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第三章
別れの華
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マナは呑み込みが早かった。
一日目はあんなにバタバタで見るも絶えない状態だったが今はどうだろうか。
むしろ一日目の反省を生かして最善の方法まで編み出すほど成長していた。
今日、最終日に至っては申し分無いほど成長し、完璧な補佐となっていた。
「了解しました。伝えておきます。
あ、研究所の方ですね。少し待っててください。」
あんなに頭を悩ませていた記憶も脳内で部類分けをして覚えやすくしたり、客人の際の対応から見回りの際の手順など、一日でよく身に付けた方だ。
この適応能力にはサリエルも感心した。
急に放り出された未来の世界で、妹を守るための最善の道を見つけ出す根性の強さも此処から来ているのであろうか。
デスクから見える、マナのテキパキとした仕事ぶりを眺め、サリエルは頬が緩むのを抑えきれなかった。
「そうだった…、妹の方はどうだ?」
サリエルの仕事処理の速さと、マナの小回りの利いた仕事ぶりで深夜の3時ごろには談笑が出来るほど時間が空いた。
「ツクヨも最近はマイケルさんが怖くなくなったからか、楽しそうですよ!」
マナはそう嬉しそうに話した。
マイケルと言うのは、あのレイノルズの秘書のマイケルの事だ。
実はマイケルはサリエルの弟で、現在訳あって手持ち無沙汰なマイケルにツクヨの馴染みの仕事を頼んでいるのだ。
彼は遊郭で遊ぶどころか、先祖奴隷化反対派の過激派であるためツクヨの助けを喜んで引き受けた。
「あぁ、そうだ!今朝ツクヨが初めてマイケルさんの話を自分でしてくれたんです!
仕事が出来る方だって言ってました。やっぱりサリエルさんと似てるんですね!」
「アイツは自分が引っ張っていく仕事はしたがらないがな…。」
サリエルは、そう遠くを見つめた。
「…どうしました?」
「あぁ、いや…何でもない。」
サリエルはそうマナへ告げ、ホログラムへと手を伸ばした。
マナはそんなサリエルを不思議そうに見つめ、桜の間の片付けを開始した。
サリエルは言いようのない虚無感に襲われていた。
仕事に手が付けられないほどだ。
サリエルにとって有り得ない状況だが、その原因はおそらくマナであろう事はサリエル本人にも分かった。
この2日で随分と彼女に入れ込んでしまった。
夕方、彼女の声が襖から聞こえる事が楽しみになった。
伝言を懸命に覚えて喋る彼女の声をずっと聞いていたかった。
彼女が帰る時間はどうしようもなく切ない瞬間だ。
だが、それが今日で終わりとなる。
「なんだか寂しくなってしまいますね…。」
ふと、自分の気持ちを代弁するかのようにマナの声が聞こえた。
弾かれたようにマナの方を向けば、マナは視線を下に下げていた。
悲しんでいる。
自分と会えない時を憂いてくれる。
そんな思いがサリエルを満たす。
「なに、また会わない訳でも無い。そう 時化た顔をするで無い…。」
まるで自分に言い聞かせるように、サリエルはそう告げた。
マナはそんなサリエルの言葉を聞き、嬉しそうに笑った。
「はい、また幽玄遊郭で会いましょう!」
*****
「…また会おう。」
早朝。
サリエルは桜の間から出て行った。
これで幽玄遊郭は営業を再開し、問題なく業務ができる。
マナはサリエルが玄関から出るまでを見送る事は出来なかった。
だが、自分たちの出会いの場所で共に仕事ができ、そこで別れる事が出来たなんてなんだかロマンチックでは無いだろうかと一人で笑った。
これから、またシレネに仕事を課される。
でもサリエルさんのみたいに、バリバリと仕事のできる女になってサリエルさんを驚かせよう!
