。
部屋に帰ってきた俺たちは、3人でリビングへ入る。さすがにこの時期は寒い。部屋の暖房のスイッチを入れた。やはりりんは元気がない。
「城之内君」
「ん? どうした花宮」
「りんちゃんを抱きしめてあげて」
「えっ?」
花宮はちょっと緊張した表情でそう言った。
「なにも言わなくていいから。ただ抱きしめてあげて」
『琴ちゃん……』
りんも少し呆然としている。
「ほら、りんちゃん。早く私の中に入って」
『琴ちゃん……いいの?』
「もちろんだよ。こんなときぐらい、城之内君に甘えないと」
『うん……ありがと、琴ちゃん』
りんは花宮に憑依すると、俺の方に向き直った。
「ナオ……」
「りん……」
りんは俺の胸の中に飛び込んできた。そしてしがみつくように、俺の背中に手を回して抱きついてきた。りんは俺の胸の中で、くぐもった声で嗚咽を漏らす。
「ナオ!」
「ん?」
「アタシ、もっと生きたかった!」
りんは泣きながら、そう叫んだ。
「もっと生きていたかった! 生きたまま、ナオや琴ちゃんに会いたかった! いろんなところに遊びに行きたかった! パパにもっと、ありがとうって、いっぱい言いたかった!」
「りん……すまない」
「ナオは悪くない! ナオは悪くないんだよっ! でも……アタシ、もっと生きたかった!」
りんは叫びながら、わーわー泣いた。それは文字通り、魂の叫びだった。俺は時折ごめん、すまないと言いながら、りんを強く抱きしめていた。りんの気持ちが花宮の体全体を通して伝わってくる。俺はりんのその気持を、体全体で受けとめていた。
◆◆◆
春休みに入っても、まだまだ寒い日が続いた。あの日父親に会って俺の胸で大泣きしたりんは、すっかり元気を取り戻していた。『いっぱい泣いたらスッキリしたよ』と晴れやかな笑顔を俺と花宮に向けてくれた。
今俺たちは「公認の二股関係」とでもいうべき状態にある。花宮は以前と同じ様に俺のアパートにやって来て、りんも含めて3人でおしゃべりしたり食事をしたりしている。たまには外出もして、買い物をしたりもする。
りんはよく俺に甘えるようになった。3人でいる時も『ねぇ……チューしたい』と直接的に言ってくる。その度にりんは花宮に憑依してキスをするのだが、恥ずかしがり屋の花宮はいつも顔を真赤にして足元もふらつき気味になってしまう。
そんな毎日を送っていたのだが……ある日突然事件が起きた。恐れていた事が起こってしまったのだ。
「城之内君……助けて欲しい」
早朝、花宮から電話がかかってきた。花宮は昨日の夜から、自宅周辺でたくさんの霊体が見えるようになったというのだ。
俺はりんを留守番させて、急いで完永寺へ向かった。花宮の自宅へ向かい、インターホンを押した。中から花宮のご両親が出てきた。
「すまないね、城之内君。娘がおかしなことになってしまって……」
「呼んでしまってごめんなさいね。でも他に頼れる人がいなくて……」
花宮のお母さんとは初対面だったが、二人ともどうすればいいかわからず途方にくれている様子だった。
俺はご両親に案内されて、花宮の部屋に案内された。ドアを開けると白とピンクを基調にした女の子らしい部屋で、花宮が椅子に座って待っていた。顔色がかなり悪い。
「城之内君……ごめんね。来てもらっちゃって」
「全然問題ない。それより花宮、大丈夫か?」
「うん。いまこの部屋の中にいる分には大丈夫なんだけど……お寺の中とか墓地とかに行くと、たくさん見えてきて……もう私、パニックになっちゃって」
「霊能力が上がっている証拠だな。できれば霊に対する感度をコントロールする修行をしたほうがいいんだけど……俺の実家に来れるか?」
ちょうど今は春休みだ。オヤジに頼んで修行してもらうのが、一番効果が高い。
「え? う、うん。行きたい」
「ちょっとオヤジに連絡させてくれ。それと……花宮のご両親にも話をしなくちゃな」
俺はその場でオヤジにスマホで電話をかけた。俺が事情を説明すると、オヤジは「できるだけ早く連れてきなさい」と言ってくれた。その後花宮のご両親も部屋に呼んで、俺のスマホをスピーカーにセットした。
オヤジの方からも事情を説明してもらった。するとできるだけ早いほうがいいという話になり、これからすぐに俺の実家へ花宮を連れて行くことになった。一応2泊3日の予定で、花宮のお父さんがこれから車で連れて行ってくれるらしい。もちろん俺も一緒に行くことになる。
「いいお父さんじゃないか」
『そうだね……いろいろ心配かけちゃったかな……』
「突然の交通事故だったからね。りんちゃんのお父さんも、ショックだったんじゃないかな」
『うん……それとナオ、ありがと。ちゃんとアタシの気持ち、伝えてくれて』
「まあ、あれぐらいはな」
残された家族に生前の故人のことを伝えるのは、この道に携わるものとして当然のことだ。
