57 / 94
後編
「……ああ、会いたいな」
しおりを挟む
「ただいま」
『あ、ナオ。おかえり』
花宮を家まで送ったあと、途中でオヤジと電話をしていたので帰宅が結構遅くなってしまった。
『琴ちゃん……どうだった?』
「ん? まあ……動揺はしてたけどな」
『そっかぁ……そうだよね』
りんは下を向いたまま、しょんぼりしている。
『もう……本当にこんな展開になるとは思ってなかったよ。あのまま幸せな気持ちで成仏できると思ったんだけどなぁ』
「ああ、俺もそう思ったわ」
俺は数時間前に起こったことを、もう一度思い出す。りんのカミングアウトで、俺は生前のりんに会っていたことを知った。
そして俺に「緑色のカバ」を届けようとして、トラックに跳ねられて16歳の若さで生涯を閉じた。そして……俺に気持ちを伝え、最後の思い出にとキスをした。
思い出すだけで頭がパンクしそうだ。ただ……やっぱり俺は罪悪感から抜け出せない。
『ナオ……ひょっとして『俺のせいで』とか、まだ思ってる?』
「……そりゃあ思うだろ。実際そうなんだし」
『もう……だからアタシはそんな風には思ってないからね! まあナオのことだから気にするなって言われても難しいかもだけど。そんなことより……アタシこそ最後にあんなことしてゴメンね。霊体から告白とか……迷惑だったよね……』
りんにそう言われて、振り返ってみる。俺はあのとき、どう思っただろう……。
「迷惑じゃないぞ。それこそ生まれて初めて女の子から告白されたわけだしな。嫌でも迷惑でもなかった」
『……ホントに?』
俺は思ったことをそのまま口にすると、りんは俺の様子を伺うように上目遣いで恥ずかしそうに訊いてきた。
「ああ。それに俺はりんが成仏するまでは一緒にいるわけだ。だから……これからも、よろしく頼むな」
『ナオ……うん、ありがとう』
俺の罪悪感は消えない。もし俺が罪滅ぼしをできるとすれば、りんにちゃんと寄り添って向き合うことだろう。それが俺にできる精一杯の贖罪じゃないだろうか。俺はそんなことを思っていた。
そんな一騒動があってから二日後、俺は実家に帰省した。本当は花宮にも会いたかったが、花宮は年末年始お寺のバイトが忙しくなかなか時間が取れないと聞いていた。なので俺はりんと一緒に帰省することにした。
実家では相変わらず修行もこなすが、さすがに年末年始は実家の寺も忙しい。俺はなにかと駆り出され、それなりに忙しい日々が続いた。
案外こういうときは、体を動かすというのもよかったようだ。いろいろやっているうちに、俺も少しは気が紛れた。
花宮とはお互い連絡を取っていた。年明けの「あけおめLime」も送り合ったりした。特に不自然なこともなく、以前と同じように冗談を言ったり夕食のおかずの写真を送ったりしていた。
何も変わっていないように思えた。唯一変わったことと言えば……俺の気持ちだった。
俺はあの日、花宮に憑依したりんとキスをして、その華奢な体を抱きしめた。俺は……あの時の花宮の感触が、未だに残っている。
花宮の柔らかな体躯、紅潮した頬、濡れた睫毛に透き通った瞳の輝き、そして唇の感触……その全てが忘れられない。
りんはいつも俺の隣りにいる。でも……俺はまちがいなく、花宮に会いたかった。そしてできれば、またこの手で抱きしめたい。そんなことを思うようになってしまっていた。
それでもまだ俺の中で、もう一つの疑問がどうしても残ってしまう。あの時俺が抱きしめたのは、りんなのか花宮なのか? そして俺が本当に好きなのは……本当に花宮なのか?
