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泉の魔物1
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目覚めると自室の寝台の上で、泣き出しそうな顔のミロがこちらを覗き込んでいた。
窓の外はもう薄暗い。
こんな場面には覚えがあるぞと思いつつ、ユノンは身体を起こした。
「いた……」
腹の奥が重苦しく痛み、ユノンは顔をしかめた。後ろにも何かが詰め込まれていたような違和感が残っている。
あの談話室での行為は夢ではないのだと突きつけられた気分だ。
「ユノン様、ご無理をなさらずに」
ミロに優しく肩を押され、仰臥位に戻された。
ユノンは自分の身体に手をやる。清潔な寝巻きに着替えさせられ、身体がべたつくような嫌な感じはない。
「お前が僕をここまで?」
訊ねると、ミロは首を振る。
「ライル殿下がここまで運んでくださったのですよ」
「殿下が……?」
信じられない。あの後気を失ったユノンをここまで抱いて連れてきたというのだろうか。
「そうか。殿下がそんなことを」
呟くと、ミロが言い辛そうにくぐもった声で話し出す。
「驚きました。抱いたユノン様にご自分の羽織を掛けてこの部屋までいらして。私に湯と清潔な布を用意するように言いつけられ、その後はお二人だけでここにこもられたのです」
ライルは二人の間に起こったことについては何も言わなかったという。けれど、使用人たちはきっと皆自分たちの間に何があったか悟っただろう。
ミロは気まずそうに視線を投げている。彼だって気付いているのだ。主人が、あの男に抱かれたと。
「着替えさせてくれたのはお前か? ありがとう」
彼は何も悪くはないのに気まずい思いをさせていては申し訳ない。ユノンは笑顔を作りミロに礼を言った。
「いいえ、違うのですユノン様。すべて殿下が。あなた様の身体を拭き清めたのも、寝巻きを着せつけたのもライル様です。廊下で待機していた私に、よく休ませてやってくれと言い置いて去って行かれました」
「……嘘だろう?」
あのライルがそんなことをするのだろうか。
しかし疑ってみても、ミロに嘘をついて得することなど何もない。
考え込むユノンに、ミロは続ける。
「晩までよく休み、泉でよく身体を清めてから、その、……陛下との伽に望むようにと仰せになりました。なので、夕餉はお部屋に運ぶことにいたしましょう」
「……そうか。そうだな。ありがとう」
何かあればすぐにお呼びくださいとユノンの手を握り、ミロは出て行った。
一人きりになり、ユノンはふうっと気を吐いて目を閉じる。
王より先に、ライルに身体を許してしまった。だから今宵の褥では何としても、最後まで情けをかけてもらわなければならない。
けれど、伽守は。今日もいるのだろうか。
(どうすればいい? 僕は、一人の夫の前でもう一人に抱かれるのか?)
気が重い。消えてしまいたい。きっとライルに身体を許したことも責められるだろう。
なぜこんなことになってしまったのかと途方に暮れた気持ちで、ユノンは白雪のような紗を垂らす天蓋を見つめていた。
誰に何を咎められることもなく、夕餉を終え、湯浴みも終えた。
一人きりで青い光の中、人肌の泉に浸かっていると、ひたひたと不安が近づいてくる。
とにかく身を清めなければと、たっぷりと犯された後ろ穴に手を伸ばす。入り口はまだ柔くぬかるみ、簡単に指を受け入れる。
「……はぁ……あん、緩い……」
湯女に世話される湯浴みでは好きに綺麗にできないそこを、自らの指で掻く。
太く長大なものでたくさん突かれ、精を注がれ捏ねられたそこからはまだ白い体液が漏れていることと思う。
温い水が熱い中に入り込んでくると、ひやりとして背筋が粟立つ。
「あん、ああっ、入ってくる、やだ……」
誰も聞いてはいないのに、声を抑える習慣のないユノンは喘いでしまう。誰も聞いてはいないからこそ、別にいいのだ。
残滓はすべて洗い流さなければならない。痕跡は残さず、聞かれない限りは余計なことは言わない。とにかく何事もなかったように、王の前で身体を開くのだ。
ある程度中を洗い、指を抜いた。水の中で意に沿わず勃起してしまった性器を見下ろす。
昼に二度も達したのに、健気にもまだ刺激を求めて首を伸ばしている。
「……僕は、とんでもない淫乱なのだろうか」
静かな暗い部屋に、ユノンの呟きは溶けていく。
あんなに怖れていた相手に抱かれ、疲れ果てて眠ってしまうまでに感じてしまった。
最後はとても優しく抱かれていた気がする。そう、こんな風に……。
そこまで考え、ユノンははっとした。
泉の水はユノンを中心として緩い渦を巻いている。まるで太く逞しい腕に抱かれているように身体にまとわりついてくる。
泉の水には流れなどないはず。湯殿と違い沸かしているわけでもなく、清浄な水とされているので濾過しているわけでもない。
「なぜ?」
ユノンは辺りを見回した。どこかに水を循環させる孔があるのだろうか。
