学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太

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前編

カフェで食事

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 俺たちはそのまま併設のカフェの方に移動する。お昼時ということもあって、カフェ内はかなり賑わっていた。

「今日って平日だよね? それでもこんなにすごい人なんだね」

「まあ夏休み期間中は、こんな感じだな」

 客層のほとんどが女性客かカップルだ。ファミリーや男性グループはあまり見かけない。俺たちは席が空くのを少し待っていたが、5分程すると席へ案内された。

「ここは私に払わせてね」

 俺の向かい側の席に座り、運ばれてきた水を一口飲んで花宮はそう言った。

「いや、兄貴から『あとで店から請求してもらうから』って言われてるんだよ。だから気にしなくていいぞ」

「ダメダメ。お父さんからね、お金預かってるの。だから私が払わないと、あとで怒られちゃう」

 だからここは払わせて、花宮はそう言って譲らなかった。俺は花宮と花宮のお父さんのご厚意に甘えることにする。

「ここのおすすめは……やっぱりハヤシライスだよね?」

「ん? まあそうだな」

 このカフェのフードメニューの目玉はハヤシライスだ。ハヤシライスとスイーツを全面的に押し出して営業している。

 なぜハヤシライスなのか。それは例の映画のヒロインを演じていたのが「林英美里ハヤシえみり」という若手女優だったからで、それにあやかってハヤシライスを名物にした。

 なんとも安直なネーミングなのだが、林英美里自身がここを訪れ自身のYoutubeチャンネルでこのハヤシライスを取り上げたところ、これが大バズり。それ以来このハヤシライスを目当てに来てくれる観光客がどっと押し寄せた。

 当のハヤシライスもレトルトやルーとかを使用する手抜き料理ではない。トマトピューレやデミグラスソース、香辛料を使用してじっくり煮込んだ本格派だ。実際その味を求めて多くの客がリピーターとして訪れてくれている。

 俺たちはハヤシライス2つと、デザートに花宮は柚子のジェラート、俺はパンケーキを注文した。

「城之内君、パンケーキとか食べるんだね」

「ああ、甘いものは好きだけど……多分量が多いから、半分食べてくれないか?」

「え? うん! 食べる食べる!」

 花宮は満面の笑みを浮かべる。花宮は最後までジェラートかパンケーキで迷っていたので、俺がパンケーキを注文してシェアすればいい。

『うわーナオ、イケメンなことするじゃない! いまのは高ポイントだよ。10ポイント獲得で、琴ちゃんのビキニ姿が見られるから頑張って! 50ポイントなら琴ちゃんの使用済み紐パン』

「だからエロゲーから離れろ」

「えっ?」

「いや、なんでもない」

 りんが横からちょっかいを出してくるので、いちいち面倒くさい。やっぱり部屋で留守番させればよかった……。

 注文したハヤシライスが運ばれてきた。トマトベースのちょっとスパイシーな香りが食欲をそそる。茶色いルーの上に白い生クリームが細くかけられていて、ビジュアル的にも綺麗だ。

「うわー、美味しそう」

『ちょっと、なにこれ! めちゃくちゃ美味しそうじゃない……ねえナオ、ちょっと味見だけさせてよ。ちょっとだけ憑依させて。おとなしくするからさぁ。お願い!』

 花宮よりもりんの方の反応が強かった。俺は一瞬迷ったが……このハヤシライスを目の前にして味見させてあげられないのは、さすがに可愛そうかなと思った。それにりんが憑依した状態で念話するほうが、俺も口を動かさなくて済む。

 俺は少しため息をつきながら、りんの方を見てゆっくり頷いた。俺は神経を集中させ、霊に対する防御レベルを下げていく。りんが俺の体の中へ入っているのがわかった。

『えへへ……ありがと』

『まったく……りん、あんまり余分なこと言うなよ』

『まあまあ。これでもおとなしくしてるんだけどね』

 どこがだよ、と思ったが、俺は意識を花宮の方に向ける。

「じゃあ食べよっか。いただきます」

 俺もいただきますと言って、スプーンを取る。そしてハヤシライスを一口すくって口の中へ運ぶ。トマトベースの良い香りが……

『あっつい!』

 りんの叫び声が俺の脳内を直撃した。俺は一瞬体をビクンとさせる。

「? どうしたの、城之内君」

「いや、なんでもない」

 不思議そうに俺を見る花宮に、俺は平静を装う。

『なんだよ急に。大声出すんじゃない』

『そんなこと言ったって。こんなに熱いの、いきなり口に入れないでよ』

『そんなに熱くねーだろ?』

『熱いわよ。ちょっとお水ちょうだい』

『もー面倒くせーなー』

 仕方ないので俺は水を一口飲む。いま俺とりんは同じ感覚を共有しているが、その感覚の感じ方は俺とりんとで個人差がある。

 以前同じように憑依した状態で夕食を食べていた時には『これ、ちょっとしょっぱくない? 塩入れすぎたかも』『いや、そうでもないだろ』といった感覚の違いもあった。

 どうやら……りんは極端な「猫舌」だったようだ。

『ナオ、ちょっと熱いからフーフーして食べて』

『嫌だよ、面倒くせーし』

『お願い! 熱すぎて味がわかんないよ』

『あーもう! なんなんだよ』

 仕方がないので俺はスプーンでもう一口すくい取り、フーフーと息を吹きかけてハヤシライスを冷ます。そして口を入れようとすると……

『もうちょっと、フーフーして』

『お前、子供かよ』

 もう一回俺はフーフーと息を吹きかけて、口に運ぼうとしたところで……花宮と目があった。

「城之内君、これそんなに熱い?」

「だよな! 熱くないよな」

「?」

 会話が成立しなかった。
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