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No.03:高校生デイトレーダーの日常

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「さてと……」

 本屋から家に戻った俺は、自室の机の上で買ってきた本を並べる。
 途中あの3人組に会うんじゃないかと若干ヒヤヒヤしたが、幸いそんなこともなかった。

 買ってきた本は3冊。
 2冊はプログラミングに関する本で、一冊は株式投資に関する本。
 それもシステム売買に関する本だ。

 机の上にはマウスとキーボード、それに21インチのパソコンモニターが3枚。
 いわゆるトリプルモニターだ。

 モニター画面には、東京証券取引所の主要指標の一覧、為替データや50銘柄以上のローソク足チャートが無機質に並んでいる。

 そう、俺の趣味と実益を兼ねた作業というのは、株式トレードのことだ。

 …………………………………………………………

 俺は小学生だった頃、二つのことに異常に興味をもった。
 一つはプログラミングで、もう一つは株式投資だ。

 父親に連れられて近所のプログラミングスクールに行ったのは、小学校3年生のとき。
 周りの他の参加者は、中学生や高校生ばかりだった。

 タブレット上のスクリプトと呼ばれる「電子上の紙」に、コマンドと呼ばれる命令を組み合わせて書いていくと、そのコマンド通りにタブレットの中で文字や図形が描かれたり、自分が描いた絵柄が動いたりした。
 その時の感動は今でも覚えている。

 他にどんなことができるんだろう……。
 図書館に行き、分厚いコマンド体系の本を借りてきた。
 自分で本を見ながら、いろんなプログラムを遊びながら組んだ。

 翌週にはタブレットのジャイロセンサーを使って、障害物を避けながらボールを落としていくゲームを作り上げて、自分で遊んでいた。

 スクールの先生に見せたら、「どこのサイトからダウンロードしたのかな?」と自作であることを信じてもらえなかった。

 スクールはすぐに役立たなくなったので辞めてしまった。
 それでもプログラミングは独学で勉強して、どんどん複雑なことができるようになっていった。

 株式投資を勧めてくれたのも、やはり父親だ。

 小さいうちから金融リテラシーを身につけた方がいいと、俺名義の証券会社の未成年口座を開いてくれた。

 大雑把な会計・株式マーケットの知識を、図書館から借りてきた本やネット情報で勉強した。
 すると小4の時には、四季報に書いてあるような財務諸表は大体理解できるようになった。

 最初に株式を購入したのは小4の秋。
 大手老人介護施設の会社だった。
 財務内容もよく、今後お年寄りの数は確実に増えていくだろう。
 それが購入した理由だ。

 貯めていたお年玉5万円で購入すると、その後株価はぐんぐん上昇。
 4年の間に3回株式分割して、株価は8倍になった。
 単に運がよかっただけかもしれない。

 高校受験も終わった中3の春休み。
 5万円のお年玉は、株価の上昇で80万円に化けていた。

 俺はその間に、株価の動きを徹底的に研究した。
 すると株価にはある程度の規則性があることが分かってきた。
 もちろん100%ではない。
 しかしリスクと利益をコントロールしながらその規則性に沿って売買すれば、利益を出していけるんじゃないか。
 そんな自信が芽生えた。

 そこで株価の動きをシステムで監視し、その条件に合った自動売買プログラムを自分で作ってみることにした。

 父親に頼み込み、父親名義の信用取引口座を開設し、その口座を使わせてもらうことにした。
 プログラム売買には信用取引口座と証券会社が提供するAPIが必要で、信用取引口座は未成年では開設できないからだ。

 高校に入ってからプログラム売買を開始した。
 東証マーケットがオープンしているのは前場が9時から11時半。
 後場が12時半から15時まで。
 俺はもちろん学校で授業中だ。
 だから一旦プログラムをセットしたら、あとは自動的に株を売買するようにシステムを組んである。

 俺は昼休みと15時以降、1日2回スマホで収益状況を監視する。
 自宅に戻ったらマーケット環境に応じて、銘柄選択やパラメータを調整する。
 それの繰り返しだ。

 始めは損を出すこともあったが、徐々に軌道に乗ってコンスタントに収益が出るようになった。
 当然負ける日もあるが、負ける週はなくなった。
 80万円でスタートした軍資金は、1年後に230万円、今現在は380万円だ。
 取引金額も徐々に増やして、高校卒業までに1千万円というのが当面の目標だ。

「ふぅ……こんなもんかな?」

 買ってきた本を斜め読みしたあと、パソコンに向かい売買プログラムに手を加える。
 為替が動いているので、候補銘柄を少し変更する。
 これで明日もなんとか稼いでくれ。

「それにしても、今日のあの子、本当に可愛いかったな……」

 思春期男子というのは一般的に可愛い子を見るとドキドキして、話をしたい、デートしたい、恋人にしたい、と思うらしい。

 でも俺にはそういった感情はない。恋人?付き合う?時間の無駄だな。
 そんなものはいずれ壊れてしまうんだ。

 ただ彼女を見ていたとき、綺麗な宝石、可愛らしい花、清らかな風景……そういったものを愛でている。そんな感覚だった。

「まぁ、もう会うこともないんだろうけどな」

 俺は独りごちて、部屋を出た。
 風呂でも入るか……。
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