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後編
墓参り
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『あ、琴ちゃんのエプロン姿に欲情したナオが来た!』
「え? そ、そうなの?」
「違うわ!……とは言い切れないかもしれん」
『うわー、ナオ正直だね。ちょっとナオ、琴ちゃんを後ろからガバっとしてみて』
「えー? ちょっと……料理中は困るかな……」
「だよな? それにりんの見ている前でできるかよ」
『あーもう、じれったいなぁ! ちょっと琴ちゃん、憑依させてね』
「え? ちょ、ちょっと」
りんはあっという間に花宮に憑依すると、くるっとガスレンジに背を向けて俺の方に向き直る。
「ナオ、好きだよ」
「りん?」
「ねえ、チューして」
言うが早いか、りんは俺の首に手を回す。そして強引に俺の頭を引き寄せると、俺の唇に自分の唇を重ねた。
「りん……豚バラ大根、焦げるぞ」
「ナオ……もっとしたい」
りんはもう一度俺の頭を引き寄せてキスをする。今度はそのキスが深くなった。りんの愛情の深さが伝わってくる。お互い初心者同士だが、俺もそのキスに答える。
「んっ……」
花宮の声でりんの吐息が漏れる。俺は頭の中が真っ白になった。しばらくして俺たちは唇を離すと、りんは花宮からスッと離脱する。
俺も頭がクラクラしていたが、花宮がそのまま俺にしがみついたままになってしまった。腰が抜けたような状態になっている。
「りんちゃん……もう……少しはセーブして」
『ご、ごめん……なんか夢中になっちゃって』
りんの表情もなんだかボーっとしている。俺は花宮を片手で抱きしめながら、ガスコンロの上の豚バラ大根をかき混ぜた。大根も肉も、少し焦げていた。
◆◆◆
俺は花宮と付き合い始めたことを、雄介に報告した。雄介からは「やっとか。長かったな。琴葉はしょっちゅうナオのアパートに行ってたろ? いままでなにやってたんだ?」と言われてしまった。もちろん雄介には、りんのことは話していない。
2月の期末試験も勉強会を開いて、雄介先生に教わりながらなんとか乗り切った。また俺の部屋で勉強会を開催した。俺と花宮は勉強しながら、雄介から見えない角度でテーブルの下で手を繋いだりした。それを見たりんは『アタシもアタシもー』と騒いでいたが、さすがに雄介がいるときに、りんは花宮に憑依するのは諦めてくれた。
3月に入ると、寒さが一段和らいだ。気候的にもちょうどいいので、俺たちはようやくずっと行きたかった場所へ訪れることにした。本当はもっと早く行くべきだったのだが……。
『ごめんね。ちょっと交通の便が悪い所で』
「まあこういうところは、大体交通の便が悪いからな」
「そうそう。でもやっと来ることができてよかったよ」
俺たち3人は電車と本数の少ないバスを乗り継ぎ、街はずれの公営墓地に来ていた。
俺たちはまだ、りんの墓参りをしたことがなかった。いろんなことが起こってバタバタしていたせいで、なかなか機会がなかった。ようやく期末テストが終わって時間ができ、天気のいい週末を選んで来ることになった。
りんは自分の墓にもちろん行ったことがない。でも普通に考えて、りんの母親と同じお墓に入っているだろう。
そう考えて俺たちはりんに場所を聞きながら、りんの母親の墓にやって来た。
「鮎川家之墓」……比較的新しい墓石には、そう記されている。墓石の横を覗いてみると、白く新しい戒名が彫られていた。日付は昨年の2月某日。りんの戒名だろう。
『よかった。やっぱりママと同じお墓に入れてくれたんだね』
りんが寂しそうに呟く。その念和の声が少し沈んでいた。
『ママに会えるようになるのは、いつなのかな……』
「まあそう急ぐなよ」
「そうだよ。いずれ会えるようにはなるんだからさ」
俺たちは持ってきた花を手向け、線香をあげた。全員で手を合わせ、お参りする。りんは自分の墓にお参りしているわけだ。いったいどんな気持ちなんだろうか。
『なんかここへ来るのも久しぶりだよ。ママが亡くなってから、お盆とお正月かお彼岸ぐらいしか来なかったからね』
「まあそんなもんだろ。俺だって母親のお墓参りなんて、実家へ帰ったときぐらいだからな」
「私はりんちゃんのお母さんに、りんちゃんはまだ元気ですよって報告しといたよ」
『もう死んじゃってるけどね。でも元気は元気だよね?』
俺たちは顔を見合わせて笑った。俺もりんのお母さんにはお願いをしておいた。もう少しだけ、待ってあげて下さいと。
俺たちが帰る準備をしていると、入口の方からスーツをきた一人の男性がやってきた。手には小さな花束を持っている。そしてその男性は……俺たちの前で立ち止まった。
ちょっと大柄で恰幅のよい体型、着ているスーツやネクタイはいかにも高級そうだ。頭髪は少し薄いが、そのキリッとした眼光鋭い目は少し戸惑いの色を見せていた。
「あの……君たちは……ひょっとしてりんのお友達なのかな?」
その男性は俺たちにそう問いかけた。俺は横目でりんの様子を垣間見る。りんも目を見開き、驚きの表情を浮かべて固まっている。
