上 下
45 / 54

No.45:集中できない

しおりを挟む

「いいですけど……でも難しいのは作れませんよ」

「違う違う。前に作ってくれたものだよ。帰りに業スーに寄って、買い物して帰ろうよ。食材は私が買うからさ」

「分かりました。じゃあ、そうしましょう」

 そう言って僕は、フライドポテトをひとつ口に運んだ。
 ところで……今日、ちょっと気になる事がある。
 すみかさんの距離が、とにかく近いのだ。

 アパートからここへ来る時に、ずっと僕の腕を取っていた。
 そしてたまに僕の手に指を絡めたりしてくる。
 びっくりしてすみかさんの顔を見ると、顔を赤らめて僕の顔を見上げたりしているのだ。
 どうしたんだろう。
 これ、完全に勘違いするヤツだ。

 昼食を食べ終えて、次はカラオケだ。
 最初に曲を入れたのはすみかさん。
 1年くらい前にヒットした、女性シンガーソングライターの曲だ。

 う、うまい!
 透明感のある歌声で、音程が全く外れない。
 サビの部分の高音の伸びもすごい。
 へたをしたらオリジナルより上手いんじゃないか。
 そんな圧巻の歌いっぷりだった。

「すみかさん、めちゃくちゃ上手いじゃないですか」

「そうかな? でもカラオケは好きだよ。最近行ってないけどね」

「僕よくわからないんですけど、お店にカラオケとかないんですか?」

「あるある。でも私、最近歌わないようにしているの。なんかね、悪目立ちしちゃって」

「あー、なんかわかります」

 そりゃこれだけの歌声をお店の中に響き渡らせたら、目立ってしょうがないだろうな。

 僕はアニソンにもなっている、有名なバンドの曲を歌った。

「翔君、上手じゃない」

「いや、すみかさんに言われても」

「カラオケはよく来るの?」

「ええ、この間も智也と亜美と三人で行きました。僕が一番下手なんですけど」

「そうなんだ。楽しそうでいいなあ」

「まあ楽しいは楽しいですけどね」

 でも僕は、今の方がもっと楽しいかも。

 僕たちは2時間しっかり歌った。
 声がガラガラになってきた。
 朝から体も動かしたから、結構体力を使った。

 カラオケコーナーを抜けたところに、ゲームコーナーがあった。
 クレーンゲームが、たくさん置いてある。
 すみかさんは興味津々だ。

「すみかさん、これやったことありますか?」

「ないの。でも前からすごく興味があって」

「やってみればいいじゃないですか」

「だって一人じゃ、やりにくいじゃない。それにね、ほら、よくカップルで男の子が人形をとってあげて、女の子にに渡したりとかしてるでしょ? もーあれ見てさ、いいなーって、ずっと思ってた」

「……やっぱりすみかさん、チョロいですよ」

「だからチョロいって言わないの!」

「でもそこまで言われたら、取るしかないですね」

「えー、翔くん取ってくれるの?」

 僕はすみかさんと二人で、クレーンゲームを物色し始めた。
 すみかさんは僕の腕を取って、密着しながら台のガラスにへばりついている。
 顔を盗み見ると、目をキラキラと輝かせている。
 何というか……甘えられている感じだ。
 どっちが年上だか、わかんないや。

 僕は1台のクレーンゲームに狙いを定める。
 アームが二本のタイプ。
 僕はこのタイプが好きだ。

 ポジション的に、ひとつ取れそうなのがある。
 まあ1回では無理かもしれないけど。

 台に張ってあるポスターを見てみる。
 その人形は、頭がライオン、首から下が馬。
 ライマーというキャラクターらしい。
 名前がこの上なくダサい。

「すみかさん、こんなんでもいいですか?」

「いい、いい! もう何でもいいよ!」

 ハードルを下げてくれて助かった。
 僕はその台に200円入れる。
 ボタンを押して、まずアームを横に動かす。
 すみかさんは、ずっと僕の腕を取っている。
 次にもう一つのボタンを押して、アームを奥に動かす。

 アームがゆっくり下がって、人形をつかむ。
 すみかさんが僕の腕を取り、ギューッと掴む。
 同時に僕は、すみかさんのGカップを想像する。
 いまどんな状態なんだ?……

 だめだ、全然集中できない。

 アームは一瞬人形を掴んだが、すぐにポロっと落ちてしまった。

「あーーー」

 すみかさんの声が響いた。
 僕は落ちた人形のポジションを見る。
 うん、次なら行けるかも。
 集中しよう。

「すみかさん、ちょっと横から見てもらえますか? 奥にアームを動かす時、ストップって言ってください」

「うん、わかった!」

 すみかさんは僕からパッと離れて、台の横の方へ移動した。
 よし、これなら集中できる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!

いーじーしっくす
青春
 赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。  しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。  その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。  証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。  そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。 深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。  拓真の想いは届くのか? それとも……。 「ねぇ、拓真。好きって言って?」 「嫌だよ」 「お墓っていくらかしら?」 「なんで!?」  純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

ぼっち陰キャはモテ属性らしいぞ

みずがめ
恋愛
 俺、室井和也。高校二年生。ぼっちで陰キャだけど、自由な一人暮らしで高校生活を穏やかに過ごしていた。  そんなある日、何気なく訪れた深夜のコンビニでクラスの美少女二人に目をつけられてしまう。  渡会アスカ。金髪にピアスというギャル系美少女。そして巨乳。  桐生紗良。黒髪に色白の清楚系美少女。こちらも巨乳。  俺が一人暮らしをしていると知った二人は、ちょっと甘えれば家を自由に使えるとでも考えたのだろう。過激なアプローチをしてくるが、紳士な俺は美少女の誘惑に屈しなかった。  ……でも、アスカさんも紗良さんも、ただ遊び場所が欲しいだけで俺を頼ってくるわけではなかった。  これは問題を抱えた俺達三人が、互いを支えたくてしょうがなくなった関係の話。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...