そんな野望を抱えながら、マナは桜の間を後にした。
その時だった。
「いっ?!!」
急に体にくる浮遊感。
すぐに追いかけてくる衝撃と痛み。
床に放り出された体。
「あぁ、やっと帰ってきたわね、ブス。」
シレネの耳につく声と共に、ウチの体は引き摺られていく。
「やめて!離して!!」
どんなに暴れても叫んでも誰も助けてはくれなかった。
腕を振り回せば足を、
足を蹴り上げれば髪を掴まれる。
「ツクヨが居なくて退屈してたのよねぇ~。それに、アンタには貸しが沢山あるし!」
キリキリと頭皮が痛む。
きっと禿一人なら抵抗して勝てただろう。
でも今は5、6人の禿に囲まれているせいかウチの抵抗は無意味だった。
「シレネっ…!」
「あら、怖~い。」
ウチは、シレネ達によって何処かへと運ばれてしまう。
そこからが地獄の始まりだったのだ。
一日目はあんなにバタバタで見るも絶えない状態だったが今はどうだろうか。
むしろ一日目の反省を生かして最善の方法まで編み出すほど成長していた。
今日、最終日に至っては申し分無いほど成長し、完璧な補佐となっていた。
「了解しました。伝えておきます。
あ、研究所の方ですね。少し待っててください。」
あんなに頭を悩ませていた記憶も脳内で部類分けをして覚えやすくしたり、客人の際の対応から見回りの際の手順など、一日でよく身に付けた方だ。
この適応能力にはサリエルも感心した。
急に放り出された未来の世界で、妹を守るための最善の道を見つけ出す根性の強さも此処から来ているのであろうか。
デスクから見える、マナのテキパキとした仕事ぶりを眺め、サリエルは頬が緩むのを抑えきれなかった。
「そうだった…、妹の方はどうだ?」
サリエルの仕事処理の速さと、マナの小回りの利いた仕事ぶりで深夜の3時ごろには談笑が出来るほど時間が空いた。
「ツクヨも最近はマイケルさんが怖くなくなったからか、楽しそうですよ!」
マナはそう嬉しそうに話した。
マイケルと言うのは、あのレイノルズの秘書のマイケルの事だ。
実はマイケルはサリエルの弟で、現在訳あって手持ち無沙汰なマイケルにツクヨの馴染みの仕事を頼んでいるのだ。
彼は遊郭で遊ぶどころか、先祖奴隷化反対派の過激派であるためツクヨの助けを喜んで引き受けた。
「あぁ、そうだ!今朝ツクヨが初めてマイケルさんの話を自分でしてくれたんです!
仕事が出来る方だって言ってました。やっぱりサリエルさんと似てるんですね!」
「アイツは自分が引っ張っていく仕事はしたがらないがな…。」
サリエルは、そう遠くを見つめた。
「…どうしました?」
「あぁ、いや…何でもない。」
サリエルはそうマナへ告げ、ホログラムへと手を伸ばした。
マナはそんなサリエルを不思議そうに見つめ、桜の間の片付けを開始した。
サリエルは言いようのない虚無感に襲われていた。
仕事に手が付けられないほどだ。
サリエルにとって有り得ない状況だが、その原因はおそらくマナであろう事はサリエル本人にも分かった。
この2日で随分と彼女に入れ込んでしまった。
夕方、彼女の声が襖から聞こえる事が楽しみになった。
伝言を懸命に覚えて喋る彼女の声をずっと聞いていたかった。
彼女が帰る時間はどうしようもなく切ない瞬間だ。
だが、それが今日で終わりとなる。
「なんだか寂しくなってしまいますね…。」
ふと、自分の気持ちを代弁するかのようにマナの声が聞こえた。
弾かれたようにマナの方を向けば、マナは視線を下に下げていた。
悲しんでいる。
自分と会えない時を憂いてくれる。
そんな思いがサリエルを満たす。
「なに、また会わない訳でも無い。そう 時化た顔をするで無い…。」
まるで自分に言い聞かせるように、サリエルはそう告げた。
マナはそんなサリエルの言葉を聞き、嬉しそうに笑った。
「はい、また幽玄遊郭で会いましょう!」
*****
「…また会おう。」
早朝。
サリエルは桜の間から出て行った。
これで幽玄遊郭は営業を再開し、問題なく業務ができる。
マナはサリエルが玄関から出るまでを見送る事は出来なかった。
だが、自分たちの出会いの場所で共に仕事ができ、そこで別れる事が出来たなんてなんだかロマンチックでは無いだろうかと一人で笑った。
これから、またシレネに仕事を課される。
でもサリエルさんのみたいに、バリバリと仕事のできる女になってサリエルさんを驚かせよう!
そんな野望を抱えながら、マナは桜の間を後にした。
その時だった。
「いっ?!!」
急に体にくる浮遊感。
すぐに追いかけてくる衝撃と痛み。
床に放り出された体。
「あぁ、やっと帰ってきたわね、ブス。」
シレネの耳につく声と共に、ウチの体は引き摺られていく。
「やめて!離して!!」
どんなに暴れても叫んでも誰も助けてはくれなかった。
腕を振り回せば足を、
足を蹴り上げれば髪を掴まれる。
「ツクヨが居なくて退屈してたのよねぇ~。それに、アンタには貸しが沢山あるし!」
キリキリと頭皮が痛む。
きっと禿一人なら抵抗して勝てただろう。
でも今は5、6人の禿に囲まれているせいかウチの抵抗は無意味だった。
「シレネっ…!」
「あら、怖~い。」
ウチは、シレネ達によって何処かへと運ばれてしまう。
そこからが地獄の始まりだったのだ。
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