『……パパ……』
りんの口から、そんな言葉が溢れた。
「え? そ、そうなの?」
「違うわ!……とは言い切れないかもしれん」
『うわー、ナオ正直だね。ちょっとナオ、琴ちゃんを後ろからガバっとしてみて』
「えー? ちょっと……料理中は困るかな……」
「だよな? それにりんの見ている前でできるかよ」
『あーもう、じれったいなぁ! ちょっと琴ちゃん、憑依させてね』
「え? ちょ、ちょっと」
りんはあっという間に花宮に憑依すると、くるっとガスレンジに背を向けて俺の方に向き直る。
「ナオ、好きだよ」
「りん?」
「ねえ、チューして」
言うが早いか、りんは俺の首に手を回す。そして強引に俺の頭を引き寄せると、俺の唇に自分の唇を重ねた。
「りん……豚バラ大根、焦げるぞ」
「ナオ……もっとしたい」
りんはもう一度俺の頭を引き寄せてキスをする。今度はそのキスが深くなった。りんの愛情の深さが伝わってくる。お互い初心者同士だが、俺もそのキスに答える。
「んっ……」
花宮の声でりんの吐息が漏れる。俺は頭の中が真っ白になった。しばらくして俺たちは唇を離すと、りんは花宮からスッと離脱する。
俺も頭がクラクラしていたが、花宮がそのまま俺にしがみついたままになってしまった。腰が抜けたような状態になっている。
「りんちゃん……もう……少しはセーブして」
『ご、ごめん……なんか夢中になっちゃって』
りんの表情もなんだかボーっとしている。俺は花宮を片手で抱きしめながら、ガスコンロの上の豚バラ大根をかき混ぜた。大根も肉も、少し焦げていた。
◆◆◆
俺は花宮と付き合い始めたことを、雄介に報告した。雄介からは「やっとか。長かったな。琴葉はしょっちゅうナオのアパートに行ってたろ? いままでなにやってたんだ?」と言われてしまった。もちろん雄介には、りんのことは話していない。
2月の期末試験も勉強会を開いて、雄介先生に教わりながらなんとか乗り切った。また俺の部屋で勉強会を開催した。俺と花宮は勉強しながら、雄介から見えない角度でテーブルの下で手を繋いだりした。それを見たりんは『アタシもアタシもー』と騒いでいたが、さすがに雄介がいるときに、りんは花宮に憑依するのは諦めてくれた。
3月に入ると、寒さが一段和らいだ。気候的にもちょうどいいので、俺たちはようやくずっと行きたかった場所へ訪れることにした。本当はもっと早く行くべきだったのだが……。
『ごめんね。ちょっと交通の便が悪い所で』
「まあこういうところは、大体交通の便が悪いからな」
「そうそう。でもやっと来ることができてよかったよ」
俺たち3人は電車と本数の少ないバスを乗り継ぎ、街はずれの公営墓地に来ていた。
俺たちはまだ、りんの墓参りをしたことがなかった。いろんなことが起こってバタバタしていたせいで、なかなか機会がなかった。ようやく期末テストが終わって時間ができ、天気のいい週末を選んで来ることになった。
りんは自分の墓にもちろん行ったことがない。でも普通に考えて、りんの母親と同じお墓に入っているだろう。
そう考えて俺たちはりんに場所を聞きながら、りんの母親の墓にやって来た。
「鮎川家之墓」……比較的新しい墓石には、そう記されている。墓石の横を覗いてみると、白く新しい戒名が彫られていた。日付は昨年の2月某日。りんの戒名だろう。
『よかった。やっぱりママと同じお墓に入れてくれたんだね』
りんが寂しそうに呟く。その念和の声が少し沈んでいた。
『ママに会えるようになるのは、いつなのかな……』
「まあそう急ぐなよ」
「そうだよ。いずれ会えるようにはなるんだからさ」
俺たちは持ってきた花を手向け、線香をあげた。全員で手を合わせ、お参りする。りんは自分の墓にお参りしているわけだ。いったいどんな気持ちなんだろうか。
『なんかここへ来るのも久しぶりだよ。ママが亡くなってから、お盆とお正月かお彼岸ぐらいしか来なかったからね』
「まあそんなもんだろ。俺だって母親のお墓参りなんて、実家へ帰ったときぐらいだからな」
「私はりんちゃんのお母さんに、りんちゃんはまだ元気ですよって報告しといたよ」
『もう死んじゃってるけどね。でも元気は元気だよね?』
俺たちは顔を見合わせて笑った。俺もりんのお母さんにはお願いをしておいた。もう少しだけ、待ってあげて下さいと。
俺たちが帰る準備をしていると、入口の方からスーツをきた一人の男性がやってきた。手には小さな花束を持っている。そしてその男性は……俺たちの前で立ち止まった。
ちょっと大柄で恰幅のよい体型、着ているスーツやネクタイはいかにも高級そうだ。頭髪は少し薄いが、そのキリッとした眼光鋭い目は少し戸惑いの色を見せていた。
「あの……君たちは……ひょっとしてりんのお友達なのかな?」
その男性は俺たちにそう問いかけた。俺は横目でりんの様子を垣間見る。りんも目を見開き、驚きの表情を浮かべて固まっている。
『……パパ……』
りんの口から、そんな言葉が溢れた。
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