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僕たちのありきたりで普通の恋
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貴方のことが好きだった。ずっとずっと。
貴方の視界に僕が入ることはなかったけど、僕の世界には貴方だけだった。冗談めかして『好きだよ?』そう言うことが僕の精一杯の告白で、貴方に本気と受け止めてもらえることはついぞなかったけど……
「ずっとずっと好きだったんだ。好きなんて言えないくらいに、あの人が全てだったの」
「知ってる」
「いつかって…… 期待することもさせてくれない人だったけど、好きだったんだよ」
「知ってるよ」
「馬鹿みたいだ。好きだって言えないのに、ずっと好きで、諦められなくて、まだ好きなの」
僕の好きな人は今日、僕の姉と結婚する。
僕がずっとずっとあの人しか目に入ってなかったみたいに、あの人は姉さんしか好きじゃなかった。
「ずっと好きでもいいじゃん。死ぬまで好きでも、それはお前の自由だろ?」
「それってずっと苦しいままってこと?」
僕の幼馴染みだけが、僕の秘密の恋を知っている。僕の不毛な恋を笑わない優しいやつ。
「苦しいのも、痛いのも好きだからだろ?」
お前はずっと好きなままがいいんだろ?と幼馴染みは言った。僕はそれに答えることが出来なかった。
ずっとずっとこの不毛でみっともなくて汚い恋を捨てたかったから。でも捨てられなくて、それが苦しかった。
「…… ずっと苦しいのは嫌だなぁ」
「誰を好きになったとしても、きっと苦しいよ」
「そうなのかな?」
「そうだよ」
そうなのかも。そう思うと少しだけ楽になった。ずっとこのままなのか、それとも別の誰かを好きになる日がいつか来るのか…… それはまだ分からない。
白い衣装を纏ってきらきらプリズムみたいに輝く2人にも苦しい瞬間があったのかもしれない。涙に濡れたこともあったかもしれない。でもそれは2人だけの物語で、2人しか知らないことだ。姉さんとあの人が、僕の想いを知らないのと同じこと。
「俺もずっと、何年も苦しいんだ。何故か分かるか?」
「えっ?」
「お前と同じ理由」
くすりと苦く笑う顔。その表情には見覚えがあった。知っていたけど知らないふりをして蓋をした。
「お前が好きだよ。好きだから苦しくて好きだから捨てられない」
嗚呼、お前は僕に出来なかったことをするんだなぁ……
「僕たち2人とも馬鹿みたいだ」
大きな掌が僕の頭を優しく撫でる。欲しかった手ではないけれど、縋りつきたくなるくらいには優しい温度だった。
「ただ好きなだけだよ。誰にも分かってもらえなくてもな。ありきたりで普通の恋だ」
「馬鹿じゃない?」
「馬鹿じゃないよ」
「僕お前のこと好きだよ」
「知ってる。でも恋じゃないだろ?」
「うん」
「それでいいんだよ。捨てる方が苦しいんだから」
僕たちのありきたりな普通の恋を誰も知らない。誰も祝福してくれない。でも捨てないことを決めたのは僕たちなんだ。
「ありがとう」
僕は僕だけの苦しさを抱えて笑う。多分きっと隣に居るこいつも同じだ。
「もうすぐブーケトスみたいだ」
「次に祝福されるのは誰なんだろうね?」
【了】
貴方の視界に僕が入ることはなかったけど、僕の世界には貴方だけだった。冗談めかして『好きだよ?』そう言うことが僕の精一杯の告白で、貴方に本気と受け止めてもらえることはついぞなかったけど……
「ずっとずっと好きだったんだ。好きなんて言えないくらいに、あの人が全てだったの」
「知ってる」
「いつかって…… 期待することもさせてくれない人だったけど、好きだったんだよ」
「知ってるよ」
「馬鹿みたいだ。好きだって言えないのに、ずっと好きで、諦められなくて、まだ好きなの」
僕の好きな人は今日、僕の姉と結婚する。
僕がずっとずっとあの人しか目に入ってなかったみたいに、あの人は姉さんしか好きじゃなかった。
「ずっと好きでもいいじゃん。死ぬまで好きでも、それはお前の自由だろ?」
「それってずっと苦しいままってこと?」
僕の幼馴染みだけが、僕の秘密の恋を知っている。僕の不毛な恋を笑わない優しいやつ。
「苦しいのも、痛いのも好きだからだろ?」
お前はずっと好きなままがいいんだろ?と幼馴染みは言った。僕はそれに答えることが出来なかった。
ずっとずっとこの不毛でみっともなくて汚い恋を捨てたかったから。でも捨てられなくて、それが苦しかった。
「…… ずっと苦しいのは嫌だなぁ」
「誰を好きになったとしても、きっと苦しいよ」
「そうなのかな?」
「そうだよ」
そうなのかも。そう思うと少しだけ楽になった。ずっとこのままなのか、それとも別の誰かを好きになる日がいつか来るのか…… それはまだ分からない。
白い衣装を纏ってきらきらプリズムみたいに輝く2人にも苦しい瞬間があったのかもしれない。涙に濡れたこともあったかもしれない。でもそれは2人だけの物語で、2人しか知らないことだ。姉さんとあの人が、僕の想いを知らないのと同じこと。
「俺もずっと、何年も苦しいんだ。何故か分かるか?」
「えっ?」
「お前と同じ理由」
くすりと苦く笑う顔。その表情には見覚えがあった。知っていたけど知らないふりをして蓋をした。
「お前が好きだよ。好きだから苦しくて好きだから捨てられない」
嗚呼、お前は僕に出来なかったことをするんだなぁ……
「僕たち2人とも馬鹿みたいだ」
大きな掌が僕の頭を優しく撫でる。欲しかった手ではないけれど、縋りつきたくなるくらいには優しい温度だった。
「ただ好きなだけだよ。誰にも分かってもらえなくてもな。ありきたりで普通の恋だ」
「馬鹿じゃない?」
「馬鹿じゃないよ」
「僕お前のこと好きだよ」
「知ってる。でも恋じゃないだろ?」
「うん」
「それでいいんだよ。捨てる方が苦しいんだから」
僕たちのありきたりな普通の恋を誰も知らない。誰も祝福してくれない。でも捨てないことを決めたのは僕たちなんだ。
「ありがとう」
僕は僕だけの苦しさを抱えて笑う。多分きっと隣に居るこいつも同じだ。
「もうすぐブーケトスみたいだ」
「次に祝福されるのは誰なんだろうね?」
【了】
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