「なんかナオ兄ぃ、帰ってきてからおとなしいよね」
実家での夕食の時間、向かい側に座っている美久が唐突にそう言った。
「いや、そんなことはないぞ」
『あー美久ちゃんも気づいちゃったか。そうなんだよ。ナオは今青春真っ只中で、いろいろと悩み中なんだよ』
「うるせえよ」
俺は隣のりんに毒づいた。オヤジは「はっはっは」と笑っている。でもオヤジも兄貴も特に詮索してこない。美久は相変わらず、かまってちゃんだが。
食事を終えて、俺は自分の部屋に戻った。スマホを弄りながらしばしくつろぐ。
『なんか退屈だね……琴ちゃん、元気してるかな?』
りんがそう呟いた。
「まあLimeは来てるけどな。元気なんじゃないか?」
『もう……そういう意味じゃなくってさ』
すると俺のスマホが振動した。1件のLimeメッセージ。
「お、花宮からだ」
『どれどれ?』
「だから見るなって」
『いーじゃん、減るもんじゃなし』
スマホを見ると、「今日の晩ごはん。頑張って私一人で作ったんだ」というメッセージと一緒に写真が送られてきた。カレーライスとサラダ。りんが花宮にアドバイスしたハヤシライスの応用編のようだ。
しばらくすると、もう1件スタンプが送られてきた。ラッコのキャラクターが「会いたいよー」と言っている。なんとも可愛らしいスタンプだった。
『ふふっ……琴ちゃん、可愛いよね。ナオも会いたいでしょ?』
「……ああ、会いたいな」
頭に浮かんだ言葉が、そのまま俺の口からこぼれた。少しの間、俺とりんの間に沈黙が生まれた。
『あ、ナオ。おかえり』
花宮を家まで送ったあと、途中でオヤジと電話をしていたので帰宅が結構遅くなってしまった。
『琴ちゃん……どうだった?』
「ん? まあ……動揺はしてたけどな」
『そっかぁ……そうだよね』
りんは下を向いたまま、しょんぼりしている。
『もう……本当にこんな展開になるとは思ってなかったよ。あのまま幸せな気持ちで成仏できると思ったんだけどなぁ』
「ああ、俺もそう思ったわ」
俺は数時間前に起こったことを、もう一度思い出す。りんのカミングアウトで、俺は生前のりんに会っていたことを知った。
そして俺に「緑色のカバ」を届けようとして、トラックに跳ねられて16歳の若さで生涯を閉じた。そして……俺に気持ちを伝え、最後の思い出にとキスをした。
思い出すだけで頭がパンクしそうだ。ただ……やっぱり俺は罪悪感から抜け出せない。
『ナオ……ひょっとして『俺のせいで』とか、まだ思ってる?』
「……そりゃあ思うだろ。実際そうなんだし」
『もう……だからアタシはそんな風には思ってないからね! まあナオのことだから気にするなって言われても難しいかもだけど。そんなことより……アタシこそ最後にあんなことしてゴメンね。霊体から告白とか……迷惑だったよね……』
りんにそう言われて、振り返ってみる。俺はあのとき、どう思っただろう……。
「迷惑じゃないぞ。それこそ生まれて初めて女の子から告白されたわけだしな。嫌でも迷惑でもなかった」
『……ホントに?』
俺は思ったことをそのまま口にすると、りんは俺の様子を伺うように上目遣いで恥ずかしそうに訊いてきた。
「ああ。それに俺はりんが成仏するまでは一緒にいるわけだ。だから……これからも、よろしく頼むな」
『ナオ……うん、ありがとう』
俺の罪悪感は消えない。もし俺が罪滅ぼしをできるとすれば、りんにちゃんと寄り添って向き合うことだろう。それが俺にできる精一杯の贖罪じゃないだろうか。俺はそんなことを思っていた。
そんな一騒動があってから二日後、俺は実家に帰省した。本当は花宮にも会いたかったが、花宮は年末年始お寺のバイトが忙しくなかなか時間が取れないと聞いていた。なので俺はりんと一緒に帰省することにした。
実家では相変わらず修行もこなすが、さすがに年末年始は実家の寺も忙しい。俺はなにかと駆り出され、それなりに忙しい日々が続いた。
案外こういうときは、体を動かすというのもよかったようだ。いろいろやっているうちに、俺も少しは気が紛れた。
花宮とはお互い連絡を取っていた。年明けの「あけおめLime」も送り合ったりした。特に不自然なこともなく、以前と同じように冗談を言ったり夕食のおかずの写真を送ったりしていた。
何も変わっていないように思えた。唯一変わったことと言えば……俺の気持ちだった。
俺はあの日、花宮に憑依したりんとキスをして、その華奢な体を抱きしめた。俺は……あの時の花宮の感触が、未だに残っている。
花宮の柔らかな体躯、紅潮した頬、濡れた睫毛に透き通った瞳の輝き、そして唇の感触……その全てが忘れられない。
りんはいつも俺の隣りにいる。でも……俺はまちがいなく、花宮に会いたかった。そしてできれば、またこの手で抱きしめたい。そんなことを思うようになってしまっていた。
それでもまだ俺の中で、もう一つの疑問がどうしても残ってしまう。あの時俺が抱きしめたのは、りんなのか花宮なのか? そして俺が本当に好きなのは……本当に花宮なのか?
