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国を繋ぐこと2※

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 褥では、タリアスに体調を気遣われたが何かを追及されることはなかった。

 けれどもさすがにいつものように執拗な責めや要求はなく、ただユノンの後ろを指で解し、伽守の見つめる前でその中に精を塗り込むだけだった。

「……すまないな、ユノン。今大事ないのなら、千夜の褥を中断させることはできぬ」

 自らの精液を絡めた指を、ユノンの中にじっくりと擦り込みながら耳元で囁く。
 ぐちゅぐちゅと、子種を腹に入れられる。
 迎えた夫の指に内側は勝手に歓喜し、きつく締め上げてそこからは出ないはずの子種を搾り取ろうとしている。

「はあ……ん……。よいのです、タリアス様。これが、僕の務めで、喜び……あ、あんっ」

 ユノンはタリアスのあぐらの上に座らせられ、抱き合った姿勢のまま甘く声を上げた。

「ふふ。そう締め上げるな、ユノン。私はどこへも行かぬ。身体を繋げ、私が大切に育てたこの中に思うさま精を注いでお前を汚すまでは、どこへも行けぬよ」

 きゅうきゅう締めてしまうので、入れられたものの形もわかる。
 未だ男と繋がることを知らないのに、後孔は随分と淫乱に育ってしまった。
 ユノンはどんな状況下でも簡単に快楽に流される自分の身体を恥じ、俯いて逞しい胸板に額をすり寄せた。
 今宵は求められ、口でタリアスのものを愛した。けれど半ばで取り上げられて、タリアス自ら手で擦り上げ放ったのだ。
 明らかにユノンの体調を案じてのことだ。
 夫の優しさに、ユノンは手の甲でぐしぐしと目を拭った。

「大丈夫か?」

 タリアスは心配そうにユノンを見下ろす。

「はい。陛下のお心遣いが嬉しくて……」

 それと、はしたない自分の身体が情けなくて、だ。
 指を抜かれ、寝台に寝かされた。タリアスも横に来る。

「続きを、陛下。まだご満足いただけておりません」

 腿に、依然萎えないタリアスの固いものが当たる。ユノンは懇願する。

「僕はまだここへ来てから、陛下にご満足いただける働きをしておりません」
「そんなことはないよ、ユノン。私の腕の中で可愛く鳴くお前を見ているだけで胸がいっぱいになる」
「そんな……」

 ユノンは目を伏せた。
 タリアスに抱きしめられ、厚い胸板に引き寄せられる。夫の汗の匂いが香り、ひくりと股間が反応した。

(僕は、タリアス様のことが好き)

 目を閉じて実感する。
 これを好きと言わずに、どんな感情をそう言うのだろう。
 夫の腕に抱かれ体臭に包まれて、身体が反応している。幸福感を感じている。
 接合は少し怖いけれど、タリアスとなら嫌ではないし経験したい。毎度顔の見えない第三者に見つめられていても平気だ。
 これは、「愛」だろう。

 ちかりと、真っ暗なまぶたの裏に煌きが現れる。何が光ったのかと目を凝らすと、周囲が徐々に明るくなる。
 いつもカザカルを覆っているのような曇り空の下、不安定に揺れながら飛んでいくのは、黒い羽の一頭の蝶だ。
 何か様子がおかしい。ユノンは追いながらさらに観察する。
 蝶には片翅しかない。だからおかしな動きで飛んでいるのだ。
 けれど蝶が片翅で飛べるはずもない。これは、現実では絶対に起こり得ないこと。

(あの蝶はなんだ? もっと、近くで見たい)

 駆けても駆けても蝶には追いつけない。蝶はふらふらと大きく揺れながらも、あっという間に曇り空に消えていく。

「ユノン、体調が万全でない時に申し訳ないが、一つ頼みがある」

 頭を撫でられ、目を開けた。温かくユノンを包む人肌。見下ろしてくる優しい顔。
 ユノンはここではないどこかから、王宮の王の褥へと戻された。

「……なんでございましょう? 僕にできることなら、なんなりと」

 慈しんでくれる夫に、笑顔を作った。

「重婚の申し入れがあった。受けてくれるな?」
「どなたにでございますか?」
「もちろん、お前にだ」

 ――頭が真っ白になった。
 ユノンから表情が消える。
 カザカルは古来から女の人口の少ない国だ。それに加え、思い出したように何十年かに一度若い女だけに猛威を振るう流行り病がある。
 そのせいでこの国には妻一人を複数の夫が共有する重婚の文化があるのだ。
 産まれた子は父が誰であろうと関係なく、家族みんなで愛し育てる。
 カザカル国民はそうしてこの国を作ってきた。

「……なっ、なんでですか? 僕は、あなたの妃のはず……」

 動揺しすぎて言葉も選べない。先ほどのタリアスの口調では、頼みというより決定事項の命令だ。
 起き上がり、縋るようにして問い詰めると、タリアスも身体を起こしてユノンに向かい合った。

「弟からの申し入れなのだ。ライルは誰とも深く付き合わない。心を開きたがらない。そんな男が、お前となら結ばれたいと言った。お前と結ばれないのなら生涯独り身だ、ともな」

「うそだ……。ライル様がそんなこと、言うわけありません」
「それでも事実なのだ。本人に確認してみてもいい」

 愛を教えられた気でいたのに、急に突き放された気持ちになった。
 ユノンは何も言えずにタリアスを見つめる。その唇から「嘘だ」という言葉が放たれるのを待っている。

「人には、伴侶がいなければならない。夫婦こそ、人間の集団の最小単位だと思わないか? 我々王族が国を守り後世へ遺すためにも、お前の力を借りたいのだ」

 貴族オルトア家は、王家との婚姻を許された一族。三つしかない王家と契ることのできる家系の、存続する最後の一族だ。
 残る二つは子孫を残せず消えゆこうとしている。

「そんな……」

 ユノンは拳を握り、俯いた。
 オルトアは元を辿れば、初代の王に神託を授けていた巫女の末裔とされている。
 だからその王に近しい存在が王族の妻になるのは、この国ではごく自然で好ましいことなのだ。
 何もおかしいことはない。何も、この国の理に背いていることはない。

「なあユノン。受けてくれるな?」

 王が優しく、慰めるように顔を覗き込んでくる。
 困ったような笑顔に、泣きたくなった。泣いて嫌だと縋りたい。
 それでも王を、困らせちゃいけない。こんなに優しく、妻思いで、弟思いの王を。

「……はい。かしこまりました。それが、カザカル王家とこの国のためになるのでしたら」

 笑顔は、うまく作れていただろうか。
 ユノンは頷いた。

 タリアスも安堵したように笑った。事情を知らせているのか、ちらりと伽守にも視線を投げる。

「感謝する、ユノン。可愛い妻よ。お前に不都合なことは一切ないと約束するよ。私も弟も、お前を目一杯愛するから」

 タリアスはユノンを抱きしめ、深く口付けた。
 正直、どこまで信じられるのかももうよくわからない。
 愛していると言いつつも、他の男に妻を抱かせるなんて。
 けれど、この国では普通のことだ。むしろ、国を繋げるために必要なことなのだ……。
 ユノンはタリアスの口付けに応えながら、彼の性器に手を伸ばした。

 
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