俺たちはバスから電車に乗り換えて帰路につく。りんはなんだか元気がなかった。そりゃあ当然だろう。最近は日が暮れるのも早いので、今日はこれで解散にしようかと思っていたのだが……
「ねえ城之内君。私も城之内君の部屋にこれからお邪魔してもいいかな?」
「ん? ああ、もちろん」
断る理由もない。りんを元気づけるために、花宮が来てくれるのであれば俺も助かる。
部屋に帰ってきた俺たちは、3人でリビングへ入る。さすがにこの時期は寒い。部屋の暖房のスイッチを入れた。やはりりんは元気がない。
「城之内君」
「ん? どうした花宮」
「りんちゃんを抱きしめてあげて」
「えっ?」
花宮はちょっと緊張した表情でそう言った。
「なにも言わなくていいから。ただ抱きしめてあげて」
『琴ちゃん……』
りんも少し呆然としている。
「ほら、りんちゃん。早く私の中に入って」
『琴ちゃん……いいの?』
「もちろんだよ。こんなときぐらい、城之内君に甘えないと」
『うん……ありがと、琴ちゃん』
りんは花宮に憑依すると、俺の方に向き直った。
「ナオ……」
「りん……」
りんは俺の胸の中に飛び込んできた。そしてしがみつくように、俺の背中に手を回して抱きついてきた。りんは俺の胸の中で、くぐもった声で嗚咽を漏らす。
「ナオ!」
「ん?」
「アタシ、もっと生きたかった!」
りんは泣きながら、そう叫んだ。
「もっと生きていたかった! 生きたまま、ナオや琴ちゃんに会いたかった! いろんなところに遊びに行きたかった! パパにもっと、ありがとうって、いっぱい言いたかった!」
「りん……すまない」
「ナオは悪くない! ナオは悪くないんだよっ! でも……アタシ、もっと生きたかった!」
りんは叫びながら、わーわー泣いた。それは文字通り、魂の叫びだった。俺は時折ごめん、すまないと言いながら、りんを強く抱きしめていた。りんの気持ちが花宮の体全体を通して伝わってくる。俺はりんのその気持を、体全体で受けとめていた。
◆◆◆
春休みに入っても、まだまだ寒い日が続いた。あの日父親に会って俺の胸で大泣きしたりんは、すっかり元気を取り戻していた。『いっぱい泣いたらスッキリしたよ』と晴れやかな笑顔を俺と花宮に向けてくれた。
今俺たちは「公認の二股関係」とでもいうべき状態にある。花宮は以前と同じ様に俺のアパートにやって来て、りんも含めて3人でおしゃべりしたり食事をしたりしている。たまには外出もして、買い物をしたりもする。
りんはよく俺に甘えるようになった。3人でいる時も『ねぇ……チューしたい』と直接的に言ってくる。その度にりんは花宮に憑依してキスをするのだが、恥ずかしがり屋の花宮はいつも顔を真赤にして足元もふらつき気味になってしまう。
そんな毎日を送っていたのだが……ある日突然事件が起きた。恐れていた事が起こってしまったのだ。
「城之内君……助けて欲しい」
早朝、花宮から電話がかかってきた。花宮は昨日の夜から、自宅周辺でたくさんの霊体が見えるようになったというのだ。
俺はりんを留守番させて、急いで完永寺へ向かった。花宮の自宅へ向かい、インターホンを押した。中から花宮のご両親が出てきた。
「すまないね、城之内君。娘がおかしなことになってしまって……」
「呼んでしまってごめんなさいね。でも他に頼れる人がいなくて……」
花宮のお母さんとは初対面だったが、二人ともどうすればいいかわからず途方にくれている様子だった。
俺はご両親に案内されて、花宮の部屋に案内された。ドアを開けると白とピンクを基調にした女の子らしい部屋で、花宮が椅子に座って待っていた。顔色がかなり悪い。
「城之内君……ごめんね。来てもらっちゃって」
「全然問題ない。それより花宮、大丈夫か?」
「うん。いまこの部屋の中にいる分には大丈夫なんだけど……お寺の中とか墓地とかに行くと、たくさん見えてきて……もう私、パニックになっちゃって」
「霊能力が上がっている証拠だな。できれば霊に対する感度をコントロールする修行をしたほうがいいんだけど……俺の実家に来れるか?」
ちょうど今は春休みだ。オヤジに頼んで修行してもらうのが、一番効果が高い。
「え? う、うん。行きたい」
「ちょっとオヤジに連絡させてくれ。それと……花宮のご両親にも話をしなくちゃな」
俺はその場でオヤジにスマホで電話をかけた。俺が事情を説明すると、オヤジは「できるだけ早く連れてきなさい」と言ってくれた。その後花宮のご両親も部屋に呼んで、俺のスマホをスピーカーにセットした。
オヤジの方からも事情を説明してもらった。するとできるだけ早いほうがいいという話になり、これからすぐに俺の実家へ花宮を連れて行くことになった。一応2泊3日の予定で、花宮のお父さんがこれから車で連れて行ってくれるらしい。もちろん俺も一緒に行くことになる。
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