「なんかナオ兄ぃ、帰ってきてからおとなしいよね」
実家での夕食の時間、向かい側に座っている美久が唐突にそう言った。
「いや、そんなことはないぞ」
『あー美久ちゃんも気づいちゃったか。そうなんだよ。ナオは今青春真っ只中で、いろいろと悩み中なんだよ』
「うるせえよ」
俺は隣のりんに毒づいた。オヤジは「はっはっは」と笑っている。でもオヤジも兄貴も特に詮索してこない。美久は相変わらず、かまってちゃんだが。
食事を終えて、俺は自分の部屋に戻った。スマホを弄りながらしばしくつろぐ。
『なんか退屈だね……琴ちゃん、元気してるかな?』
りんがそう呟いた。
「まあLimeは来てるけどな。元気なんじゃないか?」
『もう……そういう意味じゃなくってさ』
すると俺のスマホが振動した。1件のLimeメッセージ。
「お、花宮からだ」
『どれどれ?』
「だから見るなって」
『いーじゃん、減るもんじゃなし』
スマホを見ると、「今日の晩ごはん。頑張って私一人で作ったんだ」というメッセージと一緒に写真が送られてきた。カレーライスとサラダ。りんが花宮にアドバイスしたハヤシライスの応用編のようだ。
しばらくすると、もう1件スタンプが送られてきた。ラッコのキャラクターが「会いたいよー」と言っている。なんとも可愛らしいスタンプだった。
『ふふっ……琴ちゃん、可愛いよね。ナオも会いたいでしょ?』
「……ああ、会いたいな」
頭に浮かんだ言葉が、そのまま俺の口からこぼれた。少しの間、俺とりんの間に沈黙が生まれた。
1
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【絶対攻略不可?】~隣の席のクール系美少女を好きになったらなぜか『魔王』を倒すことになった件。でも本当に攻略するのは君の方だったようです。~
夕姫
青春
主人公の霧ヶ谷颯太(きりがたにそうた)は高校1年生。今年の春から一人暮らしをして、東京の私立高校に通っている。
そして入学早々、運命的な出逢いを果たす。隣の席の柊咲夜(ひいらぎさくや)に一目惚れをする。淡い初恋。声をかけることもできずただ見てるだけ。
ただその関係は突然一変する。なんと賃貸の二重契約により咲夜と共に暮らすことになった。しかしそんな彼女には秘密があって……。
「もしかしてこれは大天使スカーレット=ナイト様のお導きなの?この先はさすがにソロでは厳しいと言うことかしら……。」
「え?大天使スカーレット=ナイト?」
「魔王を倒すまではあなたとパーティーを組んであげますよ。足だけは引っ張らないでくださいね?」
「あの柊さん?ゲームのやりすぎじゃ……。」
そう咲夜は学校でのクール系美少女には程遠い、いわゆる中二病なのだ。そんな咲夜の発言や行動に振り回されていく颯太。
この物語は、主人公の霧ヶ谷颯太が、クール系美少女の柊咲夜と共に魔王(学校生活)をパーティー(同居)を組んで攻略しながら、咲夜を攻略(お付き合い)するために奮闘する新感覚ショートラブコメです。
vtuberさんただいま炎上中
なべたべたい
青春