歩き回ろうと一歩踏み出すと、尻を撫でられる感覚があった。
驚いて振り向いても誰かがいるはずもない。
窓の外はもう薄暗い。
こんな場面には覚えがあるぞと思いつつ、ユノンは身体を起こした。
「いた……」
腹の奥が重苦しく痛み、ユノンは顔をしかめた。後ろにも何かが詰め込まれていたような違和感が残っている。
あの談話室での行為は夢ではないのだと突きつけられた気分だ。
「ユノン様、ご無理をなさらずに」
ミロに優しく肩を押され、仰臥位に戻された。
ユノンは自分の身体に手をやる。清潔な寝巻きに着替えさせられ、身体がべたつくような嫌な感じはない。
「お前が僕をここまで?」
訊ねると、ミロは首を振る。
「ライル殿下がここまで運んでくださったのですよ」
「殿下が……?」
信じられない。あの後気を失ったユノンをここまで抱いて連れてきたというのだろうか。
「そうか。殿下がそんなことを」
呟くと、ミロが言い辛そうにくぐもった声で話し出す。
「驚きました。抱いたユノン様にご自分の羽織を掛けてこの部屋までいらして。私に湯と清潔な布を用意するように言いつけられ、その後はお二人だけでここにこもられたのです」
ライルは二人の間に起こったことについては何も言わなかったという。けれど、使用人たちはきっと皆自分たちの間に何があったか悟っただろう。
ミロは気まずそうに視線を投げている。彼だって気付いているのだ。主人が、あの男に抱かれたと。
「着替えさせてくれたのはお前か? ありがとう」
彼は何も悪くはないのに気まずい思いをさせていては申し訳ない。ユノンは笑顔を作りミロに礼を言った。
「いいえ、違うのですユノン様。すべて殿下が。あなた様の身体を拭き清めたのも、寝巻きを着せつけたのもライル様です。廊下で待機していた私に、よく休ませてやってくれと言い置いて去って行かれました」
「……嘘だろう?」
あのライルがそんなことをするのだろうか。
しかし疑ってみても、ミロに嘘をついて得することなど何もない。
考え込むユノンに、ミロは続ける。
「晩までよく休み、泉でよく身体を清めてから、その、……陛下との伽に望むようにと仰せになりました。なので、夕餉はお部屋に運ぶことにいたしましょう」
「……そうか。そうだな。ありがとう」
何かあればすぐにお呼びくださいとユノンの手を握り、ミロは出て行った。
一人きりになり、ユノンはふうっと気を吐いて目を閉じる。
王より先に、ライルに身体を許してしまった。だから今宵の褥では何としても、最後まで情けをかけてもらわなければならない。
けれど、伽守は。今日もいるのだろうか。
(どうすればいい? 僕は、一人の夫の前でもう一人に抱かれるのか?)
気が重い。消えてしまいたい。きっとライルに身体を許したことも責められるだろう。
なぜこんなことになってしまったのかと途方に暮れた気持ちで、ユノンは白雪のような紗を垂らす天蓋を見つめていた。
誰に何を咎められることもなく、夕餉を終え、湯浴みも終えた。
一人きりで青い光の中、人肌の泉に浸かっていると、ひたひたと不安が近づいてくる。
とにかく身を清めなければと、たっぷりと犯された後ろ穴に手を伸ばす。入り口はまだ柔くぬかるみ、簡単に指を受け入れる。
「……はぁ……あん、緩い……」
湯女に世話される湯浴みでは好きに綺麗にできないそこを、自らの指で掻く。
太く長大なものでたくさん突かれ、精を注がれ捏ねられたそこからはまだ白い体液が漏れていることと思う。
温い水が熱い中に入り込んでくると、ひやりとして背筋が粟立つ。
「あん、ああっ、入ってくる、やだ……」
誰も聞いてはいないのに、声を抑える習慣のないユノンは喘いでしまう。誰も聞いてはいないからこそ、別にいいのだ。
残滓はすべて洗い流さなければならない。痕跡は残さず、聞かれない限りは余計なことは言わない。とにかく何事もなかったように、王の前で身体を開くのだ。
ある程度中を洗い、指を抜いた。水の中で意に沿わず勃起してしまった性器を見下ろす。
昼に二度も達したのに、健気にもまだ刺激を求めて首を伸ばしている。
「……僕は、とんでもない淫乱なのだろうか」
静かな暗い部屋に、ユノンの呟きは溶けていく。
あんなに怖れていた相手に抱かれ、疲れ果てて眠ってしまうまでに感じてしまった。
最後はとても優しく抱かれていた気がする。そう、こんな風に……。
そこまで考え、ユノンははっとした。
泉の水はユノンを中心として緩い渦を巻いている。まるで太く逞しい腕に抱かれているように身体にまとわりついてくる。
泉の水には流れなどないはず。湯殿と違い沸かしているわけでもなく、清浄な水とされているので濾過しているわけでもない。
「なぜ?」
ユノンは辺りを見回した。どこかに水を循環させる孔があるのだろうか。
歩き回ろうと一歩踏み出すと、尻を撫でられる感覚があった。
驚いて振り向いても誰かがいるはずもない。
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