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前編
実家のお寺
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『ところでさ、新学期初日どうだった?』
「どうだったって……特になにもないぞ」
『なにもないことないでしょ? クラス替えってあったの?』
「まあな……1年の時にわりと仲良かったヤツと同じクラスだったわ」
『そう。可愛い女の子とか、いた?』
「ん? ああ、まあ」
『えっ? いたの? どんな子? ねえ、どんな子?』
「なんでりんがそんなに食いつくんだよ……まあ学校一可愛い子と同じクラスだ」
『へーそうなんだね。どんな子? 清楚系? 見てみたいなぁ』
「まありんとは真逆なタイプだな。黒髪の清楚系、上品な感じだ」
『だれが下品よ! まあ上品じゃない自覚はあるけどさ』
「その子もお寺さんの娘なんだよ。完永寺ってわかるか?」
『えっと、あの高台にあるお寺だよね?』
「そう。そこの住職の娘だ」
『へー……だったらさ、ナオと話合うんじゃない? 共通の話題も多そうだし。『やっぱりお経は16ビートだよね?』とかさ、『好きな木魚の形は?』とかさ』
「話題がマニアック過ぎるだろ」
とは言え……さっき雄介と花宮と3人で話していた時のことが気になる。顔を赤らめてわーわー言ってた花宮の表情がめっちゃ可愛かった。なにか俺に関係することがあるのか? 何も思い浮かばないが……
『どうしたの、ナオ?』
「あ、いや……なんでもない」
まあこれから1年間同じクラスなんだし、それだけでも十分ラッキーだ。
『ところでお昼ごはん、食べたの?』
「いや、まだだ。面倒くさいし……たしか引越荷物の中にカップ麺があったような」
『もう、本当に体に良くないわね。少しは自炊したほうがいいよ。お昼はまあ仕方ないとして、カップ麺食べたらスーパーに買い出しに行ってきたら? 夕食の作り方、教えてあげるよ』
「本当か? それは助かるな」
『人間の体は食べ物からできてるんだから、ちゃんとしたものを食べないとダメ。昔ママによく言われたわ』
「返す言葉もないな」
寮を出て金もかかるし、十分な仕送りも貰えそうにないしな。確かに心を入れ替えて、自炊しないといけない。
俺はカップ麺を食べたあと、りんに言われて食器棚とか冷蔵庫の中をチェックする。
『炊飯器も鍋もフライパンも備え付けのものがあるし、食器類も全部100均のものだけど二人分はあるみたいだね。とりあえず食材と調味料があれば、ごはんは食べられるよ』
そう言うとりんは買ってくるものを一つ一つ教えてくれるので、俺はそれをスマホにメモして買い物リストを作る。うわ、調味料って結構種類があるんだな。それに米が重そうだ。
早速俺は近所のスーパーへ買い出しに行く。『お米は重いから、リュックを持っていくといいよ』とりんから言われ、完全装備で部屋を出た。
買い物を終えて、お米やら調味料の瓶類やらで両手いっぱいになった。重い荷物を抱えながらスーパーからゆっくりと部屋へ戻る。ビニール袋の取っ手部分が既にちぎれそうになっている。
「ただいま……ああ疲れた。腕がちぎれそうだ」
『おかえり。もーだらしないなぁ。日頃から運動してないからじゃない?』
「否定できねぇ」
俺は買ってきた食材やら調味料やらを、りんの指示を聞きながら整理していく。調味料とかは料理しやすいような配置があるらしい。
夕食までまだ少し時間があるので、テレビをつけてくつろぐ。
『あ、この映画再放送だね。これね、犯人は社長の秘書の人。この右側の』
「お前ちょっと黙っといてくれる?」
俺はチャンネルを変えた。バラエティー番組の再放送をやっていた。しばらく二人でテレビを見ていたのだが……
『ねえ、ナオの実家のお寺ってどんなとこ?』
「ん? ああ、隣の県の田舎町の何の特徴もないお寺だった」
『? だった、って?』
「ああ、それがな……」
俺の実家のお寺は、田舎の普通のお寺だった。参拝客もまばらで、よくこれで運営できてるなと思うほどだったが……実はちゃんとした副収入があった。
実は俺のオヤジは日本でも有数の霊能者として、かなり有名な僧侶らしい。全国からいろいろな除霊や強制成仏、あるいはりんのような地縛霊の相談が後を絶たないらしい。
オヤジは時間の許す限り依頼を受け、相談料として安くない金額の報酬を得ている。これが寺の運営資金、ひいては俺たちの生活資金となっていた。
ところが俺の兄貴が大学を卒業して、実家に戻り副住職として寺の運営に乗り出すと……兄貴は矢継ぎ早に寺の運営の改善策を打ち出した。
寺の敷地内には大きな樫の木があるのだが、その木には樹洞といって大きなくぼみがあった。そしてそれをある角度から見てみると、きれいなハートの形に見えるのだ。
そんなこと今まで誰も気にしたことはなかったのだが、兄貴は「これは使える」とSNSを駆使して大々的に宣伝しはじめた。
するとこれがZ世代の女性たちの間でバズった。寺も「恋愛成就のお寺」というのを全面的に打ち出した。若い女性やカップルたちが、連日来てくれるようになった。