vtuber業界で女の子アイドルとしてvtuberを売っている事務所ユメノミライ。そこに唯一居る男性ライバーの主人公九重 ホムラ。そんな彼の配信はコメント欄が荒れに荒れその9割以上が罵詈雑言で埋められている。だが彼もその事を仕方ないと感じ出来るだけ周りに迷惑をかけない様にと気を遣いながら配信をしていた。だがそんなある日とある事をきっかけにホムラは誰かの迷惑になるかもと考える前に、もっと昔の様に配信がしたいと思い。その気持ちを胸に新たに出来た仲間たちとvtuber界隈のトップを目指す物語。
この小説はカクヨムや小説家になろう・ノベルアップ+・ハーメルン・ノベルピアでも掲載されています。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
俺と(従姉)姉ちゃんの良くある『今日から俺は?』の話だ。
かず斉入道
青春
この物語の時代背景は昭和……。
主人公の新作は春の入学式も終わり、高校生活にも少しなれた頃の、春の終わり。
二階の自身の部屋で、進学に向けて自習勉強中の頭の余り賢くない主人公山本新作の耳へと両親のヒソヒソ声が聞こえてくるのだが。
その内容と言うのが?
父親の経営する会社の業務拡大に伴って、他県へと会社を移転するから、皆で引っ越そうと言う話しで。
新作を他県の高校へと転校させようと言った話しなのだが。
その話しを聞いた当の本人である新作は顔色を変えてしまう。だって彼は、自身の担任のピチピチした女性教師の久美ちゃん先生に憧れと恋心、想いを寄せているからだ。
だって主人公は大学卒業後に、先生を自身の嫁にしたいと心から思い、願っているから進学に向けて猛勉強。
先生からも個人レッスンを受けているから。
彼は安易に転校をしたくはない。
でも新作が通う高校は県内一の不良学校、悪の巣窟だから。
新作の父親は、この機会に真面目な新作を転校させたいからと妻に相談する。
でも新作の母親は、父親の想いとは裏腹の意見を述べてくるのだ。
新作が通う高校には近所の幼馴染がいる。
その彼が悪の巣窟。県内ワーストワンの学園で、上級生達も恐れるような、広島市内でも凶悪、関わりたくない№1のサイコパスな人間なのだが。
そんな幼馴染と新作は大変に仲が良いのと。
素行が真面目な新作のことを担任の久美ちゃん先生が目をかけてくれて。大学進学をサポートしてくれている。
だから母親が新作の転向を反対し、彼を父親の兄の家に居候をさせてもらえるように嘆願をしてくれと告げる。
でも新作の父親の兄の家には一人娘の美奈子がいるから不味いと告げるのだが。美奈子は、幼い時に新作の嫁にくれると言っていたから。
二人の間に何かしらの問題が生じても、もう既に姪は家の嫁だから問題はないと。主人公が今迄知らなかった事を母親は父親へと告げ、押し切り。
新作は伯父の照明の家から学校へと通うことになるのだが。
でも主人公が幼い頃に憧れていた従姉の姉ちゃんは、実は伯父さんが夫婦が手に余るほどのヤンキーへと変貌しており、家でいつも大暴れの上に。室内でタ〇コ、シ〇ナーは吸うは、家に平然と彼氏を連れ込んで友人達と乱交パーティーするような素行の悪い少女……。
だから主人公の新作は従姉の姉ちゃん絡みの事件に色々と巻き込まれていく中で、自分もヤンキーなる事を決意する。
主人公が子供から少年……。そして大人へと移り変わっていく物語で御座います。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる