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前編
花宮の誕生日
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俺たちの勉強会は、それから連日続いた。相変わらず俺と花宮が同じ教科をやりながら、雄介に質問していくパターンだ。雄介のお陰で、かなりいいペースで宿題を消化することができた。
雄介が勉強会に参加できない日もあったりしたが、そんな時は花宮と図書館で勉強したりした。隣で勉強している花宮の黒髪から漂うシャンプーの香りに集中力をそがれる時もあったが、それでもなんとか宿題を処理していく。
そして……8月30日の夕方、なんとか俺と花宮は全ての宿題を終えた。既に宿題を終えていた雄介は最後の方はずっとスマホを弄って遊んでいたが、俺たちに最後まで付き合ってくれた。雄介には本当に感謝しないといけない。
「雄介、花宮、二人とも明日って何か予定ある?」
「私は特に」
「オレも今のところは。何かあるのか?」
「一緒にランチでもどうだ? 俺が奢るから」
特に雄介には、このまま無償奉仕で終わらせるのはよくない。実は実家を出る時に、オヤジから「勉強を教えてくれるお友達に何かご馳走しなさい。できれば花宮住職のお嬢さんもいっしょにな」と言われ小遣いを持たされていた。
「おー、そういうことなら奢ってもらわないとな」
「……私も一緒にいいの?」
「花宮はうちの寺に来てくれた時にご馳走してくれただろ? だからお返ししないと」
明日の予定は即決まった。3人でイタリアンファミレスでランチすることになり、12時に前回皆で行ったゲーセンのある駅前に集合することになった。
そして翌日。俺はりんと一緒に集合場所へ行くと、そこには既に花宮が来ていた。黒のギャザースリーブの七分袖に、淡いグリーンのパンツ。少し高めのヒールのサンダルを履いた花宮は、ちょっと大人の装いだった。
「おまたせ。花宮、早いな」
「私もいま来たところだよ。雄君も、もうすぐ駅に着くみたい。Lime来たから」
「そうか。花宮、今日はなんだか大人っぽいな」
「え? そ、そうかな? 似合わない?」
「そんなことないぞ。似合ってると思う」
『うわー、褒め方ダッさいわ……もっと気の利いた褒め方ないの? きっと琴ちゃん、一生懸命準備したんだよ』
りんに思いっきりダメ出しされたが……俺は恥ずかしくてなかなか言葉が出なかった。今日の花宮は薄いメイクを施して、コロンか香水のいい匂いがする。いつもの「可愛い」に「綺麗」をプラスした、上位互換モードの花宮だった。
雄介がすぐにやって来たので、俺たちはファミレスに移動する。お昼時だったが平日なので、ラッキーなことにすぐに席に案内された。
花宮が奥に座り、俺がその隣の通路側、向かい側に雄介。最近なぜかこの着席位置が定着している。それぞれの食べ物とデザート、それからドリンクバーを3つ注文する。
全員ドリンクバーから戻ってきて座ったところで、俺は口火を切った。
「花宮。誕生日おめでとう」
「ああ……琴葉、おめでとうな」
俺と雄介は、ジュースの入ったグラスを掲げた。今日8月31日が花宮の誕生日であることは、雄介から聞いていた。だからなんとかして8月末には、一度花宮には会っておきたかったのだ。
「えーっ、ありがとう! 城之内君も知っててくれてたんだ」
「ああ、雄介に聞いたんだ。ただプレゼントとかは用意してないんだよ。だからこのランチで勘弁してもらえるか?」
本当はプレゼントでも買うべきかとも思ったのだが……別に俺は花宮と付き合っているわけじゃないし、花宮だって急に俺からプレゼントとか渡されても、ちょっと微妙かなと俺は思った。だからあえて用意しなかった。
そのことを昨夜りんにも話したのだが、『なんで今頃言うのよ! そんなの絶対に用意した方がいいに決まってるでしょ!』と怒られてしまった。
「そんなのいいよ! 覚えててくれてただけでも嬉しいし。ランチもご馳走してくれるんだったら、もうそれで十分だよ」
「悪い、琴葉。オレは最初からプレゼントは頭になかったわ」
「雄君には最初から期待してませんよーだ」
花宮は鼻の上にシワを寄せて、雄介に向かって顔を突き出す。こういう仕草さえ、花宮がすると絵になってしまう。
料理が次々と運ばれてきた。俺と雄介は肉料理、花宮はパスタとサラダのセット、シェア用のピザでテーブルの上は一杯になった。全員空腹だったのか、食べ物はあっという間になくなった。
デザートは雄介がコーヒーゼリー、俺がティラミス、花宮はミニイチゴパフェだ。それぞれ食後のコーヒー、花宮は紅茶と共に食べ始める。
『琴ちゃん、よっぽどイチゴが好きなんだね。アタシはマンゴー派なんだけどなぁ』
りんが頬杖をつきながら、花宮の正面からイチゴパフェを眺めている。ちょうど机の上から頭だけニョキッと出ている様子は、かなりシュールではある。
すると……花宮のスプーンの動きが止まった。そして首をゆっくり動かし、まわりを伺うように何かを探り始めた。
「花宮、どうしたんだ?」
「えっ? う、うん。なんかね……すっごく視線を感じるの」
「えっ?」『えっ?』
俺は思わずテーブルの上のりんの顔に視線を向ける。りんもこちらを向いて、視線が合った。
「ほら、私以前ストーカーまがいのことをされたって話ししたじゃない? なんかね、その時と同じような感覚? あ、でも多分気のせいだよね」
そう言って花宮は再びパフェを食べ始めた。いや確かに気のせいじゃないんだが……
『やっぱり琴ちゃんさ、霊感強いんじゃない?』
りんがそう言う通り、もしかしたら花宮は実は霊感が強い、いや、あるいは強くなったのかもしれない。
雄介が勉強会に参加できない日もあったりしたが、そんな時は花宮と図書館で勉強したりした。隣で勉強している花宮の黒髪から漂うシャンプーの香りに集中力をそがれる時もあったが、それでもなんとか宿題を処理していく。
そして……8月30日の夕方、なんとか俺と花宮は全ての宿題を終えた。既に宿題を終えていた雄介は最後の方はずっとスマホを弄って遊んでいたが、俺たちに最後まで付き合ってくれた。雄介には本当に感謝しないといけない。
「雄介、花宮、二人とも明日って何か予定ある?」
「私は特に」
「オレも今のところは。何かあるのか?」
「一緒にランチでもどうだ? 俺が奢るから」
特に雄介には、このまま無償奉仕で終わらせるのはよくない。実は実家を出る時に、オヤジから「勉強を教えてくれるお友達に何かご馳走しなさい。できれば花宮住職のお嬢さんもいっしょにな」と言われ小遣いを持たされていた。
「おー、そういうことなら奢ってもらわないとな」
「……私も一緒にいいの?」
「花宮はうちの寺に来てくれた時にご馳走してくれただろ? だからお返ししないと」
明日の予定は即決まった。3人でイタリアンファミレスでランチすることになり、12時に前回皆で行ったゲーセンのある駅前に集合することになった。
そして翌日。俺はりんと一緒に集合場所へ行くと、そこには既に花宮が来ていた。黒のギャザースリーブの七分袖に、淡いグリーンのパンツ。少し高めのヒールのサンダルを履いた花宮は、ちょっと大人の装いだった。
「おまたせ。花宮、早いな」
「私もいま来たところだよ。雄君も、もうすぐ駅に着くみたい。Lime来たから」
「そうか。花宮、今日はなんだか大人っぽいな」
「え? そ、そうかな? 似合わない?」
「そんなことないぞ。似合ってると思う」
『うわー、褒め方ダッさいわ……もっと気の利いた褒め方ないの? きっと琴ちゃん、一生懸命準備したんだよ』
りんに思いっきりダメ出しされたが……俺は恥ずかしくてなかなか言葉が出なかった。今日の花宮は薄いメイクを施して、コロンか香水のいい匂いがする。いつもの「可愛い」に「綺麗」をプラスした、上位互換モードの花宮だった。
雄介がすぐにやって来たので、俺たちはファミレスに移動する。お昼時だったが平日なので、ラッキーなことにすぐに席に案内された。
花宮が奥に座り、俺がその隣の通路側、向かい側に雄介。最近なぜかこの着席位置が定着している。それぞれの食べ物とデザート、それからドリンクバーを3つ注文する。
全員ドリンクバーから戻ってきて座ったところで、俺は口火を切った。
「花宮。誕生日おめでとう」
「ああ……琴葉、おめでとうな」
俺と雄介は、ジュースの入ったグラスを掲げた。今日8月31日が花宮の誕生日であることは、雄介から聞いていた。だからなんとかして8月末には、一度花宮には会っておきたかったのだ。
「えーっ、ありがとう! 城之内君も知っててくれてたんだ」
「ああ、雄介に聞いたんだ。ただプレゼントとかは用意してないんだよ。だからこのランチで勘弁してもらえるか?」
本当はプレゼントでも買うべきかとも思ったのだが……別に俺は花宮と付き合っているわけじゃないし、花宮だって急に俺からプレゼントとか渡されても、ちょっと微妙かなと俺は思った。だからあえて用意しなかった。
そのことを昨夜りんにも話したのだが、『なんで今頃言うのよ! そんなの絶対に用意した方がいいに決まってるでしょ!』と怒られてしまった。
「そんなのいいよ! 覚えててくれてただけでも嬉しいし。ランチもご馳走してくれるんだったら、もうそれで十分だよ」
「悪い、琴葉。オレは最初からプレゼントは頭になかったわ」
「雄君には最初から期待してませんよーだ」
花宮は鼻の上にシワを寄せて、雄介に向かって顔を突き出す。こういう仕草さえ、花宮がすると絵になってしまう。
料理が次々と運ばれてきた。俺と雄介は肉料理、花宮はパスタとサラダのセット、シェア用のピザでテーブルの上は一杯になった。全員空腹だったのか、食べ物はあっという間になくなった。
デザートは雄介がコーヒーゼリー、俺がティラミス、花宮はミニイチゴパフェだ。それぞれ食後のコーヒー、花宮は紅茶と共に食べ始める。
『琴ちゃん、よっぽどイチゴが好きなんだね。アタシはマンゴー派なんだけどなぁ』
りんが頬杖をつきながら、花宮の正面からイチゴパフェを眺めている。ちょうど机の上から頭だけニョキッと出ている様子は、かなりシュールではある。
すると……花宮のスプーンの動きが止まった。そして首をゆっくり動かし、まわりを伺うように何かを探り始めた。
「花宮、どうしたんだ?」
「えっ? う、うん。なんかね……すっごく視線を感じるの」
「えっ?」『えっ?』
俺は思わずテーブルの上のりんの顔に視線を向ける。りんもこちらを向いて、視線が合った。
「ほら、私以前ストーカーまがいのことをされたって話ししたじゃない? なんかね、その時と同じような感覚? あ、でも多分気のせいだよね」
そう言って花宮は再びパフェを食べ始めた。いや確かに気のせいじゃないんだが……
『やっぱり琴ちゃんさ、霊感強いんじゃない?』
りんがそう言う通り、もしかしたら花宮は実は霊感が強い、いや、あるいは強くなったのかもしれない。
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