旅商人と夜ノ森の番人

すがのさく

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「……ふう。入ったよ……」

 男の身体の勝手なんか知らない。それでも中はぬかるんで柔らかく、けれどきつくて、彼に締め付けられていると充足感でいっぱいになる。
 身体のすべてを晒しこちらを見上げている少年が、恐ろしく魅力的だからだろうか。

「ん……入ったね……」

 言いながら、彼は手で腹をさすっている。

「ここ、触って」

 そして、アベルの片手を下腹の上に置かせると緩く腰を動かす。ぬちゅ……と濡れた音が立つ。

「あ、……ん、ここ、入ってるの、わかる……?」

 アベルの手が、皮膚の下の固いものに触れている。それが自分の性器だと気づくまで数秒かかった。なんだか顔が熱くなる。

「俺の……」

 にこりとマイネが微笑んだ。王子様然とした顔で、やっていることは娼婦のようだ。
 アベルは腰を引き、打った。

「ひゃあっ……!」

 マイネが眉根を寄せて声を上げた。

「だ、だめ、そんないきなり」
「だめ?」
「もう少し、待って」

 腕を差し出され、抱擁に応じた。小さく形の良い唇に口づける。唾液が漏れるのも構わず、舌を絡め合う。
 アベルは無意識に動き出してしまいそうな腰を抑えるのに必死だ。

「動きたい」
「……だめ。もう少し」

 ちゅ、ちゅ、と唇同士が吸い合って音を立てる。自分たちは愛し合っているのだと、錯覚しそうだ。
 この少年が手に入るはずはないのに。

「……んっ、……あ、ああ……っ」

 ゆるゆると腰が動いてしまう。

「うう、あ、あ、あん、……アベル……」
「ごめん、もう無理……」

 とうとう我慢できなくなり、本格的に抽挿を始めた。ぱちゅ、ぱちゅ、と肉と肉がぶつかる音と、互いの荒い息遣いがほの明るい部屋に響く。接合する二人の一かたまりになった大きな影が、ゆらゆら白い壁に映っていた。
 アベルの律動に揺られながら、マイネが泣き出しそうな目を向けてくる。それでも、もう抵抗しようとはしてこなかった。

「あん、アベルっ、アベル、……きもちい……」

 ぽろりと、マイネの目尻から一粒の涙が伝った。

「俺も……」

 その様子が綺麗で、苦しい締め付けの中でうっとりしながらそう返す。

「やん、やあ、あ、あん、ああ……」

 マイネは清純そうな外見と中身にそぐわず、快楽に従順なようだ。
 ちょっと堤防を崩してしまえば、あとは流れ出す水を止めようとはしない。溢れ出す声は可愛らしく淫猥で、晒け出された身体は淫らにくねって視線を釘付けにする。

(こんなに美人で、素直で、いやらしい。外に出したら放っておく男はいないな……)

 きゅんきゅん締め付ける内壁を先端で擦ってやりながら、アベルは沸騰寸前の頭で考えていた。

「アベルっ、そこっ、やあ……っ」

 マイネが敏感に内腿を震わせるさまは、本当に娼婦のようだった。
 しかし交歓に夢中でも、意外にも冷静を保っていたらしい鼓膜はおかしな音を捉えた。

 ずず……。ずず……。

 地鳴りかと思ったが、違う。何かを引きずるような、鈍くて重い音だ。
 ぐうう……と、部屋の外からピムの唸り声まで聞こえてきて、アベルは律動を止めた。

「あっ、えっ? うそ、アベル!」

 蕩けて焦点さえ上手く合っていなかったようなマイネが、ふっと正気に戻った顔をした。

「声を立てちゃだめ。あと、窓の外を見ないで。目をつぶって」

 ピムも黙って! とぴしゃりと言い放ち、飼い犬も黙らせた。
 ぐじゅぐじゅの結合部とはかけ離れた冷静さだ。

「どうして?」
「あん、もういいから、黙って!」

 痺れを切らしたように言い、マイネはアベルの頭を引き寄せて口付けた。
 ろうそくの明かりが勝手に消え、視界が真っ暗になった。
 わけもわからないまま舌を絡ませられ、一体どういう状況かと問いたいのになにも喋れない。
 アベルから窓の外は見えないけれど、念のためきちんと目も閉じた。得体の知れない森の中で、もう恐ろしい目には遭いたくない。

 ずず……ずる……と、窓の外、おそらく家のすぐ脇を、正体不明の何かが通り過ぎて行く。
 恐怖は不思議とそんなに感じなかった。きっと、温かく柔らかい身体の中に包まれていたからだ。
 真っ暗なまぶたの裏を見ながら、アベルは腰の動きを再開する。
 マイネが喉を鳴らしながら息を吸い込んだ。

 あまり大きな音が出ないよう、可能な限り奥まで差し込んだまま、ぐりぐりと腰を回してねじ込むようにする。力を入れ過ぎて身体が震えるまで、強く強く腰を押し付けた。
 背中に痛みが走る。マイネが爪を立てているのだ。それにも構わず、彼の奥へ入り込もうとする力は緩めなかった。マイネが苦しそうに口で呼吸するので、舌を逃したくなくて必死に絡めた。
 引きずるような音は次第に遠くなる。そうして、徐々に聞こえなくなった。

「……ぷは……はあ……もう、どういうつもりなの、アベル」

 深い挿入から逃れようと胸を押してくるマイネを、アベルはきつく抱きしめたまま訊ねた。

「さっきのは?」
「ん、気にしない、で……。あれは、目が見えない。声をださなければ……だいじょぶ……。やだ、ちょっと抜いて」
「抜かない」

 どうやら何らかの危機は去ったようだ。
 あの状況でよく萎れなかったものだと自身に感心しながら、アベルは律動を再開した。

「やん、あんっ、アベル、どうして……っ」
「わかんない。でも、君の中、安心感がすごかった。さっきもあんまり恐くなくて、ここが俺の居場所なのかもって、……一方的だけど、感じちゃった……」
「あっ、……あっ、あ、あう……」

 困惑したような顔で喘ぐマイネに笑いかけ、アベルは何度も彼の肉を打った。
 興奮に任せて彼の中に放っては体位を変え、また放っては変えてを何回か繰り返した。
 膝立ちにさせたマイネを後ろから貫きながら乳首をこねていると、彼は悲鳴に似た嬌声を上げ、吹き上げてベッドを濡らした。
 そして最後には、気を失ってしまったマイネを後ろから抱き締めるようにして、アベルは自分の意識も薄れていくに任せた。

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