ところが兄貴の策はこれにとどまらなかった。映像制作会社に就職した大学時代の友人の伝手で、映画のロケ地として使ってもらうことに成功した。
「どうだったって……特になにもないぞ」
『なにもないことないでしょ? クラス替えってあったの?』
「まあな……1年の時にわりと仲良かったヤツと同じクラスだったわ」
『そう。可愛い女の子とか、いた?』
「ん? ああ、まあ」
『えっ? いたの? どんな子? ねえ、どんな子?』
「なんでりんがそんなに食いつくんだよ……まあ学校一可愛い子と同じクラスだ」
『へーそうなんだね。どんな子? 清楚系? 見てみたいなぁ』
「まありんとは真逆なタイプだな。黒髪の清楚系、上品な感じだ」
『だれが下品よ! まあ上品じゃない自覚はあるけどさ』
「その子もお寺さんの娘なんだよ。完永寺ってわかるか?」
『えっと、あの高台にあるお寺だよね?』
「そう。そこの住職の娘だ」
『へー……だったらさ、ナオと話合うんじゃない? 共通の話題も多そうだし。『やっぱりお経は16ビートだよね?』とかさ、『好きな木魚の形は?』とかさ』
「話題がマニアック過ぎるだろ」
とは言え……さっき雄介と花宮と3人で話していた時のことが気になる。顔を赤らめてわーわー言ってた花宮の表情がめっちゃ可愛かった。なにか俺に関係することがあるのか? 何も思い浮かばないが……
『どうしたの、ナオ?』
「あ、いや……なんでもない」
まあこれから1年間同じクラスなんだし、それだけでも十分ラッキーだ。
『ところでお昼ごはん、食べたの?』
「いや、まだだ。面倒くさいし……たしか引越荷物の中にカップ麺があったような」
『もう、本当に体に良くないわね。少しは自炊したほうがいいよ。お昼はまあ仕方ないとして、カップ麺食べたらスーパーに買い出しに行ってきたら? 夕食の作り方、教えてあげるよ』
「本当か? それは助かるな」
『人間の体は食べ物からできてるんだから、ちゃんとしたものを食べないとダメ。昔ママによく言われたわ』
「返す言葉もないな」
寮を出て金もかかるし、十分な仕送りも貰えそうにないしな。確かに心を入れ替えて、自炊しないといけない。
俺はカップ麺を食べたあと、りんに言われて食器棚とか冷蔵庫の中をチェックする。
『炊飯器も鍋もフライパンも備え付けのものがあるし、食器類も全部100均のものだけど二人分はあるみたいだね。とりあえず食材と調味料があれば、ごはんは食べられるよ』
そう言うとりんは買ってくるものを一つ一つ教えてくれるので、俺はそれをスマホにメモして買い物リストを作る。うわ、調味料って結構種類があるんだな。それに米が重そうだ。
早速俺は近所のスーパーへ買い出しに行く。『お米は重いから、リュックを持っていくといいよ』とりんから言われ、完全装備で部屋を出た。
買い物を終えて、お米やら調味料の瓶類やらで両手いっぱいになった。重い荷物を抱えながらスーパーからゆっくりと部屋へ戻る。ビニール袋の取っ手部分が既にちぎれそうになっている。
「ただいま……ああ疲れた。腕がちぎれそうだ」
『おかえり。もーだらしないなぁ。日頃から運動してないからじゃない?』
「否定できねぇ」
俺は買ってきた食材やら調味料やらを、りんの指示を聞きながら整理していく。調味料とかは料理しやすいような配置があるらしい。
夕食までまだ少し時間があるので、テレビをつけてくつろぐ。
『あ、この映画再放送だね。これね、犯人は社長の秘書の人。この右側の』
「お前ちょっと黙っといてくれる?」
俺はチャンネルを変えた。バラエティー番組の再放送をやっていた。しばらく二人でテレビを見ていたのだが……
『ねえ、ナオの実家のお寺ってどんなとこ?』
「ん? ああ、隣の県の田舎町の何の特徴もないお寺だった」
『? だった、って?』
「ああ、それがな……」
俺の実家のお寺は、田舎の普通のお寺だった。参拝客もまばらで、よくこれで運営できてるなと思うほどだったが……実はちゃんとした副収入があった。
実は俺のオヤジは日本でも有数の霊能者として、かなり有名な僧侶らしい。全国からいろいろな除霊や強制成仏、あるいはりんのような地縛霊の相談が後を絶たないらしい。
オヤジは時間の許す限り依頼を受け、相談料として安くない金額の報酬を得ている。これが寺の運営資金、ひいては俺たちの生活資金となっていた。
ところが俺の兄貴が大学を卒業して、実家に戻り副住職として寺の運営に乗り出すと……兄貴は矢継ぎ早に寺の運営の改善策を打ち出した。
寺の敷地内には大きな樫の木があるのだが、その木には樹洞といって大きなくぼみがあった。そしてそれをある角度から見てみると、きれいなハートの形に見えるのだ。
そんなこと今まで誰も気にしたことはなかったのだが、兄貴は「これは使える」とSNSを駆使して大々的に宣伝しはじめた。
するとこれがZ世代の女性たちの間でバズった。寺も「恋愛成就のお寺」というのを全面的に打ち出した。若い女性やカップルたちが、連日来てくれるようになった。
ところが兄貴の策はこれにとどまらなかった。映像制作会社に就職した大学時代の友人の伝手で、映画のロケ地として使ってもらうことに成功した。
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